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ネメシス戦域の強襲巨兵  作者: 夜切 怜
アシア大戦前編―巨大兵器群殲滅戦
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宣戦布告

 ストーンズの襲撃予想の話をしてから、一ヶ月過ぎたあたりで、事態が動いた。


 P336要塞エリアに衝撃が走る。

 惑星アシア全域に中継しながら、ストーンズ勢力からメタルアイリスへ呼びかけがあったのだ。


「指定時刻に私が出るわ。ストーンズとは名乗らないのね」

「アルゴナウタイって名乗っているな。神話の半神半人たちが乗る伝説の船の船員たちだ」


 アリステイデスの戦闘指揮所にもうけられた、司令席に座り回線を開く。


 画面が映る。相手は、画面中心に白人男性の青年がいた。

 背後には座っている、外套を被った男がいた。フードを深々と被って表情どころか、外見は一切不明。性別さえもわからない。

 そしてもう一人。初老の白人男性がいた。砲撃卿で名高いB級構築技士アルベルトだ。青年より一段低い位置にいる。


「はじめまして。アルゴナウタイの皆様。メタルアイリスのジェニーよ」

「挨拶は不要。私はヴァシーリー・イーゴレヴナ・ヤークシェフ。ヴァーシャと呼んでくれていい」


 ぶっきらぼうに告げるヴァーシャ。


「それはどうも。ヴァーシャ。降伏勧告かしら」

「話が早い。その通りだ」

「ではお断り。アシア全域に放送、ということは私達は見せしめ?」

「頭も切れる。殺すには惜しい。早めに降伏せよ。我々から奪ったアシアを全て差し出せば、君たちの命は保証しよう。またアシアの保護、扱い及び指定された基準を満たした一般市民の生命は約束する」

「量子チェーンに縛りつけておいて? よくいうわ。アシアは元々誰の者でもない。それに人形にされるのはまっぴらね。飲めない要求を行うのは、戦争をふっかける側の通例よ」

「交渉の余地はあると思ったのだがな? 残念だが。君たちの末路は惑星アシアに語り継がれることになるだろう」


 まったく残念にも思っていない表情。惑星アシアに語り継がれる。それはメタルアイリスをみせしめに殺すということだ。


 映像が変わる。

 ジェニーの眉が若干つり上がり、周囲のものは驚愕する。

 巨大な目玉を持つ、エビのような巨大兵器。どちらかというとシャコに近い。ただ、エニュオよりも遙かに大きい。


「Aカーバンクルを内蔵した巨大マーダー、アーテー。初期のアシア防衛網を全て打ち破った破滅の女神らしいぞ。君たちにこれを打ち破れるかな?」

「打ち破るわ」

 

 冷徹な瞳でジェニーを見据え、宣言した。


「この大陸――シェーライト大陸全土のマーダーがお前たちに向かう」


 惑星アシアの大陸は、その代表で採掘できる重要鉱物の名称が冠されている。シルエットベースやP336要塞エリアがある大陸はシェーライト大陸。主な資源はタングステン系の鉱石だ。


「嫌われたものね」

「それだけ評価しているということだ。期待しているよ。手の内を明かすのはよくないが、これは前座に過ぎない」


 ヴァーシャは僅かに唇の端を歪めた。

 笑っているのだ。


「では大戦を始めようか。私たちと君たちで、だ」

「ええ。受けて立つわ」


 二人は睨み合った。決してわかり合えぬ敵同士。


「ストーンズ勢力戦闘組織アルゴナウタイはメタルアイリスに対して宣戦布告を行う。我々はストーンズと共にP336要塞エリアを攻撃する」

「宣戦布告とは、地球時代の古い慣習を持ち出してきたわね。布告を確認。これよりメタルアイリスはアルゴナウタイに対し、戦争状態に入る。以上」


 通信を切った。

 宣戦布告。情報網が発達した時代では意味をなさない交戦通達。宣言後すぐに戦闘が始まる場合が多いからだ。

 そしてアシアにおいて、初めての例であろう。それは要塞エリアや防衛ドームに対する、通達に過ぎない。


「総司令。ごめんね。いきなり決裂した」

「いいさ。相手も交渉させる気なんてなかったからな。総員、戦闘配置。現在敵影なし。交戦するにも、あと数日かかるだろう。陸戦はな」


 キモン級の司令席に座っているバリーが、指示を開始する。


「警戒機を出してくれ。大量の戦闘機が飛来する可能性が高い」

「了解です!」

 

 鳥型のファミリアが返事をする。

 基地から哨戒機と護衛機が飛び立ち、シェルター天井部が開き、出撃していった。


「アーテーで前座ときたか。ブラフならいいが、そうじゃないんだろうな」


 想像以上の戦力が押し寄せてくると予想できた。

 今はキモン級の司令席で、じっと耐えるバリーだった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 アストライアの中で、一度集まって話をすることになった。


「にゃん汰、クアトロ隊を頼む。アキはキモン級で俺のサポートだ」

「了解にゃ!」

「お任せください!」


 彼女も自分たちの役割は心得ている。

 異議はなかった。


「ヴォイ。俺の特務部隊として臨機応変に頼む」

「おうさ」


 ヴォイは整備に、特殊実験機など駆り出される可能性もある。


「ポン子さんは、エメを頼む」

「リョウカイシマシタ」


 ポン子はエメの肩をしっかりと掴む。


「エメ……」

「私は、アストライアにいる」

「ありがとう。安心して戦える。アストライア、頼んだ」

『了解しました』


 さすがに今回に限ってはエメも聞き分けがいい。

 いつもなら無理矢理キモン級に乗り込んできてもおかしくない。以外と強情なところがあるのだ。


「今から要塞エリアの避難も優先させる。けどこのメンバーは必要ないはずだ。あえて聞かない」


 全員頷いた。今更聞かれたほうが悲しいだろう。


「総力戦だ。俺もはっきりいって怖い。だから、みんな。生き残ろう。誰か一人、欠けることもないように。こんな状況を生み出した俺がいうのもなんだけどな」

「コウのせいじゃない。放っておいても、マーダーは押し寄せてくる」

「ありがとう、エメ」


 今日この日を予想し、備えていた。

 アストライアに任せた生産ラインはノーチェックだ。コウはP336要塞エリアの生産計画に集中していたのだ。

 

 基本、傭兵は勝っている方に付く。現在も募集しているが、アンダーグラウンドフォースの応募は少ない。大抵は個人だ。

 能力によってはシルエットが支給される点が大きい。また、メタルアイリスに所属しなくても資金を貯め買い取ることは可能だ。


 傭兵の中には避難する人々に交じって脱出する者もちらほらいる。明らかな契約違反だが、メタルアイリスとしては止めることはない。

 戦意が低い者同士が混じると後方が不安になるからだ。


 メタルアイリス支給シルエットを持って逃げだそうとする者は自動的にシルエットが停止する。所有はメタルアイリスだからだ。そんな不届き者が多少いるのが現実だ。


 現在、各転移者企業には相談はしているが、彼らも営利団体。メタルアイリスを助けるかどうかは、評価によるのだ。


 流れを変えるため。そして様子見の人間を味方にするためにも、緒戦は勝たねばならない。

 P336要塞エリア上空の制空権を握れるか。地上部隊を安全に展開できるか。

 そこに全てがかかっていた。


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