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なぐられて影武者  作者: 十五郎
第4章 三千世界の重箱の隅を突くような轟音を伴う戦闘でクライマックスだったりする
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4-5

~前話のあらすじ~

ラヌイジオに到着したイストとスイナは第一王位継承者のスゴルドと面会した。イストはクラオジルスの影武者として接して友情を確認した。しかし、スイナが偽チチであることがわかると、なにか彼の持つ雰囲気がおかしくなっていった。


 スゴルドは自慢の長刀を振り回しながら城の廊下を走っていた。

 例えラヌイジオほどの大国の王城だと言えども、それほど廊下というものは広く作られていない。それ故に長刀などを振り回しながら走るのは、普通ならば不可能だ。しかし、ラヌイジオ一の武将でもある彼には容易なことだった。一度も壁や柱を傷つけることなく自慢の長刀を振り回しているのだ。

 そんな物騒な走り方をしているのは理由がある。


「待てぇぇぇっ!」


 イストとスイナを追いかけているのだ。正確にはスイナだけだが、一緒に逃げているイストのこともここは含めておく。

 追いかけている理由は極単純だった。


「待てと言って待つヤツがどこにいるんだい!」


「お前は待たずとも良い! 俺はただ、スイナが本当に偽チチなのかを知りたいだけなのだ!」


 スイナの服をひん剥きたいらしい。


「なんてことを大声で言うのよ。この変態スゴルド!」


 まさにそのとおりである。


「それに、仕込んでいたものは取って見せたでしょ?」


 そう言うスイナの胸元は情けなくしぼんでいた。

 「ない」ということではないが、「小さい」と呼んでよいのか判断に迷うぐらいのサイズだった。スイナの横を走っているイストは、彼女の胸元の隙間から見えるものからそう判断した。一緒に逃げている役得である。

 しかし、彼は悲しみに暮れていた。いくら偽チチを使って大きく見せているとしても、これほどまでに彼女本来の持ち物が小さいのだとは予想していなかった。


「確かに偽チチを取り出したということは信用しよう」


 変態が何か言っている。


「だが、このスゴルドを惑わすために晒しをきつく巻いているという可能性も捨てきれんのだ」


 そうかもしれない。

 そうかもしれないのだが、顔を真っ赤にして鼻息荒くしている男の言っていることなど、別の意味のように捕らえられる。要は……


「実際にこの目で見なくては信用できんのだ!」


 ということである。


「見たあとはトリックアートでないことを確かめるためにこの手で触らなくてはならんし、触覚を狂わすなんらかの薬物が使われている可能性も捨てきれないので匂いや味で確かめることも必要だったりする!」


 つまり、小さいおっぱいを色々な方法で観賞したいと言っているのだ、変態は。


「結局それが狙いかぁぁぁぁっ!」


 遂にスイナの怒りゲージがMAXとなり、彼女は足を止めて両手で同時精霊行使を始めた。右手に炎、左手に冷風、それを組み合わせる。異なる属性が互いに打ち消し合い暴力的な力が発せられた。

 追いかける側であるスゴルドは、当然スイナのヘル・アンド・ヘヴンに突っ込んでいく形になっていた。顔を驚愕に歪ませながらも、小さいおっぱいへの執念は消えていないようで勢いを殺さず襲いかかってきた。


「ぬぅぅっ! その破壊的な力は金色の破壊神と呼ばれた――」


「ごちゃごちゃうるさぁぁぁぁいぃぃぃぃっ!!」


 仰々しい話し方はここでは炸裂せず、変わりと言っては何だが、スイナの最高攻撃が炸裂した。

 スゴルドもただやられるわけではない。彼がスイナめがけて振り下ろした長刀は名工の手による精霊力を高める武具であり、彼の得意とする土の精霊の力によって金棒のように太く巨大になっていた。

 スイナの必殺技と、スゴルドの勢いづいた一撃。

 二つがぶつかり合った瞬間に巨大な爆発が起こった。

 スイナが立ち止まったことに一瞬遅れて気付いたイストはその爆発を離れたところから見ていた。そして、直感めいた危機感が、彼をその爆発へ向かって走らせた。

 廊下の床や壁は無惨にも破壊され、それが粉塵となって視界を覆う。だが、集中しているときの彼にとってそんなものは障害にならない。瓦礫に足を取られることなく素早く動き、自らの主の細い腰に手を回すと一気に抱き寄せ、壊れた壁を越えて庭に躍り出た。


「か、影武者!?」


「失礼しました、姫」


 突然の部下の行動に困惑するスイナに詫びながらも、その目は壁の向こう側、つまり廊下だった方に向いていた。

 直後、石同士を打ち付けたような音を撒き散らしながら、粉塵の中から数本の石の杭が生えてきた。イストはそれを右手に集めた炎の精霊力で薙ぎ払う。一瞬拮抗したが、杭は逸れて二人の後ろに突き刺さっていった。

 イストは自分とスイナに被害がないことを確認すると、石杭が飛来してきた方向を睨んた。


「姫を殺すつもりですか、スゴルド殿下」


「そう言うお前はクラオジルスの影武者、確か名前はイストだったか?」


「ばれたわね……」


 スイナは悔しそうに呟くが、スゴルドは一応天才であるので仕方がないのだ。クラオジルスが一番得意とする精霊の種類を覚えていて、それに対して先ほどイストが使用したのは火の精霊。イストは精霊憑きであるが故にそれしか使えなく、本当ならば精霊行使をしないようにするべきだったのだが、あの状況ではそうも言ってられなかった。


「お前は俺を騙していたのだな?」


「結果としてそうなったのはお詫びしますが、それと姫を傷つけることは無関係だと思われますが?」


 イストは一歩も譲らない。彼は今、クラオジルスの影武者なのではなく、スイナに仕える騎士なのだ。主を傷つけようとした敵に容赦はしない。

 だが、スゴルドはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「俺が……スイナを傷つける?」


「先ほどの石杭はその為だと思われますが」


「ええ、ワタクシ目がけて飛んできていたわ」


 スイナも睨み付けるが、相手は表情を崩すことがなかった。自分の国の領土で、自分のしろと言う圧倒的に優位な場所に立っているからだろうか。いや、このスゴルドという男はそういうヤツではない。本当に傷つける意図はなかったのだ。


「先ほどの攻撃、お前が石杭と呼んでいたアレは実は矢なのだ。正式名称は〝殺々斗脱解矢さっさとぬげや〟。土の精霊行使による必殺技でな――」


「あ、解説いいです」


 スゴルドが自分の技について解説を始めたのだが、イストはそれを遮った。


「なんとなく狙いがわかったので」


「なにぃぃぃっ!」


 いきなり余裕をなくすスゴルド。


「名前が知らされ、状況を判断しただけで俺の必殺技の効果を理解したというのかぁぁぁぁっ!? その聡明さ、メルクゾー列伝のパルヘミッサの如し!」


「いや、普通にわかるわ」


「スイナもか!?」


 どう考えても相手の服を脱がすだけの必殺技にしか聞こえないので、そう言うことにしておく。

 スゴルドは気を取り直し、「まあいい」といって長刀を構え直した。一気に精霊力が高まっていく。


「ならば何度でも殺々斗脱解矢を放つことにしよう! このスゴルド、狙った獲物は確実に捕らえるぞ!」


 鼻息荒く意気込むブサイクを見ながら、スイナはなぜこの国に来なければならなかったのかを思いだしていた。確か、クラオジルスがタダノィルに行ってしまったことの釈明と、スゴルドがタダノィルと戦争をしないように説得するのが目的だったはず。

 だが、今の自分たちは何をやっているのだろうか。

 スイナは自分たちに呆れながら、イストの腕の中から地面に降り立った。

 そもそも、最初からこう言えば良かったのではないだろうか。


「スゴルド、ワタクシをめとりなさい」


「なんだと?」


「姫!?」


 突然の提案に二人の男は狼狽する。


「そうすればワタクシの身体をどうするのも自由。貴方の目的も果たせます。それに、妻の母国や、その兄の国に対して戦争を仕掛けるなどはできないでしょうから、ワタクシの目的も果たせます」


「姫……」


 イストは自分の主の決断を貴いと思いながらも、少し寂しかった。それに、そんな提案に今のスゴルドが納得するとも思えなかった。


「笑止……欲しければ……奪えばよいのだぁぁぁぁっ!!」


 怒号と共に振るわれる長刀。

 イストは炎を集束させて青い光の刃を生み出し、スゴルドの長刀と打ち合った。

 そう。打ち合ったのだった。

 通常の武器であれば一瞬で融点に達して崩れ去るはずなのに、スゴルドの長刀は少しだけ赤くなるだけで、形を変えることはなかった。

 あとは純粋な腕力勝負。いくらイストが精霊憑きであったとしても、ラヌイジオ一の武将であるスゴルドの腕力には適わずに後ろへ飛ばされる。

 ダメージはない。しかし、彼が後ろに飛ばされたと言うことは、彼とほぼ同じ所にいたスイナとスゴルドの間にはなにも障害がないと言うことで……


「はーはっはっはっ! 殺々斗脱解矢ぁぁっ!」


 だが、スイナもそれをまともに食らうバカではない。土の壁を目の前に出現させる。それはあくまでも相手から自分を見えなくさせるためのものであり、防御の意味はない。すぐに突き抜かれるが、そこにスイナはいない。


「ふぅぅぅぅ……避けたか」


「もちろんよ。誰が食らうもんですか!」


 風の精霊行使によって、急激なバックステップをしたのだった。


「だがな、スイナよ……」


「なに?」


 スゴルドも感心するほどの急激なバックステップ。そんなことをしたらどうなるのか予想はしなかったのだろうか。


「お前は……ぶふっ……」


 スゴルドは突然鼻から血を吹き出してその場に倒れた。

 あまりにも唐突なことだったのでスイナは驚く。だが、自分のすぐ後ろにいるマゾだけど頼りになる男のことを思い出した。くるりと振り返って微笑みかける。


「影武者、お前がやってくれたのね?」


 しかし、イストはなにも言わずに悔しそうな顔をするだけだった。


「スゴルド殿下……貴方の身体はすでに限界だったのですね」


 その言葉にヨロヨロと身体を起こすスゴルドは恥ずかしいのか、顔を背けながら小さく笑った。


「フッ……違う志を持つものに心配されるとは……俺も所詮その程度の男だったのだな」


「いいえ違います。貴方は素晴らしい武人です。ですが、自分の欲求にも素直だった。ただ、それだけなのです」


「もしかして、スゴルド……貴方、身体が悪いの?」


 二人の男同士の会話にスイナは割り込むことにした。


「身体が悪いのに、できるだけこの大陸の国々が良くなっていって欲しいと、民が安心して幸せに暮らして欲しいと、そう願ったからこそ早く戦争を起こしたかったのね?」


「……スイナ、それは――」


「なにも言わなくて良いわ。貴方の望みはわかった。だから、みんなでもっと良い解決策を考えましょう」


「姫……」


「ワタクシたちは同盟関係なのよ? 苦難に対して手を取り合って乗り越えるための契約を結んだ国家同士なのよ? 遠慮することなんてなにもない!」


 熱弁を振るうスイナに対してスゴルドは顔を背けたままで「すまない」と言った。


「それならば同盟関係のスイナに対してこのスゴルドはひとつ願いがある」


「なにかしら?」


「お前の覚悟はわかった。だから、さっさとその偉大な草原のような美しい微妙な曲線の胸を隠してくれ」


「え?」


 スイナは指さされた自分の胸元を見て、ドレスが思いっきりずれているのに気付いた。

 教訓。偽チチを取ったあとにはあまり暴れない方がよい。



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