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なぐられて影武者  作者: 十五郎
第3章 勘違いで同盟
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3-5

~前話のあらすじ~

イストは湖の畔でクラオジルスを見つけ、説得に当たることにした。その為に自分の過去をすべて打ち明ける。それに友情を覚えたクラオジルスは友達になろうと言うが、イストはそれを否定し、互いに競い合うライバルにしかなれないと言う。しかし、その関係こそがクラオジルスが求めていたものであった。自分の全力で相手をしなければならないライバルを得た二人は、意気揚々とスイナの元へ急いだ。


「……なんか、この瓦礫の山を見ていたらやる気がなくなっちゃったな」


「はいぃっ!?」


「やっぱり、イタズラし続けた方が面白い人生だと悟ったよ」


「ちょっ!?」


 意外と真面目な友情は短かったようだ。

 イストとクラオジルスは瓦礫の撤去を行っているタダノィルの兵士たちを見ていたのだが、突然にクラオジルスがだだをこね始めた。


「そんなことおっしゃらずに……」


「だって、キミと競争することは楽しそうだけれど、それ以外の過程はものすごく面倒でつまらなそうじゃないか」


「目標があると過程も楽しめるといいますし……」


「それはキミが真面目な性格をしているからだよ。ボクにはきっと無理なことだ」


 クラオジルスは地面に座り込み、石畳の上につもった土埃に「の」の字を書きはじめ、周りの空気をどんよりと重いものに変化させていった。


「互いにがんばろうって約束したじゃないですか!」


「それ、キャンセル。人の心とは移ろいやすいものなんだよ」


 移ろいやす過ぎるにもほどがある。


「だから、ボクはもう帰るね」


「なにをバカなことを……姫も待っているはずですし、さっきのやる気を少しでも取り戻して格好いいところを見せてあげてくれないと!」


 必死に思い直させようとするイストだったが、地面に座り込んだクラオジルスが半眼になって睨んできたのを見て少しだけ後ろに引いた。


「なんだいなんだい……いつもいつもスイナ、スイナって……なんでそんなにボクではなくて妹の肩ばかり持つんだよぉ」


「私が仕えている主だからですが……?」


 率直に応えるイストだが、クラオジルスは首を右に90度傾け……首のへし折れた死体のような表情でたたみかけてきた。


「ボクの方が王位継承権が高いんだよ? レバンジオでは女は議会に参加できないんだよ? 女は結婚したら騎士を雇うことができなくなるんだよ?」


「……まあ、それはそうですが」


「それに、どちらにしてもキミは自分の国を建てるのだろう? だったら、妹のようなお姫様に仕えるなんておかしいじゃないか」


「……うぅ」


 ついにはイストも地面に座り込む。そこにクラオジルスが近づき、耳元で囁く。


「妹の、どんなところが好きなんだい?」


 クラオジルスは「してやった」と思った。自分を丸め込もうとしていたのだから、このぐらい恥ずかしい質問をしても良いだろうと。

 だが、彼は理解していなかった。彼が相手をしているのは変態、マゾである。恥ずかしいのは望むところであり……


「胸ですが、何か?」


 さらっと答えてきやがった。

 とても良い表情で、さらっと答えてきやがった。

 クラオジルスは、チッ、と小さく舌を鳴らすと立ち上がり、城へ向かって歩いていく。それを追いかけるように立ち上がったイストは、クラオジルスの耳元で囁き帰す。


「タダノィルのヒメコ姫も大きいですよ、胸」


 ピクリ、と動きを止めたクラオジルスはイストを見つめ、柔らかな微笑みを浮かべていた。


「イスト……」


「王子……」


 再び友情を確認しあった二人は、肩を組んで歩き始めた。肩を組むという動きにくい行動であるはずなのに、二人の速度は徐々に上がっていき、それはもう、城にいる兵士が警戒してしまうほどの人外の動きであった。

 しかし、人外は人外を呼ぶ。

 高速移動する二人の向かいから、さらに高速で飛来する物体。

 否。

 硬質な鉱物にて形成された巨大な拳だ。


「ちょぉっ!?」


「はっはっはっ……」


 それぞれに得意な精霊行使を開始。イストはもちろん彼に内包されている炎の精霊を。クラオジルスは炎とも相性の良い風の精霊を。

 生み出された炎は風によって切り刻まれるが、物質の燃焼によって生まれた炎でない精霊の炎はその程度で消えることはない。よって、炎は風の中を踊り、目の前には赤い風が渦巻いていた。

 それを眼前に迫る巨大な拳に叩き付ける。

 けたたましい音。

 推進エネルギーを持った質量のあるものと、エネルギーだけのものとの衝突。普通ならば質量のある分、巨大な拳が圧倒するのだが、今、目の前ではそれと逆のことが起こっていた。

 赤い風を受けて拳が止まっていた。

 赤い風が持つエネルギーが桁違いなのだ。

 巨大な拳は風によって無数の傷を付けられ、それによって増えた表面積が炎の熱を帯びていく。熱によって脆くなった拳はさらに風によって抉られていき、また増えた表面積が……

 そしてついに拳は、人間で言えば指をすべて失う形になる。

 イストとクラオジルスは二人で、ニヤリ、と笑い、勝利を確信する。

 だが、二人は失念していた。

 拳とは、打撃を与えるために指を折り曲げて作り出す手の形の一種であり、それが人間の手である以上――

 ――最高で2つ生み出すことができるのだった。

 渦巻く赤い風が、横から繰り出されたもう一つの拳によってちりぢりにさせられ、半ば崩壊した拳が二人の顔面を捕らえようとする。


「わぁっ!」


「王子っ!」


 とっさにイストは悲鳴を上げるクラオジルスを、身を呈して庇った。

 ミシリ、と身体の骨がきしむ。中には折れ曲がり、灰に突き刺さっていく者もあるように感じた。事実、イストは悲痛なうめき声を上げて血を吐くことになる。


「めたりかっ!」


 ……違った、全然悲痛じゃない。

 なんというか、ギャグパートの被ダメ音声っぽい。

 血は吐いているが、どことなく幸せそう。

 つまり、クラオジルスを庇ったのではなく、ワザと攻撃を受けに行ったとか、そう言うことだろう。


「甘いですわよ。お兄様も影武者も」


 拳の主は予想通りにスイナ・カルメ・レバンジオのものだったとさ。めでたしめでたし。



よしっ! スイナが殴った!

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