解放の女神
五番機は次々と鎖を切断していく。
アシアは信じられない表情で、自由になった腕を動かしていた。
「最後は――髪、か」
髪の先端にはひときわ強固な鎖が絡みついている。
「コウ。お願い。髪の毛ごと切っちゃって!」
少女は朗らかにいった。
「え、でも。アシアの髪が……」
「いいの! あなたの目にも髪に見えるということは、簡単に回復できる末端データ――髪の毛だって伸びるでしょ?」
あくまでコウが見えている姿は、惑星管理AIのイメージ、ビジョンの一種。彼女の状態を表している。データ破損をしていれば怪我に見えるし、先ほどのように縛られているならばそれはロックがかかっている状態なのだ。
頭髪の先端部分に見えるデータなら、本体データには影響しないということなのだろう。
「そうだな。綺麗な髪だから切りたくなかったが……」
「ふふ。ありがと。それにね。私の一部をここに残す必要がある。私が完全にいなくなったら、ここは爆発しちゃうんだ」
「そういうことか。わかった」
美しい銀髪を切ることにためらいはあったが、伸びるならそこまで悩まなくていいだろう。施設が爆発するならなおさらだ。
鎖の接触部分から、アシアの髪をばっさりと切った。
「コウ!」
アシアが五番機に抱きついてきた。
と思ったのもつかの間。
アシアはいつの間にかコックピットにいるコウの眼前にいた。サイズも人間サイズだ。
アシアはコウの胸元へ飛び込み、コウは慌てて抱きしめた。
柔らかな少女の体にびっくりする。服を通り越して素肌同士で触れあっているような感触。ビジョンとは思えない。
「ア、アシア?」
「これでコウともお話できるね!」
「ああ」
「みんなにお礼しなきゃ。五番機、手伝ってもらうね」
『了解いたしました』
アシアの声に五番機が応える。
『コウ。五番機。そしてみんな! ありがとう!』
五番機から発せられる全軍への通信。
声として聞こえたのではない。
頭のなかに直接聞こえてきた、としか思えない明瞭な言葉。
直接アシアからの感謝だ。
そんなことが出来る存在など、他にいるはずがない。
後方支援部隊では大歓声が上がった。
誰もが、直感でアシアだとわかったのだ。
現在戦闘している主力部隊の反応は様々だ。
叫ぶ者、改めて気を引き締める者、興奮して戦闘力が上がる者。
誰もがアシアの帰還を喜んだ。
コウの目の前では、異変が起きる。
切り取った銀髪から、再びシルエットサイズのアシアが浮かび上がったのだ。
半透明で、さっきよりも張りぼて感がある。
「これは?」
「私の残存データからジャンクデータを膨らませて作ったダミーね。これでしばらくはストーンズの目も欺けるわ」
「同じアシアの姿をしているから、見るに忍びないな」
「コウ、やさしー!」
美少女が彼の胸元に頬ずりしながら甘えてくる。
「コウ。美少女とじゃれあうのはあとにして。脱出を」
冷たいブルーの声。
心なしか、上から見下ろされているような圧を感じる。
「え? ブルー。見えるのか」
見られていると思うと気まずい。アシアはくすくす笑って、上体をあげる。
「ネレイスだもの。コウと一緒なら私が見えるよ!」
アシアは悪戯っぽく微笑んで、通信越しにブルーへ手を振っている。
「手を振っているのがアシアですよね。はじめまして。お逢いできて光栄です」
ブルーの表情も緩む。先ほどの冷たい声は冗談だったのだろう。
「ブルーもありがとね!」
「とんでもない。惑星アシアに住む者にとって、そしてネレイスにとって最優先事項です」
ブルーの声は若干緊張していた。
それだけの存在なのだろう。
「データ転送もそろそろ終わるみたい。アストライアで待ってるね」
「ああ。戻るよ」
アシアの体が光の奔流に包まれる。
彼女の体は徐々に薄くなり、消えていった。
「いきましょう」
再び冷たい声に戻るブルー。拗ねているかのようだ。
「ブルー。怒ってる?」
「怒ってません」
とりつくしまがなかった。




