魔法 ヴァンデルン
俺がこの世界に来て三ヶ月。魔法(召喚術)の基本は『集中力』だと学んだ。それがいかに大事で必要なものだと。
それについては後日語るとしよう・・・・と言ったが今、語ろう。
──登校初日。
俺はアカネの指差す席へと腰をおろした。
黒板・・・・と言うよりは木の板? からはあまり離れていず、ちょうどクラスの真ん中辺りの席に座った。教室の中は日本と変わらないな。
「お隣さん。よろしく~」
「アカネが隣にしたんだろう?」
「気にしない、気にしない~っと」
アカネは頬杖をつきながら笑顔でそう言った。
あぁ~。美しいとはアカネのためにあるのかもしれない。そう思ってしまう。
「は~い、皆さーん。授業を始めますよ」
担任の先生は手を二回パンッ、パンッ、っと叩いた。ちなみに女性だ。
「今日はヴァンデルンのテストをしますよ」
周りからは、「えぇ~」や、「嫌だよー」等の言葉が聞こえてくる。
「ヴァンデルン?」
俺は隣のアカネに問うた。アカネは唖然とした顔でこちらを見つめ一言。
「え、知らないの?」
「あぁ。知らない」
「転移魔法だよ。魔法の基礎」
転移魔法? あぁ。以前にカナが俺を家に連れ行くときに使っていたやつだ。『転送魔法展開! コロッセオ』確かこう叫んでいたっけ。
俺は自分の机の中にしまわれていた一冊の分厚い本を取り出した。表紙は全面一色の黒。タイトルは『スペルブック』(魔法書)と書かれている。
俺はあるページを開きヴァンデルンの詳細を見つけた。
~ヴァンデルン~
転移魔法の一つであり、基礎魔法。主に唱える呪文は必要とはしない。が、並外れの集中力を必要とする。
転移魔法の他、転送、瞬間移動の二つが存在する。
転移・・・・自分と他の人を特定の場所へ移動させるもの。複数名可。
転送・・・・自分の身以外の、人あるいは物を特定の場所へ移動させる。複数名可。
瞬間移動・・・・自分の身のみ特定の場所へ移動させる。複数名不可。
以上が『スペルブック』に記載されていたヴァンデルンについての詳細だ。
「では、始めますよ。一人ずつ前に来てやってもらおうかしら。」
先生は唇にてを当てて、ん~。っと数秒の間を置いたかと思うもすぐに口を開いた。
「じゃあ、未来君。前でやってみて」
「え! 俺ですか?」
一斉にクラスメイトの視線を浴びるはめとなった今この状態。
あぁ、この世界に来たときも沢山注目されたな。民衆たちの・・・・・・
てか、今さっき知った魔法(名前とどんなものか)を俺にやれと? 難度高!
俺は嫌々席を立ち、先生の目の前へと重い足を一歩、また一歩と踏みしめた。
「ヴァンデルンでどこに行く?」
「え、っと。じゃあ・・・・コロッセオで」
コロッセオ。今俺の住んでいる村の名前だ。
いや、地名と言った方が正しいかもしれない。
俺は覚悟を決め、カナの真似をして叫んだ。
「転移魔法展開! コロッセオ!」
「え、未来君? 呪も・・・・・」
先生の声が徐々に遠ざかっていく。っと同時に辺り・・・・いや、俺自身が光に包まれ始めた。
これは成功か? っと思うのはつかのま。光は徐々に消えていき、それと対象に先生の声が近づいてくる。
「未来君・・・・放課後残ってね?」
先生の素晴らしい笑顔。俺には殺意のようなものが含まれている気がした。
──放課後
先生はさっきからため息を何度もしていた。
「理事長から話は聞いてはいたのだけど・・・・魔法の基礎すらできないなんて」
話と言うのは、俺が異世界人であると言うことである。召喚術師によって連れてこられた。そこまで先生は知っていた。いや、知らされていた。
「はぁ~。はいもう一回やってみて」
「転移魔法展開! コロッセオ!」
唱えてみるもなにも起こらない。起こる気配すら感じない。
「はぁ~。もう一回」
「え、まだやるんですか!?」
そんなことがあり、俺が解放されたのはその後四時間後。幾度となくやり直し、唱え直し。ようやく成功したかと思うと失敗に終わり。その繰り返しの果てようやく成功したのだ。
「転移魔法展開! コロッセオ!」
「あのね未来君。呪文は・・・・」
先生の声が遠ざかっていく。っと同時に俺自身が光に包まれ始めた。辺りが完全に包まれたかと思うと徐々に光は消えていった。
閉じていた目をゆっくりと開けると、なぜか自分の家にいた。そして、目の前にはカナもいる。
「あら、転移魔法で帰ったのね どうだった? 初めての学校は」
家につくなりカナに問われた。
「あぁ、魔法の基礎は集中力と言うことが学べた」
・・・・集中力がないと、また放課後何時間も残されるだろう。俺はこの世界に来て三ヶ月。集中力がどれ程大事なのか学んだ。
無理にでも集中力をつけないと本当にまずい。
そう思い、俺はわずか二日間という時間を要し、ようやく集中力と言うものを身につけた。
今回も読んで下さりありがとうございます。
感想、アドバイス等あればよろしくお願いします。