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なぐられて影武者  作者: 十五郎
第2章 いつもと違う日
13/36

2-3

~前話のあらすじ~

バカ王子のクラオジルスも彼なり悩み考えていた。その結果、「自分はお姫様なのかもしれない」という性同一性障害に。そこに現れた幼なじみのチャリシスが、「僕と一緒にこの国を出るんだ。二人で幸せになるんだ」と愛の告白をしてくれた。突然の告白にクラオジルスは戸惑いを隠せなかった。そんな彼に迫るチャリシス。アーッ!

※実際よりも誇張しています


「また影武者、お前かぁぁぁぁっ!!」


「ふぃぎゅあっ!」


 イストの鼻をへし折るように繰り出された拳は、ごくごく普通に土の精霊行使をした岩石のようなもの。スイナが得意な通常攻撃だった。


「相変わらず良い筋をしています、姫」


 起き上がったイストは、吹っ飛んだ瞬間に撒き散らしていたはずの鼻血もどこかへ消え去り、白い歯をキラリと輝かせてサムズアップしてくる。

 通常攻撃と言っても、どちらかといえば弱攻撃に分類される類だったりするから影武者の再生も早い……のだが、少しはダウンしていろと思う。具体的に言えば、マンガで言う1コマ分ぐらいは床で血を吹いていろと。


「さてと、それではイストくん、私はこのへんで帰らせてもらうよ」


「はい。講義していただいてありがとうございました」


 のんびりと荷物をまとめて出て行こうとする教師役の男に対して、イストは綺麗なお辞儀をした。スイナは殺意を込めた視線で二人を射抜くが、二人とも慣れているので動じずに話を続けた。


「というか、またイストくんだったなんてね」


「おや、先生は全く見抜けなかったと?」


「そうだねぇ。なぜかこの前の入れ替わり以降、王子が真面目に授業を受けてくれることが多かったからね。その所為で、もう王子が心を入れ替えたとばかり思いこんでしまったようだよ」


 イストは教師役の言うことに「なるほど」と頷きながらも、何かほかのことを考えている様子だった。教師役の男は、また考え込んでいるな、と思って苦笑しながら退出していく。

 勉強部屋に残ったのはイストとスイナの二人。そうなってもいっこうに口を開かない彼に対して、彼女が口を開いた。


「影武者――」


「――王子が、城から消えたようですね」


 が、彼の方が先に結論を言ってしまった。


「では、情報を集めましょう」


 そして部屋から出て行こうとドアノブを握る。

 スイナはその行動に驚く。彼女の知るイストはだだをこねたり、甘えてきたりするちょっと頼りのない男だ。それなのになぜか、今日は自ら行動を開始しようとしている。

 ふと、気付いたことを口にしてみる。


「なにを焦っているの?」


 イストはスイナの呟きに反応し、ドアを開けるという行動を途中で止め、彼女の方を振り返った。


「私が焦っていると?」


「ええ、そう見えたわ」


「私は王子を早く探し出した方がよいと思っただけですが?」


「なにを言うのかしら、お前は。お兄様のことだから、どうせまた平民の女の子を追いかけているに違いないわ。それを捕らえればいいだけなのだから、焦る必要はない。そうでなくって?」


 つまり、スイナはこう言いたいのだ。


「お兄様が城から消えた理由を知っているのね?」


 イストは少々表情を強張らせて答えた。あまり言いたくないという雰囲気を滲ませているのは、自然なことか、それともワザとか。


「姫は噂を聞いたことがありませんか?」


「噂? お兄様の?」


 スイナの返事に無言で頷く。真面目な話だと言いたいのだろう。


「それってどのような?」


「政治レベルの国交がないタダノィルへ行こうとしているという噂です」


「ああ、それね。でも、18になった王族ならば、外交へ出かける権利はあるはずよ。わざわざ無断で城を抜け出す必要はないわ」


 イストが知らせた情報に対して、スイナはつまらなそうに半眼になる。そもそもそれは彼女が彼に教えてやったことではないか。だが、彼は動じずに話を続ける。


「それでは姫にお聞きしましょう。なぜ、レバンジオはタダノィルと政治レベルの国交を持たないでいるのか。また、なぜラヌイジオと同盟国関係でないタダノィル程度の小国が、独立を維持しているのでしょうか」


「えっと、それは……確かに不思議なことね」


「答えを知らないのならば、私が教えて差し上げましょう」


「ええ、そうしなさい。許可するわ」


 上級貴族ならばタダノィルの呪いのことを知っているのが当然だが、どうやら15のスイナには知らされていないようだった。イストがそれについて自分の知る限りのこと、テクタイトから知らされたことと、独自に調査したことを教えていった。


「なるほど……よくわかったわ。ありがとう」


「いいえ。それほどでもありません」


「そのようなことがあるから、お兄様がタダノィルに向かうことを阻止しなければならないと言いたいのね?」


「はい。加えまして、同盟国であるラヌイジオに不信感を与えないためにも、タダノィルには不干渉を貫いた方がよいかと思います」


「ええ。それでは、ワタクシはお兄様を追わないことにします」


 深々と頭を下げるイストに対して、スイナは予想外のことを口にした。


「はいぃ!?」


「ようやくあの自堕落で無気力で他人任せで無頓着で節操無しで、女の子とイタズラにしか興味を向けないお兄様が自分の考えで政治を始めようと思っているのよ。妹として、これほど嬉しいことはないわ」


「えっ、ちょっ!」


「むしろ、応援するぐらいのことだと思わない?」


 頬を紅潮させ、少し潤んだ瞳で斜め上を見つめてウットリしている。

 ブラコン、ここまで来たか。

 スイナの予想外の発言に対して、イストはこめかみを押さえたい衝動を抑え、反対に良い笑顔で切り返した。


「そのとおりでございますね!」


「影武者もこれまで苦労かけたわね」


「いえいえ。王子の行動がきっかけとなり、長きにわたって寸断されていた国交が回復するのですね」


「そうよ。お兄様は歴史に名を残すことになるの。『古き慣習を一蹴し、タダノィルを救った賢王クラオジルス・ヤラオ・レバンジオ』とね」


「すばらしいです。ですが、その表記と一緒に、『賢王クラオジルスと協力してタダノィルを救った女性』という一文も忘れてはいけません」


「あら! ワタクシとしたことが自分のことを忘れているだなんて……影武者、褒めてつかわす」


 互いの発言で徐々にテンションを挙げていったのだが、次のイストの発言が場を沈めていく。


「なにをおっしゃるのです?」


「だから、ワタクシがお兄様と共に歴史に名前を残すと……」


「それは違います」


「え?」


「私が表記すべきだと思ったのは、この調子だと王子と結婚するであろうタダノィルの王女、ヒメコ・ナイヴ・タダノィル様のことですが、何か?」


「……それ、どんなヤツ?」


 風が洞穴を通った時の音のような、スイナの底冷えするうめき声。

 沈めた先は氷河のクレバス。とても暗くて寒い、恐ろしい穴だったようだ。


「ラヌイジオのスゴルド殿下のように表現してみますと……」


「してみると?」


「おおっ! 満点の夜空のごとき澄み渡った輝きのつぶらな瞳!」


「……」


「ぬぅっ! カラスの濡れ羽すらも不純な色と思えるほどの美しい漆黒の髪!」


「……」


「ああっ! タルイース作の彫刻のごとき白磁と見まごう肌の白さきめ細かさの手触り!」


「……」


「くぅっ! レウテロープ属の足腰のような細くしなやかな体つき!」


「……」


「ふぅっ! ベルネスホラスの双子山のごとき巨大で美しい乳房!」


「……影武者――」


「どきっ! カナッシュの泉の湧き水のごとし澄んだ――」


「――一生やってろぉっ!!」


「ぷらもっ!」


 なんだかんだで、スイナはクラオジルスを止めることにしました。めでたし、めでたし。



「めでたし、めでたし」


魔法の言葉で楽しい結末が ぽぽぽぽーん

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