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やれるだけやってみる剣闘士  作者: こんたくみ
チグサとか剣闘とか
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第四十五戦「あの日の子供たち」

 それから数週間の後、七歳になった僕とスクモはチグサさんの初級学校へ行くこととなった。


「ししょ……ナオミさんも一緒に来るんですね」

「なにかと物騒ですので、護衛も入用なのです。荷物は私が」


 家の戸口でそんな会話をする。

 だけどスクモは何故かむっつりとして師匠を睨みつけていた。

 慌ててスクモの手を引っ張る。

 スクモが驚いて僕を見る。

 関心が師匠に戻らないうちに、僕は挨拶をして家を出た。


「行ってきます!」

「いってらっしゃい」

「気をつけてな」


 アザミ母さんとシュラ父さんが、どことなく心配そうな顔で見送ってくれた。

 アザミ母さんの脚を掴んでいるシュラは、とても羨ましそうだった。


 なにはともあれ、初級学校へ向かう。

 初級学校は広場の一画に開かれるそうだ。

 やはり街を歩くのが好きな僕は、若干興奮しながら広場に向かった。


 広場に着く。

 列柱廊に囲まれた四角い空間。

 その隅っこに、十数人の子供たちが集まっていた。

 その周りには、荷物持ち兼護衛と思われる奴隷もいる。


「あそこのようです」


 師匠が言った。


「よし、行くぞスクモ」

「ん、うぅん」


 なぜだか乗り気でないスクモの手を引っ張って、一団へと向かう。

 集まっていた子供と奴隷の視線が集まる。


「アサツキ君、貴方がたで全員ですよ」


 集団の一番奥の子供が言った。

 子供が集まっている中にいたものだから一瞬だけ勘違いしたが、それはチグサさんだった。

 くたびれた三角帽子と枯草色の衣装はいつもどおり。

 あれしか服を持っていないんじゃなかろうか。

 帽子から零れる白髪の髪以外は、非常に幼い外見だ。

 身長はまだ僕らより高いが、成長期があるし、数年すれば簡単に追い越すだろう。


「おい、おまえ――」


 横から声がして見ると、顔に向こう傷のある男の子だった。

 その傷は額の隅から口角にまで及んでおり、かなり痛々しい。


「アサじゃないか!?」


 男の子が声を上げると、明らかに強い反応を示した子供が数人。

 男の子の後ろに子たちだ。


「アサっていうか、アサツキだけど……」


 そこまで言って、僕はようやく気が付いた。


「クビスか?」

「当たり前だろ! 良かった、おまえ無事だったんだな!」


 そう言ってクビスは大はしゃぎしだした。

 クビスとは人攫いに捕まったとき以来、安否を確かめることすらできなかった。

 正直に言って、逃げ果せているとは思っていなかった。吃驚だ。

 もっとも、無事に逃げられたというわけではないようだが。


「この傷か? 気にすんな、大したものじゃないからさ」


 朗らかに笑う。


「他の子たちもみんな無事なの?」


 そう訊くと、クビスの後ろにいた子の一人、鳶色で、ふわりとした髪の女の子が立ち上がった。


「なんであんたに子供扱いされなきゃなんないの!」


 キャンキャンしたこの声には聞き覚えがある。

 あの老人相手に騒いでいた子供だ。


「みんな逃げたよ。ほら、見ればわかるだろ」


 クビスは背後に視線を送った。

 クビスの後ろにいた子供たちは、よく見れば、人攫いに囚われていた、あの時の子供たちだ。


「どうなっているかわからなかったのは、おまえだけだ」


 クビスが言った。

 なにやら後ろの女の子は不服そうだ。


「さあさあ、なにか込み入った話があるようですが、後にしてください。先ずは自己紹介しておきます。私は地上で第二級魔導師をしていた、イワバシル・ソラネラ・チグサという者です。先生と呼んでください。皆さんは私の生徒です」


 生徒の部分が木偶(デク)に聞こえたのは幻聴だ。

 チグサさんはそんな心無い人じゃない……と思う。


「はい、先生」


 生徒の一人が手を挙げた。


「なんでしょう、 カブラ君」

「先生は何歳なんですか?」


 子供たちが、がやがやと沸き立つ。

 チグサさんは少し考えたように息を吐いた。


「およそ百歳です」

「うそだー!」

「すごーい」

「百っていくつ?」


 尚も盛り上がる子供たち。

 僕の隣に座るスクモは一切の反応がないので、逆に目立つ。

 僕はと言えば、チグサさんの話しに半信半疑だ。

 見た分には絶対に百歳なんかじゃないが、スクモが実はお婆ちゃんだという事実もある。

 となると、本当なのか。


「嘘ではありません。魔導によるものです」

「魔導ってなんですか?」

「そうですね……例えば、このアスラウヱを照らすあの大魔晶です。あれは魔導によって光っているのです。他にも、貴方がたの家にも、幾つか魔導具があるかも知れません。その名のとおり、魔導具も魔導による物です」


 子供たちが感嘆する。

 チグサさんは少々得意気だ。

 大人げないと思う。


「魔導はなんでもできるんですか?」

「ええ、今はまだできないこともありますが、いつか必ず、どんなことでもできるようになると思います」


 自信たっぷりにチグサさんが言うと、子供たちはまたざわめいた。

 その中で、スクモの乾いた口調が僕の耳に流れてきた。


「無理」


 スクモは虚ろな目をしていた。


「スクモ?」


 訊くと、頭を振った。

 艶かな黒髪が揺れた。

 なんでもない、と言いたいらしい。


「魔導を教えてください!」


 誰かが叫んだ。


「それはできません。魔導の知識は秘中の秘です」


 落胆の声が広がる。

 「ですが――」チグサさんの気迫に満ちた声。

 静寂を生んだ。


「成績が優秀な者のうち、見込みがある者については、その知識を齧らせてあげましょう」


 打って変わって大喜びする子供たち。


「落ち着いてください。授業を始めますよ」


 そうしてチグサさんの授業が始まった。


「うまいやり方だな」


 子供を釣るやり方のことだ。

 狡猾な気がしてならないが、子供たちは今、確かに授業に集中している。

 蝋を塗った板、それを引っ掻いて文字を書く。

 紙は貴重な物だから、自然、こういう物を使うことになる。


 授業の内容は一般常識から始まった。

 すごく有り難い。

 僕はこの世界の常識に疎かった。

 すりこぎを振ってばかりで、勉強不足だったのだ。


 昼過ぎくらいに授業は終わった。


「今日はここまでです。では解散」


 チグサさんはあっさりと授業を終わらせて、足早に立ち去ってしまった。

 聞きたいこともあったのだが。仕方ない。


 僕も帰ろうとすると、呼び止められた。


「ヒマか? アサ」


 クビスだった。

 そしてやはり、後ろにはあの時の子供たちが居る。


「遊んでから帰らないか?」

「遊ぶ?」


 思ってもみない誘いだった。

 僕はこの世界に来て、近所の子供と遊ぶということがなかった。

 いや、一応マンナはいたが、遊ぶというには少し違った。

 この世界で、この世界の子供らしいことが、僕にはさっぱりだった。

 困ってスクモを見た。

 スクモはスクモで不安そうだった。

 なんだか、僕と似たような状態らしい。


「良いのではありませんか。ここには私以外もいますし」


 そこに師匠が声を掛けてくれた。

 微笑みには年長者らしく、余裕と慈愛が表れている。


「じゃあ、少しだけ……」

「決まりだな」


 クビスは頷くと、他の子供たちを紹介し始めた。




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