戦争の理由
ちょっといつもより多いです。(いつもは1200文字くらい、今回2000文字くらい)
長距離の移動が終わり、基地本部に戻って頃には日は沈んでいた。
俺たちは食堂に直行し、夕食を取りに行った。
今日のメニューは鳥と野菜の炒め物とご飯、味噌汁と和風なメニューで久しぶりの温かな食事が素直に嬉しかった。いつもの食事は味気ないパサパサの保存食だし。
先に食堂に入って行ったネルはさっさとご飯を取りに行っており、俺がトレーに全ての料理を盛り付けた頃にはもう席に座って食べ始めていた。
俺はネルの向かいに座って「いただいます」と言って食べ始めた。
最初は黙々と会話もせず食べていたが、ふとさっき思い出した日の気になった事を聞いてみる。
「なあネル。」
「んあ?なんだ、マサト。いつにも増して暗い顔しやがって。」
彼は今日の夕食の肉を頬張りながらこちらの話に耳を傾けてくれた。
「始まりの日のことを覚えているだろ?」
するとネルはみるみるうちに不機嫌になっていった。
「ああ、もちろんだ。あの『Ma』のおかげで今の俺たちがこんな毎日戦うはめになってるんだから当然だろ。」
メカニカル・アポカリプス。通称『Ma』————始まりの日に映っていたあのケンタウロスもどきの呼び名だ。
「俺、ふと気になったんだ。どうしてAIが俺たち人間に逆らってまで戦争をし始めたのか。」
「はあ?そんなの決まってるだろ。人間にこき使われていて頭にきたんだろ。」
確かにもし人間だったらこき使われるのは嫌だろうし叛逆もしたくなるだろう。
「だけどAIには感情がないからそれは違うと思う。元々AIや人工知能は人間より効率的に動くために作られている。たとえ学習機能がついていたとしても問題を入力する人や物がいないと動かないから反乱を起こすことはほとんどないはずなんだ。」
「…何が言いたい。」
「だから、もしかしたらアーティファクト達のボスはAIじゃないかもしれない。なんというか、あちらの動き方が少し効率的ではない部分もあって、作戦も完璧ではない。」
「その根拠はどこから出てくる。軍事用に作られたAIでも多少のミスや誤差があるのは当たり前だろう。」
「わからない。ただなんというかどことなく人間臭い気がする。」
「はあ?なんだそれ。」
とネルは呆れたような顔をしていた。
「お前、いつもは的確なこと言うのに、たまに変なこと言い出すよな。」
「そうかな?」
「ああ、だが面白い冗談だったよ。」
冗談ではないのだが、とりあえずネルが笑ったのを見て安心した。
会話をしている間にネルも俺もいつのまにか食べ終わっていて、そろそろ片付けようかと思っているところをネルが俺の分の皿を持って行こうとしていた。
「え、ね、ネル。何で俺のトレーも持ってこうとしているの?」
「先に部屋に戻ってろ。お前さっき死にそうなほど疲れ切っていた顔をしていたから片付けてやるよ。」
「え、あ、ありがとう。」
そしてネルはトレーを持ってカウンターに持って行く途中俺の方を振り返りさっきまで忘れていた事を思い出させてくれた。
「あ、そうだマサト。部屋に戻ったら愛銃のメンテナンス忘れるなよ。疲れてるからって流石にサボったら死ぬし。」
「…ああ、わかっているさ。」
俺はそっと愛銃を引きよせ、丁寧に持ち直すとそのまま食堂を出て自室に戻って行くことにした。
部屋に入り、さっさとシャワーを浴びて体の汚れを洗い流す。この瞬間、シャワーが浴びれる瞬間が幸せな事だといつも身に染みて思う。
テキパキと滴る水滴を拭き取りベットに倒れこむ。
「ふぅ…。」
そしていつものように意識を手放す…寸前に不意に思い出した。そうだ、銃の手入れしなきゃ。明日からの戦いに肝心な時に壊れてしまう。
すっかり眠たくなっている頭を無理矢理覚まし、ベットから勢いよく起き上がると脇にある道具と愛銃を手に取った。
愛銃『瑠璃』、それは俺の命といっても過言ではない。M14を基としたアサルトライフルであり、600mほど離れた相手にも近距離の敵にも当てられるようになり、かなり汎用性を高めた物らしい。らしいと言うのは周りの今の隊長やネルあたりとしか比べたことがないしそんなに詳しくもないからだ。そういえば反動が小さく、細身なマサトでも使いやすいやつとネルが評価していたな、と思い出しつつメンテナンスを手早く済ませる。掃除をし、トリガーやマガジン、バレルなど普段火薬がよく触れたりして壊れたら事故になりかねない部分をまず見ていく。
ふむ、トリガーが少し緩んでいるな、中の部品を調整してっと…。後はサイレンサーなどの付属部品の汚れや傷を見て掃除をしたり交換する。ここは最前線としては珍しく資源が供給される頻度が多い。武器の交換は出来るときにしなくては後々苦しくなる。
掃除も含め、30分ほどでメンテナンスが終わった。普段はもう少し早いが、今日は調整部分が多かったからか時間がかかった。だが、銃の手入れを怠ったらそれこそ大事な時に命が危ない。この銃に俺の命が込められているのだ。
銃を片付け、再びベットに倒れこむ。疲れの波が襲いかかり、意識が飲み込まれていく。また明日、ネルと話せたらいいな。