農業チートにおける問題点
農業チート、あれに対して私が批判的な立場になる理由、それは歴史的に水源利用や生活環境の改造にはリスクが多くつきまとうからです。
私は本業が農業ではないので、植物の育成や作付等に関しては深くは突っ込む事はできませんが、それでも生物学、自然学的な観点からなろうの農業チートにおける問題点を語って見たいと思います。
例えば米を作る時、大きなリスクが潜んでいることをご存知でしょうか?水田という場所には、実は恐ろしいパンデミックが起こる可能性があるのです。
これは日本でも近年まで起こっていた話であり、今でも東南アジアを始めとして世界中で住血吸虫と呼ばれる寄生虫によって起こされ、つい最近まで不治の病と言われたとても重篤な症状が起こる恐ろしい病気があるのです。
日本では甲府盆地をはじめ、九州の筑後川流域、広島県片山地方、静岡県富士川流域などに日本住血吸虫症の流行地があり、それは地方病などと呼ばれておりました。
日本住血吸虫は、沼や流れの緩やかな淡水に生息する巻き貝を中間宿主に増殖しますので、水田というのは彼等にとってはとても住みやすい環境と言えます。
稲作で住血吸虫の巣といえる水田で水に触れると罹患しますので、こういった地域で稲作をすることは命懸けで、特に甲府地方では地方病が流行る村に嫁に行く時は嫁入り道具に棺桶を持っていく様なことまであったそうです。
こうした危険な寄生虫の存在の知識がない主人公が、米が食いたいから水田を作って稲作をしようなどと考えた時、きっと安易に水田を作って稲作を始めてしまうでしょう、そして水田は大量の水を使いますので、今まで使っていない様な水源地から灌漑をして水を引っ張ることになるのでしょう。
この今まで触れる事が無かった新たな水源が、実は目に見えない住血吸虫に汚染されてたとしたらどうなるでしょうか?
その地域が稲作に適した地域であれば、住血吸虫にも住みやすい地域ですので、この目に見えない小さな寄生虫は人間の周りでどんどん数を増やしていくのです。
今まで稲作をせず、寄生虫の感染源である淡水にあまり触れることがなかった異世界では、現代のような住吸血虫に効果的な薬もないでしょうから、数年後には様々な重篤な合併症によって死に至る恐ろしい不治の病が発覚し、大量の死者や腹水が溜まって苦しむ異世界の人々が溢れかえる事になると思われます。
実際、地方病に関しては日本でも顕微鏡が出来る近代まで原因不明の不治の病だと言われてきた病気で、症状は腹部に水がたまり動けなくなり、貧血や激しい吐き気に悩まされて苦しみ、脳に入ると神経麻痺やてんかんなどを引き起こして、とても悲惨な死に方をするのです。
この恐ろしい寄生虫被害は多くの人々の熱意と努力によって1980年に安全宣言が出され、そこから20年経った2000年に終息宣言をだされましたので、現代の日本ではちょっと古い話だと言えますし、高校生や大学生などの若い方が知らないのは当然だと思います。
ですがこの恐ろしい病気は日本以外の地域では未だに猛威を振るっていますし、この寄生虫が絶滅した訳ではなく、未だに海外で罹患するケースは多く、未だに過去の病気などとは口が裂けても言えない現状があるのです。
日本で根絶が出来たのは、そうした恐ろしい病気に対抗する術が無いかと、我々の先達が必死になって様々な方法を模索した努力と執念の結果といえます。
その執念の先にあった物は、まさに逆転の発想と呼べる手段であり、今まで成し得なかった該当地域の被害を劇的に減らす事に成功しました。
それは汚染源である淡水に触れる稲作を避ける事、彼等は稲作以外の作物を作るように農家に指示したのです。
それと平行して、日本住血吸虫の中間宿主である宮入貝という巻き貝が生息できない様、水路をコンクリートの用水路にして水の流れを早くする方法をとりました。
コンクリートは表面が滑らかであり、更に水流が早けれ宮入貝の餌になる藻などが生えにくいので、宮入貝の生息に適さない環境になり、宮入貝が減ることによって、中間宿主が居なくなった住血吸虫は増えることが出来なくなります。
こうして該当地域でも、水が汚染されず安全に農業を行えるようになり、医師や事業に関わる多くの人々の努力と情熱によって、千年以上謎の病気とされて多くの祖先が犠牲となった恐ろしい病気は収束したのです。
日本食ウマーな話を書きたいだけで、あやふやでいい加減な知識チートも良いですが、きちんとした知識を持って、こちらの世界でも長く不治の病と言われた病気を倒す、そんな話を書くのも格好良いんじゃないなんて思いませんか?私こういうお話大好きですよ。
きっと私のエッセイ作品を読まれる方は、こういった話結構好きなのではないかと思いますし、エッセイの評価を見るに期待する読者も多いと思うので、チートに飽きたら書いて欲しいなーなんて思ったりします。
農業に関わる恐ろしい話はまだまだ有りますよ、なろうでもよく見るタイプの効率の良い農機具を作るなんてのは良く有る話ですが、実はきちんと理解していないと非常に恐ろしい事が起きます。
それは人為的な砂漠化、風土や環境をきちんと理解せず、道具の性能だけを考えて目先の利便性や利益だけで安易に土を掘り返して耕した場合、その後何が起こるのかを書いてみましょう。
これは実際アメリカ農業で鋼鉄製の鋤が起こした悲劇、文明の利器が表層土を深く掘り起こしすぎた結果によって起こった風食被害の大問題を語ってみましょう。
まず、誤解を恐れずに農業という活動を語るのであれば、それは元々有る自然環境を破壊し、人間の都合の良い様に大地を再加工をした上に、食料になる植物だけを育てて行く事と言えます。
自然は人間の想像以上に寛大では有りますが、その懐の大きさに甘えて許される範囲以上の農地を広げた時、人間の傲慢さを窘めるような命を脅かす様な大きな災害が発生します。
1900年代初頭のアメリカ各地では、鋼鉄製の革新的な農具や内燃機関の発達による新たな道具であるトラクターによって、沢山の農民たちが草原や森などを切り開いて開墾し、旺盛な需要に答えるために、広い農地を確保して小麦の増産に努めていくのです。
この時の世界は、新しい技術がどんどん生まれた活力がある時代であり、第一次世界大戦もあったので小麦の値段が高騰してた時期でもありました。
全ての人々が豊かな食生活を求め、沢山の草原や森の土を深く掘り起こしていきます。
そうして彼等が豊かさを求め、草原を文字通降り鋼鉄で切り開いて作った農地は、表面に生えていた草木によって保たれていた治水力を失い、日照りによって表層土を太陽に照らされて乾燥し、砂塵となって舞い上がったのです。
鋼鉄製の先進的な農機具という、人類の知識によって引き起こされた恐ろしい人災は砂塵で太陽を隠し、昼間を夜の様に真っ暗にする程の砂嵐、所謂ダストボウルを引き起こしたのです。
こうして皮肉にも豊かにするために作られた農機具によって、彼等は自らの住む街を追い出されてしまう危機に瀕します。
砂塵が目に入る事で眼病、粉塵を吸い込んだことによる肺病などの健康被害、前が見えない為に交通事故や方法感覚を失っての行方不明などの被害、砂漠化によって人が住めない土地が出来るなどの大きな問題が発生したのです。
こちらについてはアメリカの1930年台の状況を調べると出て来ますので、興味が有る方は一度覗いてみると詳しいことが分かると思います。
なろう的に良く出てくる世界観ではパンが主食の設定が多く、原材料である小麦を食していますので、チート主人公達がもたらした先進的な農機具によって、同様の問題は確実に起こると私は感じています。
そして同時にその解決案は、こちらの世界同様の方法しかないのではないかと考えています。
詳しく調べるのは面倒な方向けに簡単な解決案を語ると、そもそも鋼鉄製の鋤のような道具で農業で深く土を掘り返さない、農地の間に防風林などを作る、儲かるからと言って同じ作付を行わない、草の生えない表層土は乾燥し易いのでまめに水を撒く、そもそも農地を広げすぎないというものですが、知識チートによって便利な道具を手に入れた農民は先の事など考えず、皆喜んで農地を広げていくでしょうし、農業を知らない貴族なら税収が増えると考えて推奨するでしょう。
主人公が農地をコントロール出来る立場にあればいいですが、大体の話では目立たない為に隠れていますし、その危険性すら認識して居ないのが殆どでしょう。
更になろうファンタジー的な中世風世界では主人公を引き立たせる為に、異世界人は無知であり愚かでなければなりませんから、こういった自然学や地理学的な知識を持っている知恵者は主人公を目立たせる上では邪魔であり、主人公を発端にした自然破壊は留まる事を知らないでしょう。
主人公の知識によって作られた鋼鉄製の鋤のお陰で国中が砂塵によって滅ぶ、大抵の農業チートはこういった問題点を考えないものが多く、私的には非常に恐ろしくて読めないのです。
やはり知識と言うのは総合的な考えの元に使うべきですし、それによって引き起こされる問題点などをきちんと考えた上で物語に使うべきです、貴方の知識で世界が滅びの危機を迎えてしまいます。
主人公が国を滅ぼす魔王に成らないよう、こういったリスクを回避する方法も考えてみては如何でしょうか?きっと色々な山あり谷ありの凄く面白いお話ができると感じます。
「素人が適当に考えた妄想だから」「そんなの話に入れたらリズムが崩れる」「なろうではスピード重視」そんな言葉を免罪符にして目をそらすのは勿体ない、きちんとした知識でもって想像の翼を広げる事は、物語を豊かにさせる無限の可能性を秘めています。
私達の世界を知れば、そこには色々な設定の種といえる素晴らしい知識があります、それは貴方が正しく想像を膨らませて物語を描く助けになり、あなたの物語に説得力を産み出す原動力になるのです。
そうした説得力のある素晴らしい作品が生まれる素敵ななろうを目指して、みんなで自分の知っている色々な知識を語ってみませんか?私も出来るだけ色々な知識を提供して、皆様の豊かな想像の足しになれると良いなと考えています。
ご指摘いただいた表記ミスを部分を修正しました。