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別冊†恋姫  作者: 桜惡夢
天叢に翻る志旗
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37話


 趙雲達が西涼に赴いている頃。

森羅の元には頻繁に公孫賛が通っていた。

──とは言え、上党郡にではない。

趙雲の留守中の雁門郡の仕事は二人によって分担、滞り無く進められている。

その序でに──と言うと何だが、公孫賛は跡継ぎを授かる為に頑張っている。

これは森羅との交渉(合意)の上の事。

寧ろ、それも含めた雁門郡の奪取だったりする。



「……何か、騙した様で星に悪い気がするなぁ…」


「だったら止めるか?」


「解ってて意地悪な事言うな、ばかっ…」



そう言って締め付ける公孫賛。

それに答える様に森羅が軽く腰を跳ねさせる。

仰向けになった森羅の上に、俯せで重なる公孫賛の身体が小さく滑る様に揺れる。

小休止中だが、敏感になっている身体は本の僅かな刺激にも過敏に反応し、公孫賛が甘声を漏らす。

それが燻る火種を起こす様に熱を猛らせる。

自ら森羅の唇を塞ぎ、その揺れに合わせる様に動き始める公孫賛の思考は森羅を求める事に集中。

自身が口にした趙雲の事は思考から外した。


何故、そんな風に公孫賛が考えているのか。

それは自身の跡継ぎ作りが理由ではない。

いや、全く介在しないという意味ではないが。

実は、“魏延や呂蒙達の成長を促す為”というのは趙雲を含めた帯同者(・・・)に対する理由。

しかし、実際には、その帯同者も含めた(・・・)事。

つまり、後輩達(・・・)を誘導し見届ける役だと思っている趙雲や馬超達も成長を促される側。

そういった経験(・・・・・・・)をさせる事が狙い。

だから、出張中の面子の中には森羅と関係を持った女性が一人も含まれてはいない事も意図的。

表向きには「目立たない為」としているが。

その存在の有無が大きな違いを作り出す。

其処までを考えての合同遠征(・・・・)だったりする。




そういった訳で、各々が頑張っている。

その結果、公孫賛・孫権・厳顔が妊娠。

また、孫権達の妊娠に伴い、入れ替わる形で新たに管輅・寥化との関係が始まった。

此方等は当面、妊娠の予定は無い。

少なからず、家族として子育てを経験しなければ、いきなり大家族となるのは不安が有る為。

家族計画(・・・・)は大事である。


劉備は八ヶ月近くになり、御腹の方は一目見て判る程に大きくなっている。

関羽・黄忠の方も特に問題も無く順調。


また、袁紹の方も七ヶ月を越えている。

出産には立ち会えないが、出産後には顔を見に行く予定を森羅も組んでいたりする。

当然ながら、極秘でだ。

森羅の来訪を知るのは袁紹以外には顔良と数人。

袁紹の子の父親が森羅である事もである。

その関係に罅を入れ、溝や壁を作ろうとする馬鹿は一人として居ない。

それだけ二人の関係の必要性を理解している。


──とまあ、そんな感じで森羅の地盤固めは順調。

上党郡・雁門郡でも目立った問題は起きていない。



「──といった状況です」


「そうか…悪いが引き続き情報収集を頼む」


「はい、御任せ下さい」



自身の執務室にて、調査報告を聞く森羅。

報告を終えると、音も無く姿を消える──といった事はなく、普通に退室するのは直属の密偵。

正確には、森羅直属の情報部“叢風(ソウカ)”の“柱”。


雅狼時代の“草”を土台に更に洗練・組織化された専門部署であり、柱とは最上位の十三人を指す。

柱の下に、幹、枝葉、根と役割毎に分かれている。

直接接触を限定する事で市井に溶け込み、活動する根の者達の身元が露見する危険性を下げる為であり不自然な事無く、情報の収集・流布・操作を行う。


その為、枝葉や根の者には家庭を持つ者も居る。

それでも全ての者の森羅への忠誠心は揺るがない。

森羅を信じればこそ。

森羅こそが、愛する家族の未来を託せる主君だと。

そう信じて疑わないからだ。



「…やはり、そう簡単に流れは変わらないか…」



一人になった部屋で森羅は団旗を見ながら呟く。

調査を頼んでいたのは、他でもない董卓関連。

可能なら、董卓の洛陽入りは阻止したかった。

別に森羅が董卓を好んでいる訳ではない。

好みではない訳でもないが。

そういった趣味嗜好の理由からではない。


現状、森羅にとっては、公孫賛・袁紹と子を成し、妻に迎えた孫権も妊娠。

孫策との繋がりも強固となり、馬一族とも関係性を固めている真っ最中。

曹操とは戦い(やり)合う事は確定だが。

はっきり言って、今は詰め勝っている状況。


その上で、反董卓連合は余計な邪魔(・・・・・)だと言えた。


歴史(・・)という流れは、森羅にしてみれば他者が綴った同じ題材を基にした二次創作品。

そんな感覚に近い物だったりもする。

その為、一つの参考にはなる。

その先(・・・)の可能性を想像する上で。


しかし、それは同軸(・・)であれば、の話。

現状では、史実と大筋は同じ様に見えるだろう。

だが、細かな点を見ていけば既に大きなズレが数多存在している事になる。


そして、それを生み出したのは他でもない森羅だ。

今、この世界──所謂、三国志の世の中心に在り、歴史を紡いでいるのは森羅だ。


だから、森羅は自身の信念を揺るがさない。

未来(この先)を描けるのは、この世に生きる者達。

他の誰でもない。

別世界人(部外者)であってはならない、と。


そういう意味でも、森羅にとっては史実の流れとは受け入れ難い事だったりする。

寧ろ、それに逆らう事が森羅の生き方なのだから。



(…表向きの流れとしては似ているのは仕方が無い

抑、性別が違うというだけではなく、その在り方も一人一人違っている…

当然だが、異世界(・・・)なんだからな)



 そう改めて思う。

どんなに似ていようとも此処は唯一無二(オンリー・ワン)の世界。

その世界で、俺は生きている。

記憶(・・)は有るにしても、ある意味では別人。

“森羅”という新しい人生を歩んでいる。

だからこそ、誰かと同じ物語()など進みたくはない。

そう思い、自分の意志で歩いている。


ただ、それでも。

自分という存在が舞台に上がるまでの。

一部を切り取る様に、物語に登場するまでの。

既に存在している物が、其処には確かに存在する。

それらを無かった事には出来無いし、無視する事も同じ様に出来無い。

全体の流れで見れば、自分の方が乱入者。

突然、途中から現れた存在になるのだから。



「…だとしても、俺は俺の歩みを止めはしない」



それは間違い無く、身勝手(エゴ)であり、自己満足。

決して、立派な大義名分等ではない。

どこまでも自己中心的な理由・動機なのだから。


まあ、それはそれとしてだ。

強引に、無理矢理にでも遣れば変える事は出来る。

しかし、それは飽く迄も変える事が目的。

その結果を、具体的には求めてはいけない。

どうなろうとも、変わりさえすれば良い。

そういう考えの上での事なのだから。


これが遣り直し(リトライ)が出来る遊戯(ゲーム)ならいい。

気楽に遣り、失敗したら別の遣り方にすれば済む。

だが、全ては現実であり、遣り直しなど出来無い。

だからこそ、俺個人の好き嫌いや自己満足で流れを変えるという事は躊躇うし、遣ってはならない。

もしも、それを遣るのなら、あらゆる事に対しての責任を負う覚悟をしなければならない。

局所的な、自分の手が届く範囲に収まる。

そんな程度では済まないのだから。


──という事を考えていて、何時だったか。

環奈とした会話を思い出した。

勿論、あの時の言葉に嘘は無いのだが。



「…これも思い上がり(・・・・・)か…」



そう呟き、苦笑してしまう。

そんなつもりは無かったのだとしても。

こういう立場に居るからなのかもしれないが。

何処かで、自分が支配者の様な全能感と錯覚する。

そんな有り触れた感覚に陥っていたのだろうか。

或いは、前世の記憶が有るが故の弊害なのか。

自分がゲームをしているプレイヤーの様な。

そういう他人事(・・・)な感覚になっている。

そう気付けば、自分自身の危うさを感じる。


目の前に有る雅狼の団旗を見詰める。

ある意味、これが勘違いの大元でも有るのだろう。

立ち上げた時から、一人の脱落者、離反者、死者を出す事無く、今日まで来ている。

役目や立場、関わり方が変わった者も多いが。

その繋がりは決して絶えても断たれてもいない。

それを嬉しく思うし、誇りにも思う。


ただ、心の何処かには甘えが──楽観視をしている能天気な自分が有ったのかもしれない。



「………ふぅ……初志貫徹、己を忘れるべからず」



歩む道、目指す頂きは見えている。

だが、こういう時にこそ、己を律しなくては。


確かに、反董卓連合へと向かう流れは困る。

渦中に置かれる董卓達の事は現時点では他人事。

はっきり言って、どうなろうと構わない。

思う事が無い訳ではないが、まだ許容範囲だ。


しかし、その反董卓連合の発起人は袁紹だ。

勿論、史実や原作等では、と付くのだが。

本人の意思とは関係無く、中央との繋がりの関係で巻き込まれてしまう可能性が高い。

そして、一度担ぎ上げられると今までに築き上げた袁紹の風評が予期しない方向で足下を掬う。

自分との子供を身籠り、生む事になる袁紹を。

其処で見捨てたり、切り捨てる事は出来無い。


勿論、袁紹や一握りの者達だけなら、自分の手元に持ってきてしまえば済む事だ。

けれど、当の袁紹が、それを良しとはしない。

袁紹──麗羽は、そういう女だ。

そして、そんな彼女だからこそ、俺は愛している。

決して、政略結婚(打算的な関係)ではない。

だから、その状況は絶対に看過出来無い。


白蓮が妊娠した事で、二人は同じ夫()の妻に。

反董卓連合を経た先、群雄割拠で対峙はしない。

寧ろ、その時点で、幽州・冀州と上党郡・雁門郡は俺を介して一つになる。

飛び地ではあるが、孫策達や馬一族の事も有る。

中央を睨む、という意味でなら十分。


だから、考えるべき事は曹操との決着だろう。


曹操が真っ先に狙うとすれば孫策の方か。

冀州は欲しいだろうが、簡単には手は出せないし、俺の動き方次第では不可能にも持って行ける。

白蓮を警戒しないで済む分、麗羽も警戒する相手は東西に広いが南部域に限定出来る。

これだけでも防衛戦力は倍以上に出来るし、俺達も戦力として加わる為、更に高まる。


それを崩そうとすれば、必然的に孫策狙い。

そう遣って分散させて──というのは実は厳しい。


そうするには将師や兵数、資金・物資に差が有る。

曹操は比類無く優秀だが──女だ。

男の俺は妻を複数娶り勢力を拡大出来るが、曹操は政略結婚という手は使えない。

俺以外と関係を持てば、その時点で敗北宣言。

俺と対峙する資格を失う。

だから、そんな愚かな真似はしない。


加えて、自らの将師に政略結婚をさせもしない。

本人達が自主的に遣ろうとするなら判らないが。

少なくとも、そういう者は曹操の側には居ない。

つまり、勢力を拡大する方法は限られる。



「………盤面上なら(・・・・・)詰み、なんだがな…」



当然ながら、曹操が俺と袁紹の関係は知らない。

蓮華を娶った事は公にしている為、孫策との関係は知っているし、白蓮との関係も男女の仲を疑える。

客将時代からなのか、という話は別にしてもだ。

雁門郡を獲った事でも関係は窺えるだろう。

その為、飽く迄も北側を固めた様に見えている筈。


そういう意味では、まだ曹操も勝負中(・・・)と認識。

投了(・・)させるには、此方等の一手が必要、と。


そうまでする必要性と危険性を考える。



(………俺達自身の感情の問題以外は無い、か…)



ただまあ、それが一番の地雷(リスク)だろう。

いや、詰んでいる事実を受け入れはするとは思う。

その辺りで駄々を捏ねる曹操ではない。

──ではないが…拗ねる気はする。

そして、絶対に自棄になる。

いや、自爆とか突撃とかという意味ではなくて。

もう、世の中の事は一旦忘れて子作りに全力。

そんな様子が思い浮かぶ。

……その姿が物凄く可愛いから困るんだけどな。




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