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ネメシス戦域の強襲巨兵  作者: 夜切 怜
X463要塞エリア反攻作戦
34/639

僅有絶無

「突入は明後日ぐらいになるかな。敵も気付くだろうが、皆無茶はしないでくれ」


 コウは五番機からジェニーとリックに話しかける。


「失敗しそうな場合は即座に撤退しても構わない。目標は指定エリアにいる恩人の救出なんだ」

「救出? コウ。残酷なことをいうようだけど、ストーンズにさらわれて救助された例はあまりないの」


 ジェニーが悲しげに呟いた。


「救出とはいっても人間じゃないんだ。AI、人工知能の救出と言わなかったことは謝罪する。そう書くだけでまともな依頼とは思われないと危惧したんだ」

「それはわかるがね。AIを救出とは。つくづく機械を人として認識しているんだな」

「ああ。約束したんだ。必ず助け出す、と。今回はその一部を救出できればと思っている。やっぱり変な依頼だよな」


 コウも今ではテレマAIであるファミリアたちの扱いを知っている。ペットや便利な機械扱いの範疇で扱う人間は多いのだ。いくら彼らが人とほぼ同じ思考を持っていてもだ。

 またファミリアも進んで人間の盾となろうとする傾向がある。


 セリアンスロープたちも現在は一種族として定着しているとはいえ、軽んじられる傾向が残っていることを知った。人間至上主義者の中では超AIに創造されたネレイスまでその範疇に入るようだ。


 AIのための救助作戦など、断られる可能性が高いと判断して秘していたのだ。


「あなたがそこまで世話になったAI(ヒト)なら、協力するよ。今更断らないって」


 ジェニーの声が明るいのが救いだった。彼女はコウのそういう傾向を好ましいものとして見ている。ヒトと表現したのも、ジェニー自身そう思っているのだ。


「その依頼内容で私が断るはずもない。その案件なら確かに我ら向きだ。全力で手伝おう。個体名などがあるなら教えて欲しい」


 リックの声もとりわけ優しくなった。同胞ならなおさら助けたいのだろう。


「みんな、本当にありがとう。個体名はアシア。この惑星を維持する管理コンピューターって聞いたよ」

「え?」

「なんだと?」


 二人が息を飲んだ。


「ちょ、ちょっと待って。アシアを救出? 本当に?」

「この惑星にきたとき、助けてくれた女の子なんだ。夢でしか会ったことがないんだが……」


 あまりの剣幕に、つい夢であったと口走ってしまう。失敗したな、とすぐに悔やむことになる。


「……」


 ジェニーの声がない。あまりの驚きに声が出ないようだ。

 理由がわからないコウは訝しんだ。夢で会ったということがいけないか、と見当違いの反省をする。


「どうした? ジェニー」

「もちろん私たちもアシアのことを知っているよ。君はアシアと話せるほど仲がいいんだね。解放手段はあるのかな?」

「施設と接触できたら解放できる。確かシルエット越しでも大丈夫なはず」

「――わかった。計画していた作戦を変更しよう。その話が本当なら敵の守りは堅いぞ」


 絶句していたリックだったが、すぐに気を取り直したようだ。優しい声音で言い聞かせるように伝えた。

 コウはリックが話を信じてくれた事実が嬉しかった。

 彼の物言いに嫌な感じはしない。アシアと仲がいいのが、ファミリアにとって嬉しいのだろう、と判断した。


 実際の所、リックがかすかに震えていることにコウは気付いていない。それはジェニーを遙かに上回る興奮を意味していた。


「そうだよな。封印されるぐらいだもんな」


 気付いていないコウは、暢気なものだった。


「ジェニーにも時間がいる。作戦立案は任せてくれ。あとでそちらに転送しよう。今からジェニーと相談があるから、通信を切らせてもらう」

「頼んだ、リック」


 コウは通信を切った。


「リックぅ! ありがとー!」


 半泣きになりながら、ジェニーはリックに感謝していた。


「ジェニー。コウは何も知らないんだな」


 驚きのあまり声が出ないジェニーのフォローをリックはしていたのだ。

 その驚きが理解できるからこそ、早々にコウとの通信を打ち切る判断をした。


 本当は聞きたい事が山ほどあるのだ。だが、今は早い。

 ことが為ったあと、時間はたっぷりあるだろう。明るい未来とともに。


「ごめんなさい、リック。あまりのことに声を無くしたわ」

「この戦いがこの惑星の命運を分ける可能性を一切考慮していないんだな。彼は」

「多分知らないんだと思う。惑星管理AIである超AIアシアの解放が、ストーンズとの戦争が始まって以来の人々の悲願であることを」

「知らないままでいてもらおう。プレッシャーをかけるのはよくないだろう」

「彼の側にいるファミリアやセリアンスロープたちは何をしているのかなぁ」

「千年以上前の製造らしい。目覚めたばかりなんだろうね。もしくはコウの性格を知っていて内緒か。その両方だろう」


 リックの推測は当たっている。師匠はアシアの重要性を伝えてはいたが、彼らほど大きくは伝えてはいない。

 残り三人は冷凍睡眠から目覚めて一ヶ月程度。師匠の経験を共有している三人が伝えるはずもなかった。


「どうしよう…… ごめんなさい。こんなことじゃ隊長失格ね」

「私もいささか混乱している。明後日といったが予定は早める。速度を何より重視しよう。明日には作戦を決行する。目的は一切感づかれてはならない」

「わかった、あなたがいてくれてよかった」

「お役に立てて光栄だよジェニー。一時間後、また話し合おう」

「了解」


 リックは部隊内の通信に切り替え、ファミリアたちに告げる。


「皆の者。よく聞け。今から我らはアシアの救出作戦を決行する、封印されたアシアの一部を解放することが作戦目標だ」

 

 ファミリアたちが息を飲む。全ての型、犬も猫も熊も狐もうさぎも、そして人間も。全てだ。


「依頼主の青年、コウがカギだ。彼は言った。失敗したら即座に撤退しても構わないと。否、だ。失敗は許されない。たとえ我らが全滅し、復活できなくとも彼には目標を達成してもらわねばならない」

「リ、リック。その話は本当なのか」

「間違いないだろうな。嘘をつくメリットもない。彼がこの惑星におけるアシアの重要性を知らないだけだ」


 リックは力強く続ける。


「千載一遇、いや僅有絶無が如き大好機! 我らが悲願、二度と巡ることがない可能性すらある。その当事者になる誉れならばなおさらだ。我らが創造主の救出、成し遂げよう」

「おお!」

「こりゃすごいや、俺たちの依頼主。死んでも守ってやろうぜ!」


 狐のファミリアが興奮状態で叫んだ。


「彼は我らが死ぬことを極度に嫌っていることを伝えよう」

「私達が死ぬって? あらあらまあまあ。優しい子ね。なら余計に守って――死んであげなくちゃね」

 

 うさぎ型のファミリアが微笑んだ。その声にリックは頷く。

 彼らは停止するだけ。蘇る可能性もある。大事にしてくれる者ならば、先に壊れるのは自分たちがいい。これがファミリアたちの基本理念だった。


 通信越しに伝わる気合い。


 コウはしらなかったのだ。

 惑星管理AIアシア。彼女がストーンズの陰謀により封印され、この惑星が危機に陥っていることを。

 救助しようにも手立てすら見当がつかず、人類が消耗戦に入っていることを。

 そして彼らファミリアたちの創造主であり、アシアが封印されたことで生産を封じられ、減少の一途にあることを。


 ファミリアたちにとって、人類共生の未来のためにも、アシアは必須なのだ。

 ストームハウンドの士気は極限にまで上がっていた。

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