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青春のオキテ  作者: 有川 林檎
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[K side]1.入学式

春といえば、真新しい制服に身を包んだ新入生達の入学の季節。

僕、中村 幸太郎も例に漏れず、パリパリの動きずらい制服に身を包んで、今日から通う藤代高校の正門前に居た。

少し早く来すぎてしまったらしく、時間つぶしに読みかけの文庫本を開く。

そのまま読みふけっていると、どれほど時間が経ったころか、ふと、強い風邪が吹いて、ヒラリと学校の敷地から桜の花弁が一枚、本の上に舞い落ちてきた。

「立派な木だなぁ……」

思わず門の柵ごしに桜を見て呟く。

「そりゃぁね。創立時からある歴史ある木だから」

「え?」

あるはずの無い返事が返ってきて、驚いて桜を見上げいた視線を下ろすと門の向こうに見知らぬ女生徒がニッコリ笑って立っていた。

少し長めの髪に、綺麗系の顔立ちの彼女は、なんとなくお嬢様ッポイな、なんて思う。

ふと、視線を落とすと彼女の腕にある腕章には、副会長の文字。

ネクタイが深緑だから二年生だろう。

「あ、生徒会の方……ですか」

僕自身、中学の時生徒会長を務めた経験があるだけに直ぐに入学式の手伝いに駆り出されたんだろうと検討がついた。

生徒会というものはどこも行事のたびに扱き使われるものだ。

どうやらここも例外では無いらしい。

「君、新入生よね? まだ入学式には時間あるけど、いつから居たの?」

腕時計を確認すると、着いてから15分ほど経過していた。

「15分ぐらい前からです。やっぱり早すぎたみたいですね」

僕が苦笑して言うと、何故か彼女は突然、良いこと思いついた! という顔をした。

「そーだ! だったら、入学式の準備手伝ってくれない?  ちょうど人手が足り無いの。特に男手が」

「は?」

「力仕事多くてさぁー」

困ってたんだよねーなんて言いながら門をあけると、副会長は有無を言わせず僕の手を掴んでズンズン校舎へと入って行く。

「あの、ちょっ、先輩…!」

「いいからいいから」

僕の言うことなんて微塵も聞いていないらしいこの先輩は、どうやら本気で入学式の手伝いを新入生である僕にやらせる気らしい。

「さぁ、着いた着いた!」

「なっ……! 」

目的地だったらしい講堂に着いた時、僕は驚きのあまりあんぐり口を開けて惚けた。

な、なんだこれ……

「なんで、入学式15分前にイスがまだ3分の2程度しか並べられていないんですか……?」

こういうのって普通前日には済ませとくもんじゃないのか……?

「あー、それがねー、ホントは昨日中に済ませようと思ってたんだけど、忘れててね」

忘れるか⁉普通

しかも藤代高校、通称藤高は県内でも頭一つ飛び抜けたマンモス校で、当然新入生の数も、その保護者の数もかなりのものだ。

そして、必然的にイスの数も多くなる。

それなのに、忘れるって……

僕は入学初日から、ほんとにこの高校に入って良かったのかとにわかに不安をおぼえた。

「ささ、作業にとりかかろー!」

僕の不安を知ってか知らずか、副会長は何故か楽しげにそう言うと、さっさと行ってしまった。

なんだか良く解らないけど、どうやら僕は初日からついてないらしい、ということだけはなんとなく分かった。








「んー! 一通りOKかな!」

グルリと講堂中を見渡して、副会長(広末加奈子先輩というらしい)は満足げに頷いた。

そりゃそうだろう。

副会長が終始全然まったく手伝わずに舞台の上で缶のミルクティを呑気に飲んでいる間、僕と他の生徒会役員の先輩たち、それに他の委員会の先輩達がせっせと椅子を並べたんだから。

はぁ、と小さく溜息をつくと、隣の男の先輩が僕を見て少し困ったような顔をしていた。

「君……えっと新入生の」

「あ、中村です」

「中村くん。僕は生徒会長の羽田だ。ごめんね、加奈子が無理言ったんだろう。新入生に手伝わせるなんて……後で何かお詫びするよ」

「あ、いえ、そんな。むしろ貴重な体験をさせてもらいました……」

どちらかというと今日は涼しい位なのに、重労働のおかげで額にかいた汗を拭って、僕は心底もうしわけなさそうに頭をさげる生徒会長に思わず同情してしまった。

どうやらこの会長も副会長には苦労させられてるらしい。

「そろそろ新入生はグランドに集まる頃だからもう行ったほうがいいよ。道はわかる?」

「はい。なんとなく」

「そうか、それじゃ……」

ヒラヒラと力なく手をふって、会長は副会長とともに講堂を後にしていった。

まだ仕事があるのだろう。

ほんと、大変そうだな……

「それじゃ、僕もいくか」

残っている先輩たちに軽い挨拶をして、んーっと伸びをしながら僕も会長たちと同じように講堂を後にした。













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