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なぐられて影武者  作者: 十五郎
第3章 勘違いで同盟
16/36

3-1

~前話のあらすじ~

イストはチャイナドレスに着替えたスイナに萌え、ちょっと熱血しながらクラオジルスたちを追いかけるのでした。


 走り続けて3時間。

 イストとスイナの目の前には古めかしい城壁と門があった。タダノィル王国の王城を取り囲む城壁と門だ。

 周囲には訝しげに二人を見つめる平民と門番の目。そう、二人を見つめている。

 つまり……


「追い越しちゃった、テヘ☆」


「影武者のアホォォォォッ!!」


 スイナに、ぎゅっ、とされたことでやる気が、むっはー、なイストががんばりすぎたため、クラオジルスたちよりも先に到着してしまったようだ。まあ、普通に街道を走っていればそのような事態は起きないはずなのだが、やる気を出しすぎた結果、藪やら木々の間やらを走っちゃったりして、あっという間に付いてしまったのだ。

 ギャグ体質のくせにシリアスぶって熱血したことによる弊害というやつだ。

 しかし、自国ではないここタダノィルでは、二人のギャグをおおらかに受け入れてくれるワケがなく、鎖帷子を着用して腰に剣を差した警備兵たちが集まってきた。


「ザウルスで城門まで踏み入れるとは、貴様たち何者だ!」


 そんな警備兵のリーダー格が放った言葉は、ごくありふれた当たり前のものだった。なんというか、少し寂しい気分になったイストだったが、表情を引き締めて現実と向き合うことにした。


「私たちは――」


 イストが説明しようとすると、リーダー格の男は手のひらを向けてを前に付きだし、言葉を遮って話し始めた。


「その身なりは狩人とは思えんし、どこぞの貴族様のご子息だとしても悪戯が過ぎる」


「ですから――」


「事情は詰め所で聞こう。今は大人しくしろ」


 どうも、この城門前というのは彼らにとって特別な場所らしく、ここでは話を聞く気はないようだ。そう、イストは考えたのだが、どうやらそれも違うようで……


「もし、抵抗するというのならば、少々痛い目に遭うことになるぞ」


「いえ、私たちは争いをするために来たワケじゃ――」


「なに? そうか、抵抗するのか」


「ですから、抵抗などは――」


 一方的に話をするリーダー格の男に対して、イストは弁明を試みるが、一切聞く耳持たずである。それだけでなく、リーダー格を含めてほかの警備兵たちは腰の剣に手を近づけていった。

 イストは目の前の男たちがいったい何をしたいのか、周りの様子を確かめることにした。

 野次馬たちを見れば眉をハの字にして不快感をあらわにしていて、門番たちは呆れた表情をしていた。

 そのことからイストは予想する。平民の野次馬たちが苛立っていることは、警備兵たちに不満を持っていることをあらわしているが、警備兵たちが真面目か悪ふざけをしているか判断が付かない。だが、同じく兵士である門番が笑わずに呆れていることから考えると、単なる悪ふざけではないようだ。

 剣に手をかけた警備兵たちを見る。若干ながら上気しているようにも見えたし、少しばかりギラついた目をしているようにも見えた。

 つまり、警備兵が不振人物である自分たちに剣を向けようとしているのは、行きすぎた使命感だったり、剣を振り回したい欲求に従っての行動だったりするようだ。そうなった理由までは知らないが、どうせ「犯罪者」を捕らえた数で給与が決まるとか、そういったことに違いない。そして、彼らが報告する「犯罪者」とは罪を犯した人間ではなく、彼らに抵抗してきたためにやむなく戦闘して殺害してしまった相手のことなのだろう。

 チラリとスイナのことを見るが、彼女は事態に恐れることはなく、相手を澄んだ瞳でみつめていた。イストはその行動を嬉しいと思った。


「聞きなさい、タダノィル王国の警備兵よ」


 スイナはゆっくりと口を開き、静かに話し出した。

 警備兵たちは剣を抜く動作をついつい止めてしまう。スイナの話し方に怖じ気づいたのだろう。


「ワタクシに刃を向けるその行為、本来であれば死に値する蛮行ではあるが、今回限りは許そう」


 彼女の声は静かであるが、そこには優しさなどは微塵もなく、もちろん怒りも高慢さも存在しなかった。まるで法律のような、公平に人を支配する仕組みのような声。それが、一人の少女の口から放たれている。


「なぜなら、お前たちは使命を全うするべくここにいるからだ」


 彼女の言葉は理に適っている難しい言葉だとか、心に訴えかけてくる熱い言葉だとか、そういうことではない。ただ、得体の知れない力を感じさせる言葉だった。

 話をしている彼女には、支配者としてのオーラがあったのだ。


「民を守るという使命感に燃え、素性の明らかでない者に対して刃を向ける。それは当然の行為だ」


 人間は社会性を持った動物である。それは集団生活を可能とすることを意味しているが、同時に、他個体に行動を支配されても平気な生き物だということでもあり、支配されることを望んでいる生き物だということである。


「だから、ワタクシはお前たちを許す」


「「「はっ!」」」


 故に、自分より上であると認識した人間に対して、人は従う。

 ほとんどの警備兵が姿勢を正して敬礼した。

 そう、ほとんど。リーダー格の男と、1名の若い警備兵は事態の変化に狼狽していた。

 その二人は、先ほどイストが様子を見たときにギラついた目をしていた。自分がその空間を支配していると思っていた人種である。そんな彼らがする行動と言えば、自分が支配者であると力で示す行動、つまりは暴力。


「くそぉっ!」


「なんだお前らはっ!」


 抜剣してスイナに襲いかかってきた。

 流石に突然のことだったので、ほかの警備兵も門番も彼らの行動を妨害することはできない。では、スイナは彼らのつまらない一撃で命を落としてしまうのだろうか。


「……起きろ」


 いいや、それはない。

 ここにはドラゴンに次ぐ攻撃力を持つと呼ばれている、精霊憑きのイストがいる。

 スイナに襲いかかろうとする二人の動きなど、彼にとっては止まった的だった。右手に集められた炎は青く燃え上がり、すぐに振るわれる。

 ゴウ、という音がしたかと思うと二人は木っ端のように舞い上がり、門の方へ飛ばされてから地面へ落ちた。


「ち、ちくしょう……なにが――」


 若い警備兵は意識を失ったようだが、リーダー格の男はよろけながらも立ち上がって剣を構え直した。


「あぁっ!?」


 だが、気付く。そこにあるはずのものが、おかしな形になっていた。


「剣が融けている……」


 野次馬の一人の呟き。

 イストは二人を爆風で飛ばしただけではなく、二人の持つ剣を使えなくしたのだった。それも、かなり不気味な印象を与えるやり方で。


「なんだ、アレ……飴みたいな?」


 もう一人の野次馬が呟いていると、警備兵と門番が走り寄ってきて、狼藉をはたらいた二人の男を拘束した。

 野次馬たちがざわめき始める。

 目立ち過ぎか。

 だが、悪いことではない。

 スイナは何事もなかったように門へ向かって、二人の男が拘束されている方向へ歩き出す。彼女は二人の男を拘束している警備兵たちの前で立ち止まり、右手を肩の高さまで持ち上げる。手首には力がなく、手がだらりと垂れ下がっている。


「道を」


 その一言と、手首を上へ素早く動かす動作。

 それだけで、警備兵たちは二人の男を担いで左右に分かれ、門番は門を開けるためにラッパを鳴らした。

 スイナは門が全開したのを見てようやく人間らしい表情を取り戻す。満足そうな笑みだ。


「サンナク王に伝えろ。レバンジオのスイナ・カルメ・レバンジオが謁見に来たと」



再び毎日更新を宣言してみます……がんばろー

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