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人らしく

本編のほうに投稿してましたがこちらに移しますねー

 『人』、という漢字がいる。この漢字の能力は人らしくなろうとする、ただそれだけである。人らしく産まれ、人らしく育ち、人らしく学び、人らしく恋をして、人らしく老いて、そして人らしく死んでいく。そう、数少ない死んでも再び復活する漢字である。復活というよりは生まれ変わり、転生に近いが……。だが、漢字であることの自覚はあれども前世の意識は持たない、あくまで人らしくあろうとするのだから。


 だが、人らしくなろうとするのであって、人ではない。『人』は意思を持ってから今代まですべての人生で安泰であったことは未だかつてない。

王子として産まれれば国家は転覆し、逃亡生活を送りその末で殺される。

貧しい家に産まれれば生涯貧しいまま、より貧しくなりそのまま死んでいく。

裕福な家に産まれても病に侵され家から一歩もでることなく病死する。

恋をした幼馴染は両想いになれても貴族へと嫁いでいき、自分は結婚することなく、できることなく死んでいく。

学校で勉強に励んでもそれをねたんだ周りの者たちに濡れ衣をかけられ退学させられる。


 人になるために『人』は試されているのだ。この不幸な人生から抜け出してみせろ、と。そして幸せになれたと感じたときこそこの漢字は攻略となる。だが、それは自力では不可能だ。なぜなら漢字の『人』ではなく真の“人”が関わってこそ『人』は攻略となるのだから。


 『人』の人生は毎回様々だ。様々な人生で不幸になり続ける。王子であったり貴族の息子娘であったり一般家庭で産まれたり。共通するのは内面、彼――便宜上『人』を彼とする――は悪人として生きたことはない。決して清らかな聖人だったわけではない。時にはいたずらをしたり、生活するために仕方なく食べ物を盗んできた。だが、進んで悪事を、人を傷つけるような行為は行わない。人の道を外れるような行為は行わないのである。

 そして今回、彼は冒険者としての生を受けた。彼の人としての名はマツ、この人生が彼の最も新しい人生である。



 マツは産まれてから存在感の無い子供であった。一般的な家庭に双子で彼は産まれた。だが、彼は両親に世話をされることは少なかった。もう一人の弟は世話をされるのだが、彼はその存在を忘れられ世話をめったにされなかった。それでも何とか成長することができた彼は冒険者となり家を出た。彼が冒険者となった理由は二つ、手っ取り早く自分の収入で暮らしたかった、それと漢字を所有できたからである。

 『人』の例外的なところは生まれ変わるだけでなく、漢字を所有できることである。他のどんな漢字にも真似できない、それが不幸な人生を送る『人』に与えられた特権であった。


 マツが所有する漢字は二つ、『隠』と『影』だ。何とも彼らしい漢字である。人の“影”に“隠”れてしまい目立たず生きてきた彼にとってこの漢字は所有することが当たり前であったような漢字だ。


 この冒険者生活でも彼は当たり前のように一人であった。パーティーを組めば置いていかれ、仮に組めても範囲攻撃で共に攻撃される。彼は孤独を強いられた。

 幸いなことに、彼の戦闘スタイルは一人で闘うのにも向いていた。『隠』の能力の『隠密』で隠れ様子を伺い、『影』の能力の『影縫』で攻撃する。これを繰り返して倒すのが彼の戦闘スタイルである。

 彼の存在は記憶には残らないが記録には残る。誰もが彼の戦闘を知らないが、ギルドの記録にはしっかりと彼の功績は残されていた。この功績により彼は一つのクエストをギルドより依頼された。


「『鬼』族の棲む山を探索し、内部の地図や敵の勢力を調査せよ」


 『鬼』、それは『人』と近しいものがあった。同じ漢字であり、人語を話し、形態も人に近い(『人』は人と同じ形姿であるが)。前情報としてはそのくらいしか知らなかったが、この漢字に興味が沸き、この依頼を受けた。

 

 調査の結果、『鬼』は彼の予想とは違った、最悪な意味で。『鬼』は人を喰らい人を辱め人を貶めていた。人であろうとしたマツとは違い、人とは決別した存在であった。


 マツの調査から討伐軍が結成され、彼もそこに加わった。数少ない保漢者ということもありここでならば目立つかと思いきや、『隠』と『影』を持つことは知られていたが名前を呼ばれることはなかった。だが、それでもどんな形ででも人に覚えてもらえたことが嬉しかった。ボーダというやつと友人になれた。みんなの役に立とう、俺がみんなを助けるんだ、そう思ってオソレ山に討伐軍とともに突入した。



 オソレ山で彼ら討伐軍を待っていたのは大量の鬼であった。だが、それはマツの事前の調査でおおよその強さもわかっていたためわずかな犠牲はあったが対処はできた。

 これならば勝てるんじゃないか、そう思い始めたとき、三匹の化け物が現れた。化け物ならば今まで闘っていた鬼も化け物であったが、強さの次元でその三匹は化け物であった。そしてあっという間に戦線は崩れた。もう駄目だと逃げ出そうとする者も現れた。だが、そうした者たちも山の隅々まで知り尽くした鬼たちは執拗に追い続けた。やがて彼らは追い付かれ殺されその場で貪り喰われた。それを見た人間はさらに恐怖により萎縮してしまいその隙をつかれ殺される。保漢者含む何人かの冒険者によりまだ闘えている状態だ。だがそれもいつ途切れるかはわからない。

 


 甘かったのだ。何もかもが。マツは己の調査不足を嘆く。山を調べたときはあの三匹は調べなかった。それ以前に山の頂上にある洞窟は嫌な予感がして入らなかった。マツはそれを大量の鬼がいるからだと思い、念のため『影縫』を使い洞窟内の地形だけは把握しておき、調査結果のところに多めの鬼を記載することで無理やり自分を納得させた。それが大きな間違いとも知らずに……。



 マツはならばせめて噂にある洞窟の中にいるという鬼族の族長を倒す、と決意する。敵の将を叩けばまだ戦線が回復するかもしれない。そしてそれは自分の役目だ。そう思いマツは洞窟まで『隠密』を使い辿り着く。

 洞窟内でも『隠密』を使い進んでいく。途中、何匹かの鬼と出くわしたが、どの鬼もマツに気づくことなくそのまま素通りしていく。

地図によれば最奥部まではもう少し、のところでまたも鬼がいた。これも自分には気づかないだろう、と急いで通り過ぎようとするが、その鬼はこれまでの鬼とは違った。


「んん~?何やら人間臭いですね。どれ、隠れているのがいるかもしれません。鑑定を使って探してみましょうか」


 それは洞窟の外にいたはずの化け物の一匹であったはずの鬼だ。追い付いたにしては早すぎるし、そもそもここで待ちかまえられるはずがない。


「どれどれ……いるじゃありませんか!ほう、『隠』と『影』ですか。どうやら保漢者のようだ。殺しておいたほうがいいようですねえ。それと、族長にも一応報告しておかないと」


 マツは慌てて『影縫』を使いその鬼を影で串刺しにしその場から逃げた。だが、しばらく走っていると


「ここにいましたか。随分と探しましたよ」


 なぜか串刺しにして殺したはずの鬼がまた行く先にいた。同じ鬼ではなく、似た鬼なのか?それにしては自分を知っている。鬼にも特殊な能力があるのだろうか。またもその鬼を影で串刺しにする。洞窟内は影ができやすく『影縫』は使いやすかったのが救いだ。

 マツは洞窟から抜け出し、山の中を走る。だが、またもあの鬼は現れた。


「貴様……不死身か」


「いえいえ、ちゃんと私は殺されてますし、その私は死んだままですよ。ただ数が多いだけ、です」


 やはり化け物だ。しかもこんなのが他に少なくとも二匹はいるのだ。端から勝機はなかったのだ。


「また私が殺されてもかないません。他の鬼たちに任せるとしましょう」


 化け物の鬼はその場を去る。そしてその場に残されたのはマツと大量の鬼。


「は、ははは」


 笑うしかなかった。木があるとはいえ、外では『影縫』は満足に使うことはできない。せいぜい数mほどだ。鬼どもに一斉に来られたらマツは死んでしまうだろう。


「「「「「ぐるらぁぁぁ」」」」」


 それでもマツは生き残るため影で鬼を少しでも殺し、それでも追い付かないときは剣で斬り伏せる。だが、やがて影を動かす力も、剣を振るう力もなくなった。


「あと……一匹だったんだけどな」


 そこで彼の――マツの――人としての人生は終わった。






 マツは生き残るために人として生きることを辞めた。そして鬼人となった。

『人』としての能力、それは人であることだ。だが、人であることを辞めることもできる。それは『人外吸収』。人ならざる存在を自分に混ぜ、その力を得るものだ。その力を使ってしまうとその人生で人として扱ってもらえるかはわからない。運が良ければ人の姿のまま、もしくは獣人とした姿になるだろう。だが、鬼を吸収した場合、鬼と人が融合した姿、そんな存在はいない。今のマツは身体が一回り大きくなり、頭からは決して小さくない角が生えていた。見た目も変わってしまっている。強面の男、としてなら通じるかもしれない。だが、頭の角が人であるということを否定してしまっている。精神面でも鬼が入ってしまっていれば幸せだったのかもしれない。だが、幸か不幸か彼の心は変わらず人であろうとしたあの心と同じだ。

 人となろうとしているのに外見のせいで決して人になれない、そんな矛盾が今の彼に起きていた。

 マツは鏡を取り出し自分の姿を確認する。


「あ、ああ……ああああああ……」


 最後の鬼は吸収されてしまったため周りには誰もいない。マツはその場から走り出し、山から降りた。

 山から降り、だがさらにマツは走り続ける。やがて能力を使いすぎたこと、闘いに疲れていたこともあり転倒し、そのまま気絶する。



 気絶したマツは気づかない。人が近づいていることに。


「大丈夫ですか?」


 マツを心配する声、それは少女のものだった。

そして彼と彼女は出会った。人になりたい彼と人を信じたい彼女が。


全く変えずに投稿しましたが、いずれ見直して修正します

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