リクエスト
しばらくしたあと、コウは街の中央にあるコントロールセンターに赴き、ジェニーとブルーの立ち会いのもと、ID登録とカード手続きをした。登録処理に時間がかかるということで、後は二人に頼むことにした。
「あなたが戻ってくる頃には、コントロールタワーがある施設ならどこでもIDカードは発行できる。全惑星共通ね。所持金や資産、権利等もオケアノスによって一元管理されている」
「さすが未来だ…… 五番機はジャンクヤードからの拾いものだが、どうなるのかな」
「放棄されたシルエットはシルエットのフェンネルOSが決めるの。五番機があなたを登録していたら、このIDに反映されるでしょう、盗品や傭兵隊の貸与として認識されてるなら登録されない」
「わかった。登録完了とは聞いた。少なくともそこは心配しなくていいのは助かる。じゃあ俺は行くよ。何から何までありがとう」
「幸運を!」
ジェニーが手を振る。隣でブルーも小さく手を振っていた。
彼も振り返す。
「ただいま師匠。ID登録をしてきたよ」
「それはいいね。親切な人たちだ」
「本当に」
二人は再び荒野に向かって走り出した。
ちょっとしたいたずら心を出し、端末に手を伸ばして。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あれ。登録できない」
「どうしたの?」
ジェニーがコウのID処理を進めていたところ、エラーが表示され最終決定ができない。
「職業欄にエラーがでるのよ。一応フリーの傭兵にしてあるんだけど。うちの傭兵扱いになってるのかなと思って入力してもそれもダメだった」
「……そういうときは空欄で。あの人ちょっとおかしいから、何か登録されているのかも」
思案してブルーが答える。ちょっとおかしいというのも酷い言い様とジェニーは思ったが、実際彼女からみてもおかしいので黙っていた。
「わかった。あ、いけた」
コウのパーソナルデータの登録が始まった。もちろん彼女たちが見ることができるのは、コウの名前と年齢、職業だけだ。
確認画面に映し出された、その職業が問題だった。
ジェニーとブルーの顔が息を飲んだ。
慌ててジェニーがその登録画面をスキップさせ、終了させる。
二人は顔を見合わせ、左右を確認する。誰もいないことを確認した。
慌てて自分たちのハンガーキャリアーに戻った。
「な、なによ! あれ!」
「……あのランク知ってます?」
「知らないよ! EX級構築技師ってなによ!」
「EX級構築技士。C級構築技士で企業が興せます。最高位のA級で確認されているのは、今六人……」
「A級で六人?」
「30年前に現れた米国のジョン・アームズのジャック・クリフ。スカンク・テクノロジーのケリー・リッチ。ドイツ系企業クルト・マシネンバウ社のクルト・ルートヴィッヒ。20年前日本からきた御統重工業の衣川英治と、中国深センからきた王城工業集団公司の王雲嵐。10年前に日本からきたTAKABAの鷹羽兵衛だけですね」
「共通点はあまりなさそうね」
「共通しているのは寝ても覚めても機械をいじってるような人たちばかりです」
「構築技士のランクによって、オケアノスやアシアから情報を引き出せたり、自動化無人工場に命令できる、だったかな。今すぐ連れ戻しにいきたいぐらい。あの子の存在だけで戦争になるわ。間違いなく」
「過去にも存在したことがない規格外、ということですね」
C級構築技士権限で、一定の無人工場を動かすことができるといわれている。
傭兵ランクAよりもE級構築技士のほうが価値が上だとも言われているぐらいだ。無人機械への命令権限があるのとないのとでは、大きな違いがある。
例えば修理工場を入手したとしても、E級構築技士以上の権限を持つものがいなければ、動かすことすらできないのだ。
「熱心に誘ってたじゃないですか。メタルアイリスに入ると思いますが」
「日本人は押しに弱いって聞くから……じゃなくて。放っておくと危なっかしい」
「ちらっと本音でましたね? わかりますけどね。あの戦い方は無茶すぎます」
ウィスで補強されている建物があるからこその遮蔽物だ。
通常、防衛ドームの外ならマーダーたちはまず建物を破壊して更地にする大規模砲撃をするだろう。この街もコントロールタワーが制圧されていたらもっと高威力の爆撃があったと思われた。
そんななか、いくら現状盾と矛の競争は盾が優位とはいえ、相手の懐に飛び込んで斬り込むという戦術は無謀過ぎた。
「コウはこの惑星にきてまだ三日かそこらのようなんです。シルエット戦にいたっては実質三回目の戦闘だとか」
「……三回? 嘘でしょ?」
「嘘いう人には見えませんよね。初戦がマンティス型のケーレスだったとか。普通ならそこで詰んでます」
「初戦であれを倒したの? あの剣一本で? 非常識すぎる…… やるべきことがあるって何かしらね。手伝ってあげたいぐらいだけど、戻ってくるのを待つ方がいいか」
「彼の意思も尊重すべきです」
「……ブルー。あなたがそこまで肩入れするなんて珍しいよね」
「そうでしょうか? ――そうかもしれませんね」
「彼の帰還を待ちましょうか。EX級構築技士を与えられた人間がアシアにきてやらないといけないこと、っていうのは多分、私たちにとって必要なことのはず」
ブルーも同意の意思を込めて頷いた。
ジェニーは想像もできなかった。今までにないランクの構築技士の存在に、やる必要があるということ。そしてシルエットの短期の熟練操縦。
一介の傭兵団の隊長が想像できるレベルと思えない。
ただ、彼の無事を祈るだけだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『こんばんは。ダスクバスターの時間です。防衛戦、お疲れ様でした。戦場の皆様に心和らぐ曲をお送りしたいと思います。パーソナリティのブルーです』
ブルーの放送は始まっていた。
大型ハンガーキャリアーの、とても狭い一室。小さな椅子が二つとマイクがあるだけだ。通信施設を利用してラジオ放送を行っていたのだ。
『……今日はリクエストがきています。【表紙にだまされたナナシさん】より。……なにこれ…… よりリクエストです。曲名は……』
いつ聞いても聞き惚れるような透き通る美しい声。
小声で呟いた、なにこれ、もばっちり拾っている。
五番機のなかのコウがにやりと笑った。日本人にしかわからないネタだが、放送を聞いている者の中にはきっといるだろう。
教えてもらった連絡先を利用した、コウのささやかな悪戯だった。
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