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ネメシス戦域の強襲巨兵  作者: 夜切 怜
聖域の闘技場

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兵器談義

 オイコスたちがコウとクルトを迎えにきた。

 二人ともスーツだ。


「いってらっしゃい。コウ君。たまには君も正装しないとね」


 断然スーツ派のジェニーの指揮で、コウのスーツはユースティティア女性陣によって仕立てられた。


「フリーな服装でいいと聞いているんだが……」


 コウは最後まで抵抗したがアシアのエメが許さない。


「自由な服装で良いと聞いて酷い目にあう話、日本でたくさんあったと聞いた」

「それは……」


 就職活動経験があまりないコウでも聞いたことはある話である。


「クルトさんは自前のスーツですって! さすがよね。――観念しなさい」

「はい……」

「オフとはいえ組織を代表する会食でもあるのよコウ君。ネクタイは流れで外しなさい」


 ジェニーにここまで言われては返す言葉もないコウ。

 しばらくは女性陣による着せ替え人形扱いであった。


 こうして二人はヴァーシャとの会合に向かったのだ。

 目的地はもっとも安全な場所。――聖域アルティスのコントロールタワー内にある高級ラウンジ。ヘスティアの手配によって貸し切りである。


「大事になったなあ。もっとフランクに行きたかった。軽く酒を飲みながらヴァーシャと構築談義でもしようかなって感じだったのに」

「君とヴァーシャとの会合です。もっと緊張感を持ったほうが良いですよ」


 クルトがやんわりとコウの立場を自覚させる。


「とはいえ彼との構築談義は私も楽しみです。気楽にいきましょう」


二人はエレベーターを使い中層にある区画に到着する。


 扉はスライドして開き、中には夜景が広がるクラシカルなバーがあった。


「……なんで」


 バーテンダーをみて絶句した。眼鏡こそかけていないがヘスティアである。にこりと笑って無言のままだ。

 先客もすでにいる。こちらには違和感を覚えないコウ。ヴァーシャだった。


「こちらへどうぞ」


 バーテンダーに促され、ヴァーシャの隣に座るコウ。ヴァーシャとクルトに挟まれる格好だ。長身の二人に挟まれ、若干きまずいコウ。


「今日はよく来てくれた」


 コウはヴァーシャに対し礼を告げると、ヴァーシャは微笑みで返した。


「私も君とゆっくり話したかったところだ。試合前にね。幸いここでは敵も味方もない。もちろん、ミスタークルトもね」

「そうですね。私も貴方と話す機会は欲しかった」


 二人が敵意や遺恨がないといえば嘘になるだろう。しかし二人はその感情をうまく制御していた。

 コウとヴァーシャにいたっては生身では初対面とは思えないほどである。


「まずは乾杯といこう。――君たちの勝利を祝って」


 ヴァーシャがヘスティアに頷いてみせる。二人のドリンクは注文済みのようだ。

 クルトにはビールベースのカンパリ・ビア。コウには飲みやすいマリブ・コークが差し出された。

 自身はクワーシャ。ロシア伝統の飲み物クワスにウォッカを組み合わせたものだった。


「それでは乾杯」


 三人がグラスを重ね合わせる。不思議な気分になるコウだった。


「さっそくだがテウタテス戦の感想を聞かせてもらえるかな」

「わかった。――あれは制圧兵器。非常に反応速度が高い、ね。演算能力も秀逸。だからこそ装甲筋肉が重要になってくる」


 クルトは思わず感心した。ヴァーシャはコウが話しやすい話題から入っている。意図的だろうが、効果的だ。

 コウは知ってか知らずか、クルトも気になる話題を振ってくれる。


「ほう。すぐ隣に装甲筋肉の第一人者もいる。どういう理由か詳細を聞きたい」

「私もですね」

「上手く言葉にできるといいんだが…… 相手は腕部の動き、未来位置を正確に予想していた。しかし、そこで装甲筋肉と刀が生み出すしなり(、 、 、 )が不確定要素になってくる。これが以外と有効でね」


 ヴァーシャが深く頷く。コウの言葉を噛みしめて、己の知識と照らし合わせる。


「剣の軌道は読めるだろう。しかし不規則な鞭の軌道を読み切ることは出来ない。そういうことだな?」

「鞭とはいいえて妙だ。バルバロイはシルエットの腕部の性能から剣速、振り下ろした停止位置まで読めるだろう。装甲筋肉は違う。手首一つ、振り方一つで変化することが可能だ」


 三人はそれぞれの目的をそっちのけで装甲筋肉の可能性について語り合う。

 むしろヴァーシャのほうがコウのペースに飲まれてしまったのかもしれないと思うクルトだ。


「我々は対処可能だが、一般兵はそういうわけにもいくまい」


 コウとクルトは剣術。ヴァーシャはシステマという軍隊格闘技の遣い手だ。フェイントや変化技はシルエットの操作に反映させることは容易である。

 しかし生身で特殊訓練を受けているものは、惑星アシアでも多くはいない。


「軍勢との戦いはまた別問題だろう。対マーダーに特化しすぎていると感じたな。テウタテスは巨体だ。戦車の主砲による集中砲火やリアクター搭載型の超音速ミサイルなどで対処可能だと思う。シルエットで対処する必要はないよ」

「手足がある戦車みたいなものか」

「接近戦に強い戦車だな。それこそ接近戦慣れしていないパイロットだと瞬く間に切り刻まれる」

「暗器は予想外でしたね。よく対処しました」


 クルトもしっかりシルエットの常識に縛られていた。予測していたコウには感服せざるを得ない。


「どこかに装備できないか、常に考えていましたけどね。やはり追加装甲で対処するしかないかな」


 コウが苦笑した。試みるたびにアストライアの冷たい視線が向けられる日々を思い出したのだ。

 自分が思うより食い下がっていたらしい。


「サイズも一回り大きい。君は以前そのようなシルエットを構築していただろう? メガレウス攻略戦の時、私は見たぞ」


 ヴァーシャが気になっていた質問をぶつける。十メートルサイズのドリル型シルエットがメガレウスの装甲を破壊していた。


「ドリルのあれはアナライズ・アーマーだよ。ラニウスの陸戦型と同じ仕組みだ。工兵専門だから、テウタテス戦には厳しいな。何よりあんな鈍重な機体では的にしかならない」


 ヴァーシャが言及している機体はフユキとヴォイが運用したドリル装備の工兵機エランドであろう。


「諸兵科連合で運用するメタルアイリスでは、単機に火力を満載するよりもファミリアたちに支援火力を任せる、か」

「火力満載が必要な時もあるさ。ただ常に必要なタイミングがわかるか、という話に繋がる」

「兵器において使わなければ死荷重という葛藤は常につきまとう。二十一世紀における米国の海軍戦闘機でさえ、オプションになってしまった。かつてベトナム戦争での教訓を忘れて、な」


 ベトナム戦争での教訓。それはミサイル万能論が蔓延し、戦闘機から機銃装備を排除した結果、旧ソ連の戦闘機に苦戦を強いられる結果となってしまった逸話であった。

 コウがいた時代最新鋭の戦闘機は三タイプ造られた。陸上戦闘機であるA型こそ機関砲は装備されていたが、短距離/垂直離着陸型のB型、艦上戦闘機のC型はオプション兵装とされた。


「あの時代はアウトレンジ。対空ミサイルは全方向に飛んでいきます。接近戦の必要性は低かったとしても、ステルス機同士では偶発戦の可能性は高かったと聞きますね」

「機体は極力軽量化したい。しかし歩兵代わりのシルエットも役割分担が進み、アサルトシルエットとバトルシルエットという区分分けが生まれた」

「発案者はコウ君ですね」

「なんだと! そのカテゴリまで君が考えたというのか!」


 改めて知る事実にヴァーシャは喜びを隠せない。

 コウの号令代わりの一言が広く普及した形だった。


「深い意味はなかったよ。突撃用と重武装部隊に別れていたから、咄嗟に命名しただけだ」


 コウは苦笑する。深い考えで生まれたカテゴリではない。


「合理的だよ。機動力を優先したい部隊と重火力を有する部隊をシルエットという分類に留めるほうがおかしいと感じていた」

「その結果が生まれたシルエットがカザークだとしたら、皮肉なものだ」


 カザークは今やアルゴナウタイ全体で運用されている装甲筋肉採用機。

 兵衛が構築したアクシピターから解析され、ラニウスに似た構造に先祖還りしたようなシルエットだ。


「そこは装甲筋肉の先駆者たちに敬意を払おう。発案者の思想に似るということは、私が間違っていなかったことの証明だ」


 悠然と笑うヴァーシャにコウとクルトも苦笑しか返せない。

 あまりに自慢げなヴァーシャであった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 酒も話も進み、あっという間に二時間ほどが経過した。


「ヴァーシャ。相談があるんだ。そこのバーン――ヘスティアの企みによるものだけど」

「三人連れだというのにバーテンダーに話を振るとは、ヤボってもんですよ? 粋にいきましょ」


 鼻で笑って取り合わないヘスティア。粋を語る超AIとは、と内心愕然とするコウ。


「バーンは常に何か企んでいるからな。話を聞かせて貰おう」

「ヘルメスの配下に言われたくはないですー」


 ヘスティアの抗議を、先ほどの彼女同様に微笑で受け流すヴァーシャ。


「俺たちはバルドとチームを組んでいる。金なら分配できる話なんだが。――副賞にテウタテスが貰えるらしい」

「なるほど。私を呼ぶわけだ。買い取りを希望したいのか?」


 ヴァーシャは冷ややかな目でヘスティアを見据えた。明らかに政治案件をぶちこんできたのだ。 

 これはヴァーシャでなければすぐに判断できない内容であろう。

 ヘスティアはにっこりと笑うだけだ。


「勝てれば、の話だ。決勝戦の相手さえ不明だしな。買い取りなどはそちらが飲めないだろう。ヘルメスが惑星エウロパから呼び寄せた秘密兵器だからな。本来ならストーンズのものだろ」

「ふむ」


 迂闊な返事はできない。コウの探りと判断したヴァーシャは冷水を浴びせかけられたような気になる。

 なかなかどうしてしたたかな切り出しだ。


「そこでだ。バルドに報酬に相応しい金額を支払うと同時に俺がテウタテスを解析した内容はヴァーシャ。あなたに送付するという条件を付けたいと思う」

「なんだと?」


 予想外な提案にヴァーシャは息を飲む。まさかコウからそのような提案が為されるとは夢にも思わなかった。

 クルトも内心驚愕したが、平静を装う。弟子ともいえる青年がどのような考えか見極める必要があった。


「そう驚くこともないだろ。もともとはヘルメスが惑星エウロパから呼び寄せたんだ。テウタテスの内部構造ぐらい把握していたっておかしくない。知識としてすでにそちらにあるものを、解析が正解かどうかさえ不明なレポートを送るだけだ。解析レポートは俺の分のみだ。他の構築技士の見解までは渡せない」


 ヘルメスが呼び寄せたのだ。超AIである彼ならバルバロイやテウタテスがどのような代物か。とっくに把握しているに違いない。

 この様子だとヴァーシャは把握していなかったようだ。これもコウの予想通りともいえる。同盟関係とはいえ、兵器解析をバルバロイが許すはずもない。


「答え合わせはそっちでやれるだろ? まったく見当違いの分析をしていたら、俺の知らないところで笑ってくれ」

「答え合わせ――ふむ。そのような楽しみ方も確かにある。私はその条件で構わない。だがトライレームとしてはどうだ? クルト」


 これは個人案件でもあり、政治案件だ。コウとヴァーシャという構築技士のみで成立する交渉内容であり、トライレームとアルゴフォースという両組織が許すかどうかにかかっている取り引きだ。

 テウタテスはアルゴフォースという組織でも未知の兵器なのだ。


「君たちが同意するなら私も異論はないですよ。コウ君の解析レポートは楽しみです」

「ふむ。あえてもう一つ注文を付けたい」

「聞こうか」


 あまりにもコウにとって都合の良すぎる条件だ。ある程度の交渉は覚悟していた。


「クルトの見解も聞きたい。彼もまた剣士であり構築技士。今この場にいる人物としては最適だ。二人の分析が同じとも限らないだろう? 二名の構築技士の見解なら許可も得やすい」


 クルトに視線をやるヴァーシャ。挑発するかのような視線だが、悪戯を思わせる微笑も浮かべている。

 歴戦の構築技士との、軽い駆け引きを楽しんでいるのだ。


「構いませんよ。私のレポートを彼に渡しておきましょう。あとは君がヘルメスの許可をもらえるかどうかでしょうね」


 兵器の解析という分野ならアストライアがいるコウのほうが長けている。

 彼のレポートなどフレーバーにしか過ぎないだろう。きっとヴァーシャもわかっていて提案してきていると踏んだ。装甲筋肉を得意とするクルトの見解を純粋に知りたいのだ。


「持ち帰って改めて許可を貰う必要はあるが、前向きに提案を検討するということだけは約束しよう」


 テウタテスの所有権争いはヘルメスとヘスティア間のもの。コウとヴァーシャは第三者に過ぎない。ヘルメスと惑星エウロパのバルバロイとの同盟関係とは無関係である。


「そうか。ダメだった時はまた相談するさ」

「ほう。うまくいけばまた飲める機会が生まれるということだね?」

「つまり私も目が離せないということになりますね」


 あらゆる意味で目が離せない二人。ここまでに嫌味や皮肉さえ無く、純粋な見解や構築話、格闘技の話に終始していたのだ。トライレーム内でもコウにこれほどの友人がいるかあやしいとさえ思うクルト。

 クルトはアシアの危惧も当然だと判断していた。色々な意味で目が離せない。悪ノリする兵衛やケリーでも難しいだろう。自分が同席不可な場合、ウンランか衣川を付けたいほどだ。


「装甲筋肉の第一人者とまた飲める機会か。それもまた心待ちにしているよクルト」


 掛け値なしの本音であろうヴァーシャ。彼は構築しか頭にない。この短い会話のなかで、クルトも痛感した感想だ。

 それは構築技士にとって好ましい心情を生んでしまう。


「距離感は大切に。二人とも。エキシビションマッチもあるでしょうに」


 疲れた声をだすクルトの声に思わず笑うコウとヴァーシャだった。


「付き合わせてすまない」

「私としても構築談義は望むところです。何より目の前に原因もいますし。――何故そんな副賞をつけたか問いただしたい気分ですが」


 クルトが向けた視線の先にいたヘスティアはにっこりと笑い返す。


「ノーコメントですッ! といいたいところですが。――三機のシルエットに敗北するような兵器を後生大事に死蔵する趣味はありませんよ。旧傭兵機構のような趣味はね」


 痛烈な皮肉を込めてうそぶくヘスティアに、惑星アシアの旧体制への不満を感じる三人だった。



いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!


コウとクルトとヴァーシャによる和やかな会食です。再びスーツに着られるコウ! フリーな服装で、は本当に油断なりませんよね。日本独自の文化かな、あれ……


クルトはアシアのエメに二人の雰囲気を事前に聞いていました。そこでざっくり兵衛とケリーではNGだと判断しています。アベルは論外です。

生真面目さ度みたいなものがパラメータにあるのでしょうか。


文中にでてきた戦闘機は日本も二種導入していますね。

次期戦闘機、日英共同開発って正気かと思いました。いや、英国お金ないし最近戦闘機作ってないので…… あとそんなに航続距離必要? みたいな。凄い時代になりましたね! 英国面な日本戦闘機、楽しみです!



ヴァーシャはヘルメスに振り回されているので、ようやく楽しみを見いだすことができて強気です! 

次回はいよいよ兵衛とヘルメスが遭遇します!


スーツ選びだけで四時間はかかったという……?  ケリーも兵衛も保護者失格?! 続きを楽しみという方は↓にあるブクマ、評価で応援よろしくお願いします。

大変励みになります! 気軽に感想等もお待ちしております!


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― 新着の感想 ―
[一言] 人型戦車というと思い出すのがPSのガン○レードマーチ、コウが主人公だとと刺されて終わりそう。足が履帯になっているテウタテスもいそう。
[一言] 航続距離必要ですよ、イギリスやスウェーデンはNATOに加盟したフィンランドまで飛ばす必要がありますし。 アメリカ空軍は台湾を防空しないといけないですし。 日本も艦隊防空しないといけないですし…
[一言] 平服で、と言ってくれた方がわかりやすいんだけどねぇ 昨今だと平服もややわからなくなってきつつあるけどね >接近戦に強い戦車だな。 やっぱ斬撃戦車が必要か 次期戦闘機は数年前に話に出てたク…
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