魔力回路損傷
「魔力が動かない。」
天然芝でできたフィールドの真ん中で座り込んでいる少年が一人いた。
片足を立て、片手を地面につき、風で揺れた金髪から不安そうな青い瞳がもう片方の手のひらを見つめている。
同じユニフォームを着ている仲間たちは心配そうに見つめている。3割くらいはいつもの肉体疲労だろうと気にしていない様子である。
少年は笑顔を見せながら立ち上がりよろよろとベンチへ向かっていく。
「監督すみません。魔法が出せなくなってしまいました。」
ベンチから少し離れた地面に座り込み、体内の魔力を動かそうと試みる。
しかし、胸の奥に痛みやしびれが現れるため、すぐにやめた。
少年はそのまま体をマッサージしながら試合の行く末を見つめていた。
誰もいない部屋に「ただいま」と呟きながら身に着けている服を脱ぐ。
パンツ一枚になり、座り込むと魔力を動かそうと試みる。
「いたっ。まじか。結構まずいか。」
また、胸の奥に痛みとしびれが現れたため、すぐやめる。
少年はいつも通り家事、食事を済ませ、いつもより早く就寝した。
少年はあまりの暑さに目が覚める。熱は胸の奥から来るものだった。
自覚すると同時に目覚まし音が聞こえてきた。
いつも通り一度伸びをしてから身体を起こそうとしたが、うまく起こせない。
それでも我慢しながらいつも通り準備し、登校した。
・・・
「ユファン。おはよう。昨日は家でゆっくり身体休めたか?」
大きな男が話しかけてくる。身長は教室のドアと同じくらいあり、よく日焼けした肌、肌より黒い髪、見覚えしかない白い歯、見慣れたアンドレに安心感を覚える。
「おはよう。アンドレ。たくさん休んだよ。でも、朝から身体が異常に熱いし、痛みでまだ体内の魔力を動かせないんだ。」
「それって結構まずいんじゃないか。大きな怪我してるとか。」
「まあ我慢できる程度だしいいかなって。」
ユファンはいつも通りアンドレに笑顔を見せる。
しかし、アンドレは険しい顔となった。
「魔力をうまく動かせないなら今日の授業にも支障が出るだろう。」
「実技の授業は見学するつもりだった。」
「絶対に今すぐ病院に行くべきだぞ。もし行かないというなら、すまないが、全力で病院まで運ばせてもらう。」
このやり取りを聞いていたクラスメイトたちも授業を受けている場合じゃない、早く病院に行ってこい、とユファンを罵倒するかのように言い始める。
「そこまで言われるのか。じゃあ今から行ってくるよ。」
ユファンは教室を出て職員室にいる担任に早退する旨を伝え、学校から近い病院へと向かった。
・・・
優しそうな顔の医師が書類とユファンの顔を交互に見ながら話を進める。
「昨日サッカーの試合中、相手選手とぶつかった際に魔法を発動させようとしたが、発動できず転倒し、それから魔力を扱おうとすると痛みやしびれが生じると。」
「はい。そして胸の奥から異常な暑さを感じています。」
「わかりました。こちらは先ほど受けていただいた精密検査の結果です。」
医師の隣にある机に置かれたモニターに結果が表示されている。その中の数値の一つに医師が指を置く。
「これは体内の魔力循環機能を確認する値なのですが、ほとんど0に近いです。体内の魔力総量は十分にあるのに。」
「はい。」
「魔力回路損傷です。それも回路がきれいに真っ二つに分かれているので完全断裂です。今後も魔力を扱うつもりであれば、組成手術が必要となります。」
「はい、わかりました。よろしくお願いします。」
これはユファン・リーマッハが初めて挫折を経験する物語である。




