表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なぐられて影武者  作者: 十五郎
第1章 レバンジオ王国でよくある1日
2/36

1-1

ぼちぼち連載していきます。そのほかの私の投稿小説と違い、シーンごとに投稿していきます。


 一人の青年が中年の男を聞いていた。

 中年の男は少し厚めの本を開いているが、それを見ることなく話をしていた。


「つまり、この童話で伝えたいことは、行きすぎた欲望は自らだけでなく、周囲の人々にも悪影響を与えると言うことです」


 話の内容は授業らしい。

 本来、授業というならば生徒である青年は簡素な椅子に姿勢良く座っていなければならないだろう。しかし、彼が座っている椅子は美しいビロードの布張りと彫刻が立派な豪華ものであったし、彼は腕を組みながら「話をきいてやっている」と言っているように見える高慢な座り方をしていた。

 そんな高慢な座り方をしている青年だったが、彼が持つ美貌や無駄な肉のない体つき、ひとつひとつの品位の感じられる行動があるために、さほど嫌みに感じなかった。高慢な態度であっても良いと、誰もが思ってしまうだろうほど、当然の容姿であった。

 身につけている衣服もかなり上質な生地を使っているようであるし、細部の意匠も嫌らしさを感じない程度の洗練されたものであった。足に履いている革靴は痛みも少なく、表面に泥が付いている様子はなく、隅々まで手入れされているようだった。高慢な態度であっても仕方がないだろうと、誰もが思ってしまうほどの、当然の身なりであった

 青年は男の話に疑問を感じたのか、顔を僅かにしかめた。


「悪影響? 私はそのようには思いませんでした」


「ふむ……では王子はどう思われたのですか?」


 王子。どうも偉ぶっていると思われた青年は王子なのだという。中年の男はさながら教育係であろうか。

 確かに、彼の銀色の巻き毛には王冠などが似合いそうだ。瞳の色と同じ青い宝石をあしらってあればさらに見栄えがするだろう。

 その王子は教育係に答えた。。


「太陽を引っ張ったとあるが、そのようなことを実際にすることは不可能でしょう。あれはきっと、干ばつによる被害を誇大して伝えたと考えるのが普通です。そして、干ばつは天災であるので、王の責任ではありません」


 教育係は教え子の解答に満足そうに頷いて見せたが、「ですが」と言ってきた。


「彼の欲のおかげで周りが迷惑を受けたという事実がありますので、この干ばつも王が何らかの原因を担っていると考えるのが通説です」


 自分の考えに反対された王子であったが、機嫌を損ねることなく、むしろ機嫌よさそうに笑顔を作った。


「そのとおりですね、先生」


「はい。ですから、王子がこの国をお治めになるときには、慎重な政治を行って欲しいのです。いくら貴族制議会が国の全権を担うようになったとはいえ、王族には王族という種の貴族としての役割がありますから」


「もちろんわかっていますよ、先生。ですから、なおさら私はこのわがままな王の生き方が素晴らしいのだと思うのです。彼こそ国を引っ張っていくリーダーとして、なくてはならないものを持っていることに気付きました」


 納得してくれたのかと思いきや、王子は童話『太陽を引っ張った王様』に、教育係とはまた別の解釈をしていたのだった。


「なんと……確かにあの王は新たなものを発明することにおいては才能を発揮しました。物語に出てくる竜の形をした攻城兵器は、我々が用いているドラゴンの原型だとされていますし。

 ですが、彼は国を滅ぼしてしまった王でもあるのですよ! それを王子はリーダーの資質があるとおっしゃるのですか?」


「はい。指導者たる者、ある程度の欲は必要です。自国を大きくすることは生産性を上げることであり、民の生活を豊かにすることになるでしょう。そして、太陽を欲することさえ、それが成功していれば国を豊かにすることにつながったはずです」


「しかし、実際は失敗してしまったのです」


「はい、そのとおりです。最後の最後に大きな失敗をしてしまったから、この偉大な指導者は〝愚かな王様〟だというレッテルを貼られてしまったのです」


 言われてみて教育係は気付いた。歴史とは勝者が書いた物語であり、事実に基づいているかも知れないが、完全な事実そのものではないと。かつて歴史の講義をしているときに、自分自身が王子に対してそう教えたのではないかと。

 そして、もう一つ気付いた。

 あれ? 王子って、こんなに頭が良かったっけ?

 さらに、もう一つ気付いた。

 あれ? 王子って、歴史の講義んとき、おもっくそ逃亡してなかったっけ?

 今更、もう一つ気付いた。

 あれ? そもそも王子って、もっと死んだ魚みたいな目をしてなかったっけ?

 そんなことを考えているとき、大きな足音が近づいてきた。かと思うと、突然に大きな音を立ててノックもせずに勉強部屋に入ってきた人物がいた。


「お兄様はいますかっ!!」


 入ってきた少女はふんわりとしたシルエットの桃色のドレスを着ていた。王子と同じく銀色で、緩やかなウェーブを描いたその頭髪の上には、ちょこんと小さなティアラが乗っていた。彼女の言葉から推測するに、彼女は王子の妹で、つまりは姫のようだ。

 王子は少し驚いたが、すぐに優しそうな微笑みを浮かべて姫に声をかけた。


「ここにいるぞ。そんなに慌ててどうしたのだ?」


「あっ……い、いらしたのですね」


 微笑みかけられた姫は、「ほっ」と一息ついてから彼の質問に答えた。


「よかったですわー。

 銀髪天然パーマの男が裏口付近をうろついていたと言う使用人がいたものでして、てっきりお兄様がまたお遊びに出かけてしまわれたのかと心配したのですの」


「うん。できれば遊びほうけていたいが、そろそろ私も18になる。そろそろしっかりと学問を修めることも必要だと思い始めたのだよ」


 王子が澄んだ瞳でどこか遠くを見つめている仕草をすると、姫は感動のあまりに目を潤ませた。


「あぁ……あの自堕落で無気力で他人任せで無頓着で節操無しで、女の子とイタズラにしか興味を向けないお兄様がそこまで変わられただなんて、ワタクシの努力は無駄ではなかったのですね……」


 どうやらこの王子という人物、妹である姫に色々と苦労をかけまくったようである。しかもかなりの長期間と見た。


「なんだか酷い言われようだが……そうだね、私が今の考えに至るようになったのは、お前のおかげなのかも知れないな」


 王子は微笑みを絶やさないまま、少し謙虚さを見せていた。だが、姫はその言葉が間違いであると、「いいえ!」と強く断言した。


「もともとお兄様はやる気さえ正しい方向に向いてくれれば、そのイタズラによって鍛えられた高回転の頭脳によって、すべてが良い結果になるのです」


「ふふ……褒めても何も出ないぞ」


「ワタクシ、聞いたのです。最近のお兄様は図書館で周辺各国のことについて調べているのだと」


「……え?」


「あら? 間違いでしたか?」


 姫は単なる情報の間違いだったのかと受け取ったようだが、王子の隣に無言で立っている教育係の男からすれば、王子が姫の言葉を予測していなかったように見えた。


「い……いや、確かに自国がどのような国に囲まれているのかを知ることは大切なことだからな」


「そうです、そうです!」


「特に、遠い血縁関係がある同盟国のラヌイジオ王国との関係は非常に大切だ」


 王子は先ほどまでの余裕が無くなったかのように早口になり、顔にも幾分か緊張が見られてきた。姫はというと、さらに疑問の、いや、疑惑を持ったとき顔に変わりつつあった。


「違いますわ。お兄様がお調べになっていたのは、王室同士の交流が全くないタダノィルの情報です」


 教育係の男は見た。姫が拳を強く握ると、彼女の柔らかくてすべすべしてそうな手に、ゴツゴツとした〝石〟が浮き出てきたのを。

 もちろん、真正面で姫と話をしていた王子もそれをわかっており、少し身体が逃げていた。だが、座り心地の良い豪華な椅子というのはホールド性能が良いもので、すぐさま動けなかった。というより、身体は逃げようとしているが、なぜか顔だけは1ミリたりとも動いていない。まるで、「ここを殴ってくれ」と言わんばかりだ。

 そして握られた拳というのは、振るわれるものだ。


「影武者ぁぁぁっ! またお前かぁぁぁっ!」


 姫の振るった、それこそ拳大の石が影武者と言われた王子の頬に突き刺さる。


「へぶろぉっ!?」


 さほど速度のない拳であったが、彼は座っていた椅子から後方にかなりの勢いで吹っ飛んでいった。

 そんな様子を見ながら教育係の男は思う。

 ノーマルだけどバカな王子と、頭が良いけどマゾな影武者のどちらが支配者だとこの国はうまくいくのか、と。

 そして、影武者と言われた王子がとてもよい笑顔のまま地面に激突する姿を見て教育係の男は思う。

 サド気味の姫もいるのだから、現在の貴族支配が妥当だな、と

 そして、姫の「してやった」と得意げにしている顔を見ながら教育係の男は思う。

 またいつものことか。今日も平和だな、と。


こんな感じで地の文が三人称ツッコミ形で進んでいきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ