バルバス・バウ
F811要塞エリア跡地で戦闘が開始されたころ、シルエットベースが隠されている山脈麓の野営地から大量の戦車が現れた。
その数、三十二輌。最新鋭の主力戦車ファイティングブルだ。コウ設計のシルエットベース製戦車である。
別方面から迂回して合流したのは、八輪装甲車。その数は四方面六十四輌で、戦車駆逐型、対空型、砲撃仕様の迫撃砲型まで様々だ。
まったく別方面からそれぞれ侵攻を開始したが、やがて全部隊が合流し、目的地であるP336要塞エリア跡地に向かっていた。
P336要塞エリア跡地指揮官セストは慌てた。
地政学上重要拠点ではあるが、大規模な要塞エリアでもなく、まさか自分の拠点に攻めてくるとは思わなかった。
戦力はエニュオがある。前線に比較的近いため、配備されていた。
「敵部隊は戦車と装甲車だけか?」
「現在確認されているのは、それらだけです」
「例の四脚型のシルエットは?」
「確認できません」
配下の傭兵もよどみなく答える。
「ふむ。ならばアント型を二百程向かわせろ。足止めにはなる。コントロールセンター、いいな」
『了解しました』
「傭兵部隊はコントロールセンターを警備せよ」
「は!」
敵の情報を確認する。
「戦車や地上部隊でシルエットもなし。どうやってシェルターを破壊するんだ。レールガン乱射程度じゃ、破壊できないのは向こうだってわかっているはず」
現在戦闘中のF811戦闘エリア跡地が激戦なのはわかる。アシアが封印されているからだ。
だが、あそこはストーンズの支配地域でも最深部ともいえる場所。辿り着くには多くの要塞エリア跡地が立ち塞がり、到達しにくい。補給線も長くなる。
現在、敵工場区画奪取を目的に戦線を伸ばしているストーンズにとって警備が薄くなるのも当然。それならば最前線に兵力を送り込みたいところだ。彼らの資源に余裕はない。
海からの大規模部隊の奇襲など考えもしなかったのだ。
「海から?」
P336要塞エリアも、海から遠いとは言い難い。
だが、それでも二百二キロ以上離れている。海からの戦力はたかがしれているはずだ。何せ、可能性がある部隊は今F811要塞エリアを襲撃しているのだから。
通信が入る。
「なんだ?」
『現在海上にいる艦名アリステイデスより、当P336要塞エリア跡地に着艦許可を求めています』
「は? どういう意味だ!」
『文字通りの意味です。シェルターを解放し、市街地エリアに着艦したい旨の連絡がオケアノス経由できています。許可しますか?』
「できるかぁ!」
敵が何を考えているのか。セストは悲鳴に似た叫び声でコントロールセンターのAIに回答する。
この肉体はD級構築技士。大きめの施設を動かせる程度だ。現にこの要塞エリア跡地ではアント型中心に生産しているのだ。テルキネスのような戦闘特化のマーダーは作成できない。
「その軍艦の警戒も怠るな! 人類側の軍艦で飛行できる宇宙艦など数隻しかない。まさか飛んでくることはないだろうが、絶対ないとも言えまい」
その懸念は見事に的中する。
アリステイデスは飛んできた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あー。こちら船名アリステイデス。オケアノス及びP336要塞エリア跡地に寄港許可をいただきたい。どうぞ」
バリーがやる気がない声で、大画面モニタに向かって語りかける。
『P336要塞エリア跡地より拒否されました』
アリステイデスを管理しているAIライブラ1より回答がある。このAIもアストライアのコピーだった。
「ですよねー」
茶化しながらライブラ1にこたえるバリー。
当然だ。シェルターをあけて彼らを迎え入れてくれるなど、バリーも思っていない。
オケアノスが管理する衛星砲に攻撃されないための、通過儀礼。儀式の一種なのだ。
「これより当艦は突撃を開始する。総員、最大衝撃に備えよ」
各地で作業をしているファミリアやセリアンスロープに衝撃が走る。
「パイロット各員は出撃用意」
MCSの衝撃対策は完璧だ。パイロットたちは次々とMCSに乗り込む。他乗組員は、避難エリアに移動した。
バリーはいそいそとパイロットルームからMCS型の個室に移動し、乗り込む。
「やっぱり俺はパイロットのほうが性にあってるな、っと」
強襲揚陸艦のパラメータを表示させる。オールグリーン。問題なしだ。
「いくぞ。船体浮上。飛行に移行する」
『了解しました』
アリステイデスの背面から、大出力のスラスターが火を噴く。
「ウィス最大展開。重力影響下、最大解除」
この船体を浮かせるパワーは並大抵ではない。反重力装置など、ない。
そこで高次元エネルギー、ウィスを使うのだ。
重力とは惑星の引力と回転による遠心力だ。四つの力。強い力、弱い力、電磁気力、重力。このなかで重力に働く力が最も弱い。
何故この重力がもっとも弱い力になるかというと、重力に働く力が余剰次元に漏れ流れていることが原因なのだ。
ウィスによって、この余剰次元に流れる重力を調整することによって、僅かなエネルギーで巨大な船体が浮くことが出来る。
アリステイデスは、静かな水面から、水しぶきを撒き散らしながら空中に舞い上がる。
「バラストタンクの中身を金属水素に変換開始。最大限で頼むぞ。バラストの中身は満載だぜ!」
バラストタンクの海水を、金属水素の燃料にして推進剤にする。
「アリステイデス、最大戦速。目的地、P336要塞エリア跡地。これより突撃する!」
アリステイデスは徐々に加速し、上空に飛び上がる。
時速二百キロを超す速度で、P336要塞エリアめざし飛翔する。
『敵シェルター解放。エニュオからの砲撃、きます』
「面舵いっぱい! おりゃ!」
ジョイスティックを全力で右に倒す。
「大きい舵をぐるぐる回したら絵になるんだがなぁ!」
右方面へ進路を移動するアリステイデス。遠距離砲撃を全弾回避する。
宇宙艦の機動性であった。
「これって砲撃できないの? ライブラ1」
『艦砲がありません。防御兵装のみです。コウを急かしてください』
「わかった! あいつ兵器ばっかり作りやがって! 艤装もちゃんとしろってな!」
速度を上げていくアリステイデス。
シェルターが眼前に迫ったとき、シャッターが閉じた。
「バルバス・バウをラムモードへ変形! 一気にあの壁をぶち砕く!」
バルバス・バウ――船体の喫水下にある、球状艦首だ。造波抵抗を少なくするため備えられている。
宇宙航行可能な強襲揚陸艦であるアリステイデスは、突撃用にこの艦首を衝角としても使用できるようになる。
二十一世紀でもバルバス・バウが衝角になり船体を貫いた事例があるほどだ。
「えー。P336要塞エリア。こちらアリステイデス。強硬着陸する。すまねえな!」
相手に通告だけはしっかり行う。
「カウント5いくぞ! 総員、備え! 5、4、3、2、1!」
一度地面に胴体着陸し地面を削るも、まったく減速せずシェルターに衝突するアリステイデス。
さすがに全ての衝撃を殺すことはできず、船内は激しく揺れるが対策していた乗員たちに被害はない。
バルバス・バウが巨大なハンマーと化す。
シェルターを破壊し、そのまま胴体着陸する。エニュオの砲撃を滑りながらも回避し、要塞エリア内を移動していった。
激しい振動が収まり、甲板にシルエットが姿を現す。群がろうとするマーダーに対抗するためだ。
遠くに見えるエニュオ。
「強襲着陸成功。各員、出撃準備。揺れが止まったらなんて甘ったるいことはいうなよ!」
バリーが指揮官らしく、号令を飛ばしていく。
普段コウがみたことがない顔だ。
「さあ、出撃だ。左右ハッチは戦車部隊を優先な! シルエットはあとだ。航空部隊は攻撃機仕様で出せ。シェルターのなかじゃ制空権なんてあったもんじゃない」
的確に部隊へ指示を繰り出す。甲板のエレベーターから対地攻撃仕様の多目的戦闘機が運搬されていく。
左右のハッチ、そして後部のウェルドックから戦車が次々と現れる。
「エニュオの砲撃ではアリステイデスは落ちやしない! 何せAカーバンクルの高次元投射装甲だ。だが、あいつに殴られたらさすがに耐えられん。十分以内に決着を付けろ!」
具体的な事例を交えながら、号令を放つ。
何故、どうして。それが欠ける戦場は士気が低下するのだ。作戦時に説明しているが、号令とともに短く交えるのがコツだ。
「支援部隊、迂回はしっかりしろよ? シルエット、とくにクアトロ。浮き足立つな。戦車を壁だと思って信頼しろ。さあ、行ってこい!」
シルエットやクアトロ・シルエットがスロープを使って出撃していく。
指示通り、次々と強襲揚陸艦アリステイデスから各部隊が展開される。
「派手にやったな、バリー」
モニタにセントバーナードの笑顔が浮かび上がる、リックだ。
「あとは任せた。疲れたぜ」
「任せたまえ。いいかんじに巨大な孔を開けてくれた。これぞ突破口だ!」
アリステイデスが開けた巨大な孔から、戦車部隊が流れ込んでゆく。
「アリステイデス所属シルエット部隊、シルエットベース部隊合流完了。P336要塞エリア跡地攻略戦、俺たちの勝利は間違いない!」
檄を飛ばす。
これも指揮官として非常に重要な仕事なのだ。
艦内では万が一の制空戦闘に備えていた多目的戦闘機が対地攻撃装備に変更し、出撃準備を行っていた。
エニュオが集中的に砲撃を受けている。シルエットベースからの支援部隊の車両を含めると、火力は相当なものだ。
「前はあんなに怖かったエニュオも、今となっちゃ的だな」
バリーは大きく深呼吸し、椅子に身を沈めて呟いた。




