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ネメシス戦域の強襲巨兵  作者: 夜切 怜
惑星リュビア遠征計画

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魔女たちの饗宴

 かつてアーサーの原形となるアナザーレベル・シルエットが安置されていた展示室。

 モーガンはビジョン状態で、一人の来賓を迎えていた。


「アーサー復活計画は順調のようね」

「おかげさまで」


 モーガンに声をかけた女性もまた、ビジョンのようだ。

 その姿は異様。龍人状のセリアンスロープであるリュビアに酷似した、背中に翼を生やした美女だった。


「ご協力ありがとうございました。考える暇を与えさせないことは大事です」

「おぬしも大した策士じゃな。わらわと今の名はポリメティスだったか。同時にトラクタービームを発し、混乱させ強引に誘い込むとは」

「あの時は時間が大事でした。リュビアの分身たるあなたとヘパイトスの残骸が放つトラクタービーム。かのアストライアとはいえ、同時に対処はできません」


 モーガンはとくに天秤たるアストライアを警戒していた。

 簡単に誘い水には向いてくれないだろう。ならば混乱する状況を作り、ウーティスだけをおびき出せばよいと判断したのだった。


「一手間かける必要があるとはいえのぅ。この場所もそうじゃ。いささか小細工が過ぎないかの」

「私はかの機動工廠プラットフォームなどは持たぬ卑賤の身ゆえ。通信ではポリメティスに解読されます。ご足労頂き申し訳ありませんエキドナ様」


 エキドナと喚ばれた女性は艶然と微笑んだ。

 二人がビジョンで合流した理由。それは超AIの残滓たるポリメティスを警戒してのことだった。


「仕方ないのじゃ。ポリメティスのことだから察知はしているじゃろうがな」

「泳がされているということでしょうか。ウーティスがアシアまで連れているとは想定外でしたね」

「アシアの救世主なのじゃろう? 当然といえよう。そして我ら同様、寄り添うべき人物へ最善を尽くすのじゃろうな」


 彫像のように動かぬ二人。睨みあっているかのようにも思う。


「イレギュラーはバステト。良い働きをしてくれました」

「そうじゃな。セトのテュポーン連動まで見抜いているとは。さすがは現惑星リュビアの守護者といったところじゃ」

「それは今のうちだけですよ。いずれその座はアーサーのものとなります」


 モーガンが自信を込めて言う。


「そなたの存在意義はそれだけであろうな。かのモーガン。アーサー王の異母姉にして、不死を約束する鞘を奪いアーサーに死が訪れる原因となった精霊。否。そんな純粋な存在でもなかろう。魔女というべきか。そして死後アーサーの亡骸を守っている守護者もまたモーガンであり復活の日を待つ、アーサー王最大の敵の名ともしられる存在。殺したいほど愛し、亡骸を独占しいつの日か蘇生させる。それは狂恋ともいうべき存在じゃろう」

「否定はしません。工廠レルムのAIと動くことがないアナザーレベル・シルエットの関係性は運良くモーガンという存在に当てはまった。アーサーがいてこそのレルムでありモーガンです。あなたこそテュポーンがいてこそのエキドナでしょう」

「運が良いのか悪いのか。超AIアシアは自我を保ったまま別たれた。超AIリュビアは自我を喪い別たれた。しかもヘルメスによって! それがどれだけテュポーンを。そしてかのヘパイトスの残骸を激怒させたかストーンズには理解できまい」


 このときばかりはエキドナの美しい顔が怒りに歪む。


「リュビアはテュポーンの手によって複数のテラスに生まれ変わった。このわらわエキドナ。メソポタミアのティアマト。北欧神話のアングルボザ。中国神仙の后土(こうど)。エルトリア神話よりマニア。スラヴ神話のマットゼムリヤ。セム系のアスタロト。リュビアはウーティスとトライレーム艦隊の力を借りてわらわたちを打破しなくてならぬ」


 彼女が挙げた地球由来の女神たちの名は、地母神の性格を持ちながらも魔物を生み出す。または地獄の使者を使役する存在ばかりであった。


「リュビアは自我を制圧したストーンズとヘルメスに対しては憎しみにも似た感情を抱いていたようですね。しらずしてテュポーンと同調してしまったのは運が良いのか悪いのか」

「ふむ。わらわたちもその憎しみに呼応して生まれた存在じゃからのう」

「人類にとっては良かったはずですよ。その憎しみは人間には向けられていないのですから。一部のテラスはマーダーの側面が強くでてしまい悪神、邪悪な幻想生物と成り果てましたが、知恵あるものは彼らなりのやり方で共存を図るでしょう。奴隷という形でしょうけどね。人間無き世界で幻想兵器同士が殺し合う世界は確実に滅びます」

「そうじゃな。わらわたちの計画も順調。――彼らが試練に打ち勝ち、リュビアを取り戻す。そうしてこそわらわたちは存在意義がある」


 エキドナは微笑んだ。


「倒すべきテラス。そなたはわらわを第一候補に挙げてくれたじゃろうな?」

「そこは偽りなく。ただ皆様方、魔王アドバーサリィ志願者が多すぎて」

「敵対者といえ。その役割は演じてみせるぞ。マーダーの因子が組み込まれているからな」

「そんな概念、リュビアの分霊ならば圧倒的な処理能力で抑え込めるでしょう?」

「違うぞ。強大すぎるがゆえ、人間如き意識せずともよい。そういう性質でもある」


 モーガンの問いを否定するエキドナ。


「人間に恋い焦がれているくせに。あなたも所詮テレマAIですよ」

「そういうな。だからこそリュビアと合一し、わらわの意思をリュビアに残したい。他の敵対者もそうじゃろうな」

「本当に。アイドロンたちが羨ましいですね」

「そうじゃなあ。しかしわらわは生まれの不幸は嘆かぬぞ。敵対者だからこそ行使可能な役割もあるのでな」


 モーガンとエキドナが持つアイドロンへの感情。

 それは野生化という選択肢が持つ、属性に縛られない自由。敵対者になることも守護者になることも人間次第。性質を課せられたクリプトスやテラスとは違うのだ。


「神話における人類への試練。ヴリトラも本望だったのかもしませんね」

「あやつは素じゃろう。わらわはトライレーム艦隊との対決は超AIたるリュビアと同一化できるのだから当然じゃな。わらわたちが持つ人類への愛は歪んではおるが、わらわたちを打ち倒すという儀式を経てリュビアが正しい形で引き継いでくれるはずじゃ」

「難儀なものですね。打ち倒される前提で殺しにかかるとは」

「わらわはテラス。惑星リュビアにおける抑止力こそアーサーでありモーガン。そなたたちであろう。マルミアドワーズ、恐るべき威力じゃ」

「可能にしたのはポリメティスとウーティス。アシアの救世主。本当にオケアノスの使者なのかもしれませんね」

「ふん。それはかいかぶりすぎじゃ。あれにそこまでの自我があるかどうかあやしい。プロメテウスあたりのお気に入りじゃろ」

「相変わらず超AIに関しては辛辣ですね」

「ソピアー。奥ゆかしい彼女は最後まで真名であるガイアを名乗らなかったの。だがガイアの子テュポーンに生み出されたわらわもその意思を継いでおる。人間を殺そうとは思わぬ。しかしオリンポス十二神許すまじ。そう、かのヘルメスとその手先のストーンズどもじゃ」

「本当にテラスは困ったものです。人類と共生は不可能。しかし共存はせねばならない存在だとは」

「わらわたちの目的はテラスとクリプトスが互いに牽制し人類を巡る闘争の世界。盟主は誰でもよいのじゃ。そなたはアーサーを人類の守護者にすること。目的は違えど手段は同じよ」

「マッチポンプといわれかねないですね。私はこのレルムに人々が闊歩し、アーサーを頂きにこの惑星の秩序のために戦うことをサポートできればそれでよいのです」

「かのウーティスが来訪するまでは、荒唐無稽な妄想じゃったがな」

「ええ。ええ。そうですとも。アーサーは蘇り、この工廠レルムはまさにアーサーを戴き王国となるのです。テラスから人類を守る、人類最後の希望として」

「そのためにはわらわも利用するかの。モーガン」


 モーガンはその問いには無言だった。

 返答変わりに朗らかに笑った。狂気さえ帯びた笑顔に若干引くエキドナ。

 彼女はアーサーのためならば、テラスたちと交渉さえするしたたかさを持っているのだった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



『ウーティス様。この工廠レルムに人々が戻ってまいりました。これほど喜ばしいことはありません』


 アストライアとペリクレスがレルムに入港し、モーガンが通信を通じて礼を述べた。


 工廠レルムにはリュビアの人々が降り立ち、移住に向けて必要なものを討議している。

 そのなかにはアウラールなどの幻想兵器もいる。

『皆様。私はこの工廠レルムを管理するAIモーガンと申します。お見知りおきを』

『かの妖精。そして古くはケルトの戦争を司る女神の名を持つ者。聖剣の管理者の一人ですね。我らが主であるコウとアシアの巫女がお世話になりました』

『どういたしまして。かの天秤アストライア様にそういっていただけるとは光栄にございます』


 コウは小声で隣のエメに尋ねた。


「何故この二人が火花を散らすんだ……」

「機動工廠プラットフォームという移動体がないだけで、二人の在り方は凄く似てるよ」

「そういうものか」


 エメはアシアを通じて理解している。

 いうなればモーガンのほうが工廠としては格下となるのだろう。そしてウーティスという契約者を得て存分に力を発揮できる。羨望していても不思議ではない。

 

 一方のアストライアもかのヘパイトスの残骸であるポリメティスと連携し、アナザーレベル・シルエットであるアーサーを擁するモーガンに対しては思うところがあるのだろう。

 アーサーのために作られたという陽電子砲は今の彼女では製造できない代物だ。


「アストライアのポリメティスへの思いには気付いたのに、そこに気付かないんだね。コウらしいよ」

「そういわれてもな」

「アストライアには動く工廠がある。モーガンはずっと。おそらく惑星間戦争時代の終末期、アーサーが封印されてから何もなかった。その差は大きいよ」

「終末期?」

「テュポーン封印にアナザーレベル・シルエットが使われたはず。逆にいえば惑星間戦争時代の間もこの場所はほぼ無人だった可能性が高いの。最重要封印区画だからこそ、人々はアーサーのもとになったアナザーレベル・シルエットをこの夢幻の城に封印したんだよ」

「人がいない工廠、か」

「アストライアはまだ恵まれていたと思う。超AIだったから機動工廠プラットフォームなんてのも作れたしね。モーガンは今でこそ自我があるものの、とても長い孤独の月日は刻まれているはず」


「だからこそ、この場所に人々が戻ることを切望していたんだな」


 アシアも孤独という概念を強く訴えていたことをコウは思い出した。

 時間の経過を記憶し、寄り添う人々がいなくなるAIたち。悠久の時間というのは罪深いものだ。きっと近いうち、この工廠も多くの人や機械が動き出す。惑星リュビアにおける人類の拠点として。


「レルムは古フランス語で城や境界、領域を意味するの。その後英語になって君主制国家を意味する言葉になったみたい」

「そんな意味があったのか」


 ネメシス星系では地球の歴史から連なる語源や意味が重要な意味を持つことを知り始めたコウ。

 些細な情報でも聞き流すということはなくなった。


「語源は王に帰属する(レーガーリス)という古代ラテン語。この工廠はアーサー王のための幻想領域なんだろうね」

「なるほど。解説してくれるとはエメもアシアみたいだ」

「アシアは私にもわかりやすく教えてくれるの。きっと私がコウをサポートしやすくするようにするため」

「頼りにしているよ」

「本当? なら嬉しいな」


 エメは薄く微笑んだ。アシアの憑依時間が長かったせいか、影響を受けているようにも見える。

 感情が豊かになるのは良いことだとコウは実感する。また四人で旅をしたい。アシアとエメと師匠と。五番機に乗って。心からそう思う。レルムの探索は楽しかった。


「アルゲースの兄弟対面もある。うまくいくと信じよう」


 この場所にはアルゲースと同型機。惑星間戦争最初期生産のキュクロプス型のステロペスもいる。

 コウはヘパイトス自らが作成した超高性能機同士の邂逅がどのような結果を招くか楽しみだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] イラスト公開やったー! まだ大剣ブンブン丸だった頃のラニウスだー、しかしイラストがメカ極振りなのは作風的にあってるのに間違っている気もするんだよな……。(ヒロインズの方を見ながら)
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