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ネメシス戦域の強襲巨兵  作者: 夜切 怜
聖域の闘技場

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ヘルメスの悪巧み

 観客席からどよめきが発生する。

 

 明らかに、刀の切っ先が胸部を貫通している。

 パイロットがいるならば即死だろう。


「パイロットは死んだのか?」

「緊急回避措置は発生しなかったのか?」


 観客の多くは食い詰めた傭兵たちだ。

 パイロット救命措置が作動しなかった衝撃は大きい。


『テウタテスは後ほど回収します。――これは惑星エウロパ由来の無人兵器です。生きている人間が操縦しているわけではないのです。機械人形(オートマタ)による操作です』

「オートマタだって? 本当に惑星エウロパからきたのか!」

「あれはシルエットではないのか。そういえば腕部から仕込み刃が出てきたな」


 異形のシルエットとは思っていたものの、本当にシルエットではないという事実に驚愕している。


 その間にコウたちはパライストラのガレージに戻り、シルエットから降りて一息つく。

 こうみえてぎりぎりの戦いだった。


「シルエットに似せただけの人型兵器かよ。厄介だな」


 バルドがしかめ面で呻いた。MCSを搭載せずに動くものなのかという思いだ。


「人間には操縦できない代物だ。紛い物――スプリアス・シルエットだしな」


 嘆息するかのようにコウがプロメテウスから聞いた言葉を口にする。


「オートマタとはね。サイボーグも人形扱いか」

「超AIたちの多くは彼らを人間とは認めていないな」


 プロメテウスを含め、多くはバルバロイを機械と見なしていた。

 ヘスティアも同様だろう。


「パイロットはどうなるんだろうな」

「人間なら刀を通す前に回収されてっからな」

「修理しますよ。機械ですからね」


 ヘスティアがいつものように忽然と姿を現す。


「まずはおめでとうございます。いよいよ決勝ですね」

「勝ったらさぞとんでもない物が貰えるんだろうな」


 バルドが興味なさそうに言う。金なら唸るほど持っている。でなければパライストラでの競技者生活などできはしない。


「優勝賞品はそうですねえ。現物で」

「開拓時代の兵器が拝めるならありがてえな」


 兵衛が叶わぬ妄想を口にする。ダメ元でいってみただけだ。


「そんなの許されるわけないですよ。動かないガラクタといえど、現物があればいつかは解析する。あなたたちはそういう生き物です」

「おう。俺は解析なんて向かないが、他のヤツが血眼になって解析するだろうなァ」

「地下闘技場らしく価値があるものを担保にしますよ。――重工業要塞エリアに対応したAカーバンクルです」

「……とんでもないものを用意しやがるな」


 一つの都市を造ることが可能なAカーバンクルなど値が付けられないほどの価値を持つ。しかし、値が付けられないから無料というわけにもいかないので相場は存在するのだ。


「Aカーバンクルぐらいはストック大量にありますから。暴落しない程度に放出しますよ」

「さらっととんでもねえこと言いやがるな。この女神は」


 バルドが呆れた。

 今や製造されることはなく、数が稀少で用途が多いからこそ莫大な価値を持つAカーバンクル。それを大量に保有しているというのだ。経済面で好きなことは可能だろう。


「価値が高すぎて換金が厳しいんですよねえ。高すぎる現物は手に余りますよ」

「闇市でも告知した上でオークションでもしないと即金は厳しいだろうな」


 換金が難しいほど価値があるものだ。急がなければ告知期間を長くして競売にしたほうがよい。


「副賞はテウタテスですね。十分でしょう? あくまで決勝で勝てればですしね!」

「ちょっと待て!」


 コウが表情を変えた。


「テウタテスが副賞? 一機だけだろ?」

「あれはAカーバンクル以上に数は少ないですから一機だけです。分配方法はあなたたちに任せますよ。――では私はこれで」


 にこやかな笑顔と共に消えるヘスティア。

 頭を抱える二人と、事態を飲み込めないバルド。


「とんでもない政治問題をぶっこんできやがったな」

「なんだ。テウタテスが何か問題になるのか? 人間には操縦不可能と聞いたが?」

「――バルド。あれは技術封印をかい潜って製造された兵器なんだ。つまり研究すれば俺たちにも使える技術が眠っているかもしれない」

「さっきヘスティアも言ってただろ? 現物さえあれば解析して見せるってのが人間だ。そして技術封印に抵触しない技術。そいつがあれだ。――やばい事態になっている。俺たちじゃなくてバルド。お前さんだよ」

「ゲェ」


 非常に面倒臭い案件だ。バルドは傭兵とはいえ、アルゴフォース直属のエリートフォースともいえる。

 おいそれとテウタテスをトライレームに渡してしまったら、彼の立場は非常に危うくなるといえよう。


「どうすりゃいいんだ!」

「副賞辞退という手もあるがな。それだと俺らが殺されちまう」

「だろうな! 構築技士にとって宝の山だろう!」

「バルバロイの技術か。ガラクタの可能性だってある。本質はテウタテスではなくサイボーグ化だろう。しかし……」


 コウも珍しく眉間に皺を寄せて考える。


「……バルド。一つ提案がある」

「おう。なんでも言ってくれ」


 打開策を見いだせないバルドは藁にも縋る気持ちだった。


「ヴァーシャと話がしたい。あくまで剣術、構築の話をしたいというのが用件だが…… 構築の延長上だ。この件についても話ができるだろう。場所はヴァーシャの指定でいいが、強い酒は飲めないってことは伝えてくれ」

「ダメ元で聞いてやる」

「そうか。すまんな」

「いいってことよ」


 コウから提案があるとは思わなかったバルドは、喜色を渋面で塗りつぶしてわざとらしくぶっきらぼうに答えた。

 どうヴァーシャの面会要求を伝えようか、タイミングを見図っていたバルドにとっては天の救いだ。

 ヴァーシャからの要求と叱責、そしてテウタテスの所有問題。一石二鳥ならぬ三鳥だって狙えそうだ。


「コウ君。大丈夫か。俺も同席しようか?」

「はい。状況を見て同席をお願いします。彼にとっても兵衛さんとの武術談義や構築談義は歓迎するところでしょう」

「おう。数に入れる前提で話しておくぜ!」


 思わず気合いが籠もった返答をするバルドだった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 愛機とともに宿舎に戻ったバルドがMCSから降りた途端、ガレージで転倒した。

 見覚えのある二人組が出てきた。ヴァーシャとまさかのヘルメスである。


「お、お二人とも。何故ここに!」

「貴様の勝利を祝いにな」


 にこりともせず告げるヴァーシャ。


「初動のあれはなんだ。貴様は――」

「そこまでにしておきましょう。ヴァーシャ(、 )


 にこやかに笑いながら告げるヘルメスに、渋面を隠さないヴァーシャ。


「へ?」

「ぼくは今日からヴァーシャ様とバルド様の弟子ということで。ぼくの名前はドリオスということでよろしく。ヘルメス様といったら一回につき罰則発生だからね。よろしく!」

「や、やめてください!」


 ヴァーシャの渋面の理由が判明した。演技とはいえヘルメス相手にきつい話だ。


「どう接していいかわかりませんぜ」

「実は私もだ」


 予想外な同意がヴァーシャから飛んできたが、当然といえるだろう。彼にとって神のような存在である。演技とはいえ、弟子と名乗られてはたまったものではない。


「トライレームのほうで動きはないか聞きにきたんだ。――ああ、この地で警戒しても意味はないよ。ヘスティアには筒抜けだ。ありのまま話してくれていい」

「そういうことでしたか。それならまあ。ヴァーシャ様の伝言を伝える前にアシアの騎士から提案がございましてね――」


 ヴァーシャの顔色が変わった。

 バルドの説明を聞き終え、大きく頷いたヴァーシャ。


「断る理由はない。場所は私の指定でよいと。これは嬉しい誤算だ。――剣術、構築。そして何か別の案件があるということだな。いいだろう。強い酒は駄目か。なら弱い酒で飲みやすいものを選ばないとな。どんな酒があるか。ヘスティアに相談するか」


 酒好きとして要求があるなら最善のものを選ばないといけない。決意を固めるヴァーシャだった。


「ちょっと待った!」

「ヘルメスさ…… ドリオス?」


 ヘルメス様というと叱責を受けるヴァーシャが、言い直す。


「面会メンバーの変更を希望したい」

「ドリオス……も参加されたいんですかい?」


 先ほどの罰則を思い出し、バルドも意識してドリオスと呼びかける。

 

「グループ分けだよ。せっかくの機会なんだ。アシアの騎士とヴァーシャ。そして彼を安心させるためにクルトを呼ぶというのはどうだろうか」

「クルト氏ですか。あの人物なら剣術にも装甲筋肉機にも造詣が深い。私としては文句ありませんが……」

「ぼくとバルドは兵衛と稽古したいと交渉してくれ! バルドとドリオスの子弟コンビが剣の達人から指導を受けるんだよ! こんな機会はまたとない!」

「な……! そういうことですか」

「うぐぅ……」


 絶句するヴァーシャとうめき声しか出せないバルド。


「今のぼくをみても小柄な色白男性にしか見えないだろ? 正体がばれることはまずない。そして兵衛の剣術は体が覚えている。今回のテウタテス戦で必要性を痛感したんだ」

「――以前から、想定はしていましたね。こんな機会を狙っていましたか?」

「いやだなあ。巡り合わせだよ。もしダメならヘスティアが邪魔に入るはずだし?」


 聞いているであろうヘスティアを挑発するかのように告げるヘルメス。


「ダメ元で聞いてみますぜ……」


 これはトライレームも検討がいる案件だろう。兵衛はざっくばらんな性格で話は早いが、他の構築技士は慎重な対応を求めるはずだ。

 自分達を稽古しろ。これは兵衛は受けてくれるだろうと漠然と確信を抱いているバルド。そんな小さな男ではない。そうでなければ彼も執着はしないのだ。


「彼らは飲むだろう。その場合一切の敬語は不要だ。わかるねバルド様?」


 正体がばれる隙を与えてはいけないということだ。

 かつて感じたことがないほどの圧を受けるバルド。


「わ、わかったぜ。ドリオス」

「それでいい。この件で褒めることはあっても叱責はしないと約束しよう。稽古でぼくが骨折したりしても、だ。普段から慣れておかないとぼろがでるからな。どうもヴァーシャは飲み込みが遅い」

「無理を仰らないでください……」

「さてバルド。まずはカストル直伝の剣術稽古。君が継承者であることは疑いようがない。今ここで始めるぞ」

「今からですかい!」


 半泣きになりそうなバルドに対して、同情の瞳を向けるヴァーシャは無言を貫き通した。



いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!


テウタテスの入手できる機会などほぼありません。惑星エウロパの技術が惑星アシアにもたらされる可能性があるのです。

ただコウも言及しているように兵装はレールガンやコイルガンなど、炸薬を使わない電気を使った、原理自体は制限も難しい単純なもの。

秘密の多くは本体のバルバロイたちにあるでしょう。


そして暗躍するヘルメス。いたずら以上陰謀未満、ということで悪巧みです!

危機感がない組織のボスという意味ではコウ以上ですね。ひっかき回すことが楽しいというのと、体を動かす喜びで全力です。

ヴァーシャの胃が破裂寸前!


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[気になる点] ヘルメスの体、見た目と面影は変わっていても兵衛さんなら体捌きを観ればすぐに気づくのでは?ヴァーシャにシステマ習った方がまだ気づかれなさそう。 [一言] 無茶ぶりされるバルド様に胃薬を送…
[一言] コウ側の交友関係の程度とその辺とヘルメスの因縁知ってたらヴァーシャの胃は溶解してるよね 体が覚えてるってことは兵衛と剣を交えたら正体バレるんじゃね? >秘密の多くは本体のバルバロイたち…
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