『新人』の女の子
翌朝、隊の集合とともに出動かと思われたが、隊長がなかなか来ない。
あの時間にうるさい隊長が遅れるなんて雪が降るのかな、と考えていると横にいたネルが肩を突いてきた。
「ん、どうしたネル?」
「隊長、遅くないか?あの時間にうるさいツヴァイ隊長が遅いってかなり変だと思うんだが。」
「やっぱりネルもそう思うよな。隊長何してるんだろう。」
「そうだな、俺の予想だと新人が来るとかだと思うぜ。」
「新人かー、流石にこの時期にはないと思うけどね。俺は支部長とか上の人に呼び出されて怒られてるんじゃないかと思うけど?」
と、ネルと話していると隊長が誰かを連れて走ってきた。
その瞬間、周りで話していた隊員全員の声が消え、静寂に包まれた。何人かの隊員は隊長を睨んでいるように見える。おそらく訓練の時に時間のことで散々扱かれたのだろう。
「えー、遅れてすまない。ちょっとした対応トラブルがあったのと支部長に呼び出されてだな…」
言い訳にしか聞こえない言葉を必死に紡いでなんとか取り繕うとするも、隊員達の無言の圧力は止まらない。あとネルと俺の予想はどちらも合っていたようだ。
「…そ、それは置いといて、今日から我が隊に入った新人を紹介しよう!さ、前に出て挨拶を。」
隊長は逃げるように横の方に下がり、代わりに『新人』が前に出てきた。そして、
「後方支援部隊β–3のソンブレロから転属してきましたシエルです。よろしくお願いします。」
と栗毛の少女は緊張しているのか若干俯きながら小さな声で言った。風が弱く吹き、髪が少しなびいている。
「ほー、隊に女子を入れるなんて珍しいな。しかもあんなに華奢なのに。」
実力がかなりあるんだな、とネルは呑気に話していたが、俺にはどう見ても実力があるようには見えなかった。なら何故最前線に来たのだろうか。
「さて、挨拶も済んだ事だ、シエルには第7グループに入ってもらう。それでは、部隊α−4出陣だ!」
と、号令が聞こえた。さっきまでオドオドしていた隊長の調子が戻ったようだ。
というか今、俺とネルのグループである第7グループって言っていたような…。
グループというのは戦闘の際に一緒に行動し、敵を倒すもので普通は2〜4人ほどで組む。俺の所属するグループはネルと2人だ。そこに今の新人が入ってくるみたいだ。
ちらりとネルの方を見ると目を見開いてる。でも念のため聞いてみる。
「な、なあネル。シエルって子が第7グループに入るって聞こえたんだけど空耳かな?」
「…だと良いんだけどな。」
どうやら空耳ではなかったようだ。