4.夜会
そして、北の都の宮廷の大きな一室に着き、持参した礼服を着てみた。1週間の旅の途中では運動もできずに山のような食事を振る舞われ続けたので、また更に腹が大きく突き出してしまい、腹が礼服に全く入らなくなっていた。メイド達が総掛かりで礼服を仕立て直し、なんとか膨らんだ巨腹を礼服に入れることができた。夜会に出て、いつもの調子で食べ物を平らげたら、この礼服を爆発させてしまうのは必至だ。今日こそは食欲に負けないようにしなければ。
夜会では、第二皇子は私に第一皇子と皇帝陛下、皇后陛下への略儀での拝謁をさせ、多くの貴族たちに私を紹介して回った。
夜会と言えばダンスであるが、流石に皇子は私を誘うなどはしないであろう、と思っていた所、真っ先に皇子にダンスに誘われた。会場中からの視線が痛い。
私はダンスが苦手中の苦手。一応、貴族として最低限は身につけたが、一生殿方と踊る機会など無いのではないか、と思っていた。
皇子は私の胸あたりまでしか、身長がなく、その上にこのドカンと突き出した腹である。皇子の腕は私の腰どころか脇腹まで届くのがせいぜいで、ダンスのステップを間違える度に皇子の身体が私の腹に埋まってしまう。酷いときには、私の巨腹に皇子の身体が完全に乗っかってしまい、皇子の足が床から完全に浮き上がっていた。皇子の足だけは踏むまい、とだけ考えていた。踏んだら皇子の足は大怪我だ。2曲も踊って私はげんなりとしてしまった。
貴族達への紹介の時に、皆が私を見る目は笑っているようにしか見えなかったが、皇子はまだ12才なので、とフォローを必ず入れてくれた。これ以上、私に惚れさせてどうするんですか、皇子!と言いたい位に格好が良かった。
そして、「アソコにいるのがドンギラス子爵夫妻じゃ。妻の方はかなり大きいであろう」、と言いながら二人は子爵に近づいて行く。奥さまは私から見ても頭半分位は見上げるような長身で、あんこ型相撲取りのようにでっぷりとしている。私より重いかも、と思えた。私と同じような腹の突き出し具合で、中肉中背の旦那様は奥様のお腹にしがみついても奥様の脇腹までも腕が周り切らなさそう。
「皇子殿下、今日もお元気そうで何よりです」と子爵が挨拶して来ると「お二人ともお元気そうでなによりじゃ。お二人ともまた今日も仲睦まじいようでな。」「殿下、有り難うございます。ちなみにそちらの姫君は?」「アスカル辺境伯のご息女じゃ。余が伯に願って姫をエスコートさせてもらっている。まだ、12才であるから、まだこのような場所は早いのかもしれんが」と皇子が言うと「なる程、姫君は身体が大きいので気が付きませんでしたが、お顔がかなりまだ幼い感じですな」「うむ。これからどんどん美しくなられると余は思っているぞ。ちなみに子爵夫人が12才の時には、この姫と夫人とどちらが大きかったか記憶にあるかの」と皇子が聞くと、「いくら私でも、まだ12才ではここまで大きな身体ではありませんでしたわ。それに今の私のこの腹は子供を産んでからの肥満と、中年太りのせいですから。辺境泊の姫様は私など及びもつかない程の巨大な腹を突き出した体格へと将来はますます成長なされましょう」ととんでもなく不吉な事を言った。私は痩せるんだって決心してるのに、とそんな会話を交わす二人に溜め息をついた。「それでは今夜も是非お楽しみ下され」と皇子は言うと二人から離れ、私も付いて行く。
「姫、余の初恋の相手があの子爵夫人なのじゃ。なに、子供の頃の懸想ゆえ、あの二人も笑っているがの。だから、あの二人にとって、余が姫を伴って歩いているのを見て今心底ホッとしているじゃろう。余が成人したら、子爵に別れて妻を差し出せ、などと言われないだろうかと心配であったであろうからな。流石に余がそんな横紙破りをする愚昧な人間ではないことは幾ら分かってはいても、心配になるのが常の人ぞ」と。私が「皇子さまは大きな女性がお好きなのですか?」と聞くと皇子は驚愕の表情を露わにして私を見上げていた。
「姫、知らなかったのか?辺境伯はどのように言って姫を余に預けたのだ?ああ、辺境伯も姫が帝国貴族には常識と言っても良いことを知らないとは思ってもいなかったのであろうな。余も姫と語らっていて奇妙には思っていたのだ。ちょっとこちらに来るが良い」と言って、我が家の執事を探すと手を上げ、爺やが走って来る。私の家から常に側に付いていて来てくれた近衛騎士も走って来た。多分、皇子は律義に私と二人きりにはならないように気をつけているのであろう。
夜会の大広間を抜け出して、長い廊下を4人で歩き、ある部屋に入った。「姫、この部屋には我が先祖達の肖像画が飾ってある。帝国の歴史700年皇帝36代の肖像画がこの部屋に飾られているが、気が付く事はないか?まず、この帝国中興の祖であるアンリス2世の妃との肖像画を見てみて欲しい。」
私はその肖像画を見て驚いた。皇帝の背は后様の胸辺りまでしかなく、后の身体の横幅は皇帝の3倍はありそうだ。他の肖像画を見ると、そこまでではないが、かなりの人数の皇帝が縦横に自分より大きな后を従えていた。
「帝室には大きな女性を好きになってしまう血が流れているのだよ。時々そういう皇族が現れるのは世にかなり知られている」と。
日本人の時に自分がデカデブ女で凄く嫌な気分であったのに縛られて、帝室男性の女性の好みについて、世間では常識だと思われることに全く気が付いていなかったのだ。
「皇子さまも大きく太った女性が好きなのですか?」と聞くと「余の初恋の相手はドンギラス子爵夫人だと言ったであろう。才気煥発な姫も、時々呆けた事を言うの」と言って 呆れられてしまった。えっ、もしかして、私の事を「美姫」とか言ってたのは冗談ではなかったの?私は真っ赤になって燃え上がっているような顔をうつむかせた。




