四臂たる理由
控え室代わりのガレージでコウと兵衛は考え事をしているようだ。
互いに何かを模索していることに気付き、確認し合うことにした。
「コウ君は何が気がかりなんだ?」
「俺は――通常の規格のシルエットではないことが気がかりです。今まで幻想兵器を含めてシルエット規格の延長、拡張という範囲でした」
「ふむ」
「幻想兵器もフェンネルOSを改造したシルフィウムOSでMCSでしたが、テウタテスは違う。フェンネルOSとシルエットを模倣した紛い物。いわばまったくの別物なんです。加えてバルバロイは人間ではなくサイボーグ。人間であると考えてはいけない」
「どこが違うんだろうな。俺たちとよ」
「問題はそこなんです。バルバロイは脳まで機械化されているそうです。それは半神半人とも異なります。石ころは人間の肉体を得ることによって個体差はあれど人間という規格内。想像できる範囲の存在なんです」
「俺もそれは考えて居た。カストルにしろ、他の半神半人にしろ、な。カストル以上の剣士がそういるとは思えねえ」
「ええ。半神半人ならそうでしょう。しかし脳まで機械化したサイボーグは、人間の限界をどこまで超えているのかな、と。付け加えて非フェンネルOSの兵器は実質初ではないかと思います」
戦車から戦闘機までフェンネルで動いている。幻想兵器とてフェンネルOSを改変したものであるシルフィウムOSだった。
どのような挙動をするか未知の兵器であるともいえるのだ。
「そうか。コウ君の懸念はそこか」
兵衛が唸るように確認する。
どうやらコウとは別方面からみていたようだ。
「兵衛さんの懸念は違うんですか?」
「俺ァあのテウタテスというシルエットもどきが気になるんだ。四臂なんだぜ。なぜ腕が四本必要なんだ? メリットは? デメリットは? 腕が増えたら強くなるわけじゃねえ。剣でもな」
「そういうものか? 腕がある分強いように感じたぜ」
バルドも気になる話題だったので会話に参加する。
このメンバーで唯一テウタテスとの戦闘経験がある男だ。
「それよ。俺が数人いるぐらいの強さと感じたんだろ? てことは説明しにくいんだが……パイロットであるバルバロイの脳が人間と根本的に違うんだ。人間は左右同時に腕を操作するのだって苦労するんだぜ」
「あー。そういうことか。兵衛さんは二刀を遣うから」
「二刀と四本腕、関係があるのか?」
「大いにあるさ。剣道の試合は知っているな。バルド君」
「当然だ。俺は竹刀で訓練を受けたからな」
今思い出してもぞっとするカストルの猛特訓である。
遠慮無く竹刀でぶたれたものだ。
兵衛は一刀流と二刀遣いの二天一流を修める。
二刀の観点からテウタテスのコンセプトを見極めようとしているのだ。
「地球においても剣道の試合では二刀はありだったんだが優勝者は少ない。竹刀を左右で動かすということは意識が分散すること。そして何より片手打ちでは斬り込みが浅い。一本ではなくせいぜい有効にしかならないわけさ。両手と片手、それだけ違ってくる」
「竹刀だからだろう。真剣なら触れれば斬れるんじゃねえか? シルエットならなおさらだ」
「真剣でも同じさ。いや、それ以上に差がつくだろう。何せ竹刀と刀、重さが違う。両手で保持したほうが威力は違うさ。刀が重くなればその差が広がる。暗殺術みたいに首だけを狙うってのはありだが、それなら二刀である必要もねえ。有効だったにしろ、それは一回こっきりの奇襲に過ぎん」
「なるほど。俺にもなんとなくわかってきたぜ」
「接近戦に限ったことじゃねえって話よ。拳銃だってそうだ。片手での射撃と両手でホールドした射撃。命中精度が違うだろう? シルエットは金属の腕だが、武器によってかかる反動も違う。剣もそうだ。四本剣なんざ一撃は浅いし、四本ライフルなんざ同時に制御できるもんかなってね」
「同時に制御しているようには見えたぜ」
「だからそこがフェンネルOSと人間パイロットの違いなんだろうさ。つまり――」
兵衛は一つの結論を導き出す。
「テウタテスは人間を拡張するフェンネルとシルエットの基本設計から大きく乖離した兵器なんだ。おそらくだが一種の制圧兵器なんだろうな」
「制圧兵器? 一機のシルエットで多数の敵と対時する前提といいたいのか?」
「どうしてそうなったかはわからねえ。惑星エウロパの特性なのか。あの惑星で何があったのか。それはわからんが今現在の情報だと個対多数の制圧兵器。そうとしか思えねえんだよな」
「ん…… そうなると」
「コウ君。何か気付いたことがあるかい?」
「ランチェスターの方式でも数が劣勢の場合、関わる要素は兵器の質です。――本来はマーダー相手の兵器だったのではないかと」
「マーダーか! 確かにストーンズはマーダーしかもってねえ。広域に広がるケーレスの群れを仕留めるためか」
「バルバロイたちサイボーグは数が少ない。少なくとも惑星アシアの人類とは比較にならないほど。技術制限はすり抜けたとはいえ、規制で製造不可能な技術もあったはず。サイボーグの身にシルエットもどきの兵器を運用するはめになった」
「そう考えたら自然か。テウタテスが複数揃ったら巨大マーダー相手にも通用するだろうしな」
「三人一気に仕掛けても対応される可能性もある。それが二機もいるんです」
バルドがうんざりするかのように口を挟む。
テウタテスの脅威は身をもって知っているからだ。
「どう対策するんだよ?」
「いったろ。意識が分散すると。機械でいうならマルチタスク処理中ってことだ。ならこちらはよりシングルタスクに特化した技術をぶつけるしかあるめえ。俺たち三人で三コアだな、相手はワンパッケージのマルチタスク。処理能力は読めねえ」
「相手は超優秀なCPUっぽいですね。しかも相手も二機です」
コウもどう対応するか、脳内でシミュレーションを重ねる。
接近戦が通じるかどうかも相手の技量と反応速度次第だろう。
「今までの話も予想にしか過ぎん。サイボーグがそれほど優秀なら何故アシア人はサイボーグにならなかったか? そういう疑問も生まれてくるからな」
「そうだな。何かしら欠点はあるんだろう。痛覚はなさそうだな」
「最悪思考があるだけで意識はないかもしれん」
「テレマAIには意識がある。単純なAIと変わらない情報処理機械なら、厄介ですね」
「なるようにしかならんだろ。お前さんの報告によるとエウロパに人間はいない、だからな。オケアノスすら人間にカウントしていないんだ。何かしら人間性を喪っている事実は変わらん」
兵衛はそういって話を切り上げる。
あとは実戦で確認するのみであった。
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バルバロイと四本腕シルエットに、惑星アシアの構築技士たちを悩ませます。
MCSさえ使っていない兵器は理解の範疇外。MCSに頼りすぎたデメリットが急激に押し寄せているともいえます。とはいってもMCSがなければ惑星アシアでは満足にヘリも飛ばせなかったでしょう。
能力を解明するかのような戦いを迫られる三人。いよいよ惑星エウロパの勢力と惑星アシアの兵器が初対決です!
惑星エウロパの技術水準はいかに! 腕が四本あるなら強いに決まっている?! 続きを楽しみという方は↓にあるブクマ、評価で応援よろしくお願いします。
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