どうか、おじひを
六番機と五番機の違いは肩とウィングにある。
五番機の強襲飛行型は飛行用のウィングが装備されているが、六番機には省かれている。
左右の肩に展開式の防盾が施してある。展開せずとも効率的に防御しており、なおかつ重ねているので防御力は高い。低姿勢で獣のように疾るフランのためだ。
「この両肩の盾、どんな構造なの。腕部の動きにほとんど支障がないなんて」
思わずフランが感嘆するほどだ。
六番機専用追加装甲の特徴はこの肩甲の一種だ。南北朝時代の大鎧で採用された巨大な大袖と戦国時代のコンパクトな置袖を参考に鷹羽兵衛が造り上げたもの。フランの戦術を聞いて、考え抜いた結果この形状になったのだ。腕全体を守り、かつ動きを阻害しない構造になっている。
展開時には全身を覆うようになる。装甲は薄くなるが、ケーレスのような敵による包囲時には有効だ。
「またケーレスの一団がいる。――駆け抜ける!」
両肩の防盾を展開する。マンティス型やコマンダー型のレールガン砲弾は完全に無効化されていた。盾も電磁装甲式で、砲弾を融解させていた。
装甲なのでMCSのスペック上には現れないが、CX型で得た技術を応用されている七枚の板はナノマテリアル複合材を採用。荷電粒子砲や高威力レーザーもある程度防ぐことができる防御特化。同様の構造を採用した機体はエメ専用のワーカーしかない。
簡易型はC型block3をはじめとする、ベレロフォンやグロウスビークの各追加装甲に採用されている。
「攻撃するまでもない。振り切ったら元の位置に戻る。虫と同じだ」
大切な使命があるのだ。ケーレス如きに構っている暇はない。
地を這うように。それは低空飛行する燕ではなく、まさに大型肉食獣のそれである。
木々をすりぬけ、時にはなぎ倒して、六番機は封印区画へ向かっていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
一方、主戦力を欠いたL451防衛ドームは押され、防戦を余儀無くされた。
「戦車の数が多い。護衛のシルエットはその三倍はいる。殲滅にきていましね」
ゾラが歯噛みする。エーバー2だけで二十輌。さらに後方には旧式のエーバー1もある。アルベルトが手がけた戦車なだけあって大口径の火力は侮れない。
シルエットはカザーク。つまりラニウスA1と同等機だ。パイロクロア大陸のアルゴアーミーはカザークの量産体制を整えている。
見たこともない新型戦車やシルエットまで確認できる。この部隊はアルゴアーミーの直属か敵本体だろう。
「アルゴアーミーはかなりのやり手ということですね」
ズージは見守ることしかできない。ワーカーの操縦は可能だが、戦場に出撃するよりも大切な役割がある。ネイトがいない間、防衛の指示を担っている。
「この機に乗じてL451防衛ドームを破壊するつもりなのかもしれません。そうすればトライレーム勢力ごと削れる」
「地上戦力もハーフトラックだけでは、きついな」
チャウチャウ型ファミリアも、数だけはあるハーフトラックを指揮して防衛網を築いているが、戦車の突破力には遠く及ばない。
ハーフトラックはレールガンや榴弾砲、ミサイルも搭載しているが、装甲は薄い。
被弾して倒れたシュライクが、ハーフトラックに牽引されて帰投した。
ワーカーが集まり大急ぎで補修に入る。
「向こうは戦車を盾に、間接攻撃用のシルエットまでいるよ」
「諦めてはいけません」
防衛部隊の主力は三機のラニウスBだが、それも限界はある。近接戦そのものに慣れていないため、特性をうまく活かせていないのだ。
最新鋭機であるユニサスとLDライフルまで配備されているのだ。ゾラとしても引くわけにはいかない。
「どれだけの兵力を掻き集めてきたんだ、防衛ドーム……いや要塞エリアからもだろうな」
防衛隊のパイロットも、限界がある。ラニウスBがいくら優秀とはいえ三機しかない。加えて乗り換えたばかりで性能に振り回されている。
大量のカザーク相手には分が悪い。
「フランが一人で頑張っている時に、俺達が負けちゃいられねえよ!」
「そうだな」
ラニウスBのパイロットたちも互いを鼓舞する。
「もう少しだけ持ちこたえてください。J006要塞エリアに救援を要請しています」
ゾラもダメ元で支援要請を出していた。
J006要塞エリアもおそらくはJ582要塞エリアへの増援で手一杯のはずだ。
「まずいですよゾラさん! 南西からあんなものまで!」
「あんなもの?」
ファミリアの報告に眉をひそめるゾラ。
「ブラックナイトとブラックウィドウ――アラクネ型です。中破している模様」
画面に映し出されたアラクネ型はブラックナイトが左腕部を根元から消失しており、ブラックウィドウも脚部が二本かけている。
それでもその戦闘力が高いことは言わずともしれた。
「なんでこの大陸にあいつらがいるんですか!」
エポナでさえ電子励起爆薬を使って相討ちに持ち込んだ高性能兵器アラクネ型が、このパイロクロア大陸にいる。
その結果エポナが大破して電子励起爆薬が使用禁止になったことはセリアンスロープ内では有名だ。エポナはセリアンスロープの象徴だったからだ。
「ユニサスでも撃破は困難。どうすれば……」
残された六脚を使い猛進してくるブラックナイトはハルバードを構えておもむろにグライゼンのシルエットを攻撃した。
「え?」
グライゼンのシルエットも動揺しているようだ。
アラクネ型はひらりと中に飛び、片手で巨大な槍斧をふるってグライゼンのシルエットを薙ぎ払っている。
「味方なの?」
ブラックナイトから発せられる信号をキャッチするゾラのユニサス。
「救難信号? どう考えても助けられているのは私達のほうなのに」
どう判断するか悩んでいるうちにもブラックナイトは憎しみすらもって、グライゼンの戦車を粉砕している。
「こちらトライレームのゾラ。ブラックナイトへ。協力を感謝します」
詳細を尋ねる前に、謝辞を発信する。交信チャンネルを送ると、映像が繋がった。
「ア…… ああ…… わたしたちはJ778ぼうえいドームあとちからきました。あなたたちをてつだいます。だからおねがいが……」
ゾラはぎょっとした。搭乗しているパイロットは十歳にも満たない少女だったからだ。八歳か、それ以下。アシア大戦時のエメよりも幼い。
映像を受信したズージでさえ思わず目を覆う。
「J778ぼうえいドームあとちにのこっているこどもたちをたすけてください。このクモにはおとうとがのっています。もうすぐしんじゃう。わたしたちふたりに。どうか、おじひを」
ゾラは言葉を失った。少女は自分たちを殺せといっているのだ。
たどたどしい口調で慈悲を請い願う少女。顔に生気はなく、瞳は虚無そのもの。
もう一つのMCS映像も転送される。口から泡を吹き、意識を喪っている少年の画像も映し出された。ACSによる苦痛のさなか、アラクネを稼働させているパーツとなっている。
少年は両腕がない。包帯が雑に巻かれていた。これはアルゴナウタイの手によるものではなく、戦傷であろう。
(――この子たちは何日戦ってきた? 肉体も機体もぼろぼろ。おそらく心は壊れている。グライゼンの勢力下を単独で突破してきたというの?)
ゾラが我に返る。
「J778防衛ドーム跡地に残っている人たちは必ず助けます。あなたたちは――慈悲なんて考えないで。もう少しだけ待って」
「きめたことなんです。わたしたちはふようひんです。このたたかいがおわればシルエットはあなたちにあげます。おかねになりそうなのもひとつだけあります。それでみんなをたすけてください。だから、どうかわたしたちにおじひをおあたえください」
繰り返す少女。よくみるとブラウン色の髪の毛で隠しているが火傷を負い、片目はもう使えないのだろう。感情はとっくに無くしているようだ。
「ブラックナイトから救難信号を受信しています。まずはあなたたちの保護を」
「いらない。だしていない。わたしたちにいるのはじひです。いきていてもおかねがないから」
ゾラが下唇を噛みしめ、考える。救難信号は出していない? しかしゾラをはじめとする部隊の者は受け取っているし、少女たちの状況を考えたら当然だ。
「――わかりました。慈悲を与えましょう。それまでは協力してください」
そういいつつも、怒りが抑えきれないゾラ。何に対してか自分でもわからない。
生きていても仕方がない。ではない。お金がない、その言葉に言いようもない嫌悪感すら覚える。
――お願いだからお金だなんていわないで。不要品だなんて許されない。誰ですか。こんな幼い子供に慈悲という概念を教えた人は!
ゾラは商才に長けているセリアンスロープだ。だからこそ瀕死の子供たちからお金という言葉がでてきて胸が締め付けられる。少女たちこそ金銭によって救済されなければならない対象だ。
何よりも死を願う子供たち。人に寄り添う行動原理のセリアンスロープには耐えきれなかった。
「はい」
少女との通信が途切れた。どんな理由でブラックナイトに搭乗しているかは不明だが、おそらくは想像を絶する何かがあったのだろう。
戦わなくていいといった瞬間、少女が安堵して張り詰めた緊張の糸が切れないかが心配だった。戦ってもらったほうがいいという判断だ。
――たぬきは嘘つきなんですからね。不要品? そんな扱いを受けた人間をセリアンスロープが見捨てるものですか。あななたちは私が必ず救って見せる。
子供が死を願うような環境。救いのないパイロクロア大陸に何が起きたか、ゾラは知る由もない。
しかしここで対処を誤れば、大切なものを失ってしまう。何故ならば、彼女こそは不用品といわれ続けたセリアンスロープだからだ
ゾラだけではない。次々とゾラのMCSに仲間のセリアンスロープから無言の通信が入る。視線を交わすだけで真意は伝わった。
「ユニサスのみんな。アラクネ型を援護して」
「了解!」
ゾラは後方に下がり停止して、パルムに暗号で現在発生している現状を伝え、救援を求めた。
ギャロップ社のパルムはP336要塞エリアの防衛指揮を執るフユキの許可を取り、即座に行動を開始した。
「動かざるを得ない。我らセリアンスロープに届いた言葉なのだ」
社員一同が立ち上がる。ゾラの報告は悲痛なもの。人間なのに不要品と呼ばれ、ろくな治療も受けずにアベレーション・アームズの部品になった子供がいる。
我が身に起きたことのような衝撃を受けた。
パルムはいつになく真剣な表情で、動けるギャロップ社社員と、連携可能なJ006要塞エリア部隊との交渉を開始した。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
以前から予告していた人物たちの登場です。二人と二機なので複数形でした。ようやくこの二人に辿り着けたという思いです。
前二章、パイロクロア大陸の戦乱と貧困。聖域で保護された戦災孤児。そしてアシア大戦で登場したアラクネ型。とくにアベレーション・アームズ。
惑星アシアの光と影。すべてはこの二人の物語に繋がります。
コウとは一切関わらないところで、ネメシス星系惑星アシアの暗部の一端がようやく明らかになったのです。
スフェーン大陸はコウやメタルアイリスが「間に合いました」。とても運が良かったのです。
しかしパイロクロア大陸は依然としてマーダーの侵攻や人狩りが横行していたのです。
セリアンスロープのショックもそうですが、アシアのエメも精神的ダメージは相当なものでしょう。頼もしい友軍といえるものではなく、救難信号は心が壊れた者のための代弁なのです。
ゾラは彼女たちを救えるのでしょうか。
次回、アルゴナウタイの兵器の中でも厄いアラクネ型に、子供たちが乗り込むことになった詳細が明らかに。
「じひ」を教えた犯人?も登場します!
エメの過保護機体が明らかに! 日本のタヌキは日本固有種! 続きを楽しみという方は↓にあるブクマ、評価で応援よろしくお願いします。
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