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なぐられて影武者  作者: 十五郎
第4章 三千世界の重箱の隅を突くような轟音を伴う戦闘でクライマックスだったりする
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4-8

~前話のあらすじ~

 ラヌイジオ城を襲ってきた巨大ドラゴン“ガルルア・ランメイス”。それを操っていたのはクラオジルスとヒメコであった。二人はタダノィルに封印されていた古代兵器であるガルルア・ランメイスを復活させ、その力でこの大陸を征服しようとしていたのだ。それに対してラヌイジオ王国の最新のドラゴンが攻撃を仕掛けるが全くダメージを与えられなく、反撃されてしまう。そして、イストたち三人は地震によってできた穴に落ちてしまうのだった。


 イストが目を覚ますと、彼は薄暗い石造りの部屋の床に寝ていた。

 彼は身を起こして部屋を見回した。

 そこはしっとりとした適度な湿気を含んだ空気が満たされており、その空気も外で吸うものと鮮度に大した違いように思える。また、薄暗いと感じたのは外から光を取り入れる窓がなく、そのかわりに天井の四隅がうっすらと緑色に光っているからだった。

 密室ではない。ドアこそ存在していないが、出入り口らしき縦長の長方形をした穴があった。出入り口の形から人間が使うための部屋であると予測できる。

 イストは自分の身になにが起きたのか、記憶をさかのぼっていく。


「私は……」


 とてつもない体験をしたという記憶はあるが、その詳細が思い出せない。心身に対してよほどの衝撃を伴う体験だったのだろう。一種の記憶障害だと仮定して動き出すことにした。

 身体に痛みはない。探索には十分だった。

 ひとまずは部屋を出ようと思い、右手を掲げて精霊行使によって炎の玉を生み出そうとする思いとどまる。部屋だけでなく、そこからつながる通路もほんのりと明るいのだった。


「ふむ……かなり高度な技術によって作られているようだな」


 通路を歩きながら自然と独り言をしてしまう。どうやら寂しいと思っているようだと自己分析をし、まるで自分を見つめるもう一人の自分がいるような気がして軽く笑った。

 そんな不思議な感覚は長く続かなかった。通路の進行方向に気配を感じたからだ。

 イストはほとんど足音がしないように慎重に歩いていった。

 イストは強い。人間の域を超えている強さがある。だが、もともとイストは影武者であり、替え玉である。それらの教育ばかりを受けていて、こういった隠密行動などは全くの素人である。

 その為、近づけば近づいただけ相手に気付かれることになる。


「む……来たか」


 しかし、彼は声をかけられて安心した。知っている声だったからだ。


「ふぅ……スゴルド殿でしたか。敵かと思いハラハラしてしまいました」


「ワタクシもいるわよ」


「おおっ、姫もご一緒でしたか!」


 自分の主の声もしたのでさらに安堵し、その歩みを早めていった。

 ぼんやりとした薄明るい視界の先に長身痩躯の影と、小柄で細い影が見えた。


「お前も怪我はしていないようね」


「はい。姫に身体の頑強さは鍛えられていますから」


「頑強と言うより、再生能力じゃなくて?」


「残念なことに再生能力は先天性のものでして――」


「――そんなことよりも今はこれからどうすべきか話し合うべきじゃないか?」


 ぺちゃくちゃと話し出した二人をスゴルドが遮ってきた。


「そうだったわね。今はあのバカお兄様をどうにかしないと……」


「うむ。だが、あのガルルア・ランメイスというドラゴンをどうにかしなくては」


 イストは少しだけ呆けた顔をしたが、すぐに表情を引き締めた。二人の言葉を聞いてようやく記憶が再生されたようだ。


「スゴルド殿はあのドラゴンを破壊するためにジオクエイクを開発したのですよね?」


「ああ。しかし、封印された状態のものを破壊することしか考えていなかったものでな。あのように元気に動き回られては対応できぬ」


「予定ではどのように破壊するはずだったのですか?」


「ジオクエイクの尾は削岩機にもなるので、それを使って削っていこうかと思っていた」


「なるほど、確かにあのように動き回られていてはそんな作業はできませんか」


 そこまで話したところで「はぁーっ」と男二人が大きなため息をつく。見かねたスイナが話に参加してきた。


「ねぇ、スゴルド。そもそもあのガルルア・ランメイスってなんなの?」


「童話に出てきた巨大ドラゴンだと説明したが?」


「ええ、それは理解できるのだけれど、今のワタクシたちが持っているドラゴンとはまったく別の存在に思えるのだけれど……」


 スゴルドは顎に手を当てて少し考えるそぶりを見せた。


「古代文明の遺跡に書かれていた情報によると、あれは『(きわ)だつ害を取り込んだ種族』、際害種(さいがいしゅ)と書いてディザスター種と呼ばれるタイプのドラゴンだ」


「際だつ害を……」


「取り込む……」


 イストとスイナが相づちを打つと、スゴルドは小さく頷いて説明を続けた。


「通常のドラゴン……古代文明では獣鱗種(じゅうりんしゅ)と書いてダイナソー種と呼ばれるドラゴンなのだが、それらを作成するにはまず金属で内部構造体と外殻を形作り、一定量の竜核に精霊を契約させ、竜核の力を得た精霊によって土塊から肉を生み出させる。それは理解できるな?」


「技術的なことはわからないけど、そういうものだと聞いているわ」


「ドラゴンとは人類の文明である金属加工技術と、超自然存在である精霊の合作だとも言われています」


「なんとなく貴方が言いたいことがわかってきたわ。ディザスター種はダイナソー種と製造方法が違うと言いたいのでしょう?」


「そのとおりだ、スイナ」


 自分の言いたいことを理解して合いの手を入れてもらうと気持ちの良いものだが、スゴルドは当然とばかりに話を続けた。よほど彼の周囲には優秀な人材が多くいるのだと予想される。


「ディザスター種は複数のドラゴンを生け贄にした儀式によって偶然に誕生するドラゴンだ」


「偶然? しかも儀式ですって?」


「ああ。もともとは大規模な自然災害を押さえ込むために精霊と竜核が強く結びついているドラゴンを消耗する儀式だったのだが、ごく希に一体のドラゴンが生み出されたという。それがディザスター種であり、あのガルルア・ランメイスもそのように生み出された一体なのだろう」


「……ちょっと待ってください!」


 説明をせがまれたので説明をしているスゴルドだが、イストはその当然とばかりの言いように苛立ちを覚え、噛みついてしまった。


「なんだ、イスト」


「ドラゴンを作るために竜核に精霊を契約させる行為は、複数人の精霊使いが数日かけて行うのが普通です。それだけの労力と時間を消費して行うには、竜核と精霊のエネルギーを暴走させない為という理由があります」


「知っている」


「ですが、その暴走を意図的に起こして爆発させることも可能なのはご存じですか?」


「もちろんだ。いわゆる、精霊召還と呼ばれる自爆攻撃だろう?」


「それをご存じならば! ……ドラゴンを生け贄にする儀式を当然のように口にしないで下さい」


「しかし、あのガルルア・ランメイスを実際に目の当たりにすれば、複数のドラゴンを暴走させて自爆させ、あまつさえ自然災害を食らいつくした結果に生まれたバケモノだとも言えるのではないか?」


「そうかも知れません。ですが……」


「くどいわよ、影武者」


「姫……?」


「お前はこう言いたいのね。『そんなすごいドラゴンに勝てるわけないから、あまり怖いことを言わないで』と」


「いえっ、私は……」


「お黙りなさい。口答えは許さないわ」


 イストに対するスイナの言葉は静かで、だが、そこには一切の優しさがないものだった。その感情のまったく存在しない寒気のようなものにイストは身震いした。


「ワタクシたちがあのバカお兄様たちと悪辣な魔女姫、そしてガルルア・ランメイスを止めなければ誰が止めるというの?」


 感情は一切ないが、そこには大きな責任感が存在していた。


「できる、できないの問題ではない。……ワタクシたちがやらなければならない。ただ、それだけよ」


 これぞ支配者のあるべき姿なのだと言えば、イストは大きく肯定するだろう。


「二度と間違えるな」


「……姫……申し訳ありませんでした」


「わかればいい。お前は諦めてはいけないのよ、ワタクシの騎士なのだから」


「はっ! ありがたきお言葉!」


 膝を折って跪くイストとそれを見つめるスイナ。二人はしばらくその格好のままでいた。

 そんな二人に対してスゴルドは軽く拍手をする。


「うむ……ただの影武者にしておくにはもったいない男だ。スイナはよい忠義の騎士を持ったようだな」


 同盟の盟主であるラヌイジオの次期国王からの言葉であるので、本来ならばありがたい言葉だ。しかし、今の緊迫した状況で拍手と心からの笑顔が、二人にはとても場違いなような気がした。


「でもね、スゴルド……ワタクシは無謀に戦いを挑む人間をただのバカだと思うのよ。先ほどから感じる貴方の余裕は一体なにが原因なのかしら?」


 イストは自分の主を鋭いなと思った。もっとも、自分よりも先に意識を回復し、スゴルドと共にこの石造りの地下遺跡を歩いていたのだから、彼の考えを予想するための材料集めはイスト以上であって当たり前であるが。


「俺は先ほどこう言ったはずだ。『古代文明の遺跡に書かれていた情報によると』とな」


「確かにそうだけど……もしかして、ここがその古代文明の遺跡ということかしら?」


「いや、ここはそれとは違う」


「だったら――」


「――ここははじめて見る古代文明の遺跡だ」


「え?」


「つまり、タダノィルによって支配されていたであろう古代のラヌイジオが、自分の城をわざわざ上に立てて地下深くに封印し続けた遺跡だということですね」


「そのとおりだ。それだけ厳重に封印しようとしたのだから、ここには童話に出てくるほどのガルルア・ランメイス以上に強力な兵器が……もしくは、ヤツを封印する手だてがある可能性が高いと言うことだ!」


 確かにスゴルドの言うとおりかもしれない。だが、そうそう簡単にいくものだろうかとイストは疑った。

 スゴルドが立っている後ろに石の棺らしきものがあるが、あの中に童話に出てくる「王様」が生きているミイラになって寝ているとかそんなおいしい話が――


「そうね……その『ミイラが寝てます。起こさないでください』と書かれた石の棺に本当ミイラが収まっていて、童話に出てくる王様だとしたら何か解決方法を知っているに違いないわね」


「おーいしーいっ!!」


 ――あったようだ。


「……静まりなさい、影武者」


 スイナはイストに足払いを決めて頭を踏みつける。うるさくした罰だ。


「はっ。お見苦しいところをお見せしました」


 恍惚の笑みを浮かべるイスト。あまり罰になっていない。

 スゴルドはそんな二人の様子を少々呆れたように見つめ、面倒くさそうに口を開いた。


「落ち着いたところで棺を開けようと思うが良いか?」


「ええ、もちろん」


「準備はできています」


 二人はスゴルドの言葉に返事をするものの、スイナはイストの頭を踏み続け、イストは気持ちよさそうに笑みを浮かべていた。それを注意するのも面倒なので、スゴルドは一人で棺を開けることにした。ラヌイジオ一の武将である彼ならば一人でも開けられる。

 彼が棺の蓋に手をかけて力を入れたその時、予想外のことが起きたので彼は後ろに3歩ほど飛び退いた。

 なんと、棺が独りでに浮かび上がったのだった。その動きはゆっくりとしたものだったが、彼が驚き、イストとスイナの二人が思わず真面目になってしまうほどに不気味な光景だった。

 棺は単に浮かんでいるだけではない。まるで中にいるミイラが歩いて棺の外へ出られるようにしようというのか、床に直立するように向きを変えていった。そして蓋が中心線から左右に割れて開いていった。

 三人はゴクリと喉を鳴らしながら中からミイラが出てくるのを待っていた。

 なにしろあの童話に出てきた王様である可能性が高いのだ。乾いたぐらいでは死にはしないように身体を調整しているのだから、一人で出てくると思っていても悪いことではない。

 だが、1分以上待っても中から誰も出てこなかった。

 仕方がないので三人揃って恐る恐る暗い棺の中を覗くと……


「う~ん……あと五分だけー……すやすや」


 ……ミイラというか、しわくちゃで痩せこけたジジイがきんきんギラギラな派手な服を着て寝ていた。


「……むにゃむにゃ……もう食べられない……」


 どうやら寝言らしい。

 スイナはその幸せそうに眠るジジイを見ていて、そのジジイの顔が恐怖に歪むのを見てみたいと思ってしまった。きっと、イストを踏みつけるのよりも気持ちよいのだろうと予想を立てる。

 右手に高まる精霊力は冷気の精霊行使を行う。寝ている人間をたたき起こすには冷たいものが良いからだ。

 スイナの行動に二人の男は諦めた様子でスペースを空けてあげる。

 そしてスイナは拳を振りかぶったのだが――


『いつまで寝てるのよ!』


 ――突然に聞き覚えのない声がしたのでその動きを止めた。


『遅刻するわよ!』


 どうも、棺の中からするようだ。


『べっ、べっつにアンタと一緒に学校に行きたいわけじゃないんだから! 遅刻者がいることは委員長であるアタシのメンツにも――』


 謎の音声が止まったかと思うと、ミイラがもぞもぞと動き出した。


「そんなこと言って本当はワシと……グッフッフッフ」


 直立した状態でも床に転落しないのはすごいなと思いながらも、イストは呆れていた。

 変な音声によってミイラが目を覚ましたことから推測するに、あれは一種の目覚まし時計の音のようなのだが、この際そんなことはどうでもよい。

 ただ、三人は同じようなことを思っていた。

 こんなヤツが王様だったら国なんてすぐに滅びるよな。いやいや、むしろ早く滅んでくれてありがとうございましたと。

 だから、スイナが拳を再び振りかぶったのに合わせるように、イストとスゴルドも得意属性の精霊行使をして棺を破壊したのだった。


「クギュッ!!」


 こうして三人の勇者によって悪の権化は消滅したのだった。

 めでたしめでたし。



ギャグのはずなのに設定解説が多いようにも思えたり。

え? これをギャグと言うなと!?

……ギャグとは言えないかも知れない。

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