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なぐられて影武者  作者: 十五郎
第4章 三千世界の重箱の隅を突くような轟音を伴う戦闘でクライマックスだったりする
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4-4

~前話のあらすじ~

ヒメコちゃんとクラオジルスくんらぶらぶー。黄色い線の内側まで下がって無事に暗黒地竜ガルルア・ランメイス様復活、いぇいっ☆

 イストとスイナの二人はソムルカの背に揺られながらラヌイジオの王城へ到着していた。

 謁見の手続きを済ませ、待合室に案内されてすでに2時間。


「……遅いですね」


「わかってるわよ。いちいち言わないで。余計にイラつくから」


「めっちゃ遅いですね♪」


「いちいち言うなと言っただろう影武者ぁぁぁぁっ!」


「へぺぇぇぐぎゃっ!!」


 殴られたいからワザと口にしているイスト。スイナは彼がそう言う行動することをよく知っているのだが、苛立っていたので手がストレス解消のために勝手に動いてしまったのだ。

 壁に半分ほど身体が埋まってるイストを見ながら、スイナはこの待ち時間はあり得ないと考えていた。

 いくらラヌイジオがレバンジオを遙かに超える大国だとしても、遠い昔に血縁関係であったレバンジオの王族をこれほど待たせることは普通ではない。それに、王であるエゼンケドに合わせろとは言っていない。早急な幼児なので王族に名を連ねる人物であれば誰でも良いと伝えた。

 それなのに……


「遅い」


「姫、そんな言葉を口にしては余計に苛立つだけですよ」


「……復活の早いお前もワタクシをイラつかせる要素ね」


 ギャグ状態であれば彼は望むままの速度で復活できる。先ほど壁にめり込んでいたのもワザとだ。それなのに復活したには理由がある。


「はい! もっとぶたれたいので!」


 実に素直に理由を述べやがった。


「素直でも――」


 スイナの手はまたもやストレス解消のために勝手に動いてしまう。


「うひっ♪」


 期待に目を輝かせているイストの胸ぐらを掴んでつるし上げ……


「――可愛くないのよぉっ!」


 床に、ゴオン、という大きな音を立てるほどに叩き付ける。

 そしてもちろん、頭から大量の血液を噴出しているイストを当たり前のように踏みつける。


「少しは大人しくしてなさい」


 踏みつけは持続ダメージであり、ふりほどかない限りは回復ができない。それでいてイストはMであるために、ダメージを受けることが快感であるのでふりほどく気はない。つまり、無限コンボ。

 床一面を血の海にしながら笑みを浮かべる被害者と加害者。

 そんな狂気な一室に新たな人物が現れた。


「自らの兄すら踏みつけるとは相変わらずだな、スイナ・カルメ・レバンジオ」


「誰っ!?」


「まさしくケアニックのダンザネイルの如し凶行!」


「その偉そうで仰々しい話し方は……」


 スイナはたったひとつの入り口に目を向ける。そこに一人の大男がいた。

 身の丈七尺八寸、目方二十四貫の細長い身体。それに乗る頭は大きく、顔はまるで火山火口に点在する溶岩のようなゴツゴツとした奇怪な形。見開かれた目はギョロリと睨み、ほとんどない眉がいっそう視線を恐ろしくする。鼻はリンゴのように赤く、下に位置する口はタラコのような分厚さを誇る。

 まさしくブサイク!


「スゴルド殿下!」


「うむ。久しいなぁ、スイナ姫」


 血溜まり空間ですらその勝ち誇った表情は変わらない。流石は、「ブサイクというすごい特徴を持った王子様」と影で囁かれ、今では同盟国の王族全員がそう思っているにもかかわらず何も気にしない心の広い男である。


「そして、足下で伸びているクラオジルス王子よ」


 イストはスゴルドから声をかけられたことと合わせて、スイナからの持続ダメージが消えていたことに意識を現実世界に引き戻した。そして、彼の話しに合わせることにする。


「はっはっはっ……妹が相変わらずお転婆で困るよ」


「フンッ。それを受け入れてこそ兄であろう?」


「弟しかいないキミがよく言うよ」


 そう言って二人は固い握手を交わす。

 それをどちらかというわけでなく自然に解き、スゴルドは入り口をくぐって抜けて二人にも出るように言う。場所を変えて話そうと言うのだろう。

 やがて二人が案内されたのは先ほどの待合室などよりも数段豪華な内装と家具が備わっている部屋だった。


「この人数で話すにはちょうど良い小部屋だろ?」


 スゴルドはニヤリとそのブサイク顔を綻ばした。他意はないようだが、小国の王族であるスイナにとっては嫌みに聞こえた。小部屋と言っても彼女にとっては非常に広い部屋だった。たぶん、自分の部屋が5つは入ると思われる。

 三人が上質な革張りの椅子に腰掛けると侍女がティーポットとカップをトレイに乗せて部屋に入ってきた。それを小さなテーブルにおいてお茶の用意をしていく。もちろん三人はそんな様子に目を向けることはない。当たり前の行為を見ても楽しくないからだ。ただ、イストだけは侍女が毒を入れたりしないか、怪しい行動をしていないか注意だけを向けていた。


「さて、急ぎの用があるそうだな。早速話を聞こうじゃないか」


 スゴルドは出されたお茶を品のある仕草で飲む。ブサイクさと相反する行為であるので、残念ながらキモい。

 イストはスイナとアイコンタクトし、口を開いた。


「ボクね、とある国のお姫様に気に入られちゃったんだ」


「ほぉ……それはグライカ地方に雨が降る如し幸福だな。しかし、そんなめでたいことを知らせるのがなぜ急用なのだ?」


「いやぁ、そのお姫様の国が問題でね……」


「フンッ。国同士の問題など、次期ラヌイジオ国王であるこのスゴルドに相談してもらえれば瞬時に解決してやるぞ。まあ、軽いお祝いというやつだな」


「そのお姫様がタダノィルのお姫様だとしても?」


 ゴクリ、と唾を飲んだのはイストとスイナだった。二人が飲み込んだとすぐにわかるほどに、部屋は静寂に包まれていたのだ。

 スゴルドは首を軽く左右に振り、耳に小指を入れてほじっていた。


「すまんな、よく聞こえなかった。もう一度言ってくれないか?」


「だから、ボクはタダノィルのヒメコ姫に好かれちゃったんだって」


 またもや静寂。

 それを切り裂いたのは派手な打音。ラヌイジオの王子がレバンジオの王子をはり倒したのだ。


「……祝ってくれるんじゃなかったの?」


「お前はあの国が呪われていることを知っているだろう!」


 スゴルドは怒っていた。だが、それはあくまでも他人を大切にしようとして、レバンジオの王子、つまりは自分と遠い血縁関係にある人間を大切にしようとしての怒りだった。 クラオジルスを演じているイストはスゴルドの気持ちを理解しつつも首を横に振った。


「それ以前に、キミが攻め滅ぼそうとしている国だ」


「お前……なぜそれを……」


「ボクだっていつまでもバカじゃない! キミがどれだけこのラヌイジオ王国の民を思い、大陸に住むすべての平民たちすら導きたいと願っているのか、それをわからないわけではない」


 スゴルドを睨み付ける。だが、その目には少しの涙。

 ちなみに、イストは口に出していることを微塵にも思ったことはない。すべて演技である。


「でもね、キミがそんな覇王と言われて独りぼっちになるのは、ボクはイヤなんだ」


「クラオジルス……」


「幼い頃のスイナが裸で水浴びしている姿を見て、『お前をお嫁さんにしてやる!』とか興奮気味に言っていたあの頃の変態なキミが、ボクは好きなんだ」


「お、お兄様なにを……」


「覚えていたのか、あんな昔のことを」


 スイナは覚えていないようだが、そう言うことがあったらしい。生まれたときからクラオジルスとスイナを世話してきたアハナが情報の出所である。流石は影武者、しっかりと勉強している。


「キミにはあの頃のままでいて欲しいんだ!」


 イストは椅子から立ち上がり、座ったままのスゴルドの肩を掴んで叫んだ。これが心からの説得。義理に熱かったスゴルドならばこれで納得するはずだった。だが、彼はイストの手をはねのけた。


「残念だ、クラオジルス」


「スゴルド!」


「俺はもう、あの頃の俺ではないのだ。このスゴルド・イト・ラヌイジオは次期国王であり、この国の民を、同盟国を率いて行かなければならない人間。そして、大陸に腐った貴族とそれに苦しめられている民衆がいるならば、そこに駆けつけなければならない存在なのだ」


 イストは思い出す。タダノィルの警備兵の異様さ。それを遠くからしか見ることができない平民たち。

 スゴルドはただの支配欲や名誉のために戦争を起こそうとしたワケじゃないらしい。だが、それが本心だとしても、タダノィルとの戦争になればレバンジオの財政は逼迫したものになってしまう。

 さらにスゴルドはイストをきつく睨んできた。


「聞けば、お前の国でも貴族が腐ってきたらしいな」


「なに!?」


「かつてはタダノィルの二本柱と言われていたリシター家はもうだめのようだな」


「そ、それは……だが、父も貴族院議長も改革に尽力を――」


「民が苦しめば、お前たちも敵だ」


 いいわけをしようとしたが途中で遮られる。


「お前がタダノィルの姫と婚姻関係を結んだならば、俺はレバンジオとの同盟を破棄する」


「待ってくれ、スゴルド!」


「ええいっ! くどいぞ、クラオジルス!」


 スゴルドは椅子から立ち上がり、イストの胸ぐらを掴んできた。


「貴様も王となる身分であるならば、広い視野を持て。大局を見据えろ!」


 彼の目に浮かぶのは怒りと悲しみ、そして自分を心配してくれた古い友への感謝と、いつまでも変わらない古い友への羨望だった。


「人は変わるのだ! 悲しいけれど変わっていくのが人なのだ!」


「スゴルド……」


「あの『ぺったんこ』だったスイナが今では『ぼんきゅっぼーん』になってしまった悲劇のように!」


「ちょっと待って! 悲劇って!?」


 青春モノの一コマのような台詞の応酬で、なぜかおかしな例えが出てきた。だしにされたスイナがツッコミを入れるが二人は無視して話を進めていく。


「違うよ、スゴルド。変わらないものだってある!」


「違わない! スイナはもう、俺の追い求めていたボディラインではないのだ!」


「確かにスイナは大人の身体になった。お尻も大きくなった……」


「ほれ見たことか!」


「だけどね……」


 イストは拳を力の限り握りしめ、そしてスゴルドめがけて振り抜く。


「おっぱいはあまり大きくなっていない!」


「なっ!? がっ!」


 武術の天才であるスゴルドならば交わせるはずの拳だった。しかし、それは普段の彼のこと。今の、スイナの乳に目が行っている彼では躱せなかった。

 スゴルドはまったく防御していなかったようで、イストの拳はまともに顎に入ってしまっていた。よろよろと身体を起こすスゴルドには先ほどのような荒々しさはなくなっていた。


「バカは休み休み言え。スイナの胸はあんなにも――」


 彼が指を差すのは額に青筋を浮かべながらもなんとか黙っていてくれているスイナの胸だった。だが、彼は何かに気付いたかのように身を強張らせた。


「――まさかっ!?」


「そのまさかだよ……」


「だが……信じられん……スイナほどの気の強い娘が……しかし……だとしても……」


 スゴルドは頭を振って間違った考えを追い出そうとしているが、心のどこかはそれが事実であると告げてくる。それ故、苦悩する。

 苦しみは口に出せば楽になる。だから彼はスイナに申し訳なさそうな顔をしながら口を開いた。


「偽チチだったとは!」


「アホかぁぁぁぁっ!」


 流石に面と向かってそう言われると我慢ができなく、スイナは風の精霊行使によって全速力で近づき、地の精霊行使によって巨大化と硬化された拳をスゴルドに叩き付けたのであった。

 めでたしめでたし。



完結じゃないよ!?

ヤッヴェ。スゴルド殿下、ものすごいバカだから書いていて楽しい。

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