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ネメシス戦域の強襲巨兵  作者: 夜切 怜
電撃戦

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P336要塞エリア復興計画

「引き取り拒否された」


 ジェニーが死んだ瞳で呟いた。

 アリステイデスの戦闘指揮所に集まっている。


「だけど、貴重な要塞エリア。防衛と管理はするように、と」

「傭兵にそんな義務はないだろう。第一、捕虜になっていた人間はどうするのだ」


 無茶な傭兵機構の言い分に、リックもさすがに文句を付けた。


「捕虜になっていた人間は治療のため引き取りにくるってさ」


 彼らの多くはナノマシンで思考を奪われ、指示通りにしか動けない。

 治療するためには除去しないとだめなのだ。


 あまりな対応に、ジェニーはため息をついた。


「シルエットベースと交換し、P336要塞エリアの運営をしたらどうですか、と遠回しに言われた」

「おいおい……」


 ロバートが顔をしかめる。さすがにやり方が露骨だった。


「仕方ないな。俺たちが運営しよう」

「おい、コウ。いきなり無茶だろ!」


 バリーが思わず叫ぶ。兵器は用意できると思うが、人材は無理だ。それこそ商社を使っても無理だろう。


「ほら。アリステイデスで作業機に乗っている、オスカーさん。あの人、D516要塞エリアの元エリア長だよ。実は奪回計画の時、もしもの時に備えてエリア長の相談をしていた」

「あの冴えないおっさんか! いつの間に!」

「優秀な人だよ。責任感も強い。Aカーバンクルも売却し、等しく避難民の生活資金として分け与えたそうだ。信頼できると思う」


 オスカーは派手さはないが実直な仕事をする男だ。最初は渋っているようにも見えたが、要塞エリアの管理の大変さも知っている。

 万が一メタルアイリスで管理することになったら、という条件で話していたのだ。


 その場合、オスカーがエリア長を引き受ける条件はたった一つ。クルト・マシネンバウ社の再建、創設だ。

 彼には守り切れなかった、そして最後まで戦った社員たちの姿が脳裏に焼き付いている。再起するならば、彼らと共でなければならない。

 それはコウにとっての望みでもある。お互いの理念は確認済みだった。


「確かにクルト社と一緒に最後までいたな、あのおじさん。避難後もクルト社の元社員と一緒だった」

「C級以上の構築技士を確保して転移者企業を創業すれば、産業基盤もできるな」


 コウの手際に感心する二人。バリーも産業さえ確保出来ればなんとかなると踏んだ。


「クルト社を再建するよ。そして新規の構築技士も確保済み。友人が二人いる。B級構築技士とC級構築技士だ。安心していい」

「友人?!」


 バリーが叫ぶ。驚くべきことばかりだ。コウの友人など聞いたことがなかった。

 コウの背後にいるアキが微笑む。やはり、縁は役に立つ。


「今はケリーさんのところのスカンク・テクノロジーにいる。ケリーさんにも、本人たちも承諾済み。独り立ちさせたかったと言われて了解をもらった」

「あの子たちね! 私もしっているわ。可愛らしい女の子とすっごく綺麗な男の子」

「男かよ! しっかし裏ボス。すげえわ…… 人材まで用意しちまうとは」


 覚えがあるジェニー。ロバートが感心しきりだ。


「アキ。セリアンスロープ限定でP336要塞エリアの復興人材を募集したいが、いけるかな? クアトロの作業機型は百機ぐらいは用意できそうだ」

「殺到しますね、間違いなく。問題ありません」

「ディケ。オケアノスに通達。P336要塞エリアはシルエットベース協力地区として独立。すべての権利はメタルアイリスに」

『了解しました。申請終了、受諾されました』

「早いな」

『傭兵機構が管理を放棄したので仕方ありません。現在オケアノスより傭兵機構へ責務放棄の訓告がいっているようです。大混乱中のようですね』

「責務放棄か。そりゃそうだろうな」


 傭兵機構は、国家がないこの世界で唯一の軍事力管轄組織。

 拠点の奪還、復興計画には支援する責務がある。他にそんな組織がないのだから。


 一つのアンダーグラウンドフォースに丸投げなど、本来なら言語道断の処置だ。


「あっちもメタルアイリスが音を上げて泣きつくのを狙っていたでしょうから、もくろみが外れたね」

「人材含めて用意するなんて予想しなかっただろうな」

「人間なんて利己的なものだよ。油断なんて出来ない。どうせ利己的なら、友好関係を築いているほうに賭けよう。フユキさん。紅信もさっさと呼ぼう」

「そうですね。まったくの手つかずの要塞エリアです。そのための投資は惜しまないはずです」


 コウはふうとため息をつく。


「次善の策を用意しておいてよかったよ。要塞エリア復興計画として進めよう」

「最初からこれで良かったんじゃないの?」

「そんなことはない。俺たちは別に要塞エリアが欲しくて戦ったわけじゃない。人類が戦う拠点が一つでも増えれば、と思ってだ」

「コウの言うとおりだな。傭兵機構は何を画策したかったかはわからないが」

「今後、要塞エリア奪還計画を依頼されたとしても断る口実にもなる。組織は往々にして前例主義だしな」


 バリーも傭兵機構には思うところがあったようだ。コウが頷く。


「コウ。あなた傭兵機構というか、人を信用してない?」

「うーん。そんなことはない、はずだけど。今は自信がないかな」


 傭兵機構は人間への戦力供給組織。ストーンズにも人間を入れている。ならばストーンズ側の人間に立って考える人間、そしてAIだっているかもしれないのだ。

 警戒はしておくに越したことはない。


「あくまで勘なんだけど、傭兵機構は平等だ。そこにつけ込まれて、ストーンズ側の人間がかなり増えている気がするんだよね」

「それはあるかもね。ストーンズ側の依頼にも積極的。中立的とはいえ、人類勢力のための組織だったはずなのに」

「大本は、存在しない軍事力の代替管理だろ? 人類側と決めつけるのは早計だ。ストーンズだって元は人間だった」

「裏ボスのその意見は留意する。確かにそうね」


 ジェニーも認めた。傭兵機構が人類側のための組織と、その前提が間違いだったかもしれない。

 人類管理補佐としての組織、ではなかったかもしれないと。


「でもここ、企業も大した物は設置できないよ? 作業機用シルエットが作れるぐらい」


 工業の強さは要塞エリア、防衛ドームの重要性に直結する。

 P336要塞エリア跡地は地政学的に要所ではあったが、産業構造の規模からみれば重要度は低い。守りの堅さが中途半端だったのもそのせいなのだ。


「アシアの権限で工業地区をもっと大きくして、様々なシルエットや兵器を作れるような重工業地帯の要塞エリアに改造する」

「できるのかよ!」

「大丈夫って言ってたけどな」

「さらりととんでもないこと言っていること気付いてるか、裏ボス」


 ロバートが冷や汗を垂らしながら呟いた。要塞エリアの産業構造変更など聞いたことがない。

 リックが笑いを噛み殺す。前代未聞の大珍事だと、コウは気付いていないのだ。


「環境が整い次第、回収したアシアの分体データをP336地区のコントロールセンターに任せよう。セリアンスロープとクアトロはそのためだ」


 現在アシアのデータは強襲揚陸艦アリステイデス級二番艦ペリクレスに保管してある。彼女いわく、かなり窮屈らしい。


「確かにここなら防衛しやすい」

「ぜってーこいつ人間信用してねえな!」


 リックが地形的な防衛の利点を認め、バリーがコウの人間不信の深刻さに気付いて苦笑する。


 シルエットベースとの距離が最も近い要塞エリアなのは確かだ。

 何かあれば連携できるだろう。


「では重大な本題に入るとしようか」

「こんな大事が本題じゃないってどういうこったよ」


 ロバートが苦笑する。今の話だけで一週間潰れてもいいはずの懸案だ。


「にゃん汰。あれを」

「わかりましたにゃ」


 にゃん汰が、大きな箱を持ってくる。

 そして中味を取り出した。長方形のモノリス状の物体だ。たまに輝く。

 ベースの色は灰色だ。


「これはカレイドリトスね! あまり良い思い出はないけど、闇市場で莫大な額で売れる」

「アンティークの後部座席ユニットに据え付けられている装置から取り出したものだね。俺からみた右がアシアがいた場所の。左がこの場所のアンティークから回収したリトスだ」


 ジェニーは呟いた。感情をなくした目で、見下ろしていた。コウはその様子が気になったが、話を続ける。


「闇市場? フユキさんが前にいっていた奴か。じゃあこれからは俺が買い取るよ」

「なぜ? あなたにこんなものが必要なの?」

「今からそれを説明する。アシアから聞いた、大変重要な話だ」


 その一言で、全員が身を強ばらせた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 「露骨なやり方」を予期して元市長を説得しておいたコウ君ファインプレー。しっかしすげぇ規模の「次善の策」だぁ……。 傭兵機構は……要らぬことを考える首をいくつか刎ねよう(過激なる提案)。 […
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