臨時上映
●映画館
ホラー映画のクライマックスが上映されている。
狼の被り物の化け物が美女に襲いかかる。
化け物「うおおおおおおぉぉぉぉっ!」
美女「きゃああああぁぁ!」
美女の悲鳴と共に画面が暗転し、エンドロールが始まる。
人がまばらな観客席に座る男、退屈そうにポップコーンをつまむ。
男、落胆した様子で呟く。
男「つまらなかった……」
男、暗い劇場内でスマートフォンを取り出す。
男、画面を操作しながら不機嫌そうにぼやく。
男「さすがに星1だろ……クソ映画め……」
一つ飛ばした隣席の女、小声で男に話しかける。
女「あの、すみません」
男「え、何?」
女「まだ上映中なので、スマホ触らないでもらえます?」
女、迷惑そうに告げる。
男、無言で舌打ちしてスマートフォンを仕舞う。
男、苛立った様子で呟く。
男「うるせぇな……」
男、ポップコーンを食べながらスクリーンを眺める。
黒一色の画面をスタッフの名前が流れていく。
突如、スクリーンの映像と音声に乱れが発生する。
ノイズが繰り返されて、スタッフの文字が読めない状態となる。
鑑賞する男、怪訝そうに眉を動かす。
数秒後、映像と音声の乱れが直る。
スクリーンには古いホームビデオの映像が表示されている。
画面の表示は2008年6月10日、19時11分。
薄暗いリビングを、ホールケーキに立てられた蝋燭が照らしている。
ケーキの横には、母が娘が笑顔で座っている。
母、拍手をしながら娘を祝う。
母「カナちゃん、お誕生日おめでとうー!」
娘「わーい!」
娘、楽しそうに蝋燭の火を吹き消す。
母、娘の頭を撫でながら尋ねる。
母「カナちゃんは何歳になったかなー?」
娘「7歳!」
母「すごいねー! 大人じゃーん!」
娘「えへへ」
母、大げさに褒める。
褒められた娘、照れくさそうに笑う。
母、手を打ち鳴らし、姿勢を正して話を切り出す。
母「さて、そんなカナちゃんにご報告があります!」
娘「なにー?」
母「もうすぐカナちゃんはお姉さんになりまーす!」
母、腹部を撫でて微笑みながら発表する。
娘、驚きつつ大喜びする。
娘「えっ! やったー!」
母「赤ちゃんが産まれたら優しくしてくれる?」
娘「うん! カナ、良いお姉さんになる!」
母「ふふ、ありがとね」
母、娘を愛おしそうに抱きしめる。
娘、母に身体を預けて幸せそうな顔をする。
母「じゃ、ケーキ食べよっか」
娘「はーい!」
母と娘、仲良くケーキを切り分けていく。
それを視聴する男、スクリーンを指差して困惑する。
男「いや、何だよこれ……全然違う映画……」
男、周囲を見渡す。
他の観客、号泣しながらホームビデオを視聴している。
マナー違反を注意してきた女も、ハンカチで涙を拭いて嗚咽している。
男、思わず立ち上がって叫ぶ。
男「なぁ、おかしいって! こんな映画じゃないだろ!? 口コミでも見たことねえよ! スタッフ出てこい!」
怒鳴る男を見た他の観客、激昂して一斉に怒鳴り返す。
観客A「黙れってお前!」
観客B「まだ上映中だろうが!」
観客C「大人しく座っとけ!」
男、怒鳴られて怯む。
号泣する隣席の女、メイクの崩れた不気味な顔で告げる。
女「あなたも……ね? 最期まで観ましょう?」
男「はぁ? ……ったく」
男、異常な状況に恐怖しつつ、それを誤魔化すように強がって着席する。
一方、ホームビデオは母と娘がケーキを食べる場面になっている。
手を合わせた二人の前の小皿には、切り分けられたケーキがのせられている。
母、娘「いただきまーす」
父「ただいまー」
画角の外から父の声が聞こえてくる。
声が聞こえた途端、母の顔が恐怖で引き攣る。
娘、不思議そうに首を傾げる。
娘「パパ……?」
母「カナ! 逃げてっ! 早く!」
母、慌てて娘を抱きかかえて画面外へ逃げ出す。
その直後、母だけが戻ってくると、画面内に現れた父を押さえて止めようとする。
父、包丁で母を突き刺す。
母、血が溢れた腹部を押さえて崩れ落ちる。
父、画面外に歩き出す。
父「カナー、待ちなさーい」
娘「パパ、やめて!」
画面外で親子の争う音が聞こえてくる。
やがて静まり返り、泣きじゃくる父が画面内に戻ってくる。
父、カメラを持ち上げると、カメラ目線で観客を睨みつける。
父「お前らのせいだ……殺してやる」
そこでホームビデオの映像が終わる。
室内は暗いままで、周囲の観客は泣いている。
男、気味が悪そうに呟く。
男「意味わかんねぇよ……」
その時、劇場の入り口付近から足音が聞こえてくる。
直後に観客の悲鳴が響き渡る。
観客A「ぎゃあっ!」
父「お前らのせいだ……」
観客B「いだだだだだだだだ」
父「殺してやる……」
父の足音、徐々に男の方角へ近付いてくる。
男、恐怖と緊張で動けなくなる。
男「ドッキリ……だよな?」
観客の悲鳴、だんだんと男のもとへ近付いてくる。
同時に父の足音も接近してくる。
男、汗だくで動けなくなる。
男「やばいやばいやばい……」
父の足音、男の背後で止まる。
男、動けないまま声を絞り出そうとする。
男「あ……あの……」
スクリーンに怯える主人公が映り込む。
その映像は、カメラを持つ父がリアルタイムで撮っているものだった。
父、男の背後で包丁を構える。
父「殺してやる」




