反撃開始――希望の星プレイアデス
成層圏を駆け抜ける、銀色の戦闘機群。
「聞こえるか。御統重工業所属アンダーグラウンドフォース、プレイアデスの黒瀬泰之。ヤスユキでいい。到着まで五分もかからん。あと少しだ。待っていてくれ」
エメに通信が届く。画像の先に人の良さそうな巨漢の大男が映っていた。でっぷり太っているが悪い人間には見えない。
『御統重工業はパイロクロア大陸の要塞エリアに本拠地を持つ転移者企業です。あの放送直後、発進したのだと思われます』
「本当にすぐ向かってきてくれたんだ」
時間的にマッハ4で一時間少しぐらいの距離だろう。駆けつけた、という表現が正しい。
「ヤスユキさん。提督のエメです。助力感謝します」
エメが通信を行う。
「本当に君が戦っているんだな。――私がいなくなったら、なんて悲しいことを言うんじゃない。俺が、俺たちが守ってやる!」
大男が不敵に笑いながら告げる。
「ありがとうございます!」
エメの表情がほころんだ。
「友軍プレイアデス。マッハ四で第一編隊が近付いてきます! 総数、二百機以上!」
マッハ四以上の速度は熱の壁が存在し、機体性能に影響してくる。
空中戦が発生する速度域はマッハ一前後。二十一世紀における戦闘機の設計思想では最高速を追う流れは廃れ、低速域の運動性と加速力を優先する設計が主流だ。
熱に強い構造材を持つこの惑星の兵器においても、マッハ三以上の設計を出来る構築技士は多くない。
『機影分析完了。該当機よりデータが送られました。二機種編成で、どちらも御統重工業の新兵器だと思われます』
「良かった。助けがきてくれた!」
『ええ。あなたの力ですよ。友軍機確認、およそ二百機。この戦い、勝てます』
敵も長引く長期戦で、弾ももうない。まっさらな戦力が二百もあればまったく違ってくる。
しかも設計主は、御統重工業のA級構築技士でケリーと並ぶ空戦特化といわれている、衣川だ。
その頃、プレイアデス部隊も会話していた。
「見たか、みんな。あんな小さな子がこんな大軍相手に戦っていたんだぜ」
「絶対守りましょう、隊長!」
士気があがる。そこへ通信が入る。メタルアイリス総司令バリーだった。
「こちらメタルアイリスのバリー。援軍感謝する! 言葉もない」
「こちらプレイアデスのヤスユキ。気にしないでくれ! あんな小さな子が日本人の大切な人を守りたいっていったんだ。俺だって日本人だ。俺たちが出なくてどうするんだ。未だに日本語しか喋れねえってのにな」
「頼む。守ってやってくれ」
バリーもそういうのがやっとだ。この男は義の心でやってきたのだ。
「その日本人ってのは今きっと、あの子を助けたくてたまらないはずなんだ。俺にはわかるぜ。任せろ!」
事実、熱い男だった。エメの演説を聞いて、衣川に報告するやいなや部隊を編成し、海を越えて急いで駆けつけるほどに。
「現在上空一万八千メートル。一万メートル以下まで降下。戦闘速度に移行だ」
黒瀬がプレイアデス隊に指示する。
「隊長、そろそろ戦闘空域に到着。交戦開始しますぜ。このアエロー、初実戦だ」
狐のファミリアが告げる。彼が乗っている機体は戦闘機アエロー。最高速はマッハ4を超える。
「頼んだ。俺たちも続く。そのあと、甲板に群がる羽虫を片付ける。ヨアニア隊、対空戦闘準備!」
そして黒瀬が乗っている機体は可変シルエット、ヨアニア。
最高速度こそアエローに譲るが、金属水素生成炉を使用した高性能機。この機体こそがA級構築技士衣川が最高傑作を自認するシルエット。
背後から予想外の攻撃を受け、戦闘機コールシゥンは一気に五十機失う。背後を見せている戦闘機など的だった。
まさか海の反対側から、マッハ4で近付く戦闘機があるとは思わない。
ヨアニアを元に作られたのが、アエロー。ファミリアにも乗れるようにした同コンセプトの戦闘機だった。
戦闘空域に到着した彼らは成層圏から対流圏へ急降下し、背後からコールシゥン編隊に襲いかかる。対空ミサイルを各機一斉に発射する。
予想外の方向から急降下して襲撃するプレイアデス編隊に為す術もなく、コールシゥン編隊は被害も甚大だ。プレイアデス編隊は最初の交戦で二十機以上撃墜している。
包囲網の一角は確実に穴が空いた。
あり得ないと思われた援軍の登場に、エッジスイフトのファミリアたちの士気もあがっていった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
バリーが通信を終えたあと、キモン級の艦内に歓声が沸いた。
思いもよらぬ援軍が、思いもよらぬ方向から駆けつけてきたのだ。
包囲網の一角は崩れ去り、次々と飛来する戦闘機たちは、弾も尽きた戦闘機群を押し返している。
ここにきて遠距離侵攻が裏目に出てきたのだ。
コウと御統重工業と衣川とは何の接点もない。
あるとするなら、せいぜい日本人という程度の繋がり。後は鷹羽兵衛を通じてラニウスC型の飛行ユニットを通じてのみ技術協力した関係だ。
だが聞こえてきた言葉は、見も知らぬコウの気持ちを汲んでいてくれたのだ。
コウはコックピットのなかで両手を組んでうずくまり、目を閉じた。
思えば、長い間人間不信だった。会社の人間には殺されかけ、ファミリアやセリアンスロープに助けられてきた。
だが、今ここに同郷というだけで立ち上がってくれた男がいるのだ。
自分にはそんな資格はないのに、だ。それはきっと、エメの力だろう。
コウのなかに深い慚愧の念と感謝の心が、芽生えた。
「ありがとう……ございます……!」
振り絞るように心からの言葉。絶対に直接会って、礼を言おう。そう心に決めた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ふむ。間に合ったようだ」
その男は、とある要塞エリアの自室で呟いた。
御統重工業の衣川英治。もう老年といえる歳に入ったかも知れない。二十年前に惑星アシアに来た、A級構築技士。
地球にいたときは航空宇宙分野での技術者だった。空への関心は、どの構築技士よりも高いとされている。
「知っているよ。彼女が助けたかった日本人こそ、我ら構築技士に封印されし技術をもたらしてくれた男だということは。アシアと鷹羽君に聞いたからね」
モニタで、自分が創り出した機体を満足そうに見つめている。
「長年の夢だった。惑星アシアで戦闘機を飛ばすことが。あるだけの技術で創った飛行能力を持つシルエット、ペレグレンは飛行距離を伸ばすのが精一杯だった」
彼が作り上げた可変シルエットであるヨアニアと、戦闘機アエローは十分な戦果を発揮しているようだ。
「礼を言わなければいけなかったのは私のほうなのだよ。私の夢だった戦闘機と可変シルエット。ともに、君がもたらした技術で作ることができた」
金属水素炉と、電磁装甲がなければ、戦闘機を飛ばすことは未だ許されなかっただろう。
レールガンが猛威を振るい、対空ミサイルはマッハ10を越える。要塞エリアへ禁止行為を行ったものは宇宙から衛星砲が降り注ぎ、航空戦力はまともに運用できなかったのだ。
アエローのファミリアたちはアストライアのエッジスイフトと上手く連携しているようだ。
運動性を追求しているエッジスイフトと、加速性能と上昇性能を重視したアエローとは相性がいいはずだ。
「君が守りたい者は、私が作った護神がきっと守ってくれるはずだ。頼んだぞ、黒瀬」
信頼するパイロットに全てを託し、彼は戦況を見守ることにした。




