惑わせろ! 牽制しろ! 敵を釘付けにしろ!
戦車戦の交戦距離は二十一世紀の地球では二キロから三キロ。距離が離れるほど装甲を貫通することは難しくなる。
惑星アシアではレールガンや軽ガス砲が実用化されているため、有効射程は倍近くになっている。意外と短いと感じる転移者も多いが、重力が地球より若干強いという要素も加わっている。
ミサイルなどの長距離攻撃を可能とする武器は五キロから十キロ。これも二十キロが最大有効射程だった。
重戦車が搭載しているレールガンは巨大な砲弾を発射する機構ながらシルエットの狙撃砲同様に最大射程距離二百キロ先に五分近くで到達する理論値を持つ。弾頭の終端速度はマッハ五以上を維持できるほどだ。
とはいっても二百キロも離れた敵が静止したままなど有り得ない。有効射程距離はそれこそ数十キロ内であろうということは容易に想像できた。
メタルアイリスとストームハウンドのメンバーたちは地形を利用し射線から逃れるように移動する。
迫り来るケーレスたちは集中砲火で即座に撃破した。
ケーレスは対シルエット兵器といえる。戦車とは相性が悪い。とくにアント型のワーカーはウィスを搭載したパワーユニットは装備されていないのだ。通常兵器で十分に効果がある。
コウも新たな五番機で戦闘を開始する。
距離をおいての支援射撃だ。両手剣は背中に担いでいる。
ライフルを両手に構え、移動しながら射撃をする。
移動射撃は基本だ。静止は死を意味するといってもいい。
AK2の威力は絶大だった。反動が大きい分連射には向かないが、コウにはそれで十分だ。単機で戦っているわけではない。
誰かが止めを刺してくれればいいのだ。
「コウ。味方と目標を合わせて!」
「わかった!」
ジェニーがアドバイスし、コウは従う。
味方の射撃目標に合わせ、AK2を撃つ。連射も出来るが弾数を考えて単射にしている。
一撃でアントワーカーが破壊される。
「コウ君、何てもの装備してんの…… 戦車の主砲なみのシルエットライフルって何」
「あの人、ちょっとおかしいから」
砲撃のような射撃で、マーダーたちを次々撃破していくコウ。
その光景をみていたジェニーとブルーが、呆れている。
カスタムされた大口径バトルライフルは、完全にコウと五番機だけをフォーカスしたワイルドキャット・カートリッジにほかならない。ベアなどの機体ではうまく使えないだろう。
五番機の姿も、彼女たちが知っているものとはかけ離れている。
一方コウは若干焦れていた。
斬りたいのだ。
駆けだして斬り倒したくなる衝動を堪えながら、コウは射撃戦を学んでいた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「もうすぐ超重戦車部隊との交戦距離。一気に駆け抜けるぞ!」
リックの号令とともに、一つの生き物のように部隊が動く。
ハンガーキャリアー、補給部隊のため、工兵部隊は簡易陣地の作成に入る。
「リック。あの戦車相手に何か戦術は?」
「先人の言葉にならおうか。『惑わせろ! 牽制しろ! 敵を釘付けにしろ!』だね!」
かつて砂漠の狐と呼ばれた機甲運用の名指揮官の言葉を借り、リックはジェニーに告げる。
「敵を釘付け、か」
「敵の動きを拘束し、こちらの有利な状況を作ればいい。相手は火力優勢、防御力は圧倒的。――機動力はこちらが上」
リックを先頭にした戦車部隊が交戦を開始する。
極力全体遮蔽が出来る地形を選びながら、目標に向かうのだ。
敵の外観もはっきりわかってきた。
艦載用レールガンに、迎撃用も兼ねた副兵装の重ガトリング。多砲塔戦車では無いようだ。
履帯は四本であり、強固なスカートに守られている。
確かに機動力はなさそうだ。ただし、見るからに装甲は厚そうだった。
「戦車の弱点は至近距離だしね。肉薄できるかな。うちのメンバーも対戦車装備持ってきてるのは幸いだった」
「ジェニーは慎重にな」
「わかってる!」
後続車もできる限り近付く。補給車や工作車である。
援軍が見込めない以上、こちらの戦力転換点に変動はなく、敵の数値は未知数。
攻勢終末点の厳格な見極めを要求される。そのためにも迅速な補給体制は確保しておかねばならない。
敵はヘリンボーン隊形、Vの字に似た防御陣形で待ち構えている。
対するリックは楔隊形で進行する。パンツァーカイルと呼ばれるものが有名だ。
身を屈めてもまだ背の高いシルエットと装甲車が後を続く。
敵の部隊との交戦が今始まろうとしていた。
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誤字脱字報告大変助かります! まとめて修正する予定です。
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そしてジャンル宇宙〔SF〕において四半期五位に入ることができました。
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