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なぐられて影武者  作者: 十五郎
第1章 レバンジオ王国でよくある1日
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1-5

~前話のあらすじ~

王子を探している姫と影武者。この時代の移動手段のひとつ“ドラゴン”の倉庫に行き、王子の足取りを追ったのだが、そこにはポッチャリし過ぎの貴族、チャシリスがいるだけだった。姫は彼と影武者を葬り去り、もう一つの移動手段“ザウルス”の倉庫へ向かうのだった。


 あれから10分も経たずに、スイナとイストの二人はとぼとぼとザウルスの飼育小屋から出てきた。


「杞憂に終わりましたね」


 そのようである。格納庫の番人も、ザウルスの飼育員も王子を見ていないし、何もなくなっていないという。

 王子が街の外に出ていたら一大事である。いくらバカ王子であるといっても、王子は王子、腐っても鯛。まあ、腐っている事実は変わらなく、食えたものじゃないと言うことだとも取れる言葉なのだが。

 だが、二人は疲れた様子を見せている。その理由は簡単。街からドラゴンやザウルスに乗って出て行くという目立つ行動をしてくれた方が行き先を特定しやすいからだ。


「ドラゴンは大きくて目立つから、お兄様が乗っていったとなれば探しやすかったのだけれど……」


「そうですねぇ」


 そう、ドラゴンやザウルスと言われる存在は目立つ。

 ザウルスとは超常の生き物である。形状はそれぞれの生息環境に応じた生き物に非常に似ているが、その身体は爬虫類のように頑丈な鱗に覆われている。その鱗で覆われた身体も異常だが、彼らの筋力が同じ体重の獣や鳥よりも格段に強いことを指して〝超常の生き物〟と称されている。彼らの頭蓋の中に存在する竜核という機関が、世界に満ちる精霊力〝マナ〟を筋力強化していると考えられている。

 その竜核というもの自体がさらに奇妙な物質であり、それの特性を活かして人は人工竜〝ドラゴン〟を製造する。『太陽を引っ張った王様』が作った竜も、そんなドラゴンのひとつなのだと言われている。

 ちなみに、ザウルスの一部は人にも懐きやすくて飼育も可能だが、飼育下での繁殖は成功していない。そのために竜核の採取を目的とした飼育はなされておらず、もっぱら騎乗用や観賞用でしかない。


「それに、ザウルスでも〝ヤラオ〟ならば足が早いから目立つわ」


 スイナがふと漏らした言葉にイストは露骨に嫌そうな顔をした。


「姫、ヤラオなどと、まだその名前を残していたのですか?」


「いいじゃない」


「はぁ……王子のミドルネームを騎乗用ザウルスに付けるだなんて、どんだけ姫はブラコンなんですか?」


 イストは思う。自分の名前を着けてください、と。

 いや、むしろ自分に乗ってくださいと大声で言いたい。しかし悲しいかな、彼はスイナの従者でしかないのだ。ああ、無情な身分社会。彼は身分制度において上に立って欲しいのではない、身体的に言って上に立って欲しいのだ。なので、自分が一番上に立つことになったら、下の位となるであろうスイナやほかの貴族の淑女達に「私を踏め!」と命令しようと思っている。

 そして、ついつい願望が口に出てしまうのは日常茶飯事。


「私を踏むのだ!」


「いやよ。殴るわ」


「ごふっ!」


 イストの頬に普通の拳を叩き込んだスイナは、小さく咳払いをして「そもそもね」と説明をし始めた。


「もともとヤラオはお兄様が捕獲したザウルスなのよ。ワタクシがそれをもらったならば、お兄様への感謝の気持ちを表さなければならないじゃない。ヤラオという名前を着けたのはそれが理由よ」


 と、そこまで言って気付く。


「というより、ブラコンってどういう意味なの?」


「えーと……行きすぎた兄弟への想いというか、兄弟を愛しているというか……」


 満面の笑みで頬を愛おしそうに撫でているイストの言葉に、スイナは首をかしげる。


「なに当然のことを言っているの? 家族を愛していないだなんてあり得ないわよ」


 スイナの言葉にイストはため息をついた。先ほど殴られた痛みという快感もどこかへ飛んでいってしまうほどのものらしい。カルチャーショックというやつだ。

 だが、あいにくそんな精神的な衝撃では何も感じられない。

 これだけ文化の差があるのだから、平民出身の自分が王子の真似をするのは、普通ならば多大な努力が必要なんだ、と思った。もっとも、レバンジオのバカ王子は下々の民の文化に汚染されているため、真似をするのも楽で助かっているが。

 王子がこれまで興味を持った平民文化を思いだしていると、ふと、最近流行っているあるものを思いだした。下々の民の文化であるアレに、王子は関心を持ったのではないだろうか。


「姫、たった今、王子の行き先の目安となるものを思い出しました」


「よくやったわ、影武者! そしてどこへ行くの?」


「ひとまずは、リシター家のイドフリス様から情報を収集したいと思います」


「なぜリシター家?」


「時代はメイドさんだからです!」


「え? メイドならアハナ侍女長に聞けば――」


 何か反論するスイナを、イストは背中を押してせかせる。


「ちょっ……なにするのよ!」


「善は急げです! さあさあ、早く早く!」


「なんで従者のお前に急かされなきゃ――」


 スイナは押されながらも足を少し浮かせた。


「――ならないのよっ!」


 そしておろす。もちろん狙いはイストの足。

 ハイヒールではなく動きやすいパンプスだったが、かかとの部分はきちんと狙い通りにイストの足の甲を踏む。

 彼は無言のまま、満足げな表情を浮かべるのだった。

 その表情が気持ち悪いという理由で、姫はもう一度影武者をぶつのでした。めでたし、めでたし。



コメディ系小説にしては地の文が多いって?

こういう文しか書けないんです・・・

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