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なぐられて影武者  作者: 十五郎
序章
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序章 童話「太陽を引っ張った王様」

 むかしむかし、あるところに、頭はたいそう良かったが、それはそれはわがままで、とても欲深い王様がおりました。

 王様の朝ご飯にはゆで卵が出てきます。王様はゆで卵がとても好きです。二つに切ると出てくる黄身が、空に輝く太陽のように見えるから好きなのです。

 ある日のことでした。

 侍女によって半分に切られたゆで卵には、丁度真ん中に綺麗な黄身がありました。王様も満足そうに眺めていたのですが、ふと、自分の向かいに座っている王妃様の卵を見ました。すると、突然立ち上がり、


「おおっ! なぜ王妃の卵の方が大きいのじゃ!」


と大声を上げました。美味しくご飯を食べていた王妃は、パンを喉に詰まらせながらも王様の言葉に返事をしました。


「あらら、それは大変ですね。ワタクシの卵とアナタのを交換しましょう」


 しかし、王様はかなりカンカンに怒っています。


「コックよ、こっちへ来い!」


 呼ばれたコックは冷や汗をダラダラとかきながら王様の前で頭を下げました。


「お、王様……なにかご不満がありましたか?」


「お前はワシがどれだけゆで卵を好きなのか知っているはずじゃ。それなのに、なぜ大きな卵をワシでなく王妃のテーブルに並べたのじゃ!」


「そ、そんなはずは……私はきちんと秤で量って、王様には一番重い卵を食べてもらうようにしました」


 コックを可哀想に思った王妃は、テーブルに置いてある秤を取って実際に計り直してみました。その結果は、なんとコックの言うとおりに、王様の卵の方が重いのでした。


「ほら、コックの言うとおりにアナタの卵の方が重いですよ」


 コックは王妃様の言葉にホッと胸をなで下ろしました。しかし、王様は怒り続けました。


「違う! ワシは重さのことを言ったわけではない。黄身の大きさで王妃の方が大きいといったのじゃ!」


 なんということでしょう。王様は黄身が一番大きな卵を自分のお皿に置けと行っているのでした。しかし、黄身の大きさは開けてみなければわかりません。

 王妃様とコックは王様の言葉に呆れました。流石に今回の王様の言うことには無理があると誰もが思いました。

 王妃様は言いました。


「アナタ、黄身の大きさは割ってみなければわかりませんわ」


と。しかし、王様はつまらなそうな顔をしてしまいました。


「だったら、二つに切られたゆで卵を用意してもらうようにしますか? それならば一番大きな卵をいつも食べることが出来ますわ」


「それはいやじゃ。目の前で二つに切ってもらって、太陽のような黄身が出てくるのがよいのじゃ」


「あらあら、それじゃあ毎日大きな卵を食べるのは無理そうですわね」

 王様は黙り込み、つまらなそうな顔をしながら朝ご飯を食べると、自分の部屋に籠もってなにかやりはじめました。

 お茶も飲まず、お昼も食べず、おやつの食べずにずーっと部屋に籠もっていました。

 部屋から出てきたのはみんなが夕ご飯を食べ始めたときでした。


「完成したのじゃ!」


 食堂に現れた王様に、みんなの視線が集まりました。王様は怪しげな小窓の付いた鉄の箱を抱えていました。


「アナタ、それはなんですの?」


 王妃様がみんなを代表して聞きました。


「卵の黄身の大きさを量る機械じゃ!」


 みんなは「そんなことは無理だろう」と思いました。王様はそんなみんなの心がわかったので、実際にやって見せました。


「コック! 今すぐ明日使う卵を持ってくるんじゃ!」


「はっ、はいっ!」


 コックは大急ぎで厨房から沢山の卵を持ってきました。王様はそこから3つの卵を手に取り、


「この3つを黄身の大きさの順に並べてやろう」


と言いました。

 王様は怪しげな鉄の箱に3つの卵を入れて小窓からしばらくの間覗いていました。そして、取り出して3つを並べました。


「一番右が一番大きな黄身で、真ん中が中ぐらいの黄身で、一番左は一番小さな黄身じゃ」


 コックが余っている皿に割って開けてみると、確かに王様の言うとおりでした。その後、コックの朝の仕事に、黄身の大きさを見分けることが追加されました。

 王様がすごい機械を発明したことは瞬く間に国中に伝わりました。

 気分を良くした王様は次々と思うがままに新しい道具を作りました。小さな虫を見るためのメガネや、高くジャンプ出来る靴、大きな音のする太鼓、軽い力で動く荷車、美味しいバナナチップが出来る箱、精霊を捕まえられる虫網など、自分が欲しいものを作っていきました。王妃様はその発明品をステキだと褒めていました。

 また、ある日のことでした。

 いつもはゆで卵の黄身のことと、発明しか興味のない王様でしたが、何となく図書室にある地図を見ていました。

 地図には王妃様の生まれ故郷である隣の国も載っており、二人で新婚旅行で行った綺麗な海岸の名前も載っていました。

 ウキウキした気分になった王様は、もっと自分の国の周りを見始めました。そして、急につまらなくなってきました。地図を作った地図屋を調べると、馬車に乗ってその地図屋に急いで行き、


「なぜ頭の良いワシの国がこんなに小さいのだ。ワシの国はこんなにも広いのに」


と、両手をいっぱいに広げて地図屋に文句を付けました。地図屋は、


「きちんと大きさを測るとこのように書けるのです。大陸は広いのです」


と教えました。

 すると王様は優秀な兵士を数名集めて大陸を旅して、地図屋が言うことが正しいことを知りました。再び地図屋に行きました。


「おい、地図屋」


「なんでしょう、王様」


「ワシは旅をしてきた。お前の言うことが正しいことを知ったぞ」


「わかっていただいてとても嬉しいです」


「そこでワシは考えたのだ」


「え……どのようなことを?」


 地図屋は嫌な予感をしながらも王様に聞きました。王様は


「もっとワシの国を大きくすれば地図に大きく書いてもらえるということなのじゃな!」


と言いました。戦争の開始です。

 しかし、結果はすぐにでました。大敗でした。

 王様は怒って将軍を呼び出しました。


「なぜ頭の良いワシの国が、あんなバカ王の国に負けたのじゃ!」


「王様、理由は簡単です。向こうの弓矢の方が遠くまで飛ぶからです」


「それでは弓矢さえどうにかすれば勝てるのか?」


「いいえ。向こうのお城は大きくて頑丈な壁があります。兵士の力で壊すことは出来ません」


「それでは弓矢をどうにかして、壁を壊すことが出来れば勝てるのか?」


「はい。あと、強いて言えば、おなかが減っては戦いをすることは出来ません」


「それだけわかればいい。ワシの発明でなんとかしてやろう」


 王様はお昼ご飯を食べると自分の部屋に籠もりました。今度は夕食になっても出てきません。次の日朝になっても、またその次の日の朝になっても出てきません。

 心配になった王妃様はこっそり王様の部屋の扉を開けて中を覗き込みました。もしかしたら倒れているのではと心配していたのですが、王様は黙々と紙に図面を書いたり、大きな釜で怪しい薬を溶かしたり、不思議な模様が描いてある絨毯でお祈りしたりしていました。元気であることがわかると王妃様は安心して朝ご飯を食べました。

 お昼前のお茶を飲んでいるとき、


「できたのじゃ!」


と言いながら王様がお茶室に現れました。王様は星空が映っている水晶玉と、何かが入った小さな袋を持っていました。王妃様は質問しました。


「アナタ、その綺麗な水晶はなんなのですか?」


「これは敵の矢から身を守るお守りじゃ。まだ試してはいない」


「それではその袋の中身はなんなのですか?」


「これは一粒食べるだけでおなかがいっぱいになるアメ玉じゃ。これを食べていたからワシはご飯を食べに来なくてすんだのじゃ」


 話を聞いた王妃様は侍女に将軍を呼んでくるよう言いつけました。すっ飛んできた将軍は王様から話を聞くと驚きましたが、それ以上に喜びました。


「流石は王様です。これであとは城の壁を壊す道具があれば完璧です」


 将軍がそう言うと、王妃様も頷きました。しかし、王様は不思議そうに首をかしげました。


「そうか……あれでも城の壁を壊すことは出来ないのか」


 王様は少ししょんぼりした様子で窓の外を見ました。将軍と王妃様もつられて外を見て腰を抜かしました。そこには驚くほど大きな四本足の竜がいたのです。


「お、王様、お逃げ下さい。野生の竜がお城の近くに現れました!」


 将軍は王様に言いましたが、王様はまた首をかしげました。


「竜じゃと? そんなものはどこにもおらんじゃないか」


「ア、アナタ! 目の前のあれが見えていないのですか!?」


 王妃様が顔を真っ青にして言うと、ようやく王様は理解したようで、手をポンと鳴らしました。


「あぁ、あれはワシの発明品じゃ。バカ王の城を壊す道具として作ってみたのじゃが、あれでも足りないとは……バカ王も流石に王なのだな」


 王様からきちんと説明を聞いた将軍様は、その機械で出来た竜とお守りとアメ玉を持って兵士達と一緒に戦争に行きました。そして今度は勝ちました。

 そこで戦争は終わりになりました。王様に大陸を自分の物にする気はなかったのでした。自分の国がほかの国より大きければそれで十分だったのです。なぜなら、そのほうが自分の国の大きさがよくわかるからです。

 毎日大きな黄身のゆで卵を食べられ、大陸で一番大きな国の王様になった王様は、今度は何を欲しがったのでしょうか。

 王様がゆで卵が好きなのは、黄身が太陽に見えたからでした。なので、王様は次に太陽を欲しがったのでした。

 王様は太陽について調べました。そして、とても熱いのだとわかりました。そんな熱いものを手に入れたら、自分はきっといつも汗を掻いてしまうだろうと思いました。それなので、自分の身体を、どんなに汗を掻いても大丈夫な身体に改造しました。

 これで準備は万端です。

 王様は太陽を引っ張る儀式を始めました。不思議な模様の絨毯に乗り、いくつもの古めかしい本を並べ、怪しい機械を操作して、胡散臭い踊りをしました。


「太陽よ、早くこっちに降りてこーい!」


 引っ張られた太陽は焦りました。太陽は自分がとても熱いことを知っていたのです。


「王様、私をそんなに引っ張ったら大変なことになりますよ」


「そんなこと知るか。ワシはお前が欲しいだけじゃ」


「それはわがままですよ」


 太陽がぐんぐん引っ張られてきました。王様も少し汗ばんできました。


「私は熱いんです。近寄るととても熱くて大変ですよ」


「大丈夫じゃ。いくら汗を掻いても、いくら熱くても平気な身体に改造したのじゃ」


 太陽がもっと引っ張られてきました。王様も少し喉が渇いてきました。


「王様、私はアナタが本当に頭の良い王様なのだとわかりました。ですから、よく考えてください」


「よく考えたからお前をワシのものにするんじゃ。ワシは一番の王様なんじゃからな」


 太陽がとても近くまで引っ張られてきました。とうとう王様も汗だくになってしまいました。しかし、改造した身体のおかげでまだまだ踊り続けられるのです。


「王様、貴方自身は大丈夫かも知れませんが、貴方の国の他の人々は大丈夫なのでしょうか?」


「うん?」


 太陽の言葉に、王様はふと周りを見回しました。


「誰もいないし、何もない」


 王様は自分の城や王妃様や将軍たちを探しましたが、どこを見ても砂しかありません。


「だから言ったのです。私をそんなに引っ張ったら大変なことになると」


 王様が踊りをやめていたので太陽は元の場所に戻っていきました。踊りをやめていた王様は、思いだしたかのように自分の身体を見ました。


「乾いておる」


 身体は煮干しのように乾いていたのです。

 こうやって、頭はたいそう良かったが、それはそれはわがままで、とても欲深い王様は自分の国を失ったのでした。

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