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ネメシス戦域の強襲巨兵  作者: 夜切 怜
電撃戦

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匿名希望少女Aさん

 要塞エリアの郊外で、吉川たちのシルエットが全力のローラーダッシュで移動していた。

 だが、遅い。彼らの機体は防御特化の重シルエット、グリズリーだ。


 輸送船に乗って脱出しようとしたが失敗した。

 ファミリアがまったく反応せず、手続きもできなかったのだ。

 早々に自分たちのシルエットでP336要塞エリアを脱出することを選択する。生きた心地がしない。

 最寄りの防衛ドームに逃げ込まないと生活にも支障がでることは間違いないだろう。


「こりゃ傭兵機構にガチで訴えるしかねえ!」


 吉川が憤慨しながら叫ぶ。


「ファミリアのあの様子をみると、俺たちのほうがかなりやばくないっすかね。傭兵機構に受け付けてもらえないかもしれないですよ」


 不満げな山岡。ある意味吉川の巻き添えを食らったようなものだ。


「じゃあ、どうすりゃいいんだ!」

「最悪…… ストーンズ側に行くしかないかもしれません」


 新島は冷静だった。自分たちの行く末を悟ったようだ。


「そんな、そこまで影響が?」

「ファミリアを完全に敵に回したようなものですよ。輸送船の受付すらできないって聞いたことないです」


 そんな話をしているさなかだった。

 吉川の機体に衝撃が走る。


「なっ!」

 

 頭部が吹き飛んだのだ。

 隣をみると、続けざま、山岡の機体も頭部が破壊され、新島の機体は右腕が吹き飛んだ。


「ど、どこだ!」

「半径十キロは敵影なしっすよ、吉川さん! そもそもまだ要塞エリアの中っす!」


 山岡が悲鳴に似た声を上げる。

 

「どこだ…… ま、まさか。アリステイデスからか? コウか?」

「コウかあの子供、どっちか関係者だったのかも」

「シルエットの腕や頭を狙い撃ちできるってどんなスナイパーだよ! 警告ってことか…… くそ」


 吉川は察しが悪いわけではない。凄腕のスナイパーに狙われていると知り、舌打ちした。


「殺しはしないでしょうね。脚もそのまま。はやく要塞エリアを出ましょう」


 諦めに似た声で、新島が呟く。


 可能性がある狙撃先。それは、ここからでも見えるアリステイデスの艦影だった。


 アリステイデスの甲板。先端付近に二機のシルエットが膝撃ちの狙撃体勢で佇んでいた。

 ブルーは長距離狙撃用レールガン。にゃん汰はカスタムした狙撃砲だ。


「さすがだにゃ。ブルー」

「あなたもね、にゃん汰」


 お互い称え合う。戦友意識が深くなっていた。


「警告としては十分かにゃ?」

「ですね。いつかコウと相まみえることもあるでしょう。そのときはコウ自身の手で決着を付けるべきです。負けるとはまったく思えないですから」

「あんな連中に絶対負けないにゃ」

「みすみす逃すことになるのは、本当に惜しい…… 背中から撃ち抜きたい」

「ブルーのほうが未練たらたら!」


 思わずにゃん汰も笑ってしまうほど、ブルーの殺意は強かった。人のことは全然言えない。


 どん!


 機体が震えるほどの衝撃が船体に走る。

 

 遠くで吉川の機体が弾け飛ぶ。完全にシルエットの下半身がない。警告ですら無く、撃破するつもりで射撃されたのだ。誰よりも殺意が籠もった一撃だった。

 アリステイデスの艦砲射撃であろう。最大威力のレールガンによる砲撃だ。


 上半身が生きているので、多分生きてはいるだろう。だが、さすがにあの衝撃はMCSでも吸収できない。体を固定していなかったらMCSのなかでシェイクされているはずだ。


 片腕しかない新島の機体と頭部がない山岡の機体が、吉川の機体の腕を左右から掴み、慌てて逃げ去る。それは遠い昔の地球で広まった連行される宇宙人のよう。


 モニタどころか、シルエットのフェイスごと、彼女たちは顔を見合わせる。

 そしてお互い腹を抱えて爆笑したのであった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「ポン子、平時の艦砲射撃は認められません。理由を言いなさい」


 ディケに、艦砲射撃の許可を得に、ポン子が戦闘指揮所にやってきたのだ。


「コウトエメ、オソワレマシタ。ファミリアカラデータヲシュトクシテクダサイ」

「――状況を確認。艦砲射撃を許可するには、権限を持つ三者の許可が必要です。第一種制限、ディケの名により解除。第二種制限、アストライアより解除要請、受諾。第三種制限が問題です」


 ディケとアストライアの承認はマッチポンプそのものだ。


「人員が出払っていて――否。承認されました。第三種制限、全権限を有する匿名希望少女Aさんにより解除。一発だけ発砲を許可します」

「ショウジョエーサン。イッタイナニモノナンダ……」


 ポン子は射撃制御室に移動。座る。


 新しく装備されたレールガンだ。大口径のレールガンで、この艦の主砲ともいえる。

 バリーに要求され、コウが作ったのだ。 


 目標の機体に狙いを定めた。

 装填する電力は迷わずMAX。


「ワタシ、テレマAIジャナイ。コドモキズツケルヤツユルサナイ。ジゴクヘオチロ。クソヤロウ」


 彼女は子守ロボットである。子の、守りだ。コウとエメ。彼女の庇護すべき者を傷付けるものなど許せるはずがない。

 戦争は立場も絡む。しかし、平和な居住区のなかでコウとエメは嫌がらせの挙げ句、酷い目にあった。


 平和な世界で子供を事件、事故から守ることが彼女の仕事。

 割れたグラスで顔を殴ろうとするなど殺人だ。嫌がらせで済む範囲ではない。

 子供を守るためならなんでもする。嫌がらせで子供に手にかけるような者を生かしておけない。


「エメヲヒドイメニアワセタヤツ、シスベシジヒハナイ。ブッコロ。ブッコロ。ブッ殺ォッ」


 最後の声はスピーカーに鳴り響く重低音そのもの。迷わず引き金を引いた。


 最大電力のレールガンが発射される。衝撃で船体が揺れた。


 吉川のシルエットの下半身が一撃で吹き飛んだ。上半身が弾け飛び、地面に転がる。


 動力は生きているようだ。命に別状はないだろう。

 実は直撃弾にならないよう、ディケが若干狙いをずらしたのだ。


「クソ、シナナカッタ。オボエテロ。ツギハコロス。カナラズナ」


 忌々しげに舌打ちしそうな言葉を、いつものように無機質かつ淡々とした声で宣言するポン子であった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ・匿名希望少女Aさん、ありがとう! [一言] ・全権限を有する匿名希望少女Aさん、一体何者なんだ……
[一言] 殺人拒絶症の人が戦争モノを書くと、どうしても変な感じになっちゃうんだよなあ
[良い点] ポン子さんのスピーカーの音割れる勢いの叫び声が聞こえた。
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