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なぐられて影武者  作者: 十五郎
第4章 三千世界の重箱の隅を突くような轟音を伴う戦闘でクライマックスだったりする
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4-11

~前話のあらすじ~

 恐怖によって協力することを約束したミイラジジイ。新たなドラゴンの封印を解くには愛し合う男女、しかも異なる血筋の王族が必要なのだという。スイナとスゴルドで決まるかと思ったが、ジジイが言うにはイストも王族の血筋らしい。イストとスゴルドはどちらがスイナを愛しているのかを問答し合うが、イストの「姫のウンコなら喜んで食べられます」という言葉に圧倒され、スゴルドは身を引いた。そしてドラゴンの封印を解く手順のさなか、イストは危険を感じてスイナだけを突き飛ばし、自分は突如現れた火柱の中に飲み込まれてしまったのだった。


 放心状態のスイナに代わり、スゴルドがジジイをつるし上げていた。


「貴様ぁぁ、俺たちをハメたのかぁぁぁぁっ!!」


 これまでないほどの殺気を放つが、それを当てられているジジイは満面のイヤらしい笑みを浮かべ続けていた。


「ジオリス王国と深い関係にあるお前たちを手伝う気など最初からないわ」


 スゴルドは怒りを爆発させ、得意である土の精霊行使をして強化した拳でジジイを殴り飛ばす。ジジイは壁に叩き付けられて床に跳ね、血反吐を一瞬だけ吐くが、すぐに何でもなかったかのように立ち上がってイヤらしい笑みを浮かべる。


「再びこやつの封印が発動するまで三日。それまでにこやつは力を暴走させてこの国を焼き続けるじゃろうなぁ……グッフッフッフ」


「くっ……!」


 スゴルドは再び火柱に目を向け直す。火柱の範囲は徐々に広がっていき、徐々にスイナとの距離も縮めていく。彼は慌てて駆け寄ってスイナを抱え、部屋の隅まで後退した。

 ジジイは悔しそうなスゴルドの顔を見ると、得意そうに解説を始めた。


「こやつはな、ワシの国を襲った大干ばつが元になっておる。太陽の熱が通常よりも高く、あらゆるものが乾いていってしまったときに、20体の弱小ディザスター種を生け贄にしてその干ばつを食い止めようとしたときに偶然できたんじゃ」


 スゴルドの頭に閃くのは童話のワンシーン。童話の中では王様が太陽を引っ張ってしまい、国のすべてが太陽の熱で死滅したという。


「乾燥そのものではなく、乾燥をもたらす太陽熱を封印しようとしたのか!」


「そのとおりじゃ。こやつは太陽なんじゃよ。誰もが欲しがるその輝きじゃが、近づきすぎればすべてを焼き尽くす大災害……制御など考えること自体が愚かである」


 そうやって話をしている間にも火柱は太くなっていく。

 スゴルドは考える。この部屋から抜け出すべきか、この部屋から抜け出してどこへ行けるか、三日間も逃げ続けなければならないとしたらこの国はどうなるのか。

 決断しなければならない。ただ、少しは考える時間が欲しい。だから、ちょうど床にできていた窪みに火柱が到達するまでは考えることにした。これまでの火柱の成長から考えればおおよそ30秒。


「グッフッフッフ……不死であるワシはこのぐらいの炎に焼かれても死なんし、地上にいるワシの子孫はガルルア・ランメイスを使って遠くへ逃げることも可能。つまり、ワシの勝ちじゃな」


 ジジイのムカつく声を聞きながらもスゴルドは考え続けた。そして遂にタイムリミットの30秒が来た。

 逃げなくてはならない。

 そう思った。だが、異変に今更気付く。


「火柱が大きくなるのをやめた?」


 スゴルドの腕の中でスイナがぽつりと呟いた。


「落ち着いたか?」


「……そんなワケないじゃない。でも、このままじゃいけないと思うの」


 本当ならば泣いていたいだろうに、恐怖の対象である火柱を睨み続けていた。スゴルドはそんなスイナを見て、譲ってしまって惜しいことをしたかなと思った。


「なっ……どういうことじゃ! 火柱が小さく……」


 冷静さを取り戻していく二人に対して、勝利を確信していたかのようなジジイが喚きだした。


「……そんなこと――ガハッ!」


 そんなジジイを一閃する青白く輝く刃。

 出現箇所は火柱の中心。

 ジジイを左肩から股間まで切断するとその刃は消失し、ほぼ同時に火柱も消えてなくなった。


「やれやれ……本当に死ぬかと思いましたよ」


 焼けこげた祭壇のすぐ横に、何事もなかったかのようにイストが立っていた。


「か、影武者ぁ!」


 スイナはスゴルドの腕をふりほどいて彼に駆け寄って抱きついた。イストは少し恥ずかしそうに彼女の肩に手を置いた。


「姫がご無事のようで何よりです」


「バカ……勝手な真似して許さないわよ」


「だったら折檻フルコースを所望します」


 相変わらずの奇妙な会話だが、これこそ本来の二人が互いに望んでいる穏やかな時間というヤツだ。

 スゴルドも声をかけずに止めておこうと思うほどの穏やかな空間に、罵声という異物が侵入してきた。


「ふざけるなぁっ!」


 声の主はジジイである。イストに斬られた箇所はすでに再生されており、怒りと恐れを含んだ目を向けてきていた。


「ワシと同等の再生能力を持っていると仮定すれば、お前が死ななかったことは理解できる。じゃが、どうしてこやつを制御できた!」


 イストは、「ありえん、ありえん」とわめき立てるジジイに自分なりの答えを教えることにした。


「私が炎の精霊憑きだから可能なのだと思います」


「な、なにぃっ!? そんなことで制御が可能になるというのか!」


「それと、この方の名前を呼んで差し上げたのが幸いしたのかもしれませんね」


 イストが祭壇の上、天井部分に目を向ける。スイナとスゴルドはそれを見ようとして覗き込むと、驚きのあまりに口を開いたままになってしまった。


「この小さいのが、あの童話に出てきた太陽だと言うの!?」


「これは……フィリ目に属するザウルスがモデルなのか?」


 二人の視線の先には頭から尻尾の先までが50cmぐらいしかない、それこそただのトカゲにコウモリの羽が生えたかのような見た目のドラゴンがいた。全身は輝く黄金色で、二人を見つめる目が深紅という豪華な出で立ちだが。

 驚く二人に対してジジイは完全に恐怖を顔に張り付かせていた。


「……お前、名前がわかったのか!?」


「名前、ですか?」


 思い当たる節がないのか、首を小さくかしげて質問で返す。


「ワシだって沢山の精霊使いや精霊憑きを呼び寄せて制御方法を見つけようとしたし、そやつの名前も探らせたというのに結局はできんかったんじゃが、お前は名前を探りきったのじゃな?」


「ほぉ……古代の人々は名前を探らせ、それを元に制御していた、と言うことでしょうか?」


「もちろんじゃ。まったく、知識の乏しいヤツは――くぅっ、これ以上はなにも教えてやらんもんねーっ!!」


 ジジイは解説を始めたがすぐに気付いたようで、わざとらしい拗ねた様子を見せながら走り出した。部屋を出ようとしているのだ。

 スゴルドはイストに目配せするが、イストは首を横に振るだけだった。


「しかし、名前か……」


 ジジイの後ろ姿を睨み付けながら、スゴルドはボソリと呟いた。イストは律儀に反応したと言うより、自分の考えをまとめようと思っているように話す。


「偶然によって生み出された強力な兵器であるディザスター種……それを制御する手段のひとつが名前を知ることとは、なんというかずいぶん古代の超文明もアナクロなんですね」


「うむ、技術と言うよりオカルトの範疇だな。魔王ガ・グースもさぞ喜ぶだろう」


 そんな二人の男の後ろで、スイナがごく普通に声をかけてきた。


「それで影武者、この子の名前はなんて言うのかしら。さっさと教えなさい」


 ……例の黄金色の小さなドラゴンを腕に抱えて。

 イストは顔を真っ青にしながらスイナの腕からドラゴンを取り上げ、祭壇の上に置き直す。


「し、失礼しました! 軽々しくその御身に素手で触れてしまったことを謝ります。それと、あなた様に対して『この子』などという目下の如き扱いをした姫には寛大な処置をお願いいたします!!」


 イストの突然の行動に二人は驚きながらも少々戸惑った。


「ええっと……なにもそこまでしなくても。だって、小さくて可愛いじゃないのよ」


「ドラゴン相手になぜへりくだっておるのだ?」


 スイナとスゴルドの発言は当然のことだった。ドラゴンは人間の手によって作られた人工生命体である。人間よりも強靱な肉体を有しているものの、創造主である人間がへりくだる必要はない。人間が自らの手で支配するように作ってあるのである。

 しかし、制御できなかったドラゴンはどうなのだろうか。スイナとスゴルドはそのあたりを理解していなかった。


《いつの時代も人間とは高慢なのだな》


「えっ!?」


「誰だ!」


 突然、二人の頭に言葉が直接響いてくる。低くはなく、少女の声だと言われればそうとでも聞けるものだった。

 二人は自然と祭壇上のドラゴンに目を向けた。そのとき、そのドラゴンの目が自分たちを見つめていることに気付く。

 その目つきは睨むのでもなく、慈しむのでもなく、ただ無情であった。いや、もちろんザウルスという人間には表情を読みにくい生き物がモデルであるので表情がないと思うのは当然のことなのだが、それとはまったく別の、いわゆる感覚的なことで無情な目だと思ってしまった。


《文明の発達度合いにおいて高慢さが増すのだと言う我等もいたが、やはり、いつでも高慢であるようだ》


 話しかけられている二人はゴクリと喉を鳴らし、自然と跪いてしまった。

 普段、人の上に立って公平であらねばならないスイナとスゴルドには無情の目がなにを意味するのか理解できたようだ。あれこそ自分たちが目指すべき姿。いわゆる、〝法〟というものそのものであった。


「申し訳ありません、アウレヅィア・セメン。あまりそのお二人をお責めならぬようお願いします」


《……なるほど、あれらは敵ではないのだな、我が声を聞き取った人間よ》


「はい」


 本来であれば人間が支配するはずのドラゴンがイストを従えているようにも見える。しかし、それは間違いであり、実際は従えてはいない。

 イストが一方的に従っているのだ。

 無論、彼はそのドラゴン〝アウレヅィア・セメン〟を主としたわけではない。彼の主はスイナであり、裏切る考えなどまったくない。だが、人間というものは自分の主にだけ従うわけではない。


「姫、スゴルド殿……ご紹介いたします。こちらの方が童話にも出てきました『地上に引き寄せられた太陽』であらせられます、ディザスター種〝獄炎のボラファラ〟の最上位に座する〝揺るがぬ光球アウレヅィア・セメン〟様でございます」


 世界の根幹をなす大いなる者へ、人間は畏敬という念で従っているのだ。



と言うわけで、最強ドラゴン登場です。

アウレヅィア・セメン。

「アルティメットレーザー!」とかいうスンゴイ光線を放つらしいので、「アルレイザー」になり「アウレヅィア」となりました。セメンはセメントです。

つまり、究極光線セメントです。

うん、絶対強いw

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