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なぐられて影武者  作者: 十五郎
第4章 三千世界の重箱の隅を突くような轟音を伴う戦闘でクライマックスだったりする
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4-7

~前話のあらすじ~

 イストとスイナの説得によりスゴルドは考えを改めてくれることにした。だが、彼がタダノィルを襲おうとしたのは、古代兵器の破壊という重大な理由があった。その秘密を聞かされていたその時、巨大な自身が起こった。そして、ラヌイジオ城に影を落とす巨大ドラゴンが出現した。


 音は波である。

 イストはそう学んだ。

 では、波は見えるものなのか。

 水面にできた波紋は目に見えるが、あれは水を視覚できるからこそ見えるのである。

 つまり、人間が視覚できない空気の波は見えないのが道理である。

 しかしながら、道理とはこれまでの人間の経験をまとめた結果であり、もしかしたら人間は偶然に少数派の経験だけをしたのかもしれない。となれば、世界は道理と反対の現象ばかりであってもおかしくない。

 たとえば、今目の前で起きている〝見える音〟などがそうだろう。

 城の向こう側に出現した巨大ドラゴンが口を開いたその時、紫色の輪が広がっていったように見えた。しかしあれは、口を中心に透明度の高い紫色の波が全方位に広がっていったのだろう。全方位に広がっていった為に、ドラゴンの口とイストを直線で結んだ線に対して直角の輪が見えたのだ。

 では、どうしてイストはそれを平面上に広がる輪ではなくて波だと感じたのかというと、単純な理由であった。

 その紫色の波が放たれたあと、地面が揺れ始めたのだ。空にだけ進んでいく輪であったのならば地面には何の影響もないだろう。しかし、地面が至るところで揺れている。


「あのドラゴンが地震を起こしているというのか!?」


 結論を口にしてみたが、その無茶苦茶な答えを信じ切れないでいると、もう一度ドラゴンが口を開いた。再び〝紫色の音〟が広がる。先ほどよりも色の濃い、いわば、先ほどよりも力の込められた音だ。

 故に、巨大な揺れが襲いかかる。


「ぐぅぅっ! ジオクエイクたちよ!」


 声を上げたのはスゴルド。揺れに必死に耐えながらも自分のドラゴンたちに命令をしていく。


「攻撃を開始せよ! 標的はあの黒いドラゴンだぁぁぁぁっ!!」


 彼の命令に従い、1号以外のジオクエイクたちが黒いドラゴンへ飛びかかっていく。

 イストは最初、全長20mと言うサイズを大きすぎると感じていたが、こうして黒いドラゴンと対比すると、人とネズミぐらいの存在比がある。

 あれでは、勝てない。

 ジオクエイクは勇ましい雄叫びを上げながら黒いドラゴンの足を駆け上り、そのまま胸や肩などへ飛び移り、生物として一番弱い首に狙いを定めて噛みついたり太い尾の一撃を繰り出す。

 が、黒いドラゴンはそれに動じることなく腕を3回ほど軽く振るだけですべてのジオクエイクを払いのけてしまった。噛みついていて身動きが取れなかった1体だけが腕の直撃を食らったようで、城に落ちてきてそのまま動かなくなってしまう。


「ちっ、無理か!」


 しかもあの腕の緩慢な動き。ジオクエイクを破壊しようとは全く考えていないかのような動きだった。戦うに値する相手だと思っていないのだろう。顔の周りをまとわりつくユスリカを払うようなものに違いない。

 地面に落ちてきたジオクエイクたちは再び自分の主の元へと集まってくる。


「……あやつの外殻は数多の災厄を退けるビルギニアの鎧だとでも言うのかっ!!」


 あれだけジオクエイクの攻撃を受けたにもかかわらず、黒いドラゴンの外殻に歪みは見られない。大抵の生き物にとって首を狙われることは致命的であるというのに、黒いドラゴンが平然としているその様は、確かにスゴルドが言うように伝説に出てくる神々の守護を受けた鎧を身に纏っているのかとも思える。

 だが、イストは同時に考えた。

 あの黒いドラゴンがスゴルドの予想するとおりに攻城兵器であれば鈍重であっても問題なく、もしかしたら、防御力を高めるために各種関節の動きを制限するほどの外殻を設定しているのではないかと。だからこそ、さきほどジオクエイクを払いのけた動きは緩慢であったのだろうと。

 それは単なる楽観的な考えなのかも知れないが、そうとでも思わなければ対策など見いだせない。彼と同じく、スゴルドもどのように対応していいのか思いつかないようで、悔しそうに相手を見上げていた。

 しかし、二人の男が見上げているだけだというのに、スイナはただ黙って黒いドラゴンを睨み付けていた。

 いや。彼女が見ているのは、その頭上にある鈍い輝きか。

 イストがそれに気付く前に、黒いドラゴンは三度口を開けた。


「また来るのか!」


「ど、どうすれば!?」


 だが、今度は紫色の波が放たれることはなく、ごく普通の音声が放たれた。


『どうだい、ボクとヒメコのガルルア・ランメイスによる攻撃は』


 その音声はその場にいる三人がよく知っている人物のものだった。イストとスゴルドは驚きに声を失ったが、スイナは違った。


「お兄様っ!! これは何の真似ですのっ!!」


 こうなることを予測して、なおかつ彼自身を地上から睨み付けていたようだ。彼女は声を荒げて返答した。


『おお、愛しい我が妹よ。この度の行いは戦争だよ。ボクとヒメコが新しい国を興すためのね』


『そのとおりなんですの~♪ 私とクラオジルス様の愛の家を造るための聖戦ですのよぉ~』


「戦争って……本気で言っているのですの!?」


『うん。なんだかこのドラゴンを手に入れてから、急にやる気が出てきちゃって……ねー♪』


『ねー♪』


「そんな時だけやる気出すなぁぁぁぁっ!!」


 スイナの大絶叫ツッコミも全く効果はなく、クラオジルスとヒメコは「だってー」とか「そうはいっても」とか「「ねー♪」」とかいちゃいちゃしながら黒いドラゴン〝ガルルア・ランメイス〟を再び動かし始めた。


『というわけで、私たち二人のらぶらぶぴーすぱわーで世界を支配してあげますわよぉ~』


 ヒメコの声に合わせて放たれる紫色の波。


「い、いかんっ!」


 スゴルドはさらに上昇した紫色の濃さに危険を感じ、ジオクエイク1号に自分たち三人を抱えさせて衝撃に耐えようとした。

 しかし、今度の地震は彼の予想すら上回り、地面は揺れると言うより波打つという表現が正しいほどにうねり始めた。

 そして、身動きできない彼らに対してガルルア・ランメイスが城を踏みつぶしながら襲いかかってくる。


『しつこいですわね~。さっさと負けをお認めになって♪』


 ただ歩いているという行為なのだが、その巨体によるものであれば、一般的に言う攻城兵器を軽く越える破壊力を伴う攻撃であった。

 それが、ジオクエイク1号にぶつかる。


「ぐあぁぁぁぁっ!!」


「きゃぁぁぁぁっ!!」


「うぬぅぅぅぅっ!!」


 三者三様の叫び声を上げながら、彼らは空を舞った。

 加えて、彼らが不時着するはずだった地面は大きく陥没して穴になっており、地面への激突音すらなく地上から消え去るのであった。



おっかしぃなぁ……当初の予定ではもっとギャグギャグしている話だったのに……

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