潜水渡渉――水陸両用機
X463要塞エリア付近に流れる、大きな河。
その水面から突如として巨大な人型が現れた。
水陸両用シルエット、SA-A2オッターだ。三機編成だ。
同じく同伴車両に潜水渡渉可能な工作任務に特化した多目的工作装甲車が一両。
メタルアイリスの工兵部隊だ。
SA-A2オッターは背中に巨大な筒を二つ積んでいる。シュラウド付きプロペラでスクリューも兼ねている。
渡河能力は水上を移動する浮航型と潜水して移動する物の二種類に分けられる。
ケーレスは水中での活動は苦手だ。潜水渡渉タイプの兵器は重宝がられている。
戦車部隊がケーレスとの交戦中、先行して別方面の要塞エリア外壁に向かっていたのだ。
工兵部隊隊長は転移者。日本人のニシザワ・フユキ。四十代の男性で小柄で細身、眼鏡の男性だ。
「皆さん、いきますよ」
物腰の柔らかい口調。ネメシス星系へ飛ばされ早十年。地球ではまったく違う業種に就いていたが、今では工兵部隊隊長なんてものをやっている。
各隊員から応答が入るのを確認し、森林を進む。
地雷をはじめとするトラップがないかを装甲工作車両が確認し、シルエットが後続する。
工兵部隊は、主力部隊より先行する任務が多いのだ。
彼らが行うのは架橋でも、地雷除去でもない。
要塞エリアを覆うシェルター。シルエットが通れる部分だけでも破壊し、潜入経路を作ることだ。
Aカーバンクルで強化されたその隔壁を破壊するのは容易ではない。
赤色矮星ネメシスは彗星を定期的に発生させ、容赦なく隕石雨や磁気嵐が惑星アシアに降り注ぐ。シェルターはそれらから守るために生み出された二万年前の遺産なのだ。
ストーンズでさえエニュオという巨大質量兵器を持って、その巨体をAスピネルで補強しながら破壊するという荒技を使う。
彼らはシルエットが通ることができる孔を開ければよいだけだ。だがその作業は非常に困難だ。要塞の名は伊達ではない。
しかしそのための工兵。最前線を拓くのは彼らなのだ。
現在、ストームハウンドが敵を引きつけている。
その貴重な時間を、なんとかして生かさねばならない。
フユキは歩みを止め、命令を下す。
装甲車両は警戒を維持したまま、待機。各シルエットは必要な装備を車両から取り出し、装備する。
障壁排除のため、三機のシルエットはさらに奥地へ潜入していった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
リック率いる戦車隊は、敵の超重戦車率いる敵戦車隊と交戦していた。
敵は超重戦車一両と、リックたちと同型車両であるT-10A2 ライノが四両とシルエット九機。
対するメタルアイリスとストームハウンドの混成戦車隊はT-10A2 ライノが十二両。
背後には、その同数の装甲車と支援車両、シルエットが六機。
戦車戦は包囲――機甲戦の位置取りだ。彼らは一翼包囲となる。両翼包囲を行うには数不足だ。
正面はリックたち主力戦車が敵を引きつけ、シルエットや支援車両ができうる限り側面に回る。決して正面に立たないようにだ。
まずは邪魔な周辺のシルエットと戦車を撃退しなければいけない。
ハルダウンを行える位置取りは出来た。防衛側は強固な陣を敷くため、攻撃位置を選択できるのが攻者の利点である。
轟音が轟き、着弾地点に粉塵が舞い上がる。弾頭には炸薬が込められていないにも関わらず地形が変貌し、穿かれた爆心地はその威力を物語る。
レールガンの着弾はそれだけの衝撃を発生させ、爆風を巻き起こすのだ。
正面を受け持つリックたちの、きりきりとした間合いを見極める砲撃戦が続く。
お互い有効打がない。
敵シルエットの守りも盤石だ。超重戦車は想定よりも楯として機能していた。
動くバリケードのようなものだ。
「ぐぁぁ!」
通信超しに悲鳴が響く。直撃を受けた車両が遂に現れた。
車両前部のスカートアーマーがひしゃげている。装甲が貫通し、履帯にもダメージがいっているようだ。その破壊力は凄まじいものだった。超重戦車の威力を改めて思い知る。
「ロジャー!」
「大丈夫。転輪もスプロケットもまだ生きている。すまないが後退する」
「ああ。すぐに戻れ」
直撃を受けた戦車隊のロジャーは、低速ながらも移動可能だった。
側面を見せないよう後退する。
戦車が下がったことを確認した敵のシルエットが攻勢に転じる。
戦力が低下した今、ここが正念場だった。




