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ネメシス戦域の強襲巨兵  作者: 夜切 怜
C212防衛ドーム攻防戦
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市街地戦

 コウたちはようやく防衛ドームに入った。

 メタルアイリスのメンバーたちは補給に戻るらしい。彼らは先ほどの戦闘行動で弾薬もほぼ尽きている。


 この居住区は正式名称はC212防衛ドームと説明を受ける。人類の拠点はアルファベッドと数字の組み合わせが中心とのことだった。

 C212は半径5キロの小型居住区画だ。


 メタルアイリスの作戦は市街地戦における時間稼ぎ。住民避難が優先だった。


「これまでだな。世話になった」


 コウはメタルアイリスの傭兵バリーに別れを告げた。

 彼は驚き問い返した。


「どういうことだ? 離れるのはいいが、せめて補給を受けろ」

「戦闘は始まっているようだ。時間稼ぎすればいいんだろ? どうせ俺は剣しかない。先にいってくる」

「……すまん。感謝する」


 状況を察したコウが、先に前線にでるということだった。

 彼らは武器弾薬が尽きている。すぐに戦力にはなれそうにない。


「また、な」


 コウはそういって市街に消えた。


 ビルに隠れながら、アントワーカーに斬撃を見舞い、すぐに離脱する。

 コウのためにあるような戦場だった。


「五番機はとくにレーダー機能、警戒に優れた頭部を採用している。設計者が周辺情報を優先した結果だな」

「剣士のためのような機体だ、本当にな!」


 強敵といわれたテルキネスも一機葬り去っている。


「障害物があるだけでこれだけ楽とは、な」

「シェルターや建物、道路に供給されるウィスはとくに強いものでね。敵の目的もこのエネルギーを生み出すAカーバンクルだ。この物質のコピーがAスピネルだね」

「Aカーバンクル?」

「アクシオン・カーバンクル。真の五次元エネルギー発生物質であり、投射を受けた物質の強度はAスピネルの数倍から数十倍になる。レールガンをくらっても建物はびくともしない」


 辻斬り殺法で建物と建物の間を駆け抜けているコウだが、追撃のレールガンや機関砲、レーザーは全て建物に弾かれている。


「確かに。で、奪われたら元の硬さの無機物に戻ると」

「私たちが最初にいた拠点みたいになるね。瓦礫が少し残って、あとは真っ平らだ」

「それは死守しないとな。それに援軍も多い」


 縦横無尽に、レールガンを装備した火力支援タイプの装輪装甲車や、機関砲を装備した密閉型バギーが戦っている。

 機関砲を装備したタイプは兵員輸送車だろうか。民間人を見つけては回収している。

 積極的に回収していく。


 無人機であろうか。

 無残にも破壊された車両も何両か確認できた。


 転がっている死体。

 破壊されたシルエットもそこにある。


 目を背けたくなる光景があちこちに広がっている。


「戦争、か」

「そうだよ」

「不思議と今は平気だが、夢にでそうだ」

「否定はしない。五番機は君の感情もサポートしている。言えるのはそれだけだ」


 アントソルジャー型を瞬く間に二機破壊し、周囲を警戒する。


「ふと思った。なんでこいつらは、この防衛ドームをまるごと爆破しないのか」

「彼らにとっても防衛ドームは資源の塊だからだよ。人含めてね」

「納得」

「ストーンズの目的は人類の殲滅ではない。資源、技術の奪い合いに近いともいえる」

「殺し屋派遣してるくせにな!」


 攻撃を避けながら、アント型の敵を撃破していく。


「埒があかないな。守り切れるか?」

「数は減らしたが、アレがなあ」


 アレとは攻城兵器であるエニュオのことだ。


「あれは無理そうだな」

「ああ。アンダーグラウンドフォースに任せよう」


 引き続き、ゲリラ戦を続けることにした。


 戦線は押されている。徐々にコントロールタワー方面に後退していた。

 道端には死体が転がっている。何度目にしても慣れることはない。目を背けた。


「容赦ないな」

「人間を捕獲する場合は、ストーンズ側についたシルエットがいる。こんなマーダーだけの総攻撃の場合は、ただの抹殺対象でしかない」


 避難が遅れる場合もあれば、住み慣れた地を移動拒否するものもいるらしい。

 数万人の移動はすぐに行えるものではない。


 味方の装甲車群も次々と破壊されていた。


「あんなに装甲車が壊されているのにシルエットはみないな」

「あれらの装甲車は無人だからね。シルエットは後方で戦っているよ。避難民の退避優先だね」


 アントワーカーは次々と現れる。

 剣一本しかない五番機だからこそ戦えているのだ。ほかの機体なら即補給に向かわなければいけない。


「……だれか助けて……」


 五番機が声を拾った。近くで子供が泣いている。

 コウはすぐさま方角を確認し、その場へ向かう。


 アントワーカーを見つけ、すぐに切り倒す。

 索敵し、近くに敵がいないことを確認する。

 

 カメラで子供を確認した。


「く。誰かいないのか」


 そう思っていると装甲車が現れた。戦車駆逐型ではない、機銃を装備した人員輸送型だ。市民を回収して回っているのだ。

 スピーカーから声がする。


「はやくのりなさい」

「うん!」

 子供が乗り込んで、ハッチが閉まる。


「シルエット。助力感謝する」


 コックピットに通信があった。パイロットの顔が表示される。


 それは大きな牧羊犬だった。


「ああ。子供を頼む」

「任された。おお、同士が乗り込んでいるか。君も命を落とさないでくれたまえよ」


 そういって通信が切れた。

 コウは違和感に気付いた。


「なあ。師匠。さっき装甲車両は無人って言ってたよな」

「ああ」

「無人じゃないだろ? 乗ってるだろ。ファミリアがさ」

 

 コウが気付いた違和感。

 人間を守るように戦っていた、数多くの装甲車。


 それらはこの防衛ドームのファミリアたちによる、支援部隊だったのだ。


「人じゃないからな。無人だ」

「釈然としないな」

「感情移入しすぎるな。我々は停止するだけだ。死ぬわけじゃない」

「ファミリアが壊れて悲しむ人間はいないのか?」

「いないわけなかろう。悲しんでくれる人々がいるからこそ、我々にとって尊い存在になるんだ」

「彼らにとって、ファミリアも尊いってことだ」


 コウは後退しつつある前線を確認しながら、エニュオへのルート計算を始めた。

 ファミリアだけ死ぬのは理不尽だ。

 ただ、そう思った。

 

「コウ。ファミリアを案じて怒るな。その気持ちだけで我々は嬉しいのだ」

「俺は人間に殺されかけてるからな。ファミリアのほうを優先したいぐらいだよ」


 自分でも不思議なぐらい、怒りに駆られている。

 今生きているのは師匠と五番機のおかげなのだ。彼らに命がない? 否、だ。

 無残に破壊されていい存在のはずがない。

 会社の人間による小さな悪意に殺されかけたコウにとって、どちらが大切な存在かは明白だった。


「さっさと被害を少なくしよう。あの化け物を倒してしまえば、いいんだろ?」

「やめないか」


 師匠が緊迫した声をあげる。


「安心してくれ。破壊されたファミリアの多数はコアユニットさえあれば復旧できる。彼らの多くは復旧される」

「コアユニットが破壊されたら?」

「……終わりだ」

「師匠は寿命っていってたよな? コアユニットがあるなら再生できるんじゃ?」

「私はそのコアユニットが寿命なんだよ」


 コウは軽く嘆息した。


「どのみち奴らは撤退しないんだろ? やれることは一つだけだ」


 コウはビルの合間を走り抜け、敵機を切り続けた。

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