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ネメシス戦域の強襲巨兵  作者: 夜切 怜
惑星リュビア遠征計画

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臨界視射角―反応型対陽電子装甲

「どんな陽電子砲の対策をしたのですか。教えて下さい」


 アリマは詳細を知りたいようだ。隠すほどでもないと考えたコウは答える。


反応型対陽電子装甲リアクティプアンチポジトロンアーマーといったとこか。陽電子ビームを僅かに反射させ逸らしたんだよ」

「逸らす?」

「陽電子の特性だそうだ。陽電子は物質中の原子核にある、プラスの電気と反発する。地球にはその特性を利用した全反射高速陽電子回折(TRHEPD)という装置があった。陽電子ビームを照射した場合、表面スレスレの、一定の角度以下である傾斜であれば水面を小石で投げた水切りのように反跳するんだ。これを臨界視射角というらしい」


 陽電子については衣川やアストライアから教わったことを思い出しながらアリマに語る。

 コウの語る全反射高速陽電子回折は臨界視射角の特性を利用し物質に陽電子をあて反射。その痕跡から表面構造の原子配列を解析するナノスケールでの研究に用いられる。


「陽電子を反射する一定の角度。ほぼ水平に近い状態ですね」

「そういうことだ。臨界試射各は投入されるエネルギーと物質によって変動するが、おおよそ二度以下。装甲に用いたものはナノセラミックス。およそ1度の傾斜だ」

「1度の傾斜ですか」

「1度だ。ただ1度という角度でも距離に応じてズレも大きくなるだろ? 100メートルずれれば174センチ。1キロずれたら17.4メートルずれることになる。相手とは10キロ離れていた。数キロ前で逸らすことができるなら十分だろう」

「戦闘が始まった瞬間、装甲が爆発したのは着弾ではなく、陽電子砲を放つためのレーザーに検知機能が働いたと」

「MCSの処理能力でないと不可能な芸当だ。レーザー照射を感知して装甲が爆発した。陽電子砲は二段階工程が必要なことが欠点だな。完全な真空状態を作ってやらないと大気圏内で使えたもんじゃない」

「陽電子砲のわずかな欠点。そこを突くとは」


 アリマも思わず唸る。レーザー照射から陽電子照射への移行時間があれば対策可能。

 先読みで展開しても似たような効果は得られただろう。


「反応型陽電子装甲が角度1度しかない小さな針状の細長い物質を、巨大な円錐になるよう大量にばらまいたんだ。シルエットに向かって大量に投射される陽電子ビームはその媒体に触れ角度を変更していき逸れていく」

「よくそんなことを考えつきましたね」

「俺一人の手柄じゃない。Dライフルの開発。アーサーの陽電子砲を構築した経験。アベルさんから英国の反跳爆弾の存在を教えてもらっていたこと。そして開拓時代の叡智を持つアルゲースとステロペスが考案してくれた」

『また英国……。思い出したわ。かのパンジャンドラムを製造した技術者の元同僚バーンズ・ウォリスが開発した爆弾こそ水切りの原理を応用した反跳爆弾』



 アシアも聞き覚えがある爆弾だったようだ。バーンズ・ウォリスはバンカーバスターを着想。トールボーイとグランドスラムを生み出した人物として歴史に名を残している。

 水面の反射角は20度程度といわれている。


「アルゲースたちと相談していたんだよ。もし敵のアナザーレベル・シルエットが現れて同じような陽電子砲を使用された場合を考えてね。受け止めるではなく、水切りのように弾くというアイデアがあってその方向性を突き詰めた。開拓時代に製造された二人がいなければ到底不可能だったよ」

「二人とはコウさんらしいですね」

「二人としか言いようがない」


 アルゲースとステロペスは感情豊かだ。違和感はないコウだった。


「それに反跳爆弾がきっかけなんて。地球には変なことを考える人がたくさんいるんですね」

「ああ」


 アリマの言葉をコウは否定しない。兵器に限らず日本や英国に限定せずとも変なことに溢れていた。否定できるはずがない。


「Dライフルの構造はフラックから聞きました。溶解金属弾を槍のように放つ攻撃兵器だとか。反射されないよう溶解金属をぶつける砲弾と」

「そうだ。物質同士が衝突する際、物質によってかかる応力に違いが生じる。これも同様の界面――衝撃インピーダンス界面というんだがこの原理を利用した装甲が地球にはあった。全ての直撃砲弾を逸らすことは困難。異なる物質を重ねあわせ一発だけ弾く、いわば使い捨て装甲だ。原理は違うが運用思想は似ている。陽電子砲を連続で照射されないうちに決着をつける必要があった」

「こんな装甲、非効率の極みでしょう? いえ。これがウーティスのいう【理不尽に挑み非効率を究めた末に辿り着いた果て】というヤツですか」

「よく知ってるな。俺の黒歴史を」


 コウが思わず笑った。バレバレではあろうがトライレーム関係者以外極秘のはずだった。

 改めて言葉にされると恥ずかしいのである。


『もう隠す気もないわね。名乗る気になった?』


 アシアも微笑んだ。穏やかな空気だった。


「もう少しだけアリマとして」


 開き直ったのか、少年もにこやかに応じた。


「俺からも質問だアリマ。試練を乗り越えたということでいいのかな」

「今からですよ。この場ではありません。あなたの目的そのものが試練です」

「そうか…… やはりリュビアか?」

「そうです」


 コウの目的はリュビアの本体を取り返すことだ。

 少年はそのことを見抜いていた。


「ヨナルデパズトーリを倒したあなたはアナザーレベル・シルエットの修復部品の一端を入手しました。当面はそれで十分でしょう」

「十分かどうかはわからないが、俺達も惑星リュビアを離れるからな。それとも君がこの惑星を見てくれるか?」

「とんでもない。それはボクの役割ではありませんよ」


 少年はくすりと笑う。


『そろそろいいでしょう。仲が良いとは言えないまでも旧知の間柄。遠い親戚みたいなものだから。ね? テュポーン』

「残念。仲は良好だと思っていましたよ?」

「あなたがそう思っていてくれたなら私も嬉しいわ」


 少年は憎めない可愛らしい笑顔を浮かべてアシアに応じた。

いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!


今回は2014年日本原子力研究機構プレス発表資料を中心に、全反射高速陽電子回折の構造などを参考に執筆いたしました。


全反射高速陽電子回折色々調べると金属のアルミは0.3度以下、逆にシリコン系やグラフェンなどの研究は二度以下の模様。

アリマも言っているように、レーザーなども反射できます。

消耗品なので費用対効果は最悪でしょうね。



英国面の話。こんなエピソードが。

バーンズ・ウォリス「硬い爆弾を爆弾をジャイロ効果で回転させろ! 地中を貫通してやれ! 複雑な爆弾なので手作業で制作な」

英国工場     「ふざけんな。単価いくらだよ!」

バーンズ・ウォリス「失敗したら持ち帰ろう。あ、重さ10トンね」

英国整備兵    「乗せる飛行機がないよ! 専用爆撃機作るわ!」


戦後は可変後退翼の熱心な研究家でF-111に繋がる成果もあった模様です。英国軍を代表する三人のうちの一人ですね。

そう、三人いるんですよ英国面……(ホラー映画のように)。



二巻もがんばれ! 反跳爆弾は有名だよね?!  続きを楽しみという方は↓にあるブクマ、評価で応援よろしくお願いします。

大変励みになります! 気軽に感想等もお待ちしております!

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[気になる点] 「1度だ。ただ1度という角度でも距離に応じてズレも大きくなるだろ? 100メートルずれれば174センチ。1キロずれたら1.74メートルずれることになる。相手とは10キロ離れていた。数キ…
[一言] テュポーンって少年型の容姿を採用したAIだったんですか 元ネタが怪物だからてっきり相応の姿だと思ってました
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