アレオパゴス評議会
今回は敵勢力視点となります。
ストーンズたち半神半人たちが会議のために集結した。
今から行われるのは、アレオパゴス評議会の集い。
占領した、B001要塞エリア跡地。ここが惑星アシアにおける、ストーンズの拠点だった。
「F811のアシアを奪われたか。このタイミングでアシア奪還とはしてやられた」
「しかもアシアとAカーバンクルを奪い、拠点そのものを放棄するとは」
「あれが奪われるのは時間の問題だったな。だが、さすがに最深部のF811とは虚を突かれた。なかなかの策士が敵にいるようだ」
「それは認めざるをえない。もはやアシアの封殺は不可能になった。我々の手で惑星アシアを武力統一するしかない」
円卓に暗い影。十二の席。
禍々しき円卓会議。そこに序列はない。
灰色の外套をかぶっている、不気味な集団。
白でもなく黒でもない、灰色。彼らが望んだ色だ。
暗い影は、皆等質の声質。音声だ。ストーンズならではの会議だ。
アシアのデータを二つ分奪われたのは、彼らにとって致命的。
だが、誰の責任という話はならない。敵の作戦を讃える彼らは、余裕か本心か。それは彼ら自身もわからない。
「P336要塞エリア跡地が奪われたのは予想外だ」
「所詮空き巣のようなもの。あの要塞エリア跡地は奪うにも手頃だ。支配地域の要所ではあるが、いつでも取り返せる」
「うむ。重工業施設もない要塞エリアだ。戦車も作れないようなあの地は、血眼になって奪還する意味はない。要所ということは、攻めるルートがいくつもあるということ。必要になった時に奪い返せばいい」
発言者の声に、全員が頷く。
「バイソンの量産はどうだ」
「各地で作らせているよ。ベアの次世代後継機。なかなかの高性能だ」
「ナノマシンカプセルで意思を奪った兵士たち、ペリオイコイも問題なく任務をこなしています」
ストーンズはジョン・アームズ社の最新量産型バイソンの量産に着手していた。
ベアのような低コストで機動力は従来より向上しながらも重装甲といえるものとなった。
傭兵や徴用兵に支給するには最適だ。
そしてストーンズは、傭兵だけでは戦力不足のため、ペリオイコイと呼ばれるストーンズに属する人間たちを投入したのだ。
「私としてはレイヴンを量産して欲しいんだがね」
別の者がレイヴンを推す。
「あれはいささか高価よな。乗り手も選ぶ。コルバスほどではないがね。コルバスは、とある面においてはアンティークを超えている性能だ。我ら半神半人用にしよう」
「私達が実戦に出る機会はそうないですから、今まで通りアンティークでいいと思いますがね。エンジェルに載っている層には、レイヴンを支給しましょう」
「かのご老体、ジャック・クリフの抜け殻――いや、忠実な僕が、オケアノスに小型金属水素炉の調達依頼をしている」
「あの老人、延命措置を施したんだろ? どれぐらい生きるかね」
「今七十手前だからな。再生医療と延命チューブだらけにしても、百三十歳ぐらいが限度だ」
「それまでにA級構築技士を手に入れないといけませんな」
「あてはありますよ。クルトではありませんが」
「それは朗報だ」
A級構築技士だったジャック・クリフ。彼はすでに、意思を奪われ、ストーンズの傀儡となっている。
もう、思考能力はない。
「しかし、思考能力を奪うとなると、いささかもったいないですな。新兵器を作ることができない。そのあてとやらは自発的に協力してくれるといいが」
「そこを含めて期待をば」
「貴公がそこまでいうとはな。幸い、オケアノスから提供された技術全てを入手していましたな。B級構築技士でもブリコラージュそのものは可能。我らにとっては僥倖」
「設計プランだけでも十分使えるさ。戦闘機から戦車まで。ジャック老は低コストで多種多様な兵器を作るタイプ。実に美味しかった」
「その点クルトは最悪でしたね。採算度外視の絶対性能を追求するタイプでした。工場の主要データは廃棄され、本人もどこで野垂れ死んだか不明。鹵獲したフッケバインは完全再現不能と来ている」
「戦車については、我が配下のアルベルトにお任せを」
「あいつはすぐに巨大戦車作りたがる」
「陸上戦艦大量量産の件は?」
「ダメに決まっているだろう。シルエットのほうはどうなっている?」
「ジャックより奪った技術を用いてペリオイコイ用の量産シルエット、アルマジロも設計中です」
テーブルの中央に画像が浮かび出る。
大型のシルエットが浮かび上がった。
両肩に巨大な砲身を装備し、大型ライフルを装備している。
「火力と装甲重視で機動性は捨てた機体と言えましょう。新素材を採用していますが、特殊な機構はなく装甲を厚くして対処していますのでコストもそこまで高くありません。壁になってもらうために頑丈にしてあります」
「確かにペリオイコイ用だな。構わん。量産しろ」
「了解しました」
別の者が口を開く。
「シルエットが増えてきたが、整備人員のヘロットは足りているのか」
「そこは、不適合者たちを殺さずに回すことにしましたので」
ヘロットは奴隷の意。マーダーやストーンズに属するシルエットの細かい整備人員に当てられている。損耗率が高い消耗品だ。
「拠点さえ奪えば補充できるな」
「我々に選ばれた市民、ラケダイモンになれる者は少なかったからな。要求レベルは落としたよ」
「貴君は厳しすぎた。妥当な措置だと思うよ」
人間をヒトと認識しない、神の視点の会話であった。
ストーンズ勢力側に所属している人間はペリオイコイと呼ばれる層が中心だ。彼らの目的はラケダイモンになること。そうすれば、待遇は一気によくなる。
選ばれなかった人間はナノマシンによって意思を奪われ、ヘロットと呼ばれる生体ロボットとして扱われる。
「我々に寝返った要塞エリアは二つ。防衛ドームは十を超えます」
「意外と少ないな」
「まだ、彼らにとって他人事なのでしょう。生産拠点も増えることになります。戦場の空気を感じたら、これから増えていきますよ」
「そうだな。火傷しないと覚えないものな、人間は」
ストーンズの一人が納得する。
「ストーンズ直属軍の名称が決まったとのことだが?」
「決まったよ。アルゴナウタイだ」
「半神半人と選ばれた英雄を乗せた伝説の船員たちか。悪くない」
「現在組織を編成中だ。先ほど告げたあてが優秀でね。軍学にも長けていて裏切る気配もない。自ら我らに忠誠を誓うナノマシンを飲み込んだ。私が目撃者であり証人です」
「ほう。ますます期待できるな」
期待の新人の登場にストーンズたちはざわめく。
「さて、最後にリュビアだ。リュビアに解析と新型マーダーを開発させていた件はどうだ」
「人間と寄り添う、という制約が予想以上に厄介で抵抗が激しいですが、進展はありました」
「ほう? あの強情な奴がか」
「最近すっかりしおらしく、協力的ですよ。我々が要望した、空戦可能なマーダーも要求分析段階に入りました」
「それは朗報だな」
「ケーレスを上回る思考能力拡大と開発権限の拡張を要請しています。マーダーの基礎となる、さらなる生物分類を希望。現行の節足動物、爬虫類、ヒト型に加え全爬虫類と鳥類の導入許可を望んでおります。テルキネスの発展型を作りたいようです」
「ふうむ。どう思う皆」
男は周囲に呼びかける。彼らの立場は平等。議長なるものはいないのだ。
「ケーレスについて虫型、節足動物に制約したのは我々ですからね。ただ、思考性能が劣りすぎた。ゆえに爬虫類とヒトの要素を組み合わせたテルキネスを許しましたが」
「テルキネスも、どうもな。性能はいいが、MCSに比べたら劣る」
「MCSと比べたらいけません。あれは本来、超AIのコピーみたいなものですよ」
「そうだな。乗り物でいることを選んだ愚かなAI、フェンネルOSどもよ」
男は口元をゆがめ、フェンネルOSを嘲笑する。
「開発分類の拡大、対象生物の範囲拡大を許そう。もう少し頭のよいものを作るように」
「わかりました。リュビアに戻り、命じます」
すべての議題は終わったようだ。
ラウンドテーブルから、全ての人影が消え、静寂だけが場を支配した。




