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なぐられて影武者  作者: 十五郎
第3章 勘違いで同盟
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3-2

~前話のあらすじ~

気合いの入れすぎでクラオジルスよりも早くタダノィル王国に到着してしまったイストとスイナ。警備兵と一悶着あったが、スイナのカリスマ性のおかげで城の中に入れてもらえることになりました。


 すごく良い笑顔をした強面のおっさんが豪華な椅子に座っている。

 謁見の間にて、イストがサンナク・シテ・タダノィル王を見たときの第一印象がそれである。

 座っているから正確なことはわからないが、身長200cmはあるだろう巨体の、加えて悪の秘密組織の首領としてもやっていけるほどの強面の王様。年齢は50を超えたぐらいだと言われているが、それ以上に老けて見える。

 が、そんな彼が非常ににこやかな笑みを浮かべて自分とスイナを見比べているのだ。


「お初にお目に掛かります、サンナク王」


 恭しく礼をするスイナに続き、イストは無言で頭を下げる。あくまでも彼はスイナの従者でしかないのだ。


「この度は謁見のお許しをいただきまして誠にありがとうございます。サンナク王の治める御国の山々は今日の良き天候によってさらにその美しさを際だたせ、澄み渡った空気が御国の前途有望を――」


「あー、いいのいいの♪」


「え?」


 スイナがよくありがちな挨拶をしていたのだが、それを遮った人物がいた。

 もちろんイストもスイナも顔を上げ、その声の発生場所を見る。


「もっとくつろいでいいよいいよ♪」


 サンナクはその見た目にそぐわぬ言葉遣いをするようだ。……というか、王としてこのフランクさは色々とヤバイのではないかと考えられるのだが……ある意味、こんな王だから先ほどの警備兵たちの行動があるのだと思えば、思えなくもない。

 だが、音符マークを語尾に付けて話されても好印象などもてなく、気持ち悪いだけだった。それに、この上機嫌で気さくな話し方が彼の性格を表してると断言できるわけでもないし、そもそも演技でないとも言い切れない。

 イストは食えないヤツだと評価し、しばらく相手に合わせてみることにした。

 彼の主はというと、冷や汗を気合いで引っ込めつつ、咳払いをして再び口を開いた。


「それでは簡潔に挨拶を。

 ワタクシはレバンジオ王国第一王女のスイナ・カルメ・レバンジオと申します。国交のない御国に文もないままに訪れてしまいご迷惑をおかけしますわ」


「迷惑だなんてとんでもないよー♪ 他国の王族が来るなんて10年ぶりぐらいだし、ワシ、ちょーうれしい♪」


 歓迎されているようなので本当ならば喜ばしいことなのだが、やはりキモい。


「そっちの男の子はアレでしょ?」


「……私ですか?」


 キモ怖オヤジの興味はスイナからイストに移ったようだ。被害拡大?


「そうそうキミキミ。ウチにも情報通な諸国放浪大好き道楽貴族がいるんだけど、そいつが言うにはキミがレバンジオの第一王子なんだってねー♪」


「は? 私は――」


 影武者ですと言いたかったのだが、横にいたスイナが服の袖を引くので言葉を途中で止めた。

 レバンジオ本人がここに来て交渉するより、影武者が替え玉となって進めた方がよい、とスイナは思ったのだろう。イストもそれを受け入れることにした。

 言葉の途切れたイストをすこし不思議そうに見ていたサンナクだったが、気を取り直して「そうだ♪」と言ってその場で踊り出した。


「レバンジオの王族が兄妹できてくれたのだから、ワシも娘を連れてくるんだぁっ! 紹介するねー♪」


 そういって謁見の間の端へ移動し、護衛の兵を連れてドアを開けて出て行ってしまった。

 残される二人。無人となった謁見の間を見回し、警備とかどうするつもりだろうと思いながらもなにもせずに待つことにした。情報をまとめるにはちょうど良い時間であるし。


「さて、影武者」


「はい。あくまでも予想の範疇ですが、まとめた情報をお伝えします」


「いいわよ」


「サンナク王のことですが、アレが素である場合は交渉は容易かと思われます」


「そうね。国交を持つ国がほとんどないのならば、タダノィルの外交能力は相当低いはず」


「はっ、姫のおっしゃるとおりで。ですが、国交のない貧しい国をしっかりと治め続けてきた優秀な王であるので、性格はアレでも頭脳は明晰である可能性が高いです」


 スイナはイストが言葉を句切るので、自分に答えを求めているように思った。


「つまり、自爆するなということね」


 いや、求めているのは答えと言うより命令か。だから、次の言葉を付け加える。


「お前をお兄様と勘違いしているなら、ちょうどいいんじゃない」


 交渉しろといってやる。


「はい。ですが、本物の王子とチャシリス様が到着するまでに交渉をまとめるのは厳しいと思われます……」


「だが、これから紹介されるであろう悪辣な魔女の如き王女とお兄様が出会う可能性をゼロにするには、お前が王子であることにしなければならないのはわかっているのよね?」


 そう、スイナにとって重要なのはこの国との関係ではなく、兄であるクラオジルスがボンキュッボーンな黒髪の美少女と出会わないことなのだ。先ほど城門の前で見せつけてくれた支配者オーラが台無しである。

 というかあれはSオーラ。支配者のSではなくて、サディストのSだ。どちらかと言えば暴力的であるスイナの方が悪辣な魔女っぽい。

 だが、クラオジルスとヒメコが婚約されてしまってはラヌイジオとの同盟関係に亀裂を生じさせるであろうから、イストとしてもスイナの欲望には賛成である。

 二人の意見がまとまる頃合いを見計らったかのように、サンナクが出て行ったドアから戻ってきた。


「やぁやぁ、お待たせしちゃったね♪」


 相変わらず強面の癖に上機嫌に話しかけてくるのでウザい。


「でも、二人ともびっくり&満足すると思うよ。ワシの自慢の娘、ヒメコちゃんを見たら♪」


 サンナクはそう言うと再びドアの向こう側に引っ込んでしまう。

 ヒメコ・ナイヴ・タダノィルは美しいらしい。

 タダノィルに関する資料を読みあさっているときに知った情報であるが、噂の域でしかないし、噂は事実に尾ひれを付けたものである。特に王族ともなればなおさらだ。ワザと尾ひれを付けた噂を作り、国外に流布していることも少なくない。

 イストもスイナもそれを理解している。特に、「夜空のごとく輝く瞳」という特徴は本当に意味不明であると思う。

 そのほかに書かれていた「美しい光沢の黒髪」とか「白磁のような肌」などはわかりやすいが、美しい山並みのベルネスホラス連峰にある有名な双子山のような乳房とか訳がわからない。狙っているのか?

 というか、外国と国交をしていない弱小国家の王女でしかないのに、噂が大量に出過ぎだろう。じっ、とサンナクを見れば、親バカであることが容易にわかり、噂の発信源がこいつであることもわかる。

 イストとスイナは小さくため息を吐きながらサンナクが再びドアから出てくるのを見た。そして、彼の後ろに付いてきた少女を見て固まった。


「確かに瞳に星空が内蔵されているようですね」


「しかも、黒髪なんて珍しいわね」


 二人は固まりつつもしっかりと少女の特徴を口にしていった。


「フン……肌の白さはワタクシも負けていないわよ」


「ウエストからヒップにかけてのラインが絶妙」


「ちっ……マジ巨乳」


 固まっている二人を見て、ドヤ顔のサンナクが話しかけてくる。


「どうだぁ、ヒメコちゃんは可愛いだろう♪」


「お父様ったら~、お世辞を言うならもっと上手に言って下さいな~」


「おおっ♪ ヒメコちゃんの声といったら、カナッシュの泉のごとし澄んだ音なんだから、お父さん困っちゃう♪」


「ウフフ……お父様ったらいつも同じことばかり言って~。お客さんも困ってますわよ~」


 どうも噂の発信源がサンナクであることは正解だったようだが、その噂があながち間違いではないのはどういうことだろうか。

 ああ。

 簡単なことだ。


「本当に絵に描いたような美少女なのですね」


 イストが簡潔にまとめるのだが、スイナはそれが面白くなかった。

 ヒメコが可愛らしいのはよくわかる。しかし、どう考えてもおかしい特徴がひとつある。


「なによ、あの不気味な目」


 そう。目は自ら光を発する器官ではない。網膜の後ろにある輝板と呼ばれるものがある場合に限り、目は光を放っているように見える。しかし、人間は輝板を持っていない。また、輝板を持っていたとしてもヒメコの目のように、イストが「瞳に星空が内蔵されている」と言うように輝くことはない。

 あり得ないはずの特徴。

 だからこそわかる。ヒメコの容姿に関する情報の中で、一番最初に瞳のことが書かれていたのだ。


「あら~、本当に王子様とお姫様がいらっしゃってるの~。ヒメコ、感激しましたわ~」


 その話題の人間に声をかけられ、スイナはハッとして社交用の顔を作った。少しばかり睨んでいなかっただろうかと心配しながらも、それを感じさせない柔らかい微笑みを浮かべて返事をする。


「スイナ・カルメ・レバンジオと言います。以後、よろしくお願いしますわね、ヒメコ様」


「は~い、ヒメコ、よろしくされました~」


 ヒメコはなにも疑問に思っていないようで、スイナの隣にいるイストに目を向けた。


「では、スイナちゃんの横にいらっしゃるのが、貴方のお兄様なのですね~?」


「えっ……ええ。ほら、お兄様、ご挨拶をしなくては失礼ですわよ」


「はっはっはっ……ヒメコ姫の噂通りの可愛らしさに目を奪わされていたよ」


 イストは彼なりにクラオジルスの真似をして女性を褒めてみたのだが、どうやら上手くいったようだ。どのぐらい上手くいったのかというと。


「あら~、そんな可愛らしいだなんて~♪」


 と、ヒメコが顔を赤らめて、「いやん、いやん」と顔を振るぐらいに。

 また、横のスイナが小さな声で「殺す」と呟きながら精霊力を高めているぐらいに。

 だから、彼の足に響く小さな揺れもスイナが精霊行使をしている余波かなと思った。しかし、それは思い違いだったようで……


「あららら~?」


「どうしたんだ、ヒメコちゃん!?」


「地面が揺れているかもしれませ~ん」


 ヒメコが言うように揺れている。しかも、徐々に揺れが大きくなってきているような。

 イストが横にいるスイナに確認を取ろうとしたその瞬間、巨大な揺れが城を襲った。その揺れは地の底から来るものではなかった。


「今の音はなんなのだっ! 状況を報告せよっ!」


 サンナクがウザい微笑みをやめて普通の強面になって怒鳴っているとおり、揺れの直前に建物が倒壊するような轟音が響いていたのだった。

 イストは先ほどできなかったスイナの様子を見ることにした。

 スイナもイストに何か確認したいことがあったようで、二人は見つめ合う形になる。

 そして、異口同音。


「「まさか!?」」


 思い当たる節がある二人は、サンナクやヒメコに許可を取ることもなく、全力で轟音の発生源へと向かうのだった。



あ……あれ?

イストがスイナに殴られていない!?

何かおかしいぞ、第3章!?

……と思ったら私の勝ち。

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