後日談 色柔大感形
子は天よりの授かり物。
そう云われる事が有る様に意図して成すという事は不可能ではないが、中々に大変だったりする。
曹魏──魏王朝の世となり、比較的出産のリスクが下がって女性が安心して産み易い環境が出来ている状況ではあるが、それは出来た後の話。
子供が出来ずに悩む夫婦というのは少なくない。
「むぅぅ~…真桜ちゃんも凪ちゃんも狡いの~…」
「いや、狡い言われても…なぁ?」
「少なくとも私に言うのは間違いだ、沙和
私の旦那様は…晶様なのだからな」
“旦那様”と口にするだけで顔を赤くする楽進。
更に、こうして友人達の前で真名を口にする事で、その赤は紅へと深まってゆく。
恥ずかしいのではなく、嬉しくて、だが。
普段なら初々しく可愛らしい姿なのだが。
今の于禁には苛っとくる反応でしかない。
まあ、要するに幸せな楽進達への嫉妬だ。
「やっぱり男の人は胸で判断しているの~
私も、ばぃんばぃ~ん~に大きく成りたいの~」
「いやいや、それはないやろ、小蓮なんて…」
「ちょっ!?、止めないか、真桜っ…」
「あ~…それもそうなの~…」
「沙和、お前もだ…」
北郷に嫁いだとは言え、孫尚香は孫家の姫。
楽進にとっては同じ圭森の妻の妹──義妹だ。
それ故に少なからず発言に気を付けている。
勿論、その程度なら問題ではないのだが。
生真面目な楽進は気を遣ってしまう訳だ。
その楽進の胸を見ながら、于禁は自分の胸を両手で鷲掴みにして揉んでみる。
決して、小さくはない。
だが、楽進よりは確実に小さい。
まだ妊娠した影響が出る前なので、純粋な差だ。
同じ歳で女同士で幼馴染みで姉妹同然の友人三人。
だから、御互いに色々と知っている。
三人で並ぶと大差は無いが、李典と楽進が並ぶと、二人の身長差は五寸は有るのが判る。
李典が一番背が高く、楽進が一番小柄。
それは胸の大きさにも言えた。
李典が一番大きく、于禁と楽進の差は僅か。
それでも于禁が勝っていた。
しかし、現在は楽進の方が大きい。
楽進は一番腰も細く、御尻も小さくて形が良い。
御尻は李典の方が大きいが、腰回りは李典と于禁は実は同じだったりする。
つまり、見た目には于禁の方が太って見える。
三人の中では一番御洒落や美容に気を遣うのに。
その事実が于禁の胸を抉っていた。
「けど~、やっぱり好きなのは確かだと思うの~
御尻や脚が好きな人とかも居るけど~…」
「まぁ…それは否定出来んやろなぁ…
か──隊長も“おっぱい星人”らしいしな」
「…?……その、おっぱい星人というのは?」
「胸が好きな男の天での総称らしいで
──で?、回朋様はどうなん?
やっぱ、おっぱい星人なん?」
「……おっぱい星人かは判らないが…………まあ…沢山可愛がって下さりはするな…」
「ほらほら~、やっぱり男は結局は胸なの~っ!」
「いや、そんな事は──」
「そうやったとしても、好みは色々有るで?
実際、小蓮や桂花みたいな例も有るしな」
「それじゃ~、どんなのが一番理想的なの~?
やっぱり~、紫苑さん達みたいのなの~?」
「大きいんは大きいんやろうけど、その柔らかさや弾力はちゃうやろうし、肌の触り心地もちゃう…
せやから、一括りにするんはちゃうな」
「そうね~…紫苑のは柔らかくて優しくて、ずっと枕にしていたい感じだし…
桔梗のは負けず嫌いな張りと弾力が良いわね
祭は小柄なのに、あの大きさなのは反則ね
しかも吸い付く様な肌の質感が癖になるわ」
「ぅむむむぅ~…難しいの~…」
「──って、雪蓮様っ!?、何時の間にっ?!」
「面白そうな話が聞こえたからね~、有難う、凪」
一人、孫策に気付いていた楽進は当然の様に茶杯を孫策の前に置き、孫策も素直に御礼を言う。
この辺りは圭森の妻同士というよりは主従的。
両者の気質・性格によると言えるだろう。
「…そう言えば~、回朋様って確か~…」
「ええ、一対一だけじゃなくて一対多も普通よ
私と凪も何度か一緒だったものね?」
「………………」
于禁が言い淀んだ事を、あっさりと孫策は口にし、肯定した上で楽進を巻き込む。
あまり、そういう話はしたくはない楽進だが、顔を真っ赤にして外方を向いてしまえば肯定も同然。
時として沈黙は証言よりも事実を語る。
まあ、孫策からすれば別に隠す様な話でもない。
侍女を中心として、有名な話なのだから。
ただ、圭森の名誉の為に言って置くなら、一対多は妻達の共謀による結果だったりする。
決して、圭森が自ら複数名を閨に招いているという訳ではなく、飽く迄も結果的に、でしかない。
「まあ、回朋様は規格外やろうしな~…
──で、回朋様の好みて?」
「──おいっ、真お──」
「んー…基本的に何でも有りじゃない?
晶って中身や感情重視だし
それはまあ、私達みたいな美女揃いだから選ぶ必要自体が無いのは確かでしょうけど」
「──っ…そ、そやね、うん、確かに…」
「それ自分で言ぅんっ?!」とツッコミ掛けた李典。
しかし、口から出た掛けた所で噛み殺した。
言ったら面倒臭い展開になる事が判るから。
そんな李典の反応や性格を知る楽進も安堵する。
李典なら反射的に孫策を煽り兼ねないからだ。
もし仮に、そう為っていたら……想像しただけで、軽く冷や汗が出て、血の気が引いてしまう。
特に母親になった周瑜の逆鱗には触れたくはない。
「雪蓮様って華琳様達とも一緒なら、誰の胸が一番魅力的か知ってるんじゃないの~?」
「ん?、それは勿論、私の胸ね」
「そういう冗談は要らないの~っ!
真面目に訊いてるの~っ!」
「いや、真面目に言ってるわよ、私…」と言いたい孫策だが、于禁の据わった眼差しに飲み込む。
どういった流れで、この話題に至ったのかは孫策も理解出来てはいないが──今の于禁は危険。
それだけは、持ち前の“勘”で察した。
「ま、まあ、そうね……私から見ても羨ましいって思ったのは、やっぱり華琳よね
ほら、私達って肌が褐色でしょ?
だから、華琳みたいな白い肌には憧れるのよ」
「そうですね、私も肌は濃い方ですから解ります」
「せやけど、隊長は「褐色の肌って、白く穢すのが背徳的で興奮するんだよな~」て言ぅてたで?」
「あー…それは何と無く判るわ
たまに晶も、肌に垂らすと興奮してくれるし
でも、白い肌が赤く染まるのも興奮するわよ?
こう…嗜虐心も刺激されるしね
肌の色が濃いと、それは無いから
羞恥心や火照りで染まるって視覚的な変化は」
「あー………確かに、白いのもヤバイなぁ…」
「貴女達って複数人でって事は無いの?
穏なんて、その代表格でしょ?」
「あ、いや、穏はんは………なぁ?」
「穏さんが一緒だと、隊長が干からびるの~」
「…………あー…うん、そうだったわね、ええ…」
「…雪蓮様、忘れてたやろ?」
孫策の反応に李典は白い目を向ける。
まあ、他所の夫婦事情だから忘れても仕方無いが、陸遜は孫家の家臣だった訳だし、陸家の一人娘。
忘れているのは少々問題有りなのだが。
それはそれとして。
陸遜の性癖──その興奮体質は改善されたのだが、彼女の性欲の強さは元々である。
つまり、治る治らないではない。
なので、陸遜が一緒だと北郷は死に掛ける。
その為、北郷の妻達は陸遜が居る場合は遠慮をする事が暗黙の了解だったりする。
主に北郷の精命を守る為に。
「穏は兎も角、他なら有るんでしょ?
貴女達から見たら、どうなの?
妻同士じゃなくても、御風呂で一緒になったりして裸を見た事は一通りは有るでしょうし」
「んー………ウチは秋蘭様かな~
全体的に整っとるし、雰囲気も有るし」
「──私が、どうしたんだ、真桜?」
「──ひゃあっ!?、しゅしゅ秋蘭様っ?!」
「ああ、済まんな、凪」
「凪ぃっ!、一言言ったってぇっ!」
孫策の時と同様に空いている所に座った夏侯淵へと楽進は茶杯を出していた。
それを見て、顔を真っ赤にした李典が叫ぶ。
「好きな人、居る?」みたいな話をしている最中に本人が登場した様なものだから、当然だろう。
そして、孫策から簡単に話題の説明がされた。
その後、暫くは李典が夏侯淵と顔を合わせない様に避けるのだが、それは別の話。
「…ふむ……胸の好みか…」
「やっぱり秋蘭は華琳の胸?、それとも春蘭?」
「悪いが姉者の胸は無いな
今と大して変わらないから成りたいとは思わない
華琳様の胸は素晴らしいが……そうだな、私的には翠の様な胸には憧れるな」
「翠?、へぇ~…意外な所ね
でも、翠だったら秋蘭と似てない?」
「いや、翠の胸は私より大きいし、弾力が有る
何より、乳首や乳輪を含めた全体像が綺麗だ
本人の性格や言動との対比も有り、より淫靡だ」
「…確かにね、でも、それなら思春も綺麗よ?」
「──御呼びですか?」
「──どひゃあっ!?──って、ウチやないしっ!」
「──冗談だ、済まないな、凪」
「凪いぃーっ!!」
「真桜、流石に思春殿には気付くのは難しい」
「…ぅぐっ…」
「────って、話をしてる所なのよ」
「成る程、そうでしたか…」
「やはり、思春は蓮華か?」
「蓮華様の胸も素晴らしいが……私は愛紗だな」
「やっぱり、胸は大きさなの~っ…」
甘寧が関羽の名を出した途端に、于禁が嘆きながら卓に突っ伏してしまう。
その様子に夏侯淵と甘寧は小首を傾げる。
事情を知らないから当然だ。
そして、事情を知る面々は苦笑を浮かべた。
「…?……まあ、大きいのは確かだが…
私としては愛紗の揉み心地が羨ましいな
柔らか過ぎず、弾力が強過ぎず、滑らかながらも、摩擦が強過ぎない…あの絶妙な感触は…」
「…そう言えば、以前、私達で一回だけ開催された
“胸だけ大会”で優勝したのって愛紗だったわね」
「は?、何やそれ、滅っ茶卑猥そうな大会やん」
「“卑猥そうな”じゃなくて、卑猥なのよ
文字通り、胸だけで晶を満足させる大会だしね」
「そう言えば有ったな…」
「妊娠してた華琳達の欲求不満解消の為だけど…
晶って本当に絶倫よね~」
感心した様に、可笑しそうに苦笑する孫策。
それに同意する様に頷く夏侯淵。
他人事ながら興味と羨望を滲ませる李典と于禁。
その中で楽進と甘寧は視線を交え、頷き合う。
二人は立場上・役職上、知っている。
当大会前、圭森が秘薬や壷や料理等、あらゆる物を駆使して準備をしていたという事を。
…まあ、その大会中は遠慮などしなかったが。
愛する妻達の為の圭森の献身を知っている。
自分が妻でなければ、涙を流していただろう。
ただ、それは秘密である。
圭森の、夫の名誉と愛の為に。
墓の中まで持ってゆく覚悟だったりする。
「──おや?、随分と珍しい顔触れですね」
「本当、共通点の無い面子だよな」
「皆さんで御茶会ですか?」
そう言いながら近付くのは郭嘉・公孫賛・董卓。
董卓は妊娠こそしていないが圭森の妻となっており公孫賛も圭森に想いを寄せている。
郭嘉は恋愛より仕事、という感じだが。
そんな三人の参戦に口角を上げる孫策。
それを見て静かに楽進と甘寧は「…終わった…」と諦念を懐いたのは当然だと言えた。
真っ赤に為りながらも会話には参加する三人。
その後、更に人数を増やし、主要な面子の過半数が猥談を繰り広げる事になる。
その結果、その夜、圭森と北郷は快楽地獄を知り、翌日には圭森から于禁・李典・孫策に対し一ヶ月の減給処分が言い渡される。
尚、孫策が周瑜から説教を受けそうな事態だったが説教が無かったのは──周瑜も参戦していた為。
其処には当然の様に曹操や孫権達も居た為。
楽進と甘寧が安堵したのは言うまでもない。
因みに、その議論の結論としては。
「愛する男が満足するなら、それが全て」と。
まあ、そんな感じだったりする。
要するに、単なる惚気である。
因みの因みに、北郷は半月程、機能不全となる。
圭森・華佗の心身の治療で治りはしたが。
妻達は反省せず。