人間の心では耐えられない形状
「もらったァ!」
バルドのボガディーリ・コロヴァトが刀身のない剣を振るう。目標はいまだ健在な雷神トライの脚部だった。
流体金属剣だった。相手に読ませないという武器では、彼の奥の手でもある。
予想通り、流体金属が刃と化し、脚の一本を斬り飛ばす。
体勢を崩す風神トライは、予想外の行動に出た。
「なにぃ!」
斬り飛ばした脚部が再び生えたのだ。
今度は腕部のようなワイヤーがボガディーリ・コロヴァトを締め上げる。
すかさず五番機がワイヤーを斬り飛ばしてバルドを機体ごと助け出す。
「助かったぜ! しかしなんだありゃ。伸びる脚か?」
「素材だけは最先端なのだろう。硬さよりも弾力性と延伸性を重視して、おそらく伸縮自在だな」
「本気で車両なのか何なのかわけわかんねえ兵器だなぁ」
兵衛も未知の兵器にうんざりする。ただの車両ならやりようもあるが、そうではないようだ。
「本来なら空を飛ぶ兵器だったんだと思うが、飛べないんだろうな」
「あれが空を飛ぶのか?」
見た目からは戦闘機のようには見えないファイティングマシンの対処に苦悩するバルド。
「以前聞いたことがある。惑星間戦争時代に戦闘機兼戦車みたいな兵器があったと。こいつらはその改悪版なのだろう。頭部や脚部は後付けだな。創意工夫の結果だと思うが……」
コウも自らの推測に自信がない。
こんな改造をするとは思えないからだ。
「工夫の方向性が間違ってやがる!」
「近付いてしまえば、動きが制限された車両だ。一気にカタを付けるぞ!」
思い悩んでいても仕方がないと判断したコウはスラスターを全開にして急上昇する。不規則に動くとはいえ、近付いてしまえば圧倒的に機動性は五番機が上回るからだ。
ふらふらと胴体を動かし、照準をずらす雷神トライに対し、五番機は上空から見据える。これなら前後左右に動くだけの的。時速二百キロメートルもない程度の速度しか出ていない。
五番機は体当たりするかの如く降下し、胴体に孤月を突き刺した。
雷神トライは貫通と同時に大きく揺れ、即座に停止した。
「動きが停止したな。リアクターを貫通したか」
五番機を乗せたまま、ファイティングマシンは地面に落下した。地面に着地しても動くことはなかった。
「あとは風神トライのみだ。バルド君。いくぞ!」
「おう!」
兵衛のラニウスとバルドのボガディーリ・コロヴァトが二手に分かれ、半壊状態の風神トライに接近する。
抗う気力がないようにさえ見える風神トライだったが、格納されていたレーザービームで反撃を試みた。
回避不可能な近距離レーザー攻撃だが、1メガジュール程度の威力に過ぎない。二機の装甲を貫通することはなかった。
今の風神トライは歩兵に守られていない戦車のようなもの。
空中からバルドが剣を上段に構え、一気に振り下ろす。
胴体後部には兵衛が迫り、上部から突き刺す。
風神トライもまた動きを停止し、地面に崩れ落ちた。
『勝負あり! 挑戦者チームの優勝です!』
謎兵器のふがいなさにふざけるなという怒声も聞こえてくる。
『表彰式を行います。三機とも、中央にいてください』
ピンク色のワーカーが数機、並んでいる。彼らによって表彰されるのだろう。
しかし表彰式よりも、破壊されたファイティングマシンを凝視する三人であった。
「ヒョウエ。こいつは……」
「ああ。思ったよりやべえな」
風神トライに止めを刺した二人の様子がおかしい。思わずコウが声をかける。
「どうしたんですか?」
「よくみろよ、コウ。こいつは……」
不可解な現象に口ごもる。
兵衛が言葉を引き継いだ。
「パイロットが乗るスペースはねえ。つまり無人機だな」
「え?」
あれほど複雑な挙動をする無人機とは――
コウも予想外の事態に絶句した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「なんだこりゃ」
あまりにあっさりとした展開に、ケリーが不満の声を漏らす。
『ヘスティアが通信を遮断しています。連携を取れないのならあんなものでしょう。ライラプスは自動操作で動いてます』
「AIか。AIだろうが…… ここはアストライアに解説してもらいたいものだな!」
ケリーもファイティングマシンへの興味が尽きないようだ。
『現行でも無人兵器は存在しますよ。ストーンズのマーダーにマーリンシステムを搭載したパンジャンドラムがあります』
マーダーの設計は自爆したアストライア本体によるものだ。現行のマーダーは簡易生産型に過ぎない。
マーリンシステムを搭載していないパンジャンドラムは、AIのようなものは一切搭載されていない。
「マーリンシステムとはいうがパンジャンドラムがAI管理下だとしても転がるぐらいしかできないだろ?」
『その通りです』
アストライアは指摘を肯定する。マーリンシステムを搭載しているものはエイレネのみが管理可能だ。アストライアで生産したものがあれば可能かもしれないが、必要性を感じていない。
「そしてマーダー、主にケーレスは虫の群体、いわば超個体を模したもの。テルキネスは例外だったが、あまりにも反応が悪かった!」
『テルキネスは歩兵がいないマーダーたちにとって、最大限の技術で造られた模造兵器。爬虫類とヒトを組み合わせた、無理がある構造です』
「よくもまあそんなことが出来たな」
『ですから単純な行動しか取れないのです。処理限界が低いのですね。半神半人はコストが悪く、人間のパイロットを搭載させるにはシルエットの性能が低かった時代ならではの産物です』
「あのファイティングマシンもそうなんだろうか」
『おそらくは――ライラプスに機械化脳を搭載しているかもしれません』
「なんだと?」
『生体脳から機械化した脳は不可能ですよ? そのうえ三本脚触手状の移動器官の肉体など、人間の心では耐えられない形状です。惑星アシアにおいてテレマAIを搭載しているファミリアの生産を超AIアシアが一元管理しているようなものです。今の惑星エウロパにファミリアはいないでしょう。バルバロイの機械化脳を量産し、中身――生体脳をインプットしなかったものを使用していると思われます』
「つまり空容器を高性能CPU代わりに応用しているってことか」
『ライラプスを肉体にするなど脳も魂も耐えられませんよ。テウタテスにあった四本腕の制御も機械化脳に相当な負荷がかかっているはずです』
「それもそうか。ではあの奇妙な三脚はまっさらな機械化脳を用いたAIということだな」
ケリーがようやく謎兵器の制御系に納得がいったようだった。
「あまりにも弱すぎましたね」
クルトが正直な感想を漏らす。謎兵器に期待が高すぎたのだ。
『ええ。今までは』
「というと?」
ウンランが意味ありげなアストライアに問いただす。
『彼らをここに連れてきた者がいる。それが問題なのです』
「待てアストライア。奴らが惑星アシアの解放された技術を用いる可能性ということか!」
『半神半人の多くは構築技士。そうならない理由はありません。ヘスティアが通信を遮断している理由こそ、外部へ戦闘データを漏らさないためでしょう。彼らの連携さえ許さないほどの制限をかけています。I908要塞エリアは超AIアシア間との同調さえ遮断可能なのですよ? 理由の一つと推測されます』
「こいつらはあくまでデータ採取用か!」
『この場所にあるバルバロイが全てだとは言えません。――ヘスティアの真意はここにあるのでしょう』
アストライアの恐るべき予言に、A級構築技士たちは戦慄を隠しきれなかった。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
コウたちの優勝。しかし盛り上がる気配はありません。謎マシンの謎は深まるばかり。
人間の脳を機械化したものをライプラスに導入したところで、永遠に停止してしまうのです。
次回あたりから展開に異変が……?! というわけでご期待ください。
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