『戯』 その1
番外編書いてると本編の邪魔になっちゃうんでこっちに移していこうかと思います。
目が覚めると、知らない場所にいた。記憶喪失や前日に酔ってどこかへとウロウロしていたわけではないと思う。なぜならここは俺がいた場所とは違う、陸地とは離れた場所に位置するであろう無人島であったからだ。
「誰もいない……わけではないか」
俺が目覚めた場所は砂浜、そこには俺以外にも5人倒れていた。
5人は俺より少し後に一人ずつ目覚めていく。約10分後、全員が目覚めとりあえず円になって座った。
「俺が多分最初に目が覚めたと思うが、正直何もわかっていない。次に目が覚めたやつとは1分くらいの差だったしな」
俺に説明と期待していた者が多かったのだろう。それを聞いて深刻な顔をしだす者が何人かいる。
「でもこんなことできるのってやっぱり……」
「漢字だろうな」
3番目に目覚めた若い女の問いに4番目に目覚めた若い男が答える。
俺も漢字、もしくは保漢者の仕業であろうとは思っていた。
「じゃが、問題はここからじゃ。果たしてこの島に飛ばされて次に何をされるのか……」
2番目に目覚めたのは老婆であった。ここは年の功ということで少し頼らせてほしい。
「何もされないとそれはそれで困るんだがな。ここからどうやって元いた場所にもどろうか。ちなみに転移系の漢字所有してるやつはいるか?」
5番目に目覚めた屈強な男が尋ねる。俺もそれならこんなとこからとっとと脱出できて良いとは思っているが……。案の定、全員首を振る。
「ハアー……。期待外れか」
その言葉でカチンときた者が少なくとも3人はいた。少なくとも表面上は、だ。俺と若い男女である。
「ちょっとアンタ、なら自分はできるって言うの⁉」
「そうだぞ!お前だってどうせ闘うくらいしかできないやつなんだろ!」
「なんだと⁉やるってのか‼」
俺はさすがに我慢しよう。キレたやつを見ると冷静になれるってのもそうだが、俺も元から期待していなかった。
「まあまあ、子供たちの前でそんな大声出すもんじゃないよ。ほら、こっちの男の子なんか怖がっとる」
「こ、怖くなんかないもん!……でも早く家に帰りたいよ」
6番目に目覚めた男の子の言葉を聞き、三人はそこで争いをやめる。
「そこのお嬢さんも怖かったじゃろ?よしよし」
……そうか、やっぱりそう思われていたか。さっきからどこか軽んじられた目で見られているとは思っていたがやっぱりか。
「俺を子供扱いすんな!これでも18歳なんだぞ!」
そう、俺は12ほどから身長の伸びが止まってしまった。そこからは涙ぐましい努力をしてきたがその成果は一向に現れず、現在を迎えていた……。18歳の女に見られたことはなく、寄ってくる男といえば10歳かそこらのガキか変質者くらいだ。
「おやおや、すまないの。……儂の目もどうやら寿命かの」
「大丈夫だ、これは俺の背が低いだけ……って言わせんなよ!」
「ほら、女の子がそんな乱暴な口を聞いちゃだめでしょ?」
女も少し笑いながら俺に言ってくる。くそ、おもちゃにされる前に会話を戻さなければ。
「この口調は昔からだ!それよりも、どうせ島の外には戻れないだろうぜ」
俺には心当たりがあった。ギルドの古い文献でしか見たことがなかったが、島、砂浜で目覚める、6人の老若男女、とくればあの漢字だ。
「婆さんなら聞いたことがないか?『戯』って漢字を」
そこまで言ったとき、脳内に声が響いた。
「はっはっは、さすが僕が選んだ人間だ。大正解、そうだよ僕が『戯』だよ!……なんつって。プクク」
響く声で頭が痛い。他のやつらも顔をしかめているからこの声は全員に聞こえているんだろうな」
「おっと、質問は受け付けないから静かに僕の話をよ~く聞いていてね。二回は話さないから。聞き逃したらほかのみんなに聞くんだぞ!」
ふざけたやつだ。その口調と言い、俺の嫌いなやつを思い出す。
「さて、『戯』を知っている、僕を知っているということはこれから何をするか、させられるかわかるよね?そう、殺し合いだよ。僕は人間が殺し合うのを見るのがだ~い好きでね」
「ふざけんな!誰が殺し合うか!」
と、そこで屈強な男が怒鳴る。いいぞ、もっとやれ。
「……質問も受け付けないし、君黙っててよ。うるさいから」
バタリと男が倒れた。呼吸はしているようなので気絶しているだけのようだが、俺も乗っかって文句を言わなくて良かった。
「……こいつには後で誰か説明してあげてね。えーとどこまで言ったかな……そうそう、殺し合いをしてもらうんだったね。でね、二人、君たちの中で生き残った二人だけ元の場所に帰してあげるからね。安心して、ここにいるみんな闘える漢字を所有する保漢者だから」
それを聞いて安心できるやつがいるはずない。全員、殺し合いのできる能力を持っているということなのだから。
「じゃあみんな頑張ってねー。最後に残った二人、また会おうねー」
そこで声は消えた。
「……今の話、どう思う?本当だと思うか?」
「本当だろうよ、何せギルドの文献にも帰ってきたのは二人だけって書いてあったんだからな」
さて、どうしたものか。このまま言うとおりにするなら俺ともう一人、か。というか6人いるから二人一組になれってことなんだろうか。
「ねえ、自己紹介しない?それにみんなの漢字も教えてよ」
若い女が急にそんなことを言い出した。名前ならともかくこれから殺し合うかもしれないやつらに漢字を教えるって……こいつ馬鹿かよ。
「そうだな。構わないぜ」
「儂も良いぞ。それよりこやつも起こさんとな」
若い男と老婆が同意してしまった。
「ぼ、僕も!」
男の子が加わってこれで四人か。これで俺も言わないと俺が省かれてしまう。それは今後不利になりなねない。この女……わざとやったんならとんでもないやつだ。
屈強な男を起こし、気絶していた間のことを説明する。
「……そうか、わかった。俺も自分の漢字を言うくらい問題ない。」
男はそれきり黙った。これで俺も言わなきゃいけない流れになっちまったか。
「わかったよ。俺も言うよ俺の能力を。だが、最後にしてくれ。どうも調子が悪くてな」
さーて、どんな説明をしてくれるんでしょうね。こいつらの説明いかんによっては俺も必要最低限しか言わないぞ。
「じゃあ最初は……君、やってくれる?」
若い女が男の子に自己紹介を仰ぐ。
「う、うん。僕はカラマン。僕の漢字は『巻』。こうして小さいものなら竜巻をつくって動かせるんだけど……あんまし重いものは動かせなくて」
もし、こいつら全員が嘘をついているならもっと強力な能力であると想定しておいたほうがいい。男の子――カラマンか、今は砂浜の砂を巻き上げるほどの小さな竜巻を起こしたが、もっと強力な、木々を吹き飛ばすくらいの威力を想定しておこう。
「儂の名はブリスト。そして漢字は『鵺』じゃ。こうしてサル、トラ、ヘビ、タヌキを呼び出せる」
そう言って老婆――ブリストは四匹の獣を出す。一つの漢字で四種類の動物か……珍しいし、強いかもしれない。様々な地形で闘える能力だ。
「……俺はジャラシ。漢字は『斧』だ。こうして斧を創ることができる」
屈強な男――ジャラシは武器系統の漢字か。一番戦闘向けともいえるが創り出すだけとは限らない。あまり近づきたくはないな。
「私はカバネよ。漢字は『変』。こうして身体を武器に変えることができるわ」
若い女――カバネは『変』か。でたか、変身系の能力。当然、他の人間に変身できると思っておこう。違うやつかと思って近づいたら腕を剣にしてグサリなんてことも考えられる。
「俺はドマ。漢字は『雹』だ。空から雹を降らせることはできるが……正直闘うことはできそうないな」
若い男……ドマはそう言って苦笑いする。確かに天気系統の漢字は直接戦闘に向いていないらしい。だが、雹とは氷だ。氷ならば十分殺傷能力はある。これも要注意だ。
そして最後は、と全員が俺を見る。
「俺は……ボタンだ。笑うなよ、俺だってこんな可愛らしい名前が似合ってるとは思ってねえよ。漢字は『焔』。説明するよりも実際にやってみるか。そうだな……そのままじっとしていてくれ」
俺は『焔』を発動する。数秒後、俺以外のみんなが汗をかきだした。
「この通り、熱を操れる。まあ10~35℃くらいまでの上限だがな」
当然、嘘である。もっと幅広い温度にできるし、熱を操るなんて『焔』の能力の一部でしかない。俺の能力はこの中でもかなり強い部類にいると思う。だから弱く言っておいて油断させ、油断しなくてもせいぜいもっと幅広い熱を操るくらいだと思ってくれれば上々だ。
全員の自己紹介が終わり、みんな黙る。おそらく誰と組もうか考えているのだろう。
「殺し合うしかないようだな」
「ふん、そうするしかないなら俺は殺す」
男二人はもう殺る気のようだ。まあ俺も別に殺し合いに関してはやってもいい。だが、『戯』の手のひらってのが嫌なだけだ。
「私、ジャラシさんと組むわ!ね、いいでしょ?」
カバネが上目遣いでジャラシを見る。
「お、おう。いいぞ」
どもった声でジャラシは頷く。このビッチが、さっきまでドマと一緒にジャラシと争っていたくせにジャラシのほうが強いと見るやすぐさま乗り換えやがった。ジャラシは俺も狙ってたんだよな、戦力的に。
「ボウズよ、この婆と組まぬか?」
カラマンにチームを申し込むのはブリストだ。念動力ももっと強力なものならば魅力的だ。
「うん、いいよ。お婆ちゃん」
「ほっほっほ。決まりじゃな」
……これで残るは。
「ボタンちゃんよろしくね」
俺とドマか。まあ熱を操ったところで敵にダメージを与られるかどうかっていう微妙な能力な俺と雹を降らせるだけのドマ、確かにあまり組みたくない相手だ。
「……ちゃんづけすんな。まあ、その、……よろしく」
こいつとどうにか勝ち抜く術を考えなきゃないけないな。
「でも今日は何もなし、いいわね?明日からの勝負よ。今日はみんなここで分かれて明日の朝からスタート、どう?」
確かに今この場で、というのもやりたくはない。それには賛成だ。
「そうじゃの。では儂らはここでおさらばするぞ」
そう言ってブリストとカラマンが森の奥へと去っていく。
「じゃあ私たちも」
「死んでも恨みっこなしだぜ」
カバネとジャラシもブリストたちとは別方向の森の中へと入って行く。
「俺たちも行こうか、ボタンちゃん」
「だから、ちゃんづけするなっての!」
完全に子供扱いかよ。他のやつのほうがマシだったかな。
俺っ子って良いと思うんだ。
ちなみにラブコメは絶対にしないぞ!