『戯』 その5
急いだのでかなり雑
一時間で書こうと思えば書けるもんだなあ
「ドマ、どのくらい闘えそうだ?」
こいつが動けるのと動けないのとじゃ闘い方が全く違う。できれば近くにある湖まで連れていきたいんだが。
「ごめん、這いずって動くことしかできないや。でも空気中の水分で雹は創れるから俺も闘うよ」
「……じゃあよ、俺が時間を稼ぐからお前は少しでもあの場所に近づいてくれ」
「……そうか。わかったよ」
ドマは俺の考えを悟ったのか、頷くと上半身の力のみで動き出した。
「待たせたな。じゃあ俺らもやろうか」
「あら?愛しの彼はいいのかしら?あと少しでお別れなんでしょうに」
やつも刺した手ごたえでドマの残り少ない命の残量が分かるようだ。だから俺はそれを一時の感情なんかで邪魔はさせない。最後まで俺の役に立たせてやる。
「お前をぶっ殺した後にせいぜい一緒にいてやるよ」
俺はドマが動き出した方向よりも少し斜め前に動き出す。俺も最終的には湖に近づきたい。だが、一緒に動けばドマを巻き込んでしまうからな。
「……へえ、何か考えがあるみたいだけど。まあいいいわ。乗っかってあげる。どうせ彼もすぐに死んじゃうんだからあなたから先に殺してあげるわ」
ドマを殺しに行けばすぐに俺がその隙を狙って動くと分かっているんだろう。カバネも俺を追いかけて湖に向かう。
もともと、湖の近くにいたのだ。走り出してすぐ1分ほどで湖に辿り着いた。だが、この1分の距離が俺には大事であった。
「『幻焔』」
能力で創り出した幻の炎をそこら中にまき散らす。熱無しのこの炎は熱を送るよりも格段に広範囲に使える。
「その能力、さっき聞いてたわよ。見せかけなんでしょ?」
カバネはそう言って近くに炎に手を突っ込む。その通り、この炎は見せかけだ。お前に何の傷を与えられはしないさ。
「ただの目くらましね」
カバネは両腕をそれぞれ剣に変えてこちらに突っ込んでくる。もはや炎はないとばかりに無視している。
「その通り、目くらましさ。罠を隠れさせるな」
ジュッとカバネの足元で音がした。
「ギャ、ギャアァァァァ‼」
おそらく今のカバネの足は焼きただれているだろう。
「今お前の足元には俺が撒いておいた木の枝が散乱してあるだろうぜ。ちゃんと熱で火をつけた、な」
炎に触っても火傷も何もしなかったのは炎自体が幻であっただけだ。足元には別の火元が用意されていた。それに気がつかないなんてな。
「そして時間稼ぎも終了だ。見て見ろよこの湖。もう沸騰直前だぜ」
直後、湖が激しく沸騰を始め、蒸気が上がる。……このくらいでいいか。ほんの10秒ほどで沸騰を終わらせる。あまり熱を入れすぎるとこの後あいつが能力を使えないしな。
「ドマ!いいぞ、やっちまえ!」
「……ありがとう、ボタンちゃん。『大気二惑ワス水タチヨ』」
ドマが雹を創り出す。俺が湖の水を蒸発させたおかげでここら一帯の空気中は水分が豊富のはずだ。
俺は急いでドマのほうへと戻る。カバネは足に火傷を負っているため走れないはずだ。少しずつ近づいてくるがまだ俺たちには追い付けない。
「発射!」
ドマが創りだした何十、何百の雹がカバネへと撃ち出される。カバネは最初は両手の剣で弾いていたが、段々と身体に当たり、最後には両腕で庇うのみとなった。
「……やったか?」
全弾撃ち出したドマが呟く。もうこいつは闘えそうにないな。これ以上使うと死期が早まるだけだ。
「……いいや、まだだろうさ」
カバネはまだ立っていた。全身は白くなっている。何かに変身したようだが。
「私の変身は防御力は上げられないのよ。私と同じ止まり。だから全身を骨に変えたわ。それでも防ぎきれなかったからこうして」
カバネの削れている身体の部位を補うかのように他の部位が覆っていく。
「こうして身体を変化させて新しい身体に創りなおしたの。再生に近いものよ」
なるほど、だから歩けるようにはなっていたのか。
「もうその様子じゃうざったい雹は創れないようね。そしてね、あなたのその炎ももう攻略したわ」
せっかく治した身体をカバネはさらに変えていく。両腕は剣ではない、羽が生え、身体は小さくなって、口を尖らせ、白く固まらせている。
「こうやって少しでも浮いてしまえば足元の火には触れることはない。あとはその役立たずの炎だけよ」
俺とカバネの前には炎は二つしかない。しかもやつが直進すれば炎に触れることすらないだろう。
俺はドマを引きずって片方の炎の後ろに隠れる。
「あらあら、それで逃げられるつもり?逃げるならその木の後ろに行かないと駄目でしょう?」
今いるのはドマがカバネに刺されたのと丁度同じ位置だ。
ここで決着だ。殺してやるよ。
「この嘴は尖らせれば易々とあなたたちを貫くでしょうね。でもだめよ、少しでも苦しませてあげる。まずはドマさんの前で苦しむあなたを見せてあげなくちゃ」
「……言ってろ、このクソビッチが」
それが合図であったかのようにカバネはこちらへと飛んでくる。間の炎はまたも無視して。
それにしてもあの時と似ているよな。二つの炎があって、外れを引けば燃え死ぬ。今と同じ状況だ。
最初の宣言通り、俺が焼き殺してやるよ。
カバネが炎に飛び込むと同時にその身体は火に包まれた。
「……何で?だってこれは幻じゃ……」
必死に変身しているのであろう。カバネの形は様々なものに変わっていく。
「お前がさっき踏んだ枝な、確かに即席だったから火も小さくて火力も弱かった。だが、最初からある火は別だ。『幻焔』は火をつくれねえが熱は生み出せる。お前がドマを刺した時俺は何をしてた?」
そう言ったときカバネは思い出したのだろう。俺が火を起こしていたことを。
「あの火はできる限り熱を送っておいたおかげでこんなに立派になったぜ。幻の炎と見分けがつかないくらいにな」
カバネの変身速度が落ちていく。きっともう死ぬはずだ。
念のため、止めをさすか。もう黒くなっているカバネへと350℃の熱を送る。そしてカバネはもう動かなくなった。
「ドマ、勝ったぞ」
「そうみたいだね。だけど俺もそろそろかな」
実は治す手段はある。だが、さっきからその手段を使おうと思ってるのに使えなかったのだ。……何やってんだあいつは。
「……あと1時間何もしなければ死ぬかな。それまで少し眠らせてもらうよ」
あまり眠らないといっていたドマがようやく眠ると言ってきたんだ。そっとしておこう。
「……1時間か。それまでに終わらせてやるよ」
残り二人だ。いざとなったらこの島ごと燃やしてやるよ。
「ほっほっほ。どうやら坊の言った通り、満身創痍の男と闘いつかれた嬢ちゃんの二人だけのようだね」
獲物は向こうから来てくれた。木の後ろから。いつからいたんだ?今まで気づかなかったぞ。
「お婆ちゃん、早くこいつらぶっ殺してよ。それでおうちに戻ろ?」
この数日であの怖がっていた子供もすっかりと物騒になっちまったな。
「……『幻焔』はもう知っていると見ていいか。……はやく出てきてくれよ」
あいつさえいればこいつらなんかすぐにでも殺せるのにな。
あと二話くらいで終わりかなこの話も