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ネメシス戦域の強襲巨兵  作者: 夜切 怜
X463要塞エリア反攻作戦

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残心

 ストームハウンドの補給部隊と敵シルエット隊の間に、コウは立ち塞がった。

 背後にはサポートのためにブルーがいる。


 リックたちが敵の防衛網を突破している間にコウたちは別途、封印区画へ向かう手筈だった。

 そこへ補給部隊の襲撃を察知し、救援にきたのだ。


「コウ……」


 ブルーは心配していた。

 これはコウにとって初めての対シルエット戦――対人。

 中に生きている人間が乗っているのだ。


「斬り込むか。三機だし」

「敵の機体は三機ともベア。接近戦はそれほど得意じゃない」


 エメからの通信が届く。コウは頷いてライフルを腰のマウントに装備し、背中に担いだ大剣を引き抜いた。右側に柄を出すようにしてある。

 刀なら鞘があるが、試製大剣には存在しないため、なしだ。鞘があまりにも欲しく、アルゲースに相談しているほどだ。

 

 ハンガーキャリアーでは、三人の少女がじっと画面を見つめている。

 コウにとって、初めての対人と知っているからだ。

 彼の心は禁忌を犯すことに耐えられるだろうか。それだけが心配だった。


「コウ。いける?」

「いけるさ」


 ブルーの不安そうな声に、コウは微笑んで返す。余裕もあるようだ。


 コウがいた時代、そして国の日本は比較的平和な時代だったと聞いている。

 徴兵もなく、表だった交戦記録もなかったという。軍隊は主に頻発する大規模災害に対処していたと。

 そして多くの転移者は、口々に平和な日本だったと証言している。


 日本からの転移者のなかには戦争アレルギーを持つ者も多かった。国防や領土に関心がないように教育されていたといったほうがよいかもしれない。

 コウはどうだろうか。


「ブルー。援護を頼むよ」

「わかった」


 コウは駆けだした。ローラーダッシュではない。二足を使ったダッシュだ。

 脇構えで、左肩を突き出しショルダーアーマーで全身を守っている。やや身を低くし、被弾面積も考慮している走行だ。


「敵の武装は三機ともアサルトライフル。距離を詰めてしまえば、対処できる」


 エメからの通信も届く。


 突撃された敵シルエットは驚愕した。距離を詰めるのにローラーダッシュを使っていない。さらに見たこともない大剣を背負っているのだ。

 想定していない動きだった。


「う、撃て!」


 距離はあるのだ。確実に撃てばいい。

 しかし、シルエット用ライフル弾ではコウが装備しているショルダーアーマーを抜くことはできなかった。


 動きも奇妙な動きだった。回避行動も兼ねているサイドステップと前進で、確実に距離を詰めてくる。


 背後にいるブルーのシルエットも厄介だ。小口径のレールガンで牽制してくる。一撃は重くないが、確実にダメージが累積していく。


「うぁ?」


 腰に構えていたはずの五番機の大剣がいつの間にか大上段に構えられていた。

 しかも、気付いたら目の前にいる。


 無造作ともいえる斬撃。一刀のもとにベアは頭頂部から股下まで両断されていた。非常に硬いマルチコックピットシステムさえも両断した話など聞いたこともない。


「ひ、ひぃ!」


 残りのパイロットが恐慌状態に陥る。

 あまりの威力。斬撃を恐れて頭上にライフルを構え、剣を受けようとする。

 その行為を嘲笑うが如く――斬撃が腰部分を両断した。


「なんだそりゃ!」


 残されたパイロットが絶叫する。

 瞬く間に二機のシルエットが破壊されたのだ。

 愕然とするのも当然だ。


 パニックになりライフルを乱射する。しかし、距離が近付いて外れる上、高次元投射装甲の前では数発では致命傷にはほど遠い。


 斬撃が来る――上か下か。


 傭兵だ。緊急の対処ができないようでは沽券に関わる。

 アサルトライフルの銃剣を自動展開し、こちらも白兵戦に備える。


 ずん、という鈍い鋼を切り裂く音。敵が駆るベアは呆然としたかのように自分の腹部を見下ろした。

 大剣が腹の部分から生えていた――斬撃ではなく鋭い突き。


「なんだそりゃ……」


 同じ言葉を力無く繰り返す。

 機体が動かない。パイロットは茫然自失となった。


「凄い……」


 小声でブルーが呟いた。予想以上の思い切りの良さだ。

 躊躇がない。腰から両断されたベアや、刺突されたベアのパイロットは生きているだろう。

 しかし、最初のMCSを両断されたパイロットは生きてはいまい。


 ブルーがコウの側に近寄ろうとしたとき、視界の端に動く影。

 腰を両断されたシルエットの右手が、コウを狙っている。


「コウっ!」


 ブルーが叫ぶ。不意打ちは人型のシルエットには効果的な攻撃だ。

 

 その叫びも杞憂に終わる。


 コウは地を薙ぎ払っていた。ベアの右腕は吹き飛んだ。

 剣を再度、ベアの胴体に突き刺す。


「投降しろ。さもなくば殺す」


 共通回線で言ってみる。ネメシス戦域に国際法とかあるのかな、と今更ながら思った。


「わ、わかった。投降する」

「俺もだ」


 二機のベアは動きが止まった。


「二機のリアクターの停止を確認。その二人、投降した」

「わかった」


 エメからの通信で投降を確認できた。胸をなで下ろした。

 五番機の剣にはさして血痕は付いていないが、気になったので血振りを行い背中に担ぎ直した。


「捕虜は補給部隊に連絡しておきました。あとで回収にくる」


 ブルーからも通信が入る。


「ところであなた。倒れた敵が攻撃してくるってわかってた?」


 腕が動いた時にはすでに斬り飛ばされていたのだ。剣を先に置いていたかのような動きだ。

 事前に察知していたとしか思えない。


「俺の剣術は居合いでね。残心は基本だ」

「ざんしん?」

「油断しない心構え、とでもいえばいいかな? 倒れた相手が生きて攻撃するかもしれない。だから、心を残し――敵に意識を残すんだ」

「……あなた、本当に二十一世紀からきたの?」

「そうだよ?」

「シルエットに人間が乗っていてもためらいが無かったのは、イアイのせいなのね」

「そうだろうな」

「わかった。サムライについて調べておく」

「だからサムライじゃないって!」


 ブルーとの会話で、緊張がほぐれる。意図してくれたものかはわからない。


 もちろん、心に暗いものは生じている。初撃のベアのパイロットは、死んだだろう。

 夜、夢をみるかもしれない。

 それでもなお、ためらいなく剣を振り抜けた。それが満足だった。


 彼らも殺しにきているのだ。それも感情や損得ではない。任務であり、仕事だ。


 こちらも同じ対処をするだけなのだ。

 理由はどうであれ、殺し合いを行う立ち会いをする以上、全力を尽くさなければいけない。さもなくば、死ぬだけだ。


 師匠たちが好んで呟いていた、和歌を思い出す。居合いには多くの流派があるが、その中興の祖の一人が読んだとされる詩だ。


「抜かば切れ。抜かずば切るな、この刀。ただ切ることに大事こそあれ」


 ブルーに聞かれないよう、そっと呟いた。

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