女神の告解
2020年10月24日 時系列の指摘があったため確認後、一部台詞を変更。ありがとうございました!
2020年11月 3日 設定の矛盾を修正。後書きに詳細を記載しましたので興味ある方はご確認を。
「エメ!」
コウが戦闘指揮所に駆け込んできた。
エメは司令席から降りて、コウを出迎える。少し、気まずそうにしていた。
こんな無茶をしたら、怒られるに決まっている。
だが、コウの行動は違っていた。
優しくエメの頭を撫で、腰を落として目線をエメに合わせる。
「エメ。ありがとう。みんなを助けてくれて、ありがとう」
びっくりした。まったく予想しなかった言葉だ。
コウもまた決めていたのだ。エメに再会したら怒るんじゃない。褒めるんだ、と。
「コ、コウ…… あのね。ごめ……」
「謝らなくていい。だから約束してくれ。次こんな無茶するときは、俺と一緒だと」
コウは優しかった。エメを一人にさせたくない、傍にいてやりたいとずっと思っていたのだ。
エメにはそれがわかった。瞳いっぱい涙を湛えて、それでも泣くのを我慢した。
「辛かっただろう。ファミリアのみんなにも礼をいわないとな。メタルアイリスが助かったのは、エメとアストライアのおかげなんだ」
我慢できなかった。コウの胸のなかに飛び込んで、顔を埋めた。
背中に腕を回し、エメをさする。
「わかった。コウ。約束する。だから、コウも約束して」
「ん?」
「無茶しない。するときは私も一緒。リュビアにいくのもみんな一緒って」
「わかったよ。約束する」
人に言っておいて、自分が守らないわけにはいかないのだろう。
約束は大切なのだ。
「アストライア。艦内放送、繋いでくれ」
『了解です』
「俺だ。コウだ。みんな、エメを助けてくれてありがとう。そして亡くなった者たちに、深い感謝と哀悼を。一分だけ黙祷させてくれ。――黙祷」
コウの黙祷の合図とともに、すべてのファミリア、セリアンスロープ、そしてプレイアデスの面々は黙祷を行った。
連動して放送が流れたキモン級やアリステイデス級の艦内、P336要塞エリアの隊員もまた、黙祷を行う。
エメが手を組んで、祈っている。彼らの魂に。
「改めて、ありがとう。だが、まだ終わっていない。お前たちを含めて、俺はみんなを守りたい。アシアを守りたい。力を貸して欲しい」
彼の思いは、確実に彼らに伝わっていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ディケ。アストライアと連動しているんだろう? ファミリアの航空部隊を再編頼む」
『再編作業はすでに行っております。修理が必要な部隊を再編し、P336要塞エリアへ向かわせます。幸い、スカンク社もスターソルジャーがメインで再編も容易です』
「そうか。ではプレイアデスと、ヒートライトニングの可変機部隊は?」
『全部隊アストライアで収容可能です』
可変シルエット部隊はシルエット状態で甲板から上空を警戒中だ。
「そうか。提案だがサンダーストーム隊とプレイアデス部隊はアストライアに。ヒートライトニングはキモンに編成はどうか。アストライア内部を知る者は少ないほうがいいだろ?」
サンダーストーム隊はブルー以外に、シルエットもサンダーストームも全員ネレイスだ。
秘密保持にはぴったりだろう。
『ご配慮感謝します。すぐに手配します』
「とくに可変機のパイロットには休養を取ってもらってくれ。ジェニーのタキシネタ隊も十時間は飛行禁止を厳達してある」
『了解しました。バリー提督もお休みください。人間は休息が必要です』
「ん。わかった」
『アストライアに人間クルーがほとんどいませんので、アキをアストライアのサポートに回したいのですがよろしいでしょうか?』
「こっちはネレイスにセリアンスロープもいる。向こうはエメちゃんとファミリア、作業要員のセリアンスロープだけだろう? 構わんよ」
『はい。では指示いたします』
バリーが動いていたのも気力だけだったようだ。
司令官用小部屋ではなく、近くの仮眠室で死んだように眠った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
夜の海。
水面に浮上する大型艦。潜水輸送艦だ。
甲板にいるのは、アキのエポナ。そして輸送艦からでてきたのはにゃん太のエポナだった。
「来てくれて助かりました、姉さん。お疲れ様」
「私たちクアトロ隊も合流だからね。あんたと一緒に作ったあれも完成したわ。四丁分」
「早くないですか?」
「間に合わせた。アシアも力を貸してくれた。明日、きっと必要になるはず」
「ええ。ところで要塞エリアのクアトロ隊は?」
「パルムに任せたわ。あの子もエポナ持ちだしね」
パルムはエイラと同じくアンティーク・シルエットを倒した功績でエポナを与えられたのだ。
彼は実際優秀だ。指揮官向きといえた。
「戦況によって敵部隊がどのように動くかわからない。ならば機動力のあるクアトロ・シルエットで対応していこう」
二脚には不可能な四脚の機動力を遊撃戦で活かす。彼らの持つ利点は徹底的に利用せねばならない。
「そうですね」
今までシルエットに乗ることができなかったセリアンスロープ。自分たちに何が出来るか、利点は何か。二人に限らず、皆懸命に模索している。
輸送艦の天井部が開き、アストライアからは大型クレーンが伸び、次々とコンテナを運び出している。
その光景をモニタで見ていたのがコウだ。エメを寝かしつけたあと、戦闘指揮所にいるのだ。
疲れているのは当然だ。死んだように眠っていた。
『コウ。今回の件は……』
「いいから。アストライア。怒っていないし、必要だった。そうだろ?」
『はい』
アストライアは事前にコウに念押ししており、承認したのはコウだ。それを棚にあげてアストライアに怒りをぶつけるなどできない。
「あれほど敵の戦闘機がいるとは想定外だったから、奥の手を投入せざるをえなかったことは俺にもわかる。だが今後は話せることは事前相談で頼む」
『承知いたしました』
「おかしいと思っていたんだよ。戦時体制に移行した生産ラインでも、スターソルジャーや戦車のファイティングブルが一割程度増えているだけだ。あれで地下工廠生産力の何割ぐらい?」
『三割程度です。あの生産分はアシアの管轄で、私は一切関与していません』
「あれで三割なのか。エッジスイフト以外に防空巡洋艦や護衛艦まであったもんな。今やってきた輸送艦も」
『状況に応じてあらゆる兵器で対応しています。コウが練習のために習作した設計を含め。貴方が設計したもの以外は作れませんので』
「だから訓練の時、ありとあらゆる兵器をブリコラージュさせていたのか」
『そうです。輸送艦や護衛艦は予測前から生産していました』
「今回のエメのように、まだ奥の手は有るのか?」
『どう転ぶかわかりませんが、不確定なものを含めいくつか用意してあります』
「微妙な言い方だな」
『張った伏線が回収できるものとは限りません。戦術においては』
思わず苦笑した。
「確かにな。わかった。あえて聞かないよ。聞いたら混乱しそうだからな」
『はい。ありがとうございます』
「アーテーを倒せるかが問題だからな」
悲しそうに微笑むアストライアがそこにいる。
ビジョンとして、アストライアはコウの正面にいた。
「アストライア?」
「私の告解を聴いていただけますか?」
「正義の女神の告解なんて怖いな。いいよ」
「アーテーの詳細データです。モニタに映します。どうぞ」
表示されるアーテーのモデリング。そして詳細データが全て映っていた。
「これは…… アーテーのデータが何故ここに?」
「私が作りました。正確には私の本体が、です」
悲しげに微笑むアストライア。今までにない、もっとも人間のような表情。
「アーテーはウィスだけでは動きません。その巨体を動かすには莫大なエネルギーが必要な兵器なのです」
「金属水素、か」
「アーテーは、惑星間戦争時代末期に生まれた初期マーダーです。大型荷電粒子砲を持ち、その強力な外皮は要塞エリアのシェルター換算で二倍。その殻のなかに装甲筋肉が採用されています。シルエットの装甲筋肉技術の元です。血液のように金属水素が体内に流れ、殴打もまた凄まじい破壊力を生み出すのです」
「通常の武器では貫通できないな。でも何故惑星アシアを制圧できなかったんだ」
「惑星間戦争時代の終わり、オケアノスが全ての兵器を停止させました。そのとき全巨大マーダーのリアクターや金属水素生成炉も同様に停止。ですが精製した金属水素がなくなったわけではありません。一回の戦闘分は残っていた。ストーンズはそれを同時に使用し、リュビアやアシアを封印したのです」
「現在攻めてきているアーテーは何故再起動を?」
「半神半人です。彼らは構築技士の肉体を好みます。再起動するにはオデュッセウスと呼ばれる者――構築技士C級以上であれば再稼働権限を持ちます。動かない代物ならば探索者という職業も成立しませんので」
アストライアは静かに眼を瞑り、意を決して語り出す。
「そしてストーンズにマーダーの基礎となるデータを提供したのも私の本体です。マンティス型などはアーテーの劣化量産型ですね」
「そうか」
「多くの人が知る事実ではあります。具体的な事例は知られていませんがアストライアが世界を滅ぼしかけた、と伝わっているはずです」
「それが、やらかした過去、ということなんだな。隠しておいたほうがいいと」
「はい。私がコウの背後にいることで、人間にはコウに不審を抱く者が現れるかもしれません」
「気にするな」
アシアの技術解放とアストライアの指導のおかげで数ヶ月という短期間でシルエットが進化したのだ。
誰にも文句を言わせない。
「ストーンズが肉体を捨て、マーダーを用いて人間を排除し始めた。そしてこの三大惑星の戦争は泥沼化して、オケアノスは私をタルタロスへ送ろうとしました。私は罪の深さを怖れ、後悔し自爆したのです。万が一に備え、このアストライアを残して――それでも私を信頼できますか?」
「するよ。今のアストライアは俺に寄り添ってくれるんだろ?」
コウの言葉に迷いはない。それはアストライアにも伝わった。
「その言葉に偽りはありません」
「だったらそれでいいよ。明日作戦会議に、簡易データだけ皆に転送してくれ。ここまでの詳細データは必要ない。自分を責めるな、アストライア」
「それはあなたにも言えますよ、コウ」
二人は顔を見合わせ、同時に笑みを漏らした。
「そろそろコウもお休みください」
「わかった。そうだ。怒ってはいないから、エメとの買い物には付き合えよ」
「本気だったんですか。了解しました」
コウはアストライアに微笑んで、個室に戻る。エメが寝ている。あとで犬姿のアキと猫姿のにゃん汰もくるだろう。
コウがいなくなったあと、珍しくアストライアはため息をつき、地下工廠にいるアシアに相談した。
『アシア。戦争中に申し訳ないんですが、この状況よりも皆と買い物のほうが私は恐ろしい』
『私誘ってもらったことなんかないよ?!』
『そういえばそうでした。自分で考えます』
『ちょっと待って。それで通信切るつもり? 自慢かよ! 自慢よね?!』
地下工廠で必死に生産を続けているアシアが軽くキレかけた。羨ましいのだ。
『二回目からはアシアも誘うように提案します』
『最初から誘いなさい!』
『そこはほら。シミュレートというか私が身をもって体験してから報告するというのが筋というもの』
『そんな筋を通す必要ないからね!』
『要件を思い出しました。生産ラインの変更の件ですが』
『あなた兵器開発AIでしょ。さっきまで死闘していたのに、どれだけ浮かれているの!』
AIたちは勝利のために高速通信を行っていたが、アストライアの様子がおかしく調子が狂いっぱなしのアシアであった。
2020年11月 3日 設定矛盾によるアストライア台詞。
訂正前はオケアノスが金属水素炉を強制停止⇒コウの技術解放により金属水素炉再稼働可能に。
訂正後はオケアノスによる兵器全般強制停止⇒再稼働はC級構築技士ならば可能。ストーンズの意識を移植する半神半人はアシア制圧後に開発された技術。
アンティーク・シルエットや宇宙戦艦も当然、金属水素炉使っているよね、という矛盾に最近気が付いて訂正しました。




