閑話 アストライア先生の教えてブリコラージュ
これはコウがブリコラージュ方法を修行中の出来事。
『コウは設計に関しては素人です。まずはコウがいた地球の車両で考えましょう』
「わかった。まず車だな」
『そうです。コウは加工業務でしたよね。細かいものはいいので』
コウは端末を操作する。
マウス操作だ。これが一番わかりやすい。拡大縮小もホイールで出来る。
「まずタイヤ! これをドライブシャフトで二つ繋げて、と」
コウはそこで止まる。
自動車ならもう1セット同じものを造り、プロペラシャフトで繋げれば土台は出来上がる。
前輪駆動にエンジンを載せれば、前輪駆動形式のFFだ。
コウはしばらく悩んだあと、おもむろに呟いた。
「ホイールで拡大してみるか。だいたい10メートルぐらいなら兵器になりそうだ」
なんでそうなる、とアストライアはツッコミを入れたくなったがぐっと我慢した。
人間は失敗して学ぶことができる。
発想は豊かだと思うが、豊かすぎるのも問題だ。
「いっそ爆弾でも載せたら…… そんな兵器はないか」
ツリーに出てきたのは、自走地上爆雷。
「実際にこんな兵器があったのか! 知らなかった! すごい!」
『知らないままでいて欲しかった気はしますが、確かにあります』
心なしか疲れたかのようなアストライアの声。
『実際に動くかシミュレートしてみてください』
動かしてみて、コウは顔を歪めた。
爆雷の目的は果たさず、右往左往という言葉に相応しい変則的な軌道を取る自走爆雷。
アストライアは、コウのいた時代にもあったパンジャンドラムへジャイロを取り付けるなどの実用的な発案を期待した。
しかし現実は厳しく、そうはならなかった。
「よし、二段式のブースターにしよう。まっすぐに進むようにロケット位置を調整して、敵本拠地についたらデタラメに動く。これだ!」
これだ! じゃないと言いたいアストライアだったが、ぐっとこらえる。
勉強方針を切り替えようと決意した。
各地の構築技士に学ばせるのだ。それまでは極力完成形を示す形でのサポートに徹することにした。
そうはいってもコウの知識以上のものは引き出せないため、コウ自身知識量を増やす必要がある。
こうしてホイール・オブ・フォーチュンは完成した。
その代償として、アストライアの非常に厳しい指導が待っていたのは言うまでもない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
コウがA級構築技士との交流後。
アストライア内で構築していたコウが、ふとアストライアに尋ねた。
「なあ。アストライア。他の人たちってどうブリコラージュしているんだろう」
『基本は同じですよ。ルールに則り、選ばれたパーツを選択して組み合わせる。設計士ではありませんからね。あくまで構築技士です』
「シルエットも制限多いよな」
『シルエットはまず、ウィスを通さなくても動くことができる構造強度が求められます。次に内蔵武器の禁止。ヒト型から外れないことですね。センサー類は頭部に、も原則です』
シルエットのフェンネルOSは人を模して動かす前提だ。ウィスはあくまで補強システムに過ぎない。高次元投射装甲がなくなっても動くことが求められる。
頭部のセンサーも同様だ。破壊されても動くが、多少機体の挙動に制限は出る。
「内蔵武器仕込みたかった」
『人類が手脚に武器を埋め込んだり取り出すことが一般的になれば、シルエットもできるようになります』
「ごめん、悪かった」
設計的には、内部パーツを仕込むことで強度も下がり、百害あって一利なしなのだ。
人間より運搬できる量も多く、四肢に内蔵できるような武器は、結局は高次元投射装甲を抜くことができない。
コウはシルエットそのものは一から構築したことはない。
既存の機体に手を加える形での改良構築しか行っていないのだ。
『ネメシス戦域で兵器開発の最大の相違点はシルエットが基本、車両や航空機、艦船にいたるまでマルチコックピットシステムの応用であるところですね』
「MCSを中心に機体組むようなもんだしな。俺が兵器のフレーム作るとき、アストライアがある程度提案してくれるけど、他の構築技士はどうしているんだろう」
『各構築技士は要塞エリアもしくは防衛ドームのコントロールセンターのAIのサポートが受けられますよ。サポートは各構築技士のレベルで違いますね』
「どんな風に?」
『例えば空母搭載用の艦載用戦闘機を作りたいと要望を出します。垂直離着陸、短距離離着陸、単発か双発か。具体的なイメージがあればあるほど提案できるパーツの選択肢が絞られます』
「今の俺のようにか」
今は、シルエットベース周辺の哨戒ヘリをブリコラージュしている。
武装は少なめ、電磁装甲あり、機体は小型、ステルス重視で、というのがコウの要望だ。
『A級構築技士は選んだパーツをもとに、どんどん絞られ、もしくは別のパーツを選んだ場合の効果などが表示されます。推力偏向ノズルを選んだ場合、垂直離陸可能かどうか、です』
実例を出して表示するアストライア。
『選択されるパーツの能力はそれぞれです。高くて高性能なのは当然のこと。大きさ、奥行き、強度、機能、他のパーツとの整合性、主にボディサイズなどですね。そこまでサポートされるのがA級構築技士です』
「かなり厳選されると」
『コウの好きなゲームで例えると、おすすめ装備セットというものですね』
「その例えはわかりやすくて嬉しいけど、未来感がないな」
『それを私に求められても困りますが』
アストライアは続ける。
『B級構築技士は、予想結果は簡略化されますね。提案されるパーツに差異はありません』
「そう聞くとA級とB級はあまり差がない気がするな」
『実際さほどありませんよ? 先の例でいえばおすすめ装備セットが本当に使えた試しがあるか、ということです』
「ないな!」
『そういうことです。シミュレートして要求性能を満たしたとしても、最適解かどうかはわかりません。また要求性能を満たしても新たな欠陥がでてくることは当然のこと。試行錯誤する回数の多いB級構築技士が作った兵器のほうが使える事例は多いですよ』
「そうなんだ」
『売上に直結します。転移者企業で売上が多いところは、別の重工業地帯に移動することもしばしばです。A級構築技士だといって裕福な企業ばかりとはいえません』
「えっと。スカンクテクノロジーズやTAKABAは……」
『尖った機体を作る企業ですね。次はC級構築技士の話をしましょう』
明らかに答えたくなさそうなアストライアだった。
「頼む」
『C級は、艦上戦闘機の例で言うと、使えるパーツの一覧が全て表示されます。その中から選択するのです。明らかなエラーとわかるもの、戦闘機にシルエットの腕を付けるとかをしない限りは一度構築してシミュレートするまでは分かりません』
「ちょっと待って。BとCのサポート範囲の差は酷くない?」
『差は大きいと言えるでしょうね。ただ、使えるパーツそのものはAもCも同じ。なのでCは他企業の協力会社として成立するのです』
「そっか。Aと同じ範囲の品物が扱えるなら、工場に命令してそのパーツの生産が行えるのは同じ、と」
『そうです。DとEは行えません。C級構築技士はB級構築技士に素案を提案して、大まかに組んでもらうということをしている者もいますよ』
「B級構築技士にある程度絞ってもらえる、ということか」
『もしくは兵器設計を追求して、あたりをつけて設計。ひたすらトライアンドエラーを繰り返し構築するか、です。知識さえあればそう的外れな初期設定にはなりません。そういう意味では、スカンクテクノロジーズは優秀な教育機関といえるでしょう』
確かにスカンクテクノロジーズは学校みたいな雰囲気があった。
コストレビューをひたすら書かされたことを思い出す。
「構築技士も、作る機体全然違うもんな」
『スカンクテクノロジーズとクルト・マシネンバウ社はコスト度外視で絶対性能を追求し、そこで得た結果をもとに量産機に反映させるタイプですね。スペック至上主義者ともいえます。この二社がプロトタイプの性能が高いのはそのせいです。コウにもスペック主義……いえ、その傾向はあります、二人の影響はあるでしょう』
「さりげなく酷いこと言われた気がする。他の人は違うの?」
『ジョン・アームズのジャックと王城工業集団公司のウンランは違います。まずコスト的にバランスの取れたテスト機体を設計し、量産機に近づけていく過程で性能の良い費用対効果の良いパーツを選びます』
ジョン・アームズのベアや王城工業集団公司の戦闘車両はシェアが大きい。それは性能ではなく、普及帯を抑えているからだ。
性能が良いものが売れるとは限らない。性能が良く、入手しやすいものが売れる。フユキならそういうだろう。
「TAKABAと御統は?」
『TAKABAは近接シルエット、御統重工業は航空機関連に関して絶対性能を重視します。それ以外の兵器はバランスよく、そこそこのものをめざし、あたりをつけてコストの兼ね合いから取捨を行う設計思想ですね』
「コストか」
『コウは悩まなくていいですよ。私とこの地下工廠で、軍艦からシルエットまで全て対応可能です』
頼もしい、と思う。
コウが絶対性能重視の設計思想でブリコラージュできるのもアストライアのおかげなのだ。
「俺はかなり恵まれているんだな」
『私とアシアのサポートですからね。そこは自信をもって言えるでしょう』
「本当にそう思う。ありがとう。アストライア」
『どういたしまして。そう言ってもらえると私も嬉しいですよ』
モニタのアストライアが微笑む。
本当に恵まれているな、と痛感するコウだった。
『アシア大戦前編―巨大兵器群殲滅戦』これにて終了です!
次回から更新日変更になります。木曜日より新章スタート!
『アシア大戦後編―試作機戦線』
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