『戯』 その2
前のより短いですが、分割しただけですので
「寝る前だけど、少しいいかな?」
夜になり少し寒さを覚えたので『焔』で周りを温かくする。火を起こさなくていいのでこういうとき『焔』は便利だ。ちなみに今日は手持ちの食料で済ませることができた。だが、明日からどうすっかな。
「なんだ?もう眠いんだけどな」
「ふふふっ。すぐ終わるから我慢してくれよ」
しまった、眠いとか言っちまったからまた子供を見るような目で。……ちくしょう。
「俺の『雹』だけどさ、実は降らせるだけじゃないんだ。こうやって、空気中の水分を集めてでも雹を創れる」
ドマは手のひら大の雹を創りだした。
「……いいのか?それはお前の切り札みたいなもんだろ」
「いいさ。君は仲間だからね。信用してもらわないと」
これじゃあ、俺も言わなきゃならないじゃないか。
「……俺の『焔』の本当の能力は実は10~35℃の熱を操ることじゃねえ。10~350℃だ。このくらいの距離に近づかなくちゃいけないが、この距離の相手なら350℃の熱で焼くことができる」
「ボタンちゃん……ありがとう」
「ちゃんづけするんじゃねえよ」
ちなみにこれが『焔』の熱を操るだけの関してならだけでの本当の能力だ。だが、『焔』の能力は熱だけじゃない。使わないに越したことはないが、今の段階で明かしたくはない。
だから、そんな感謝するような顔をされるとこっちが困るぜ。悪いことしてるように思っちまうからな。
「さ、君も眠いようだし、そろそろ寝よう」
「ああ、じゃあな」
最低限の緊張感と警戒心を残し俺たちは就寝した。
朝になり、いよいよ殺し合いとやらが始まる。
「とりあえず昨日の砂浜に向かおうか。俺の能力的にも水が多いに越したことはない」
「わかった」
俺の熱を操る能力は場所を選ばないから特に問題はない。しいて言うなら二人とも開けた場所の方が闘いやすいだろう。
砂浜に着くと、カバネがいた。ジャラシはどうした?早速仲間割れか?
カバネは俺たちに気づくとこちらに近づいてきた。おいおい、敵に不用心に近づくってのもどうかと思うぞ。
「そこで止まれ、それ以上近づくなら攻撃するぞ」
カバネは首をひねりながら立ち止まる。俺たちに攻撃する手があるのか?って顔だな。
「私たちの中に裏切者がいるわ!」
カバネは開口一番そう言ってくる。裏切るも何も敵だろ。こいつ何言ってるんだ。
「昨日、私たちが森に入ったあと、その、色々やってたんだけど……」
カバネは言葉を濁しながら説明する。こちらを気遣うようにしてるってのはなるほど、色々ヤッてたんだろう。だが、それも俺を子供扱いしていることにそろそろみんな気づこうな?
「それで疲れて私はそのまま寝っちゃったんだけど、起きたらジャラシが……死んでたの」
なるほど、味方であったはずのジャラシが死んで心細かったのだろう。
「朝、お前が起きる前に殺されたんじゃないのか?」
「冷たくなってたからそれはないと……思う。たぶん夜中のうちに」
俺たちの中で決めたルールの朝からスタートってのを破ったやつがいたわけか。
「それでどういう風に殺されてたんだい?」
最初の犠牲者だってのにそんなに驚いてないな、こいつも。残り物かと思ってたら雹を自在に創れるみたいだし、案外こいつが掘り出し物だったのかもな。
「それがよくわからないのよ。朝起きたら地面に亀裂が入っていてあいつの身体がそれに挟まれてたの。あまり見ないようにしてたけど多分身体が潰れてたわ」
……よくそれでこいつも起きなかったものだ。どんだけ夜が激しかったんだよ。
「だけど妙だな。そんなことできそうな能力はいないはずだが」
地割れを起こす能力なんてかなり強力な能力、それも男を挟み潰すほどの。
「とりあえず、そこに行ってみようか。いいよね、ボタンちゃん?」
「ああ、構わねえぜ。ちゃんづけ以外はな」
「……こいつはひでえな」
相当苦しかったのだろう。男の顔は恐怖に染まってそのまま固まっていた。声が出ないようにか口には葉っぱや石が詰め込まれていた。
「犯人捜しもいいが、あんたはこれからどうするんだ?一人で闘うんだろ?今なら見逃してやってもいいが」
無論、嘘だが。背中を見せたら即殺せるようにはしている。もうちょっと近づいてくれればな……。ドマもこう木が多いとどれに阻まれて雹を撃ちづらそうだが、近づいたら俺が攻撃すればいい。
「そうね……ねえ、ドマさん、私と組まない?そんなオチビちゃんより私のほうがいいでしょ?」
あろうことか俺を馬鹿にするだけじゃなく、この女は俺の目の前で俺の仲間に裏切れと言ってきた。そうか、そんなに死にたいんだな。その上目遣いやめろ!
「残念だけど、よしておくよ。もう俺はボタンちゃんの相棒だしね」
お、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。これは今日の夕飯は俺自ら作るくらいはしてやらんこともない。食料が見つかればの話だがな。
ドマに断られたカバネは表情を無くし、
「あらそう、ならいいわ。いくら私でも二人がかりはきついからこの場は逃げさせてもらうわね」
カバネはそのまま全身という全身を武器に変え、足をローラーに変え逃げ去っていく。
「追ってきたらこの武器で攻撃するわ」
「どうする?今なら雹を撃つこともできるけど」
「いや、やめておこう。あの武器で弾かれるのが目に見えてる。こんなとこで奥の手を見せるわけにもいかない」
「……わかったよ」
こうして『戯』による殺し合いの初日の朝はいきなり一人死亡から始まったのであった。
ジャラシ
所有漢字:『斧』
死亡理由:地割れにより身体を潰され死亡
―『斧』―
所有能力:『斧生成』『手斧漫然』
『斧生成』
斧を自由に創り上げられる。武器系統の漢字の能力には珍しく熟練度の向上はない。
『手斧漫然』
どこに斧を投げても必ず相手に当たる。ただし、途中で何かに当たればそこで止まる。
絶対にラブコメにはしないんだからな!