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なぐられて影武者  作者: 十五郎
第4章 三千世界の重箱の隅を突くような轟音を伴う戦闘でクライマックスだったりする
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4-1

~前話のあらすじ~

 ヒメコは本物の王子であるクラオジルスを気に入り、二人の親睦を主軸にする王室間国交を樹立することにした。イストはスイナたちと共に、一度自国にもどることになった。


 スイナが自分の城に戻って知ることになったことがある。

 それはあまりにも重要なことだった。なぜ、これまでそれを知ることができなかったのか。なぜ、その事実に気付くことができなかったのか。

 悔しいとは感じない。

 悔しいと感じる以前に、どうしてという疑問が心に押し寄せてくる。

 彼女はその感情を、自分の横にいるイストにぶちまけることにした。


「お父様とお母様が留守だってどういうことよっ!」


 対するイストは涼しげな顔をして答えた。


「五日前からラヌイジオへ親善を兼ねた旅行をしておりまして、今日がその帰国日ですが、何か?」


 城に足を踏み入れたときから後ろを着いてきてくれているアハナにも声をかけた。


「お前も知っていたの?」


「もちろんです、姫様」


 二人の返答にスイナは頭を抱えて情報を整理し始めた。

 五日前と言えばクラオジルスがメイドさんに会うために城を抜け出したあの事件の日だ。城を抜け出して遊びに行くのはほとんど常態化していたのだが、それでもなぜ自分たちの父も母も説教をしなかったのか。よく考えれば、城にいなかったから説教できなかっただけなのだった。

 しかも、それから今回の国外への逃亡までの間、どうも一切、地の文にすらもその姿が描かれていないのも納得がいっていた。だが、どうにもおかしい。なぜ自分だけがその情報から隔離されていたのだろうか。何か事件が起きたときにこき使うイストだけが知っているのならば納得いくが、城中では日中の多くを共にするアハナも知っているのだ。

 なんというか、「チクショウ、ハメられた」という感想を持った。メタな思考である。

 そんなメタな思考をしながらもスイナは前向きに考えなければならなかった。


「姫、いかがなされました?」


 イストが心配そうに声をかけてきたことに、自分はもっと前向きに考えなければならないはずだとハッとした。

 父と母がいなければ、いないに越したことはないと考えることにした。その方がこれからの行動を素早くできる。

 自分とイストはこれからラヌイジオの王家に謝罪へ行かなければならないのだ。同盟の盟主であるラヌイジオに無断で国交なきタダノィルへ外交に行ってしまったことを謝罪しなければならない。父と母に説明する時間がもったいないと思えるほど、できるだけ早く行動した方がよい状態なのだ。

 スイナは顔、というか、上体を起こし直して、決意を秘めた目でイストを見つめた。


「今を好機と思いなさい」


「好機ですか……ちなみに何の?」


「ラヌイジオに今回の騒動について釈明することよ」


「王も王妃も城にいなく、相談できない状態で一体どのように釈明しようと――」


 イストはスイナの言葉に不思議そうな顔をしていたが、自分で考えを整理しながらしていると、スイナの言いたいことに気付いたようで徐々に顔を強張らせていった。


「――まさか!?」


「お前の予想通りだと思うわよ」


「そんな危険なことを私が許せると思っているのですか!」


 強張った表情は怒りへ。スイナはそれに少し嬉しさを覚えながらも、王族としてやらねばならぬ使命を優先することにした。


「お前が私を許す? 王族である私が、一騎士でしかないお前に許してもらう必要があると思うの?」


「ですが……」


「くどい!」


 なおも自分を止めようとしてくるイストに一喝し、身体を反転させる。そして以下の命令を簡潔に言う。


「今すぐラヌイジオへ向かう。支度をしなさい」


 クラオジルスに対しては遠慮をしないアハナだが、スイナ相手にはオロオロとしているだけである。

 スイナは二人の様子を見て「キマったわ!」と思った。

 Sとして精神的に、物理的に人の上に立ちたい彼女はカリスマを欲する。部下を一喝して無情な命令を下す姿というのは、彼女の理想とする指導者に欠かすことのできない行為だ。しかも、自分のみを案じている部下を怒鳴りつけるのは、どう考えても英雄譚での最終章目前にある人生の転機にありがちなシーンだ。

 なんてカッコイイことをしてしまったのだろうと自己陶酔していたスイナだった。しかし、二人をきちんと振り返ったスイナの考えに反して、イストはまたもや不思議そうな顔をしていた。


「姫、申し分けにくいことなのですが」


 その表情に焦りつつも、スイナは普通に返事するしかなかった。


「……まだ文句があるというの?」


「文句というか、質問というか、なんというか」


「もうっ、歯切れが悪いわね」


「率直に言いますが、それだと手順が足りなく、何の釈明にもなりません」


「なっ!」


 言っておくが、スイナは決してドジ娘ではない。そんな設定はない。


「まずは、王立病院へ行かなければおかしくありませんか?」


「「は?」」


 スイナだけでなく、アハナも呆けたような返事をする。つまり、イストとスイナの間には何かの齟齬があり、それを原因として先ほどのやりとりがあったことになる。


「どういうこと?」


「ですから、姫はラヌイジオに対して偽乳だという情報をウソ情報だと釈明したいのでしょう?」


「ちょっと!」


「なんですって! って、そんなことより何で王立病院に!?」


 焦るスイナに対し、悲しげな表情のイストとアハナ。


「まだ安全が確立していない豊胸手術に挑むとは」


「姫様……おいたわしや」


「気に病むことはありません。ラヌイジオのスゴルド殿は、それはそれは小さな胸が好きな方ですから、偽乳であることが広まれば良いことづくしですよ」


 他人の傷口をどうしてそうやって広げるんだろう、こいつらは。


「てめぇの……」


 あまりにも気の利く発言をする部下と侍女に対して、スイナは涙を流していた。


「てめぇの……てめぇのっ!」


 涙と言っても、もちろん血の涙だが。


「てめぇの血は、何色だぁぁぁぁっ!!」


 右手に炎、左手に冷風。対称属性の同時精霊行使。その二つの力をひとつに合わせる。

 まさに地獄ヘルと(アンド)天国ヘヴン

 かつて人間であった肉塊が磨かれた床に激突したとき、門番の大きな声が聞こえた。


「デギナサルス王とリテヒ王妃のお帰りぃーっ!」


 それにハッとしたスイナは一言。


「あれ? ……詰んだ?」



また、毎日更新開始です。

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